旅立ち!
ついに、この日がやってきた。今日は僕の13歳の誕生日。僕の住むハジマリ村では13歳になったら旅に出てもいいというルールがある。
これで僕も、念願だった冒険の旅に出られるんだ!
外の世界には不思議なことや面白いことがたくさんあるはず。僕はそれを自分の目で見てみたい!
「よし! 朝ごはんも食べたし、レイとクロエを誘って旅に出かけるぞ!」
というわけで、僕は幼馴染のレイとクロエと一緒に、村を飛び出した。今は、村の周りに広がるヒロビロ平原を三人で歩いている。
『ヒロビロ平原』
とても広い平原。障害物が無いので見通しが良い。
「ねえねえ今日はどこまで行く? 都まで行っちゃう!?」
幼馴染のクロエは今日も元気だ。いつも明るい彼女は三人の中でもムードメーカー的な存在だった。
クロエは、うなじの辺りで髪を一つに結んでいる。その柔らかな金髪は、背中のあたりまで垂れているので結構長い。
「さ、流石に都は遠いかもね」
僕は彼女の熱量に押され気味になりながら答えた。
そもそも都までは歩きだと何日もかかるから、今日中に行くのは無理だったりする。でも体力自慢のクロエなら案外行けちゃったりして。
「つっても、俺たちレベル1だし、あんまり無茶できないぜ」
隣り合って歩くレイは、いつも通りのクールな口調で言った。青髪ツンツンヘアーがトレードマークの彼は、リーダーシップにあふれる頼れる存在。
レイとクロエは僕の幼馴染で、年齢も僕と一緒。二人は、僕よりも早く13歳の誕生日を迎えたけど、初めての冒険は三人で! ということで、僕が誕生日を迎えるまで旅立つのを待っていてくれたのだ。
さて、ここで困った問題がある。この世界にはたくさんのモンスターがいるのだ。中には凶暴なモンスターだっている。旅に出るとなると、モンスターとのバトルは避けては通れない。レベル1の弱い僕らでは、モンスターに負けてしまう可能性が高い。だから、ある程度……いや、できるだけたくさんレベルを上げて強くなる必要がある。
「とりあえず、今日は村の近くでレベル上げしようよ。この辺りならスライムしかいないし」
僕が言うと、レイが何かに気づいたように。
「おっ! 噂をすれば、お出ましだ!」
『スライムが現れた!』
ゼリーみたいにぷにぷにしている緑色の小さなモンスターが、僕たちの前に立ちふさがった。
「き、気をつけて二人とも! 最弱のモンスターとは言え、今の僕たちには強敵だ!」
これが僕にとって人生初のバトル……! 急に緊張してきて声が少し震えてしまった。
「おう!」
レイが勇ましく返事をする。スライムを前にしても、彼はまったく気おくれしていない。
「う、うん!」
クロエは少しだけ緊張しているみたいだ。
僕たち三人は、一斉にダガーを抜いて構えた。
「行くぜ!」
レイが真っ先にスライムへ飛びかかった。
素早い動きで、あっさりとスライムの懐に飛び込んだレイは、左手に握ったダガーを振り抜いてスライムを切りつけた。
『スライムに3ダメージ!』
「ぽっ! ぽっ! ぽっ!」
切りつけられたスライムが独特な鳴き声と共にぽよんぽよんと転がっていく。
「やった!」
レイの攻撃が成功して、クロエは嬉しそうに飛び跳ねる。
しかしその時、コロコロと転がっていたスライムがキキーッとブレーキをかけて急停止した。体勢を整えたスライムは、何事も無かったかのように、ぽよんぽよんとこちらに跳ねてくる。
「き、効いてないの!?」
「マジかよ! スライムって、こんなにタフなのかよ!」
「いや、ダメージは入ってる! このまま攻撃を続けよう!」
よ、よし。僕も戦うぞ!
僕が装備している武器であるダガーのリーチは短い。攻撃を当てるためには十分にスライムへ近づく必要がある。
僕は、こちらに接近してくるスライムに向かって走り出した。ぽよぽよと飛び跳ねている緑のモンスターにどんどん近づいていく。そして、スライムとの間合いを十分に詰めたタイミングで、僕は右手に握ったダガーを思いきり振り抜いた。
「はっ!」
その時、こちらに向かって飛び跳ねていたスライムが急に動きを止める。直後、スライムは一歩後ろに飛び退いた。
スカッ! 僕のダガーはさっきまでスライムがいた場所を通過して、空を切った。
「ええ!?」
かわされた!
こ、このスライム、思ったよりもずっと素早いぞ!
僕の攻撃をあっさりとかわしたスライムが、体をギュッと縮める。スライムの体は、急に風船がしぼんだみたいに小さくなってしまった。縮みこそしたスライムではあるけれど、そのつぶらな瞳は僕のことをじーっとロックオンしている。
僕は、嫌な予感がした。
すると次の瞬間、スライムの体が大きく膨らみ、激しく地面を弾んだ。勢いのついた緑色のボディが、僕に飛びかかってきた!
は、速い! 気がついた時にはスライムが僕の胸に激突していた。
「ぐあっ!」
『アルに3ダメージ!』
アル HP 7/10
「いてて……」
僕は転んで、しりもちをついてしまった。
「アル! 大丈夫か!」
駆け寄ってきたレイが、僕の背中を支えてくれた。
「う、うん」
僕はレイの助けを借りながら立ち上がった。
それにしてもこのスライムというモンスター、なんて速さだ。しかもパワーもすごい。スライムってこんなに強かったのか……。
スライムを甘くみていた。最弱のモンスターだからレベル1でもなんとかなるだろうと思っていたけど、甘かった。
僕への攻撃を成功させたスライムは、僕の目の前で得意げに、うねうねしている。
その時、僕の背後から影が飛び出した。
「隙ありーーーー!」
いきなり飛び出してきたクロエの大声が、平原に響いた。クロエは、スライムに真正面から飛びかかると、右手に握ったダガーを、力いっぱい振り下ろした。
「ぽよっ!」
気の抜けたかけ声と共に、スライムがダガーの軌道から飛び退いた。
スカッ!
スライムは攻撃をかわした!
「ええーっ!? なんでかわすの!?」
攻撃が失敗して、クロエが泣きそうな顔になっている。
すると、間髪入れずにスライムに飛びかかったレイが素早くダガーを振った。
「らあっ!」
『スライムに3ダメージ!』
攻撃が命中したはずみに、スライムが宙に投げ出される。
「やった!」
僕がそう思ったのも束の間、空中で回転していたスライムが体勢を整えて、見事な着地を決めた。
「ぽよ!」
キリッ! とした顔のスライム。
「くそっ、モロに入ったのに! タフな奴だ!」
スライムが再び体を縮めて小さくなる。
僕にタックルをした時と同じ動きだ!
スライムの両目は、レイの方を見ていた。
レイが危ない!
気がついたら僕は駆け出していた。スライムはレイだけに意識を集中させているようで、僕が接近していることに気づいていない。僕はそんなスライムに横から忍び寄って、ダガーを横振りした。
「はああ!」
僕の放った攻撃が、緑色のぷにぷにボディに深々と沈み込んでいく。ゴムのようなゼリーのような独特な感触が手に伝わってくる。
「ぽ!」
僕の不意打ちを食らったスライムは、驚いたような声を上げた。
『スライムに2ダメージ!』
スライムが淡い光に包まれる。すると、ほどなくして、ぷにぷにボディが、細かな粒子のように消えていった。
『スライムをやっつけた!』
EXP1 ゴールド1
『アルはレベル2になった!』
『レイはレベル2になった!』
『クロエはレベル2になった!』
「か、勝った!」
「やるじゃんアル!」
「やったー!」
クロエが満面の笑顔で飛び跳ねる。
想像以上に苦戦したけど、なんとか初バトルに勝利できた。バトルに勝つってこんなに嬉しいんだ……! 勝利の喜びを、僕は生まれて初めて知った。僕らは満面の笑顔で見つめ合うと、勝利を祝うように、三人でハイタッチしあう。パシンッという小気味のいい音が平原に響いた。




