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第九話 終話

ごめんなさい、完結設定し忘れてました

「ミュン……ヘル……」


 蠢く肉塊を見て、ミュンヘルは唖然とする。膝から崩れ落ちそうになるのを堪えた。


「お前、レトンか……?」

「祝福……甘美……みんな、幸せ……」


 レトン──肉塊は呟き、不気味に嗤う。ミュンヘルは彼に近づき、縋り付いた。手足に気持ち悪い感触を受けたが関係ない。

 襟首を絞め上げる要領で、肉塊を掴みあげる。


「これのどこが幸せだ!? お前の今の現状を見てみろよ!」

「幸せ……しあ……わせ?」


 肉塊の視線は揺れる。口が戦慄き、表情は絶望に染まる。


「あ、ああああああああああ──っ!」


 鼓膜が破れそうになるほどの大絶叫だった。何が起こったのか分からないとでも言いたげだった。


「レトン! お前をそんなんにしたやつの居場所を吐け!」

「僕を……主様……主様は絶対!」


 肉塊が膨張する。ふっ飛ばされ、教会内を端まで転がる。それでも立ち上がり、ミュンヘルは掴みかかろうとする。

 

 気がついた。いつの間にか、何百というレトンに教会が囲まれている。そのすべてが爆発したとなると自分はどうなるか分からない。

 ミュンヘルの背中に、冷たい汗が流れた。


「レトン! その主ってのは、そんなになってまでして庇う必要があるのか!?」


 ミュンヘルの叫びに対して、答えない。奇妙な咆哮をあげて空気を震わせる。

 窓の外にいるレトンが、体を膨張させた。


「──閃」


 メアリーの小さな声が聞こえた。教会ごと、すべてを切り裂いていた。

 周りにいたレトンたちは殲滅されている。肉塊からはとめどなく血が溢れている。


「ミュンヘルが気を引いてくれたから助かったわ」


 剣を宙空に消しながらメアリーが入ってきた。その顔はいつものように無表情だ。


 ミュンヘルは膝から崩れ落ちる。その顔を彼女は一瞥してきた。


「ひどい顔ね」

「レトンが……」

「助けられるとでも思ったの?」


 メアリーがミュンヘルの襟首を掴んで顔を寄せた。


「今更甘いこと言ってるんじゃないわよ」


 赤い瞳は、どこまでも冷酷で暗い。


「吸血鬼になった奴は救えない。分かり合えない。それはミュンヘルが一番分かってることじゃないの?」

 

 彼の瞳は揺れる。だったらメアリーはどうなのかと、喉の奥に突っかかる。

 そのことを察したのか、彼女が長いため息をついた。


「私とあんただって真に分かり合えたわけじゃないでしょ? 私の生き方をあんたができると思ってるの?」


 今度は答えられない。その言葉の重みは、きっとミュンヘルが軽々しく扱っていいものではないから。


 項垂れていると、肉塊の方からレトンの苦しむような声が聞こえた。


「ミュン……ヘル?」

「まだ生きていたのね」


 剣を出して再び構えるメアリーをどかして、レトンの元に駆け寄る。

 肉塊を掴み、レトンの瞳らしきものを見る。


 後方のメアリーが呆れるような声を漏らした。しかし、そんなことはミュンヘルには関係ない。


「レトン大丈夫か!?」

「ミュン……ヘル……僕は……?」

「レトン、お前をこんな体にしたやつを言えるか!?」


 背中に当たるメアリーの視線が痛い。それでも、縋るように続けた。


「お前の雪辱を晴らしてやる!」

「……主様は……主様は──」

「ミュンヘル離れて!」


 メアリーに後ろ首を引っ張られた。遅れてレトンが爆発する。

 彼女の助けがなかったら、巻き込まれているところだった。


「くそ! やっぱり、無理だったのかよ!」


 目を覚させてやれなかった事実に打ちのめされて、地面をたたく。そんなミュンヘルを見て、メアリーが首を横に振った。


「違うわ。信じられないことに、彼は祖の正体を言おうとした」

「だったらなんで──」

「……介入ね」


 曰く、裏切り者は即殺されるという。

 甘美を与え、恐怖で束縛する。これが吸血鬼の実態だという。


「だったら本当に悪いのは……」


 祖ということになる。

 拳が白くなるほど握り込む。歯の奥を鳴らす。


「おい、メアリー」

「何よ?」

「俺に祖の殺し方を教えろ」


 返事はすぐには来なかった。


「地獄になるわよ?」

「……覚悟はできてる」


 黒い気持ちが心の中に落ちる。憎しみというやつだろうか怒りというやつだろうか悲しみというやつだろうか。そのどれとも言えない感情を、飲み込んだ。

 飲まれず、燃料に変えて、立ち上がる。


 今までどれだけ生ぬるい世界に生きてきたか、ミュンヘルは自分の不甲斐なさを反省する。

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