第三章 回復
食べられる生垣があるんだってね。
レオンは庭を歩き回れるぐらいに回復した。
今、レオンが着ているのは作務衣。締め付け感が無く、ゆったりしていて着心地が良い。
元々着ていた服は汚れていたのでイバラギが洗濯してくれた。
料理はタマモが作ってくれる。重湯やおかゆで胃を慣らしていき、やっと普通の食事が食べれるようになった。
タマモの作る料理はどれもこれも美味しく、食べていると力が漲ってきてどんどんとレオンの体力が回復していく。
この家には温泉がある。レオンの世界では毎日風呂に入れるのは王侯貴族のみ。
使用する水の量、湯を沸かす燃料、労働力は馬鹿にならない。自然に湧き出る温泉も国の管理下に置かれ、平民は簡単には入浴することは許可されず、勝手に入ったら、鞭打ちの刑にされる。
平民は夏は水、冬はお湯で体を洗って済ます。
でも、ここでは毎日入浴することが出来る。レオンからしてみればなんとい贅沢。
レオンが入ったどころか見たこともない、泳ぐことが出来るぐらい広い檜風呂。
豊かな香りのする檜風呂の湯船に浸かる、一息吐いてリラックス。
ゆっくり温まっていると、体の疲れが取れていく、体の疲れだけでなく心の疲れまでも。
「♪」
風呂入っていた仁夜が鼻歌を歌っていた。
『本当に男の子なんだ……』
お湯に浸かる仁夜は正真正銘の男性。そんなことを思っているレオンだが『鉄槌の鷹』のメンバーから、女の子ではないかと疑われたことがあった。
「今日の効能は疲労回復してるから、ゆっくりと浸かるとええ」
「そうなんですね」
「せやけど、気持ちいいからと言ってあんまり長く浸かりすぎるとのぼせるさかい、注意しいや。後、湯上りには足に水をかけるとええ」
「ハイ、そうします」
風呂に入り慣れていないので素直にアドバイスを受け入れる。
湯上りに仁夜とレオンは麦茶を一杯。
数日後、レオンは完全に回復した。
「助けてくれてありがとうございます」
感謝の気持ちを仁夜とイバラギとタマモに伝える。あの時、助けてくれていなかったら、今頃レオンは死んでいただろう。
「人を助けるのは普通のことやないか」
「そうだ」
「そうなのじゃ」
仁夜もイバラギもタマモも見返りを求めるどころか、恩着せがましくしない。いつも気軽にレオンに接してくれる。
それがとても嬉しかった。今まで誰彼らも見下され続けたので。
食後、レオンはふと思った。
「ここはどこなんだろう?」
転移してきた世界も国もレオンのいた世界よりも数百年も文明が進んでいる。
ただ、今いる家はそれを感じさせない、空気も匂いも違う。
気温も違っていて常時心地いい温度で保たれている。
とても不思議な場所でありながら、心身ともにリフレッシュされる場所。
回復したからこそ解る。ここは転移した世界とは別の世界だと。かと言ってもレオンの生まれ育った世界とも違う。
仁夜にもイバラギにもタマモにも固く言われている。決して一人で家を出てはいけないと。
冒険者たちの間で語られる怪談話の中に、行くなと言われた場所に行って散々に恐怖を味わい、場合によっては命を落とした者もいると言うのがあった。
話の一から十まで本当にあったことではないだろうが、教訓になるのは確か。
第一、命の恩人を裏切りたくはない。レオンは裏切られたからこそ、裏切られる辛さを知ってるからこそ、裏切ることはしたくない。
一応、家の中と庭には歩き回っていいとは言われているのでリハビリがてらに歩いたり、軽い運動をしたりしている。迷惑にならないように配慮して。
「随分、顔色良くなったやないか」
「おかげさまで」
軽く会釈。
「ちょっと、縁側行こうか」
「ハイ」
二人で縁側に行き隣り合って座る。
庭を見る。レオンから見れば変わった造り。壁の代わりに生垣、松の木に石灯籠に池。見ていると、何か癒される景観。
「ここはどこなんですか?」
みーこがレオンの膝の上に乗ってくる。
ずっと、気になっていることを尋ねた。仁夜も話をするつもりで縁側に連れてきた。
「ここは“迷い家”。レオンが転移した国は日本や」
「“迷い家”、日本?」
“迷い家”も日本もレオンには聞いたことのないところ。
「もう気付いているやろ、日本もここもレオンの居た世界ではないことは」
頷くレオン。
日本はレオンの生まれ育った世界よりも文明の進んだ国、“迷い家”は何か不思議な場所。
「レオンのこと、話してくれまへんか」
「ハイ」
元々、回復したら話すつもりだった。
「オレはこの世界と違う世界で冒険者をやっていました。参加していたパーティの名は『鉄槌の鷹』、オレの職業は創生士」
みーこを撫ぜながら、話始める。猫はついつい撫ぜたくなる。
行くなと言われた場所に行ったり、やるなと言われたことをやって恐怖を経験するネット怪談話が沢山ある。




