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イレイザー・ワールド  作者: 永田昇
第一篇 ワンダー・ザ・メモリー
11/11

2-7 闇と光の乱舞

「出力、最大。第十六衛星との通信状態良好。間もなく、《接続コネクト》を開始します」


 僕は、接続室の真ん中のカプセルの中で横たわりながら、わずかにそのような声を聞く。隣のカプセルの中にはリュウがいる。その表情を見ることはできない。


 リュウは今、何を思っているのだろうか。怖いだろうか。不安だろうか。……いや、あいつがそんなことを思っているわけがない。今頃、ワクワクしているのだろう。どんな敵と戦えるか、どんなことが待っているのか。


 さすがに、僕にそんな余裕はない。だけど、これが僕の《閉殻記憶クローズド・メモリー》を見つけるための一歩となるなら――、


 そう思った時だった。僕の身体は、光に包まれる。あの時と同じだ。

 僕はまた、あの世界へと隔離されるのだ。現実世界からは、一旦《消去イレイズ》されて――。




 次に気が付いた時には、僕は異様な空間の中にいた。

 この前は、直接誰かの《閉殻記憶クローズド・メモリー》によってつくられた《消去世界イレイザー・ワールド》に放り込まれたのだったが、今回はその時とはまた違った感覚だ。


「というか……、浮いてる?」


 この空間で目覚めた時から感じていた違和感。僕は地面の上に足をついていなかったのだ。


 暗がりの中で次第に目が慣れてきたのもあって、僕は周りの様子を見渡す。どよん、とした雰囲気が感じられるこの空間は、全くの無だ。丸みを帯びた殻のような物体がいくつも浮かんでいる以外は。


 もちろん、世界に色はない。そのことが、ここが《消去世界イレイザー・ワールド》の中であることを如実に表していると言えるだろう。だが、浮いているなんてのは想定外だった。


「どうした、コウ?」


 後ろから声をかけられる。振り向かなくても声の主は分かった。その声に思わずホッ、としてしまう。


「リュウ。僕さ……、浮いてるよね?」


 振り向いた先でリュウは、何を今さら、といった顔つきで僕のことを見ていた。だが、その表情はすぐに合点がてんがいった、という表情に変わる。


「あっ、そうか。ここに飛ぶってことは知らなかったのか。ここは《混沌空間カオススペース》って言うらしんだけどよ、一つ一つの《消去世界イレイザー・ワールド》の外の世界なんだ。まあ、例えるなら宇宙なのかな。んで、この丸いのが一つ一つの《消去世界イレイザー・ワールド》だ。ここが宇宙だとするなら、こいつらは星ってことだな」


「なるほど。リュウにしては分かりやすい説明だったね」


「うっせーよ。俺の説明はいつだって完璧だろ」


 いや、そんなこともなかった気が……、と僕は記憶を辿って考える。


「ところで、《消去世界イレイザー・ワールド》ってこんなにあるんだね……。それに、こんなにも小さいなんて……」


 僕が見ている殻の一つ一つは、大きいものもあれば小さいものもある。だが、それでも僕の通う幡多中学校の大きさほどのものはなかった。おそらくあの世界がこの一つ一つの殻の中に縮小されて入っているのだろうと考える。


「今は確かに小さい。だけど、これが大きくなって他のやつのも飲み込んで、この《混沌空間カオススペース》いっぱいに広がるとしたら?」


 リュウが僕の方に意味ありげに顔を向ける。初め、言っている意味がよく分からなかった。だが、その顔が冗談でも何でもなく真剣味を帯びているのを感じて、僕はその意味の深刻さを感じる。


「まさか、……《幻影ファントム》たちはこの空間を支配しようと争っているっていうことなのか?」


 僕の答えに対して、リュウは首肯する。


「そうらしいぜ。《幻影ファントム》たちはより強い《ロード》を求めて現実世界を彷徨さまようってよ。そして見つけた記憶の持ち主と《同期シンクロ》することで強化される。そして、他の《消去世界イレイザー・ワールド》を飲み込んで勢力を拡大していくんだとよ」


 《幻影ファントム》たちの間にもそんな争いがあったなんて……。一体どうなっているんだ、この世界は。


「ま、そんなことより今はやるべきことがあるよな。さあ、探そうぜ」


「で、でもこんなにたくさんあるのに、どうやって探すの?」


 僕たちの周りにある殻は数え切れないほどで、どれが今《同期シンクロ》が進んでいる殻なのかは分からない。


「まっ、それなら探してればすぐ分かるさ」


「どういうこと?」


「ついてきな」


 リュウはそう言うと、水中を泳ぐかのごとく手で闇を掻いていく。僕もそれに習って闇の中を進んで行った。


 奇妙な感覚だ。水中の中にいるようで、息もちゃんとできるし耳もよく聞こえる。無重力の空間はこんな感じなのだろうか、と思わせられる。


 それに、さらに不思議なのは自分の身体だった。先ほどの話から、自分の身体が向こうの世界では消えてしまっているということは分かっていた。だが、自分の今の身体を触れてみても、どうしてもこれが仮の身体だとは思えなかった。自分という人間がデータみたいなもので構成されていて、この世界に新たに作られているとはどうしても考えられなかったのだ。


 五感もある。僕の身体は確かにここにある。いや、むしろあっちの世界にいる時よりも、生きているという実感がある。

 ……いや、さすがにそれはないか。僕は自分で自分の思考を振り払う。こんな薄暗い世界の方が自分に適しているなんて信じたくなかったからだ。


「見ろ、あれだ」


 リュウが指差す方を見ると、無数にある殻のうち、一つが煌々と光っているのが見える。これは、紛れもなく《COカラード・オブジェクト》としての光だ。


「あれは……?」


「あの中で《同期シンクロ》が進んでいる証拠だ。まさに今、あの中に現実世界の人間が取り込まれようとしている。このままだと、現実世界におけるあそこの《ロード》は、《消去イレイズ》されちまう」


 僕は、ゾッとする。このまま放っておけば、また現実世界における謎の行方不明者が出てしまうということなのか。

 僕の恐怖の顔を読み取ったのか、リュウが得意気に口角を上げて言う。


「そんな顔すんなって。それを食い止めるのが俺たちだろ? 大丈夫だ。俺がいるから」


 僕は頷く。ここまで来て、引き返すわけにはいかない。


「僕は大丈夫。行こう、リュウ」


 リュウは親指を立てて、殻へと飛び込んでいく。


「《集結コンセントレーション》!」


 リュウの右手の周りに、光が集まる。……そういえば、この光はどこから来ているのだろうか。このリュウの能力は、どのような仕組みで成り立っているのか。僕にも扱えないのだろうか。


 僕の右腰には、教授からもらった光線銃が掛かっている。僕もこれで《幻影ファントム》と戦うことができるのだが、銃の扱いなんて分からない。リュウの光剣が使えれば、どれだけいいことか。


 リュウは、右手に集まった光剣を殻に向かって振り下ろす。瞬間、眩い光が光剣と殻の間で発せられる。眩しくて思わず目を瞑った僕が目を開けると、殻の断面に割れ目が生まれているのが確認できた。


「行くぞ! コウ! この《境界ボーダー》が閉じてしまう前に中へ!」


 そう言うが早く、リュウは殻の中へと飛び込んだ。その瞬間、リュウの身体が闇に包まれ、消えていく。それを見た僕は、リュウへと続く。


 割れ目が小さくなっていく。侵入者を拒むかのように。僕は、そのギリギリの所を狙って飛び込んだ。


 周りが闇に包まれる。ゴオ、という音が聞こえたかと思うとそれはすぐに消えた。

 僕は深い闇へと落ちていくのを感じた。下へ、下へと。


 やがて、闇から身体が解き放たれるのを感じた。だが、やはり地面がない。

 まだ、《混沌空間カオススペース》の中なのか? そう思うが、今度は浮いている感覚がない。


 そしてそう思った途端、僕の身体は落ちていく。


「って、うへええええええええ!」


 自分でも素っ頓狂とんきょうだと思う声を上げて、僕の身体は地面へと叩きつけられた。どのくらいの高さから落ちたのだろうか。現実世界なら確実に骨折はしていただろう高さだったが、不思議と身体に少しノイズらしきものが見えるだけで、それ以外はまったく無傷であった。


「何やってんだよ、ドジ」


 リュウが近づいてくる。もちろん、ズッコケたような跡は見受けられなかった。


「だって、あんな高さから落ちるなんて聞いてないよ! 先に言ってよね……」


「いやー、ちょっとコウの反応を見てみたかったってのもあるんだけどなー、ってごめんごめん、冗談だから。その銃を構えるのはやめろ」


 僕は、右腰の銃をしっかりとリュウの方に向けていた。


「光線銃だから、リュウには危害ないじゃん」


「いや、それでもちょっと怖いんだって……」


 へぇ、意外だ。リュウにも怖いものがあるのか。今度から利用させてもらおう。

 落っこちたショックからやっと解放された僕は、自分たちの状況を確認する。


「ここは……、工場?」


 僕の周りに広がるのは、工場地帯のようだ。とは言ってもかなり錆びれている。人がいないから、というのではなく長い間使われていないような、そんな雰囲気すら漂っている。


「どうやら、もう使われていない工場のようだな」


「ここが……、現実世界の《ロード》が封じた記憶の舞台?」


 リュウは辺りを見渡してから、ゆっくりと頷く。


「たぶん……、そうだろう。《ロード》がどこにいるかは分からねえけどな。でも、もしかしたら探す必要はないかもしれないぜ」


「? どういうこと?」


 辺りからは《ロード》どころか《幻影ファントム》すら近づく気配はない。神経を研ぎ澄ませてみても、まったく気配を感じなかった。寂しい風が吹き、砂埃すなぼこりばかりが舞っていた。――こういう所はやけにリアルなんだな。


「まあ今は何もないように感じるかもしれねえが、今は《同期シンクロ》に力を注いでるはずだ。その《同期シンクロ》が進んで、ある程度力が溜まってきたら、異物である俺たちを排除しに来てもおかしくないだろ? この前のやつは《同期シンクロ》があまり済んでいなかったから、自分の持ち場からはあまり遠くへと行けなかったんだ」


「で、でもそれだったら《同期シンクロ》が進む前に倒してしまった方がいいんじゃ?」


「バーカ。俺がいるんだぞ? いちいち探す手間を考えたら待ってる方がよっぽどいいぜ」


 いつもの自信満々な感じなのはよろしいんだけど、それはさすがにどうか

な……、と思いつつも僕はあえてそこから動こうとは考えなかった。


 リュウの言うことにも確かに一理あるが、一番の理由はそこよりもむしろ、迂闊うかつに動いて敵の集まっている所に突っ込むのは得策ではないと考えたからであった。敵の攻撃を迎え撃つ形にはなるが、ここなら二人がいるので、お互いの戦況を見ながら戦うことができる。


 僕たちの周りには工場の建物が並んでいる。だが、その役割を既に果たした後なのだろう、煙突からは煙も上がっておらず、物が散乱して荒れ果てている。

 その中心で、僕たちは背中を合わせながら敵の動きがないかを注視する。リュウの右手には光剣が、僕の右手には光線銃が握られていた。


 どれくらいそうしていただろうか。リュウが痺れを切らしたかのように呟く。


「……ったく、おっせーな……」


 これはどういう状況だろうか。《同期シンクロ》が未だに完了していないのか。それとも、《同期シンクロ》が完了していながら、異物である僕たちを《消去イレイズ》しようとしていこないのか。

 どちらなのかは分からない。だけど、リュウに性格的にこれ以上待つのは不可能だと考えられる。


「……おい、コウ。やっぱり突入しようぜ」


 思った通りだ。僕は、背中を合わせているためリュウには見せられないが、物凄い呆れ顔して言う。


「リュウが待とう、って言ったのに」


「それは撤回だ。マジでこれ以上待ってたら頭おかしくなりそう」


 やれやれ、と思いつつも反論はしなかった。そもそも、この戦場で議論をすること自体が自分たちを危険にさらすことになりかねない。ここは、リュウの意見に従っておくのが得策だろう。


「じゃあ、突入しよう。……って言ってもどこに突入したらいいのやら」


 工場と一言に言っても、大き目の工場で、作業場や倉庫など様々な建物が存在している。


「分かんねえけど……、やっぱこういう時って一番大きいとこじゃねえの?」


 リュウの目線は、おそらく工場の中で一番大きいであろう、メインの作業場に向けられていた。


「じゃあそこだな。……一緒に入るの?」


「それは効率悪いだろ。俺が正面突破するから、コウは上からバックアップしてくれ」


 リュウが上、と示したのは階段を使って入る二階のことだろう。おそらくそこから一階の作業場を俯瞰ふかんすることができるはずだ。


「了解。じゃあ、行くよ」


「おう。さっきみたいなヘマこくなよ」


「さ、さっきのは!」


 僕の言葉が終わらないうちに、リュウは飛び出して行った。僕は、口を尖らせながらもそれに続き、二階へと続く階段を駆け上る。


 二階の扉を開くとそこには、無数の《幻影ファントム》の姿が――、


「――ない」


 僕は思わず声を漏らした。見当をつけて入った一番大きい作業場は、《ロード》の住処すみかではなかったということなのか。

 リュウの方を見る。リュウもほぼ同時に同じことを気付いたようだった。僕は一旦撤退しよう、ということを伝えようと手を挙げる。その瞬間、リュウの目が驚愕で見開かれた。


 リュウが口で何かを言おうとしている。その言葉を聞き取る前に、僕の背後でビュウン、と音がしたかと思うと、身体が闇に包まれる。


 何が起こったのか、まったく理解できなかった。身動きがとれない。呼吸が苦しい。そして視界は闇で真っ暗だ。


 僕は闇の中で必死にもがく。この闇から抜け出さないと。それだけを考えて。

 もがけばもがくほど、息が苦しくなる。次第に体力も根気も奪われていく。段々と、闇が僕を支配していく。


 ――助けて、リュウ。


 自分の中で声が聞こえる。自分の中の自分が叫んでいる。リュウに助けをおうとして。


 リュウなら、リュウならこの絶望的な状況を何とかしてくれる。前もそうだったじゃないか。リュウならなんとかしてくれる。


 そこまで考えながら、僕は同時にもう一つのことを考えていた。

 違う、と。いつまでリュウに甘えているんだ。僕は、僕の意思でここに来ることを決意したんだ。だから、だから僕は――、


「う、おおおおおおお!」


 気合の一声と共に、僕は右腰に掛かっている光線銃へと手を伸ばす。伸ばそうとしては引き戻され、またもう一度そこに手を伸ばす。


 おそらくこの様子をモニターで見ている教授たちが、危険だと判断したら僕を《切断ディスコネクト》することはできるだろう。だけど、そうなったらリュウはどうなる? 完全に《同期シンクロ》が進んでいる《ロード》相手に、一人で置いていくというのか? しかも、リュウがやられてしまえば、現実世界の《ロード》は、そのまま《消去イレイズ》されてしまう。そんなの、認めてはいけない。絶対に。


「おおおおおおおおおおっ!」


 僕は必死にあらがい、闇の中をもがく。もがいて、抗って。今までの人生で僕はそんなことをしてきたのか? あの時以来、僕は諦めて、忘れようとして、逃げてきた。今までの僕は、逃げてきた。


 負けちゃダメなんだ。いつまでも、逃げてちゃダメなんだ。忘れようとしたって何も変わらない。その事実がある限り、僕は向き合わないといけない。


「おおおおおおおおおおおおっっっ!」


 そして、僕はとうとう右腰の光線銃を掴み、訳も分からず引き金を引く。バチィ! という電気音がしたかと思うと、僕をまとう闇の圧力は弱まっていた。


 僕は、もう一度引き金を引く。


「グオオオオオオオッ!」


 低い唸り声と共に、《幻影ファントム》は僕の身体を離れる。視界を取り戻した僕は、すぐさま立ち上がって三歩後ろへと下がった。


「コウ!」


 リュウが僕の名を呼ぶのが聞こえる。左を一瞥すると、下でリュウが《幻影ファントム》と戦っているのが見える。僕はリュウに左の親指を上げた。そして、僕が相対する敵の方に向き直る。


 僕たちはどうやらこの場所に来ることを予想され、奇襲を浴びてしまったということらしい。リュウが一階の作業場で、僕はこの細い二階の通路で戦っている。二手に分かれて、敵を分散させたのは正解だったかもしれない。


 《幻影ファントム》が飛びかかってくる。再び襲ってきた《幻影ファントム》に対して、僕は容赦なく光線銃を何度も放つ。距離が近いのもあって全弾命中だった。


 それでも、《幻影ファントム》はよろめいて唸り声を上げるくらいで、消滅させるまでのダメージは与えられない。


「くそっ!」


 何度も光線銃を撃つが、《幻影ファントム》の動きを止めることはできても、消滅させるまでのダメージは与えられない。

 このままじゃ、この前と一緒だ。僕は、一旦光線銃を撃つのをやめ、《幻影ファントム》のこぶしを右にかわす。通路が狭いので、かなりギリギリの回避となった。


 どうする。この光線銃で、《幻影ファントム》を消滅までに持って行けるのは間違いなかった。光線銃の打った着弾点が一瞬ではあるものの、影を消しているからだ。


 ふと、僕はここまでのことを振り返る。さっき僕を纏っていた《幻影ファントム》に光線銃を撃った際、その後の銃弾よりも大きなダメージを与えられていた。


 やはり、近い方が与えられるダメージも大きいのだろうか? どうしてそうなのかは分からなかったが、近くで光線銃を撃ってみようかと考える。


 だがもう一度先ほどと同じ状況に持ち込むのは危険すぎる。なら、接近戦で相手の動きを止めて、一気に近づいて光線銃を撃つ。


 方針が固まった所で、もう一度《幻影ファントム》と相対する。早くしないと、また《幻影ファントム》が増えてもおかしくない。僕は、また襲い掛かってくる《幻影ファントム》に対して光線銃の引き金を引いた。何度も、何度も。だが、距離が離れるとやはり与えるダメージも少なく、《幻影ファントム》の動きを止めることもできない。

 さらに、《幻影ファントム》も馬鹿ではなかった。二階の手すりや壁なども自在に駆け回り、僕の銃弾を回避する。


 至近距離までやって来た《幻影ファントム》は、僕に拳を突きだす。反射的にそれを避けた僕は、《幻影ファントム》と反対側に駆けていった。振り向きながら度々光線銃を撃つが、当たっているかどうかすら分からない。

 これではイタチごっこだ。《幻影ファントム》一体も相手にできないなんて……。


 そこで、僕は足元に鉄パイプの切れ端のような物が落ちているのに気づく。


 ――こうなったら、一か八かだ。


 その鉄パイプを拾い上げた僕は、光線銃も右腰に戻す。そして、今度は自ら《幻影ファントム》へと突っ込んでいく。


「やあああああああ!」


 《幻影ファントム》は、一直線に突っ込んできた僕に対し、自らも一直線に突っ込む。鉄パイプを両手に持った僕は、その動きを少し前に戦ったリュウと重ね合わせて見ていた。

 

 ――遅い。キレもない。リュウに比べたら、こんなのなんて!


「はあっ!」


 右脚を踏み込んで《幻影ファントム》の攻撃をパイプで払い、そのまま態勢を低くして胴に一太刀を入れる。払い胴だ。だが、このままでは動きを止めるだけ。そのまま自然の流れで僕は右腰の光線銃を引き抜き、迷わずほぼ密着状態にある《幻影ファントム》に向かって撃つ。


「ガアアアアアアアッ!」


 《幻影ファントム》の唸り声が響く。僕はもう一歩踏み込んで、《幻影ファントム》の頭の部分に光線銃を向け、もう一度引き金を引いた。


「ガ、ガアアアアッ!」


 今度こそ、効果覿面こうかてきめんだった。《幻影ファントム》も頭が弱点なのかは知らないが、この攻撃で《幻影ファントム》は次第に消えていき、やがて霧消した。


 僕は、ひとまず息をつく。勝った。僕一人の力で。

 だが、余韻に浸っている暇はない。下の様子を見ると、リュウが一人でいくつもの《幻影ファントム》を相手にしているのが見えた。


 すぐに助けにいかなければ、そう思った時だった。


「…………!?」


 視界の左下の方で、バチバチッ! と光が弾けたかと思うと、そこに裂け目のようなものが生まれる。リュウが戦っている所からは離れている。そんなところに、どうして光源が?


 そう考えているうちに、またその光が弾ける。リュウはどうやらこのことに気付いていない。

 どうするべきか、そう考えているうちに続きざまに驚くべきことが起こった。


 まずは、その光が破裂するかのように大きくなっていき、次第に裂け目を大きくしていった。そして、眩い光が生まれたかと思うとそれはやがて消えていく。

 さすがに戦闘中のリュウもその異常な出来事に気付いたようだった。だが、その裂け目の跡に残ったものは見えていただろうか。


「あれは……?」


 裂け目があった所に、一人の女の子が横たわっていたのだ。

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