SNSと 曲配信 #7
主人公はどこへ行った?……となるくらい、男二人のお話です。
「――――――――奏良さんっ!!」
スタッフをかき分けて、唯織が駆け寄ると。
「…………………かはっ………」
奏良が呼吸を取り戻した音がした。
「!……ケホッ……」
「奏良さん……ゆっくり、そう、ゆっくり息して」
腹のあたりを押さえながら、膝をついて蹲る――――どう考えても《殴られた》。それ以外に、何があるだろう。
どんな理由があるにしても、これは あり得ない。
まして、今回だって断言できる。
彼女には、何の非もないということを。
「―――――――さっきの悲鳴は………田中さん、ですか?」
自分でも驚くほどの、低い声が出た。
唯織の迫力に、座り込む女性スタッフは 身震いする。
――――――誰が、こんな。
こんな目に、遭わせた。
「田中さんは、何があったか………見てたんですか?」
静かに問いただす唯織の言葉に、田中は 激しく首を縦に振って肯定を示した。
「……どこが 痛い?」
「奏良さん、立てますか!?」
尊とルーカス 二人に肩を借りながら 立ち上がろうとして、奏良の顔は痛みに歪む。
「うっ……」
「!」
「医務室に………」
「医務室より、病院だ」
とりあえず、呼吸はできているようだった。
ただ、素人目で判断はできない。
「田中さんは、まず 状況を説明してください。わからないと、どうにもできない」
この空気の中で、よく冷静に口が動いたと、自分でも不思議に思う。
「ルー、お前は 奏良さんの荷物取りに行け。……わかるな?」
意味はわかるな、という《意味》を、ルーカスは正確に読み取ったようだ。
「! わかりました、取ってきます!」
「春、お前は 正面玄関に 急いでタクシー呼んで」
「はいっ」
メンバーに指示を出し、田中の説明を待つと。
「相馬くんが………」
「相馬って、あの……」
「奏良さんと、追加メンバーの選考会で歌ってた………」
「仮歌の!?」
「何で、あの人が………」
廊下で鉢合わせしたあと、奏良は通り過ぎようとしたのに、相馬が ひつこく何かを言いながら、食い下がろうとしたらしい。
明日を控えた 大事な身―――奏良は 相手にしないように、尚も 行き過ぎようとしたが………
「相馬くんが 奏良さんの腕を 乱暴に掴むから、奏良さんが 痛がって、振りほどいて………それで」
さらにカッとなった相馬が 奏良を壁に突き飛ばし、あろうことか 腹にめがけて一発殴った。
立派な、傷害事件だ。
「………あとで、防犯カメラも確認するか」
警察よりも先に、映像を見ておきたい。
殴った瞬間、目撃者に悲鳴を上げられて、肝心の犯人は逃走中。
「………あんの野郎っ!!」
「落ち着け、尊っ!」
状況を理解して 激昂した尊が走り出そうとするから、すぐに止める。
だから、お前はダメなんだよ。
こういうときに、まっ先に考えることがあるだろ。
「お前がやるべきは、奏良さんを病院に連れて行くことだろ?」
仕返しなんて、あとでいい。
この場で 怒ってないやつなんて、一人もいないのだから。
「でも……!」
「でも、じゃねぇ! ………何のために、奏良さんが《我慢》したと思ってんだよ!!」
それさえも、見えないのか。
「!」
「………奏良さん、血が出てます!」
電話をかけ終わった春音も気付いて、奏良の右手を指さす。
「すいません、誰か、ハンカチとか持ってませんか?」
「あ、そ、それなら………」
田中からハンカチ借りて、奏良の右手を掴む。
固く握られた拳は、脅威が去ったというのに 容易には解けなかった。
爪が掌に食い込んで血が出るほど、強く握りしめていた、ということだ。
「奏良さん……」
春音のほうが、泣きそうになる。
「………必死に、我慢したんだろ」
こんなに なるほど。
理不尽な暴力に遭おうとも、彼女の性格からすれば 反撃くらいは したかったはずだ。
それを、踏みとどまった。一人で耐えて。
何よりも、明日の―――――グループのために。
「奏良さん本人が我慢したってのに、お前が ぶち壊してどうする? 冷静になれよ」
「……荷物、持ってきました!」
「尊、お前は病院。タクシーも来る頃だろ、一階に行け。奏良さんを任せる」
「……………………わかった」
「ルー、お前もついてけ。………いいな?」
それで、もし尊が冷静さを欠いたなら。
お前が、全力で 止めろ。
「……………了解です! 行ってきます!」
尊につかまりながら ようやく立ち上がった奏良の顔は真っ青で、痛みのためか話すことも ままならない。突き飛ばされた衝撃で、どこか 脱臼している可能性もある。
それなのに。
前を通り過ぎるとき、奏良が『ごめん』と、声にならない声を残すから。
冷静に努めている自分でさえ、簡単に 感情のメーターが振り切れそうになった。
何で、謝るんだよ。
何の、落ち度があるっていうんだ。
何でいつも、一人で。一人だけ。
傷つかなければいけないんだ
「……………………くそっ!」
何でオレは、いつも止められない?
怒りにまかせて、すべてを壊してしまいたくなる。
「………………行くぞ、春」
けれど、今は その時ではない。
尊とルーカスがいない間に、自分には やるべきことがある。
世話好きな二人に奏良はまかせて、こちらは 《そうでないこと》をしよう。
適材適所。
おとなしい春音だって、いざというときは シビアになれる男だと知っている。
まして、奏良が関わっている問題とくれば、手加減なんてしなくてもいい。
「オレたちにしかできないこと、やるぞ」
「………はいっ!」
今回の、相馬のことに限らず。
この際、これまで 奏良にとって《毒》にしかならなかったこと、すべて。
芋づる式に、引っ張り上げよう。
本人には、もう任せてはおけない。
優しい奏良は、最後には 相手の気持ちを考えてしまうから。それじゃダメなのだ。
多少 荒っぽくても、文句なんか受け付けてやらない。
――――オレを、誰だと思ってる。
《自分のモノ》に手を出されて 黙っていられるほど、お人好しではない。
リーダーとして――――― 一人の男として。
きっちり、ケジメはつけさせてもらう。
時間は、二十一日の 二十時。
長男と、末っ子の二人は。
これから、長い夜を迎えようとしていた。
* * * * * * * *
二十一日、二十三時 半。
病院の廊下で 待っているのは、奏良に付き添って来た尊とルーカスの 二人だ。
ウロウロと 落ち着きなく歩き回るルーカスに対して、逆に尊は どっしりと座り込み、手で顔を覆いながら 時間が過ぎるのをじっと待っていた。
まだ、心臓が 落ち着かない。
蹲っている奏良を目にしたとき、自分でも 何がなんだか わからなくなって――――
『落ち着け!』と。
唯織に怒鳴られて、初めて 自分の愚かさに気付くなんて。
激しすぎる《感情》に振り回されて、一番 大事なことを忘れるなど、言語道断だ。
「……………くそっ」
悔しいが、とっさのときに 何も役に立たないとは。
こういうときに、唯織との《圧倒的な差》を思い知らされる。
いくら一人暮らしをして、金銭面でも自立したつもりでも、自分には 常に 《親》が後ろで見守っていてくれる―――そんな甘えが捨てきれていなかったのかもしれない。
地元を ほぼ《家出同然》で飛び出し、それから 自分の責任だけで生きてきた唯織とは、そこが根本的に違う。
どちらが いいとか悪いではなく。
何かが起きたとき。
対処できる《冷静さ》が、完璧に足りない。
『あんたはね、肝心なところで 何か足りないのよね』
実の姉に 言われた言葉が、今さら頭上に重くのしかかる。
こんなことでは、誰も守れない。
大切なものがあるなら、守れなくてどうする。
言葉だけでなく、行動で。
守れるような、男になりたい。
そのチカラが、今 欲しい。
「あっ………もしもし、唯織くん? …………はい、そうです。今は 奏良さん、検査に入ってて」
診察の結果、腕を強く引っ張られたときに 左の肘を《脱臼》し、壁に突き飛ばされたときに よろけたはずみで 左足首の《捻挫》。さらに 腹を殴られたことに対しては、検査が行われていた。
男の力で 手加減なしに、防御態勢もない状態で殴られると、内蔵の損傷などもあり得る。
吐血はしていなくても、あとから じわじわと体内で出血することもあり、安心はできない。
女性の身体なら、なおのこと。
不幸中の幸いか、脱臼は手術をしなくてもズレを直せる程度だったので『良かったですね』と医者は言うが。
骨を元に直すときの 声を抑えた悲鳴―――どれだけ痛かったのか――――それを想像すると胸が痛む。
「とりあえず、検査結果待ちにはなると思うんですけど………はい、一週間くらいは 肘の痛みは残るらしいです。荷物とか、重いものは避けたほうがいいですね。ボク、奏良さんの分くらい、荷物は持ちますって。捻挫は………動くのはやめた方がいいと。……はい、そうですよね」
明日からの、全国行脚。
オリジナル曲のみ、軽いダンスがある。
動いてのパフォーマンスは、無理だろう。
「痛み止めの薬を 飲むしかなくて……あ、先生にも聞いてみたんですけど。あとは、注射くらいしか」
そもそも、呼吸が止まるほどの衝撃を 腹に受けて、歌が歌えるのか。
歌は、身体が 資本。
「………はい、え? そーなんですか? あ、わかりました。尊くんに 替わりますね」
ルーカスが携帯を差し出すから、仕方なく 電話を替わる。
「…………もしもし」
「………少しは、落ち着いたか?」
唯織の言葉に、自己嫌悪は深くなる。
「………奏良さんの様子は?」
「………………こんな時でも、相変わらず、いつも通りだよ」
真っ青になりながらも、気にするところは 自分のことではなく。
『大丈夫だから』
『二人とも、早く帰らなきゃ』
『唯織くんたちにも、帰れって伝えて』
メンバーのことしか考えていない。
どんなときも、どんな状況になっても。
「……………はぁ。だろうと思った」
「なぁ…………唯織」
「ん?」
「―――――――――悪かった」
「……………フッ。 何がだよ?」
お前 一人に、やらせたこと。
一歳しか 歳は違わないのに――――この男は、ずっと《大人》だった。
「……………俺、思ってた以上に、子供だったわ」
「ばーか…………今頃 気付いたのか?」
肝心なところで、カッコつけられない。
決定的に、足りないものがあるから。
「…………まぁ、いいんじゃねぇ? オレという《完璧》な男が身近にいるんだから――――オレから学んだら?」
唯織の冗談が、このときばかりは 有り難かった。
「………調子乗んな」
今はまだ差はあっても、すぐに追いついて、追い越してみせる。
「俺は、遅咲きのタイプなんだよ」
ウサギとカメなら、唯織はウサギで、自分はカメなのだ。
カメなら、カメなりに。
自分ができることを 全うしなければ。
「――――――で? そっちは どうなった?」
「とりあえず、関係者全員に吐かせてるところ」
何を、なんて 聞かなくてもわかる。
「…………まぁ、《掃除》はオレたちに任せろ」
「程々にしろよ」
「そうは いくかよ。《誰に》手を出したのか………分からせねぇと」
「社長やリューイチさんは? 何て言ってる?」
「ちゃんと《被害届》出させるって。有耶無耶にされたら困るだろ。事情聴取とかあるだろうけど、細かいことは会社にやらせりゃいいし」
なんといっても、自分たちには 明日の公演がある。
「…………マジな話、奏良さんが動くのは無理だろ」
そうとはいえ、彼女の性格だ。
簡単に 諦めないし、引き下がらないだろう。
「かと言って、あの状態で やらすなんて………」
「――――――時間ギリギリまで、待とう」
「唯織?」
待って、どうする?
あの足で、ダンスをさせるつもりか?
「無茶 言うなよ、まっすぐ立つこともできないのに」
「………オレは、本人の《意思》に委ねる」
「本人の、って………」
やる、と。言うに決まっているだろう。
「………だろうな。でも、それが正しい」
だって、誰も彼女の代わりは できない。
STELLAは、彼女がいてこそ 完成する。
「オレたちの五角形は、一人でも欠けたら成立しないんだよ」
「…………それは……」
「わかってるなら、その先を見ろ。オレたちにできるのは、カバーすることだろ?」
誰かが弱ったときに、その人の分まで頑張って、負担を減らしてあげること。
それが、正しい《仲間のあり方》。
「……………わかった。最初の何回かの公演は、《My Treasure》のダンスは省こう」
あまり動かなくていい振付に修正するには、あまりにも 時間が無い。
「…………それが、一番 現実的だろ」
何があろうと、神聖な舞台に穴は空けられない。
その時にできる《最高》でなければ、そこに立つ資格さえなくなってしまう。
考えろ、今 できることを。
「二曲目のスタンドマイク、あれを最初から出すか?」
「……だな。手振りだけなら、意外と いけるか?」
曲と曲の間を繋ぐMCも、話題を少し替えないといけない。
「動けるようになってから、改めて《ダンスを見に来てください》とか、舞台上で《お誘い》入れるか?」
「………唯織お得意の?」
「そ、あざと可愛く」
観客動員数を稼ぐために、毎回 内容に変化を持たせるのは、いいアイデアかもしれない。
「………………結局のところ」
「奏良さんの結果待ち、だけどな」
ドクターストップがかかったら、さすがに 諦めなければならない。
「………まだ、検査 かかりそうか?」
「どうだろ…………あ」
「……日付が、変わったな」
とうとう、二十二日。
まさか、この日を 病院で迎えるとは――――運命の神とは、相当なイタズラ好きに違いない。
「…………オレたちも、もう少し かかりそうだ。春のやつが けっこう頑張ってて。あいつ、思ったよりも ずっと根性あるぜ」
もしかしたら、末っ子が 一番《男らしい》一面を持つのかもしれない。
負けてはいられない。
譲れないものが あって、掴みたいものがあるのなら。
「そうか……こっちが終ったら、俺も本社に戻るわ」
「いや、奏良さんを家に送り届けたら、お前は そのまま帰れよ」
「そっちこそ」
昨日から、ほとんど寝ていないのは、みんな同じだ。
体調万全で 挑むべき公演なのに。
「……………まぁ、これも」
「忘れられない《思い出》には、なるか」
これも すべて含めて、俺たちらしい。
「………あ、尊くん! 奏良さんが……」
「! ………唯織、またあとで連絡する」
「ん、了解」
電話を切って駆け寄り、奏良が歩くのを支える。
百七十七センチの自分に対して、奏良の身長は百六十二センチ。
女性として、特に身長が低いとか 華奢という感じではなかったが、実際に触れると『こんなに小さかったのか』と思い知らされる。
それは そうだ。これが 男と女の違い。
だからこそ、より 許すことはできない。
『《誰に》手を出したのか………分からせねぇと』
唯織の言う通りだ。
怒らせたら怖いのは、何も 奏良だけの《専売特許》ではない。
《厄介な男》に火を点けてしまったことを、後悔すればいい。《ひつこさ》では、尊の右に出るものはいないのだから。
それぞれが 様々な思いを胸に秘めたまま、夜はさらに更けていく。
* * * * * * * *
結局、病院から出た尊たち三人は、本社に戻ってきた。
社長やリューイチ、集まれる上層部の人たちに事情を話したり、悪事に関わっていた連中を問い詰めたり、スタッフからの証言集めなど――――ある程度のことは、唯織と春音の手によって すでに終らせておいたとはいえ。
本人の話を聞かないことには、どうにもできず――――奏良にも戻ってきてもらうしかなかったのだ。
時間は、すでに午前四時。
ようやく《戦闘態勢》を解除して、唯織は大きく伸びをする。
「………今さら帰っても、ほとんど時間ねぇな」
自宅に戻るよりも、このレッスン室で 時間になるまで待機するほうが、少しでも休めるというものだ。
尊も、さすがに家に戻るという選択肢は諦めたらしい。
「着替えとか、みんなロッカーに《予備》があるよな?」
私服一式と、レッスン着。
何かあっても困らないよう、お泊りセットは欠かせないアイテムだ。
「……あるだろ。あとで、シャワー浴びようぜ」
「…………だな」
本来なら、朝八時に 本社に集合し、荷物を持って 九時に出発するはずだった。
STELLAの初日舞台は たまたま東京からのスタートだったので、まさに奇跡といえる。
「………初日から大阪とか福岡とかじゃ、絶対に間に合わなかったな」
「今頃、みんなは起きて支度を始めてんじゃね?」
The One and Only が大阪で、Infinity が福岡。二組とも、早朝出発する予定になっている。
「………衣装とか道具とか、必要な物 全部用意しておいたおかげで、助かった」
本社に 予めすべて準備をしておき、当日の朝は 持って出るだけ――― そうしていなければ、どうなっていたことか。
「そこは、やっぱり奏良さんのおかげだな」
「……ああ」
考えられることは、すべて終わらせておく。
スタッフ時代から続く、その徹底した《準備の良さ》。他人が気が付かないことまで予測して、先回りするところは、本当に頭が下がる。
「………………春も ルーも、疲れたよな」
レッスン室の床に座り、壁にもたれながら、春音、ルーカス、奏良の三人は、揃って 静かな寝息を立てていた。
追い込みのレッスンに、三曲目の曲決めが難航したことや、楽曲配信のための 深夜の生配信。
ここ数日 メンバー全員が あまり寝ていないから当然だろう。
まして、怪我を負った奏良は身体へのダメージが大きいうえに、処方された鎮痛剤を飲んでいる。眠くならない わけがない。
「…………お前ら、風邪引くって」
三人に近付いて、それぞれの上着をかけてやる。
蓋を開けてみれば、ある意味 単純な話だった。
暴行を働いた相馬は、ある《社員》の嘘を信じて、日々 奏良への憎悪が膨らんでいったという。
以前から、ずっと奏良に敵対心を持って逆恨みしていた社員が、そもそもの諸悪の根源。
社長やリューイチなど、大物が背後で味方していることも、面白くなかったのだろう。
ここまで騒ぎが深刻になるとは思っていなかったのか、吊るし上げられて焦る姿は 見物だった。せいぜい しっかりと罪を認めて、その報いを受ければいい。
揃いも揃って、馬鹿なヤツ。
奏良を恨む時間があるなら、その分《自分磨き》でもすればいいのに。
自分に自信が持てれば、他人など 気にならなくなる――――というのが唯織の持論だ。
悔しい、と思った分だけ、人は成長できるのだから。
「………………これだけ、裏表の無い、わかりやすい人もいないだろ」
少しでも彼女と関わった人なら、誰でも その噂が《デマ》だったことに気付くはずだ。
『奏良さんに限って、それはない』
『あの人は、絶対に《他人の悪口》は言わない』
『奏良さんを知ってる人なら、バカバカしい嘘だってわかるでしょ』
ほとんどの社員が 揃って同じ証言をしたおかげで、上層部も処分を決めやすくなったはずだ。会社として、徹底的に厳しい判断を下してくれることを、あとは期待するしかない。
熱烈なファンがいる反面、妬み やっかみなど《反対派》が出てくることは避けられない。それは世の常だ。
傷付きはしたが、今回のことをキッカケとして、少しは 奏良の周囲が落ち着けばいいのだが。
「…………………………かわいい顔しちゃって」
春音とルーカスに挟まれて、すやすやと眠る様子は、なんと表現していいか わからない。
疲労の色は隠せないが、このまま 何も心配せずに、安心して眠って欲しいと 心から思う。
―――――この女性が、笑顔になれれば なんだっていい。
自然と湧き上がる感情のまま。
ルーカスと奏良の間に割り込んで、自分も床に座り込む。
「………え、いや、お前 何してんの」
「――――休憩、だよ。今日のオレは頑張ったからな」
「そんな引っ付く必要ないだろ!」
「…………静かにしろ、起きるだろ」
悪びれもせず、奏良の真横に陣取り、至近距離で 寝顔を堪能することにする。
これくらいの《ご褒美》があっても、今日は 許されるはずだ。
「……お前だけ、させるか」
尊も負けじと、春音と奏良の間に割り込んで座りだし―――――。
男二人で なんだかんだ言い合いをしているうちに、いつの間にか 意識は途切れていた。
* * * * * * * *
出発 十分前、午前八時五十分。
忘れ物がないか見回りにきたスタッフの『なんで寝てるのー!!』という絶叫が、レッスン室に響き渡るまで。
仲良く揃って、お互い 肩を寄せ合いながら。
昨日の服のまま、五人は大胆にも 眠りこけていたのである。
次回から、波乱の公演が始まる予定です。




