舞台の 光と影 #1
どこか締まらない五人組の挑戦が、始まります。
「何で、みんなして寝てるのー!!」
STELLAの公演に帯同するスタッフ宮田の叫びに、尊は飛び起きた。
「!?」
腕時計の針は、八時 五十二分。
一瞬だけ 現実逃避をして――――急いで 我に返る。
「みんな、起きろ!!」
ヤバい、なんてもんじゃない。
完全に、寝過ごした。いや、寝てしまったことにも気付かずに、寝ていたなんて。
「ルーカス!」
メンバーの中で、一番 起きそうなヤツの名前を呼びながら、頭の中では 必死で時間を計算する。
そもそもの予定では、九時に出発だった。
大きな道具や機材などは車で運んでもらい、自分たちは手荷物だけを持って、電車で移動。
同じ都内での公演だから、それで充分だった。
初日公演は、午前と午後の 二回行われる。
午前は十一時のスタートで、午後は十六時となっていた。
「はっ……えぇっ、何 この時間はっ!? どういうことっ!?」
起きたルーカスは立ち上がり、完全にパニック状態。
「落ち着け………とにかく、開演時間は死守だ」
「だって………移動の時間が………」
十時半には遅くとも現地について、機材やマイクなどの調整を含む《公開リハーサル》をしなければならない。
「―――――っていうか、起きろ 唯織!!」
周囲が騒がしくなってきたのに、まったく起きる気配のない三人――――唯織、春音、奏良は、ぴくりとも動かない。
「………………………あ?」
「あ、じゃねぇよ! 時間見ろ!」
「…………時間?」
昨夜、あれだけ頼りになる一面を見せていたくせに。
寝起きの唯織は、はっきり言って ちっとも役に立たない。戦力外だ。
………考えろ、こういうときのために、俺がいるんだ。
自分がついていて、遅刻なんてあり得ない。
STELLAの 自称《時間番長》は、起きぬけにも関わらず 冴えていた。
「………宮田さん、もう一台、車を出せませんか?」
「……わかった、待ってて。ドライバー確認してみる!」
電車の方が移動時間が早いこともあるが、今回ばかりは 車に頼るしかない。
すぐに出発できる状態ではないからだ。
昨日から着たままの服と、乱れた髪とメイク。
さすがに着替えただけで舞台に立つ気にはなれない。来てくれた方に対して、失礼というものだ。
かといって、一番の失礼は 時間に遅れること。
その二つの間を、とるとしたら。
今すぐに、シャワーを浴びてから、車に乗り込む。
車内で、移動しながら身支度をしたり、簡単な声出しを行う―――それしか、道は残されていない。電車だと、移動はできるが 確実に支度が間に合わなくなってしまう。
「………はい、はい、………五人、いやメイクのエリカさん入れると六人か? ええ、そうですね」
宮田は スタッフ同士の電話をかけながら、指で《OK》の丸を作った。
「………よし!」
これなら、なんとか間にあうはず。
「三十分で、出発するぞ!」
「………ちょっと、本当に起きてくださいよー!」
ここまできて、相変わらず 三人は動かず。
「唯織、春音! 起きろって!」
「奏良さーん!」
悪夢の夏合宿が 蘇る。
それに、奏良が加わってしまい、《起きないメンバー》が めでたく増えてしまったのだ。
『目覚ましを六回セットする』――――確か、そんなことを本人が言っていた気がする。
普段なら、いつも誰よりも先に現場にいるから、考えたこともなかったが。
「これは………もしかして」
「一番 起きられない人かもしれないですよ」
わずかに開いた目は、まだ トロンとして焦点が定まっていない。
………………寝起きも、最高に可愛い。
―――――とか、言ってる場合じゃねぇ!
「奏良さん、立てる!?」
「ロッカーから着替えを持って、シャワー室に行きますよ!」
「……………え」
着替え、シャワー。
その単語に、ようやく何が起こっているのか 理解したようで。
「わあぁぁぁ、ウソでしょ!?」
「落ち着いて、何があっても……九時 半まで。それ以上は 待てないから」
「ロ、ロッカー………」
ルーカスの肩を借りて立ち上がり、ロッカーを目指す。
歩きながら、何かを思い出したように 奏良は振り返った。
「どうしよ」
「どしたの?」
「着替え…………」
「え?」
「多分、上だけ 一枚足りないかも!?」
いつも準備万端の奏良にしては、珍しいミス。
「雨で乾きが悪かったから……あー、失敗した!」
レッスン着のトレーナーもパーカーも、どちらも予備が無いなんて。
STELLAはアピールの意味もあって、移動まで含め すべて《レッスン着》で行こう―――と決めていたのが仇になったようだ。
「………上だけ、私服で行くしかないですね」
「私服も………無いと思う……」
「えぇ!?」
こうなったら、奥の手しかない。
「俺………私服、予備あるから」
汗っかきのため、尊はいつも一枚余分に 服を用意していることが多かった。
「奏良さん! 尊くんの借りるしかないですよ!」
「………いいの?」
「それしかないじゃん、俺ので悪いけど」
すぐにロッカーから取り出して、奏良に手渡す。
…………ちゃんと洗濯してるし、柔軟剤も使用しているから――――大丈夫なはず。……うん、多分、大丈夫。
「ありがとう!」
たいして気にした様子もないのは、弟と 服を共有で着ているからだろうか。
男の服を借りるということを、もう少し気にしてほしいような……いや、そんなことを言っている場合ではない。
いまだ、緊急事態の真っ只中。
五人は 急いでシャワー室に駆け込むこと、三十分。
「…………………わーお」
「………なんで尊の服 着てんの?」
「………どう反応するのが正解なんですか?」
「……………………」
現れた奏良の姿を見て、尊は文字通り、その場で固まった。
ピオニーピンクのレッスン着のパンツの上に、借り物の 黒いトレーナー。
尊自身も ゆるっと着ていたサイズ感のため、奏良にとっては さらにオーバーサイズとなるのは必然だろう。
「恋人同士のお泊り。《彼シャツ》ならぬ…………《彼トレーナー》?」
「!」
「………ルー、表現がエロい」
「えっ、だって他に 例えようがないですよね!?」
「奏良さんて、いつも メンズ服ばっかり着てますけど……それとは 違うというか」
これは、迂闊だった。緊急事態とはいえ。
ルーカスの言う通り、まさに―――――――
「…………お前、変な想像してんじゃねぇよ」
「だ、誰が!」
「………朝から、《破壊力》あり過ぎですよー」
「僕、さすがに目が覚めました」
自分の私服に身を包む 彼女……ましてや、シャワー直後の《濡れ髪》ときている。
別に、唯織のツッコミのように やらしい意味はないのだが。
洗いたてのシャンプーの香りが 惑わせるから。
ナチャラルな色気が溢れていて、目が離せない――――朝から 頭が沸騰しそうになる。
そんな、男たちの動揺など まったく我関せず。
当の奏良は、何の変化もない。
「………荷物も、これで揃った? あとは……」
同乗する メイクスタッフと 確認し合いながら、すっかり仕事モード全開だ。
本当に、この人は。
――――――色々な意味で、心臓に悪い。
「はい、じゃあ出発しますよー!」
「お願いします!」
とにかく、五人と メイクスタッフ一名。
なんとか車で出発できたのである。
* * * * * * * *
「奏良ちゃん、ほんと 洗いたての髪ってふわふわ、くるっくるっだね」
「あー……ほんと、これがやなんだよ」
「えー、この天然、すっごくイイ感じじゃない!」
「………毎朝 鏡で絶望的になる身にもなってよ」
車内にて。
髪のセットと メイクをお願いをしているのは、個人的に雇ったメイクスタッフの エリカだ。
仕事上での付き合いは長いし、同じ年齢ということもあって、以前から 頼りにしていた人物である。
揺れる車内であろうと、気にせず 道具を使いこなす様は さすがプロだ。
「今日は初日だからね。抜かりなく、《爆イケ》にしてあげるからね♪」
「あんまり派手なの やだ」
「舞台だもん、気合い入れないと!」
他のメンバーは、各々 支度の真っ最中。
「みんな………偉いなぁ」
「なに、感心してんの。奏良さんも 自分でやれるようにしないと」
唯織の発言には、聞こえないふりをする。
「………ムリ」
「わたしは 奏良ちゃんのメイク、楽しいから嬉しいけどねー♪」
喜々としてメイクを施すエリカに、されるがまま。
「………はい、できた♪」
「おぉー」
「クール寄りの《爆イケ》ですね♪ カッコイイ!」
「エリカさん、僕も 手伝ってもらえませんか?」
「あ、そうだね。春音くんも、今日は《可愛い》を封印して、爆イケ路線で統一しよう!」
「お願いします」
どうやっても可愛く仕上がってしまう 末っ子も、初日とあって 気合十分だった。
「あー………オレ、顔 むくんでるよな。ブサイクになってる」
「唯織くん、蒸しタオルあるよー」
「……助かります!」
到着予定は、十時 二十分。
都内の 大型ショッピングモールのセンターコートが、本日 一回目の舞台だ。
機材スタッフは、とっくに準備しているだろう。
ミネラルウォーターを飲みながら、歌い手として 喉の調子を整えておく。
「…………奏良さん、体調は?」
みんなが気にしていることを、リーダーの唯織が代表して 尋ねてきた。
愚問だ。
ここまできて、諦めるなど あり得ない。
「………いつも通り、何の変更も無しで」
「!」
「でも……」
やるしか、ないのだ。
捻挫? それが どうした。
「捻挫を甘くみると………」
「でも、骨折じゃないし」
死ぬわけではない。
奏良の中では、いつも 二択しかない。
死ぬか、死なないか。
「人って、そんな簡単には死なないし」
母が亡くなったことに比べたら、こんなこと なんてことはない。
人が死ぬということは、それだけ大きなことなのだから。
「多少の痛みくらい、どうとでもなるよ。緊張してたら、忘れちゃうだろうし」
極度の緊張体質、大勢の人の前で 歌えるのか。
そちらのほうが、よほど心配が大きい。
痛みが無いといえば、嘘になる。
すーっと大きく息を吸って、吐く。
正直、殴られたお腹のあたりは 痛みを主張してくるが、痛いというのは生きているということ。
理不尽な怒りも、反撃できなかった悔しさも。
その すべてが、不安な心を強くしてくれる。
「………痛ければ痛いほど、絶対に 成功させなきゃって思えるし」
妨害も 無意味だと思わせるくらい、《本気》を見せつけてやる。
『太刀打ちはできない』と、パフォーマンスで《黙らせる》こと。
それが、自分にとって、最大の《報復》だ。
「ぶん殴りたいのは 山々だけどね」
あんなヤツら、直接 殴る価値もない。
せいぜい、遠くから悔しがって、指をくわえて見ていればいいのだ。
昔から こういうことには慣れている。
いちいち、誰かに なんとかしてもらわないと生きていけないような、か弱い 少女ではないのだ。
まあ、今回は 唯織たちに迷惑をかけたり、世話になってしまったが。
次からは、個人的なことで 彼らの手を煩わせないように 気を引き締めなければ。
「…………わかった。変更なしで いこう」
「!」
「足元が不安だから、みんなは それとなく 気にしろよ」
「それは、もちろんです!」
「………………はぁ、わかった」
「全員で、頑張りましょう!」
見に来てくれる、すべての人のために。
全力で、パフォーマンスをするだけ。
「到着しましたよ!」
運転手の声に、一層 気合が入る。
「奏良さん、降りるの気を付けて」
「荷物は、ボクが持ちますから!」
「入るのって、どこからでしょうか?」
「………このピオニーピンク、さすがに目立つなー」
「センターコートの裏手だって…………誰か、案内板 見えない?」
買い物客が 派手な集団に気付き、チラチラと見てくるのがわかった。
――――とりあえず、笑っておこう。
スマイル、スマイル。
「!」
「!」
覚えたばかりの《笑顔》でも、少しは効果があるといいのだが。
奏良が歩く度に、ロールプレイングゲームのごとく、後に ついていく人が増えていた。
知らぬは、本人だけ。
「………絶対、自覚ないですよねぇ」
「………客寄せ効果、ハンパないな」
「オレたちも、振りまくぞ」
「……唯織くんは、やらなくていいと思います」
負けじと笑顔を振りまきながら、男たちはボソボソと 裏で会話を交わす。爆イケ集団の異名は、もちろん伊達ではない。
駐車場の車を あとにして。
五人は、とうとう 戦いの場に足を踏み入れたのだ。
* * * * * * * *
ざわめく、会場。
お客さんを 一人でも多く呼び込めるように―――会場脇では オリジナル曲のBGMを流しつつ、大型モニターには レコーディング風景を映して、観客を飽きさせないようにしていた。
「すごいよ、朝の整理券が 五分で消えたよ!」
早く並べば、限定五十人だけ、近くで見ることができる。
早朝に発表された《情報》にも関わらず、八時に交付された《整理券》は、あっという間に無くなっていた。
前の五列目までが、整理券の対象。
公演開始まで五時間もあるというのに、朝から予想以上の人だかりだったという。
せっかく並んでもらったのに、整理券を手にできない人が大量発生し――――急遽 第二《優先列》というものを設置して、救済処置を行っていた。
朝イチから現場を仕切っていた《現場スタッフ》たちも、奏良と何度も仕事をした仲だ。
滑り込みで到着したメンバーたちを、最高の笑顔で迎えてくれる。
「すでに、何時間も 立ったまま、ずーっと待ってくれてるんだからな!」
「お返しできるだけの、パフォーマンスを見せてよ!」
「はい!」
「はい!」
ステージ裏手の控えスペースに到着し、慌てて それぞれの《ステージ衣装》をテーブルの上に取り出す。
「開演まで、あと三十分。とりあえず、マイクテストのために、ステージに一旦出よう」
それが終わってから。
「戻ってきたら、急いで衣装に着替えて……」
身支度が終われば、本番開始となる。
「うわぁー、ドキドキしてきましたー」
「時間ギリギリってとこが、一番 心臓に悪いけどな」
「けっこう、なんとか なるもんですね」
「いつも こんなじゃダメだからな!」
起きなかった三人は、尊に対して 何も言えない。
「以後、気をつけまーす」
「右に同じ」
「……すいません」
軽く 髪を整えて。
五人は 一列に並んで、ステージ脇から姿を現すと―――――
わあっと。
唸るような歓声が上がる。
『えー、まだ開始ではありません』
『撮影はお控えください。繰り返します、ただいまの時間、撮影は――――』
会場のスタッフが、マイクでアナウンスを繰り返すが、ざわつきは収まらない。
奏良は 初めて浴びる歓声に、驚きを隠せなかった。
これが――――舞台の上。
スポットライトが当たる、光の中心地。
誰もが 憧れてやまない、一握りの人しか 辿り着けない《特別な場所》。
「…………さん」
「奏良さん!」
「……………え?」
何回か呼ばれて、ようやく現実に戻る。
「………あ、そうだった。ごめん」
いつも、裏からしか見たことのなかった景色に、呆然としてしまった。
唯織や 尊は、こんなステージを何度も経験してきたというのか。
「えー、お待たせしておりますが」
「少しだけ、マイクの調整などの、リハーサルをさせてください」
堂々と観客に語りかける姿は、慣れたものだった。
……………すごいな。
圧倒されている場合ではない。
――――――空気感に、飲まれるな。
かつて、スタッフとして、何度も候補生たちに言ってきた言葉を、改めて 自分の中で繰り返す。
会場の熱気と、自分の早い鼓動と。
誰も見ていないレコーディング室では、一生 味合うことのできなかった 感覚。
〜♪〜〜♬〜♪♫〜
声出しを始めると、辺りはシーンと静まり返る。
生の五人の歌声に、早くも 涙する観客もいたほどだ。
ひと通りマイクの確認も終わり。
「開演は、予定通り十一時となります」
「それまで、もうしばらくお待ちください」
レッスン着の五人は お辞儀をして、着替えるために裏手に戻っていく。
…………途中、前の方の女性たちが、あることに気付いて声を上げた。
「…………ねぇ、あれ」
「そう、どこかで見たと思ったんだけど!」
「奏良ちゃんの《トレーナー》!」
「あれ、尊くんの服だよね!?」
「!」
「!」
―――――バレた!
―――――気付かれた!
奏良は 忘れ物が発覚したと 青くなりながら。
尊は 違う意味で、赤くなりながら。
二人はダッシュで 裏に駆け込む。
「………さすが、ファンのみなさん」
「……鋭すぎだろ」
「どーすんの、あれ」
「バレたからには、絶対に SNSでコメント書かれますよ」
「………なんで、奏良さんが尊くんの服を着てるかって……知りたいですよねー」
「えぇ!?」
勘弁してよ………。
公衆の面前で、忘れ物の公表なんて、小学生でもあるまいし。
「………今日のMCの《話題》は、決まったな」
「ですねー♪」
「きちんと釈明しとかないと、変な憶測されても困りますし」
唯織、ルーカス、春音の三人は、ニヤニヤと悪い笑顔を浮かべているではないか。
「ネタにするのは やめてぇ……」
「甘いぜ、使うに決まってるだろ」
『時間、七分前でーす』
スタッフのアナウンスが聞こえる。
「ヤベ!」
「早く着替えなきゃ!」
衣装に着替えて、髪とメイクを再確認する。
気分は、まだ不思議な感じだった。
段取りも、すべて 知っていながら、まるで初めてのことみたいに感じられる。
足元が、ふわふわ。
雲の上を歩くとは、このことなのかもしれない。
「……………あ、奏良さん 待って」
ふと、思い出したように 唯織が背後に回り込む。
「?」
「………………じっとしてて」
「!!」
至近距離――――耳元で 唯織のセクシーヴォイスが聞こえるから、さすがに驚く。
いくら、メンバーとはいえ。
この体勢は…………誰かが誤解でもしたら どうするつもりだ。
「ほら、完成」
流れるような 無駄のない動きで、奏良の首に納まったものとは。
「……………パール?」
シルバーとパールの、デザインネックレス。
「あー! それ! 唯織くんのSNSで見たことあります!」
「お前、よく見てんなー。オレのこと 大好きなんだろ」
「………奏良さん、キレイです」
「やることが いちいち恥ずかしいんだよ。後ろから着けてあげるとか……信じらんねぇ」
尊の文句には、奏良も同感だった。
「何が? 似合うと思ったから持って来てたのを、急に思い出したんだよ」
いいだろ? と、唯織は得意げにメンバーに自慢する。
「…………ズルいですよ、アニキ。ボクも、今度 アクセサリー持ってこよう! 奏良さんに似合いそうなの、ボクだって持ってますから!」
「お前ら、オレ様の《センス》に勝てるわけないだろ?」
「………ですって、尊くん。これは唯織くんからの《挑戦状》なんですかね?」
春音の本気なのか冗談なのか わからないテンションに、尊も渋い顔を作る。
「………受けて立つしか、ないな」
「あ、でも僕、ネックレス系は あんまり持ってないんですよね」
開演間近に、何をやっているのだ、この《弟たち》は。
『開演三分前でーす』
「……………ちょっと、円陣は?」
寝坊して、時間ギリギリで、本番直前だというのに。
「まったく……………なんなの、コレ?」
緊張感も不安も、何もかもが どうでもよくなってくるではないか。
呆れて、笑いしか出てこない。
「いいですね、その笑顔ですよ!」
「そうそう、困ったときは、とりあえず笑っとけ」
「適当すぎるって」
「僕は、困ったら 唯織くんたちを見るようにします!」
「オレ、気付かないフリしようかな」
「何でですかぁ!」
「助けてくださいよー!」
最後まで、グダグダではないか。
でも、きっと。
これが、彼らなりの《気遣い》なのだろう。
緊張しないように。
あくまでも、《普段通り》を、貫けるように。
肩を組んで円陣を作っても、まったく 締まらない。
「………掛け声、今度から マジなのを作るか」
「他のチームは、みんな カッコイイの、やってましたよね」
とりあえず、『オー!』という 腹からの声出しをして、順番に並ぶ。
『STELLA LOVE HAPPINESS、時間でーす』
十一月 二十二日、十一時。
STELLAにとっての初公演が、ついに始まろうとしていた。




