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この歌声(こえ)君に届け  作者: 水乃琥珀
12/47

レコーディングに向けて #4

おり:オレ

みこと:俺

●ルーカス:ボク

春音はると:僕

STELLAステラ男性メンバーは、このように表記を変えています。

今回は長男、おり目線です。

  強力な助っ人『B.D.』が来てくれたことで、STELLAステラの新たな振付は その日のうちに完成した。


  まさに、これがプロ。

  お金を取ってお客様を呼び込み、お金以上の幸せを与える、アーティスト。


  自らもプロのヴォーカルとして活動していたおりも、悔しいが認めざるをえない。

  自分は、まだまだ なんだ――― と。



「よーし、じゃあ次、春くん いくよー」


  少し休憩、と水を飲みながら、おりは 声を張り上げる奏良そらの姿を目で追っていた。


「……今の入り方、いいよー。最後のところは もう一回!」

  連日のレッスンの合間に、スタッフとしての残務にも追われ、メンバーの練習にも付き合い、自らも 練習を怠らない。

  相変わらず 誰よりも早く来ているし、朝から帰りまで、文字通り《全力》だ。


  先日の『振付師 事件』から。

  奏良そらは、変わった。

  いや、元に戻った、といったほうが近いかもしれない。


  どうすれば、良くなるか。

  どうすれば、目標に近付けるか。


  最高の結果を出すために、ありとあらゆる方法や手段を試す。

  努力も 労力も惜しまない――――その姿は、誰にでも真似出来ることではないし、尊敬に値する。

  それは、本音だ。


  ただ、最近やたらと モヤモヤする。

  彼女の、そんな姿を見るたびに、なんともいえない、言葉に表せない《何か》が、発生するのだ。


  じわり、じわりと。

  真っ白な布に、ゆっくりとインクが染み出していくような、そんな感覚。


  これが何なのか、わからないからこそ―――イラつく。

  そう、イライラするのは、なにも疲れているから、だけではない。

  原因がわからないから、改善のしようもない。


  

  グループ結成から、一ヶ月が経ち。

  毎日、それこそ一日中 一緒にいるからこそ、お互いの色々な面が見えてくる。

  すでに半年の付き合いがあり、ある程度は 気心も知れた仲になってはいたが、こんなに長時間過ごすことは、この一ヶ月が初めてだ。


  すでに日付は、十月 二十日。

  十一月 五日のレコーディングまでは、もう すぐである。


  オリジナル曲以外の、ステージで披露する あと二曲。

  いまだに決められないでいることも、おりをイライラさせた。

  グループの中で意見がまとまらず、アイデアが出た曲を試しに歌ってみるが、これという決め手に欠ける。


  歌を得意とする、ヴォーカル集団。

  自分たちの魅力を伝えるために、どうすればいいのか。

  正解があるわけではない。

  自分たちで 地道に探し当てるしかないのだ。


  オリジナル曲の練習も佳境に入り、知らず知らず、言葉がキツくなってしまっていたのは、反省すべき点ではあるが。


「――――――おり、今の言い方はダメだろ」


  ここ何日か、必ずといっていいほど、みことから出される《ダメだし》。


「…………は?」

「だから、は?とか、そういう言い方、やめろって」

「………何が?」


  みこととは『Little Crown』というグループのオーディションで出会い、同時に合格して、それからの付き合いだ。

  デビュー前の準備期間を含めると、約三年になるか。

  駆け出しのとき、家賃が勿体ないからと、同居をしていた時期もある。


  彼は、一言でいうと、イイヤツだ。

  男らしいし、真っ直ぐで、頼りになる。

  小細工はしない性格だから、疑り深い自分も 余計なことを考えずに信頼できる、安心できる相手。


  ただ、血液型が違うように、けっこう正反対のところが多かった。

  それが 新鮮と思うときもあるし、合わないと思うこともある。


  人付き合いが あまり得意ではなく、元から人見知りで、こだわりも多い。

  そんな自分の個性を、《ワガママ》《マイペース》《変わり者》と周囲の人は嫌厭するが、みことだけは《個性だろ?》と、認めてくれるから。

  こいつなら、一生 付き合ってもいい。

  そう思える 初めての男といえた。


  これまで、お互い 言いたいことを我慢せず、自然体で接してこれたはずなのに。


「……最近、やたらとオレに絡むじゃん?」

「お前が みんなの雰囲気を悪くしてるって、気付かないのか?」

「……オレが?」


  ちらりと、メンバーの方を見る。

  末っ子は 何かを考えているし、三男は 微妙な顔。

  上手くいかないのが、オレのせいだって?


「………オレは、指摘してるだけだろ」

「言い方! それを言ってるんだよ」

「言い方?」

  売り言葉に、買い言葉。

  語尾に怒気が混ざるのを察知して、慌てた三男が止めに入る。

「ま、まぁまぁ。落ち着きましょう、二人とも」

「オレは落ち着いてるっつーの」

「どこがだよ。……ガキじゃねぇんだから」


  みことのその言葉に、カチンとくる。

「………ンだと?」

「おぉう、アニキ! 喧嘩はダメですって!」

「………チッ」

  静止のために掴まれた腕を、乱暴に振りほどく。


「………おり!」

  何だよ、相手はルーカス、女のコ相手でもないのに、何がいけない?

  こんな状態で、歌なんか 歌えるか!


  メンバーを無視して、レッスン室を 一人で飛び出す。

おりくん!」

「アニキ!」

「いい、放っておけ!」


  部屋を出ていく寸前、目が合った彼女の《呆れたような視線》に、イライラは加速した。


  それから、一時間。


  おりは 戻らなかったのである。


*  *  *  *  *  *  *  *



「………あの、バカ!」


  残されたみことも、別に喧嘩をしたいわけではない。

  焦りと、疲れと、動揺と。

  みんなの気持ちが揺らいでいる今だからこそ、結束力を崩すような、そんなことは したくはないのに。


  けれど、結果的におりを怒らせて出て行かせたのは、自分だ。


  ああいう性格だと、知っていたのに。


「……………ごめん、みんな。俺が悪かった」

「いやいや、みことくんは悪くないですよ!」

「今のは、僕たちのために言ってくれたことですし」

「…………」

  奏良そらは無言で、みことの肩を ぽんぽんと叩く。


  さて、あの長男を どうすべきか。


「……とりあえず、帰るとか そういう無責任なことはしないヤツだから、そのうち戻ってくると思うけど」

  案外、気分転換ができたら ケロッとして戻ることもある。

「取り扱い注意―――《困ったちゃん》だねぇ」

  奏良そらから見れば、七歳も歳下の 《男の子》だ。子供扱いすると 本人に怒られるが、こればっかりは仕方がない。

「拗ねてるだけでしょ、なんとなく わかるから」


  自分の家にも、似たような《生物》が生息しているので、こういうやり取りは 慣れっこだ。

「はい、みことくんは 気にしなーい。……いいね?」

  出ていったおりよりも、実はみことの方が心配である。


「とりあえず、練習。気にしてる場合じゃないでしょ? ほら、やろう!」


  仕切り直し。

上層部うえから呼ばれているから、ちょっと行ってくるけど!」


  落ち込み始めた次男の処理は、ポジティブな三男に任せるしかない。

「ルーくん、二人のことを頼んだよ!」

「………はいっ! 任せてください!」


  次男、三男、末っ子に 練習するように発破をかけてから、用事を済ませるために レッスン室を出ていく。

  と同時に、奏良そらは 手のかかる長男の《回収》へと向かうのであった。


*  *  *  *  *  *  *  *


  部屋を出てから、一時間。

  本社ビルの屋上で 風に吹かれながら、おりは大きく深呼吸をした。



  さすがに、時間が経てば 冷静になってくる。


  元々 短気ではあるが、冷静になるのも早いタチだ。


  熱しやすく、冷めやすい。

  気まぐれで、扱いが面倒な、ネコみたいな子。


  『おりは大丈夫でしょ?』


  幼い時から言われ続けた言葉は、自分の中に暗い影を落とした。


  三人兄弟の、真ん中。

  何でも 特別扱いされる長男と、甘やかされる三男の間に挟まれ、いつも 後回し―――特に手がかからないからと、母は おりの存在を しばし忘れた程だ。


  騒げば、怒られる。黙っていたら、忘れられる。

  では、どうすればよかったのか。

  怒られても、母の注目を取り戻すべきだったのかもしれないが、その当時の自分には幼すぎて、どうすればいいのか 分からなかった。


  自分を守れるのは、自分しかいない。

  そう気付いてからは、何でも一人で考えて、一人で完結した。


  やってみると、意外と 自分は器用であると発見し、自覚をしてからは 人生が楽しくなった。

  他人には、求めない。

  求めても、虚しいだけ。


  信じられるのは、自分。自分と、お金だけ。

  お金は、等しく平等だし、お金さえあれば 何でも揃う。何でもできる。


  与えられなかったことは、すべて自分で調達してきた。

  満足するためには、もっと お金が必要で。


  こんな性格だから、友達は多いけれど、親身になってくれる《親友》というのは、作らなかった。

  作らなかった、というより、作れなかったのだ。

  他人を、信じられなかったから。


  イケメンで、器用で、そこそこ ノリも良くて、雑学も豊富。

  周囲に最低限 馴染むように工夫したら、驚くほど モテた学生時代。

  その頃には、ワガママと言われる部分も《かっこいい》へと変換され、あえて 取り繕うことをしなくても、生きていくには困らなくなっていた。


  ただ、それでも満足しない。

  地元では、たかがしれている。

  もっと、大きなところで 勝負をしないと。


  特に何か目標があるわけではなく、漠然と地元を飛び出して、高校卒業と同時に 上京。

  何か、でっかいことをしたい。

  自分なら、できるはずだ。


  相変わらず、東京に来ても モテてはいたが、本当に 自分の内面を理解し、受け入れてくれる人はいなかった。

  『お前、歌 上手いんだなぁ』

  アルバイト先の バーのマスターに言われた一言で、次の目標は《歌手になること》だと決めたのは、酒の勢いもあったかもしれない。


  あまり深く考えず、その日の気分で 勢いで決めた割には、やってみると 面白いと思えた。

  オーディションに、簡単に落ちたからだ。


  笑えるほど 呆気なく『お帰りください』と言われたのは、人生初めての経験で。

  自分にとっては 久々に感じた《新鮮》という感覚。


  これだ。

  オレの求めていたのは、これなんだ。

  歌手になるためには、どうすべきか。

  何が良くて、何が足りないか。


  できる限り調べて、研究して、ついには『Little Crown』というグループの、追加メンバーオーディションに合格。


  オーディション前は、さすがにDHEのスクールに通ったり、イベントに参加したりをしていたが、周囲の参加者から比べたら、あまりにも《素養》が無いのは明らかな事実。

  プロになってから、グループの先輩の後にくっついて、色々と教えてもらってきた。

  当時の自分たちは、今のようなレッスンを受けさせてもらえなかったから、頼れるのは 先輩だけ。


  初のステージ、初のツアー。

  必死で食らいついて、がむしゃらに学んだ。


  そもそもが勢いで目指したようなもの。

  しかし、考えてみれば、興味の無いことは 見向きもしない性格なのだ。

  楽しいとか、面白いと思えなければ、見向きもしないし、相手にもしない。モノであれ、人であれ。


  だから、こうして続けてこれたこと自体、自覚は無くても《好きだ》と言っているようなもの。

  さらに、どうせやるなら、他人よりも上に行きたい。もっと違う景色が見たい。


  その欲が出てきて―――批判も覚悟で、第三期のプロジェクトに参加をしたのである。


*  *  *  *  *  *  *  *


  絶対に、歌手になりたいのか。

  それしか無いのか―――と問われれば、正直 今も分からない。

  もしかしたら、もっと別の道があるのかもしれないし、向いている職業が 眠っているのかもしれない。


  ルーカスや春音はるとのように、一途にアーティストを目指し、何度も挑戦してきたわけではないから、彼らの《思い》と同じだなんて、言うつもりはない。


  それでも、みんなに負けないくらいの努力はしているし、できないことにもチャレンジしながら 半年間を過ごしてきた。

  プライドを捨てて、プロであることも忘れて、候補生たちにも 教えを乞うてきた。


  すべては、新たなる世界ステージのために。

  生半可な気持ちで、ここまできているわけではない。

  

  STELLAステラ LOVEラヴ HAPPINESSハピネスの一員として。

  あの五人と共に デビューすることは、おりの中では《決定事項》なのだ。


  予定を狂わされるのが 好きではないだけで、思いは決して嘘ではない。

  グループを良くしたいのも、本当。


  みことの指摘するように、言い方がキツくなっていたのは認めよう。

  言葉使いが乱暴だと、時々 注意されるのを 今まで気にもしてこなかったが、これからは少し、直していったほうがいいのかもしれない。

  彼らを、傷付けたいわけではないのだから。


「…………あー、戻るか」


  自分の中で感情を整理して。

  屋上をあとにして、階段を下っていく。


  さすがに、バツが悪い。


  自分よりも歳下のメンバーの前で この状態では、《ガキ》と言われても仕方がないではないか。


  自己嫌悪。

  でも、切り替えよう。


  さっきよりも少しだけ、前向きに。

  階段を下りながら、途中で ふと聞いたことのある声に気付く。


「〜〜〜〜」

「〜〜〜」

「〜〜〜〜〜」

「〜〜〜」

  言葉は聞き取れないが、この声は知っている。


  自分が所属する『Little Crown』の先輩たち―――トーマ、タカシ、ケンイチ、ヒロミチの声だ。


  プロジェクトに参加してから、連絡は取り合っているものの、実際に会えてはいなかった。

  ここは本社ビル。彼らもライブ活動をしているとはいえ、用があれば 出社する。絶対に会わないということはない。

  

  久しぶりの再会に嬉しくなり、声のする階まで下りていく。

  どうせなら脅かしてやろうと、足音を忍ばしていったのが――――間違えだったのかもしれない。

  すぐ そばまで来て、聞こえてきたのは。


  今まで聞いたことがないような《暴言》の数々。


「☓☓☓、☓☓☓☓☓!」

「☓☓☓☓☓☓☓、☓☓☓☓☓☓!」

「☓☓☓☓!」

「☓☓☓☓、☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓、☓☓☓☓☓☓!」


  耳を塞ぐべきだ。

  これは、聞いてはいけない。


  いい歳の大人として、社会人として、いくら腹が立ったとしても このような暴言を吐くべきではない。


  しかも、どう聞いても、一方的過ぎだ。


  トーマたち四人に対して、相手は一人?


  あまりにも酷い《口撃》に反論できないのか、黙ったまま言い返さないでいる。

  いくら、おりの言葉使いが乱暴で、言い方がキツイといったって、目の前のコレとは 次元が違った。


  はっきりいって、陰湿なただの《イジメ》ではないか。


  面倒を見てくれた優しい先輩の、知られざる一面。

  開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったような、とてつもない《罪悪感》と《後悔》。


  そして、何よりも。


  それらを一人で受け止めていたのは―――――

「!!!」


  他でもない、奏良そらだったのだ。



  何で、どうして。

  トーマたちと彼女に、一体 何の接点があるというのか。

  心臓が痛いほど早鐘を打ち、呼吸も早くなる。


  理由が何であれ、多勢に無勢。

  大の男 四人に囲まれて、女のコ一人。

  誰が見たって、奏良そらの心配をするだろう。


「………何度も同じことを言わせるなよ!」

「この間も言ったのに、無視しやがって!」

「早く、プロジェクトを降りろ!」

「お前なんかが、おりたちと一緒にできると思ってるのか!?」


  ――――――足が、震えた。

  気を抜けば、その場に崩れ落ちそうになるのを、何とか堪えて。


  《何度も》《この間も》

  その言葉は、今回のことが《初めて》ではないと物語っている。

  何で、どうして、いつから………

  頭の中で、彼らの言葉を反芻する。


  いや、今はそんなことよりも。


  何で彼女が、あんな目に遭っているのだ。

  彼女は、何も悪くはない。

  誰よりも忙しく働いて、みんなのために駆け回っているだけなのに―――プロジェクトへの参加だって、彼女は ほとんど巻き込まれたにすぎない。


  必要とされたから、それに 全力で応える。

  そんな、真っ直ぐなだけの彼女に、何の非があろうか。

  彼女の参加が気に入らないのなら、上層部うえに直談判すればいい。

  本人に直接、他人から見えない こんな非常階段で、卑怯にも寄ってたかって責めるなんて、正常な大人のやることなのか。


「………これが最終通告だ」

「今度こそ、辞退しろよ」

おりみことに悪いと思わないのか?」

「よく考えろよ!」


  捨て台詞を残し、四人は立ち去っていく。

「…………………………」


  普通の女子なら、泣いているはずだ。

  男に囲まれて―――よく見たら、床に物が散乱している。

  ぼんやりと見ている場合ではない。

  ハッとなり、急いで階段を駆け下りる。

「………何があった!!」

「!」


  おりの形相を見て、見られていたことを彼女も悟る。

「えーと…………見てたのかなぁ?」

  どこから、どこまで?

「…………口に出したくないような、そんなところから」


  その言葉を聞き、かなりの内容を聞かれてしまったのかと、奏良そらは天を仰いだ。

「あ~、えーと、うん。………犬も歩けば棒に当たる、ってことで」

  忘れよう。忘れて?


  まるで他人事ひとごとのようにヘラヘラと笑う彼女の態度に、無性に腹が立った。

「………何で、言われっぱなしになってんだよ! あんなの、言い掛かりもいいとこだろ!」

  奏良そらの気性なら、言い返せたはずだ。

  怖気おじけ付いて、泣き寝入りするようなタイプではない。

「何で、なんで………」

  たった一人、こんな所で。

  あんなことを 言われなければならないのか。


「だって、相手は先輩だし、私よりも歳も上だし」

  そして、何よりも。

おりくんたちの、大事な仲間メンバーでしょ?」

  そんな人たち相手に、トラブルなんか起こしちゃダメじゃない?

   

  そう言って笑う彼女の顔を、おりは 生涯 忘れられないだろう。


「………気分転換はできた? そろそろ戻ろう?」

  まるで何もなかったかのように、自然な感じで 落ちていた物を拾っていく。


「………いやいや、違うだろ、そうじゃなくて」

  彼女を止めようと、ほんの少し。

  軽く、左の二の腕あたりに 触れた時。

「っ!!」

  奏良そらが予想以上に痛がった。


  その様子と、散らばったモノ。その答えは―――


「まさかっ!」



  逃れようとするのをチカラで制し、強引に袖を捲り上げる。

  七分袖で隠されていた二の腕に、つい先程 ぶつけたような、生々しい赤み。


  掴まれたのか、突き飛ばされたのか。

  負傷した姿を目にして、おりは 目の前が真っ赤に染まるような 錯覚に陥る。



  人生で一番、自分自身に怒りを覚えていたのである。

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