視線の先
「あの、俺、町田さんのこと好きです。」
「…………え?」
私今、告白されたんだろうか。
視線の先には、顔を真っ赤にした同じクラスの田上くん。私は数回、瞬きを繰り返した。
放課後。
私は教室に残って、後ろの黒板に今月の行事予定を書いていた。まだ部活に入ってなかった4月の終わりに、たまたま教室に残っていたら、先生に行事予定を書くよう頼まれて、それから、月に1回私が行事予定を書きかえるのが暗黙の了解になった。月に1回だし、字が綺麗なのは、小学校から習字を習ってる私の唯一と言っていい取り柄だし、全然苦じゃないから引き受けていた。
今日も、同じようにチョークを走らせていたら、突然教室にやってきた田上くん。私はびっくりして振り返った。……それで、冒頭に戻るわけです。
「あ、いや、だから、俺、町田さんのこと……」
「あ! いや、違うの! えっと、聞き取れなかったわけじゃなくて、びっくりして……その、田上くん、私とそんなに喋ったことないよね…?」
田上くんは本当にただのクラスメートっていうのがぴったりだと思う。朝すれ違ったら挨拶はするけど、私もともとそんなに男の子と喋らないし、きっと田上くんとは挨拶くらいしか交わしてない。
好きって言われて嫌な気はしないけど、どこに私を好きになる要素があったのか分からない。
「なんで、私のこと好きになったの?」
私が聞くと、田上くんは顔を赤らめた。
「なんでって、えーと……、き、きっかけは、体育祭の打ち上げの時の町田さんの私服姿が、可愛かった、から……」
田上くんの言葉を、頭の中で繰り返す。
「…………それって、私じゃなくて服が好きなんじゃないの?」
好きですって言われて、ちょっと浮かれた私がバカみたい。
「そ、そんなことないよ!」
ごめんねって断ろうとしたら、田上くんが言った。
「私服はほんとにきっかけって言うか、可愛いなって思っただけで、それですぐ好きになったんじゃなくて!」
なんだか田上くんが必死だったから、口を挟むことは出来なかった。
「その日から、自然と目が町田さんを追うようになってて、そしたら今まで町田さんのこと全然知らなかったんだなって思って。」
「え?」
「町田さん、毎朝みんなに挨拶してるし、先生から雑用頼まれても文句言わずにやってるし、誰かが休んだら次の日さりげなく授業のノート渡してるし、あと、あと……え、笑顔が、すげー、可愛い……」
「!」
きっと、田上くんだけじゃなくて、わたしも負けず劣らず顔を真っ赤にしてるんだろう。
「あ、えっと、田上くん……」
「へ、返事、今すぐじゃなくていいから! て言うか、むしろただ聞いて欲しかったって言うか、今すぐ付き合いたいとかじゃなくて俺のこと見て欲しかったって言うか…、えっと、じゃあ、そういうことだから、あの、ま、また明日!」
待ってって言う前に、田上くんは教室を出て行った。……なんて言うか、ずるい。
きっと私も明日から、自然と目が田上くんを追うんだろう。今まで知らなかった田上くんを知っていくんだろう。そうしたら、私はきっと田上くんが好きになるんだろう。
なぜだか分からないけどそんな気がして、心臓のドキドキは全然止まってくれなかった。
町田さん
合唱部。159cm。
無自覚なお世話好きさん。
田上くんを目で追うようになって自分の気持ちに気付き、1ヶ月後に告白の返事をする。
田上くん
野球部。172cm。
町田さんの笑顔にやられた。
告白して逆効果だっただろうかと悩んでいたが、1ヶ月後に返事をもらって有頂天になる。