エピローグ
遅くなりました。
「はぁ、今回も面倒ごとになったな……」
「真夜だけの責任じゃないけど、まあ確かにねぇ」
「不可抗力な部分はありますから、お父様もそのあたりは問題視していないので、大丈夫だと思いますよ」
洞窟の崩落から一夜明け、真夜と朱音と渚は旅館の一室で待機を言い渡されていた。
真夜は昨日の事も在り、ふてくされるような形で、今は畳の上で仰向けで横になっている。その隣では朱音と渚が座り苦笑していた。待機していろと言われたが、実質は謹慎扱いに近い。
三人も昨日は事情聴取を受けており、今も京極家と星守家のトップは事態の収束に向けて奔走していた。
京極家の貴重な修行場が陣だけでなく洞窟まで崩落した。再現不可能な貴重な術式の喪失は、それだけで京極家に糾弾される内容だ。
真夜から直ぐに連絡を受けた朝陽と明乃はマスコミやSCDに即座に対応をし、清彦や右京も同様な対応を行う共に昨日の内に両家は緊急の会談が行われた。
今回の事故の責任の所在は追及される所であったが、朝陽や明乃はもちろん清彦も右京も大事にしたくはなかった。
事件の詳細を聞けば、確かに真夜の大技が引き金となったのは間違いないだろうが、その前から洞窟内には亀裂が走っていたし、潤の人格が写し身に取り込まれた事も影響を与えていただろう。
それに真夜が大技を使う切っ掛けも、潤が覇級を倒せるほどの攻撃を繰り出したからだ。
あそこで真夜が防御に徹したとしても、結果が変わったかどうかは定かではない。
そのため真夜だけで無く潤にも責任が発生することは明らかだった。
潤が雫の別人格であり、彼女達が京極家の次期当主を目指している中、彼女達の失点になりかねない事は右京も、息子達に苦労をかけたくない清彦にしてみても出来れば避けたかった。
さりとて真夜に責任をかぶせれば、星守との関係が悪化する。真夜にしてみれば、潤達を助けるために仕方なくの行動であるため京極家も強く言えない。
もっとも雫や潤が邪魔な者や星守や真夜を疎ましく思う者達からすれば、これ幸いと攻勢を強めてくるだろう。
清貴達は真夜の治療以来、他者を貶めたり蹴落とす行動をしようとする感情が薄れているが、主な長老衆がいなくなったとは言え、京極家の他の者達もそうとは限らない。
歴史的にも貴重で、二度と再現できない修行場の消失は看過できない問題だ。しかし今まで管理維持してきたが使う人間が皆無だった。使わないのに維持管理に労力やコストが嵩んでいた事を考えれば、今回でそれが無くなったと思えばメリットではある。
ただやはり研究資料や写真などを含めた物が残っているが、現物の喪失は計り知れず、京極家からすれば何らかの落とし前は必要になる。
だが清彦は真夜に多大な恩のこともあり、真夜を庇う方向で動いた。雫に関しても思う所はあったが、初代の式神三体を従わせた事も在り、今後の京極家の未来を考えれば、彼女を切り捨てることも躊躇われた。
だから何とか右京や朝陽、明乃とも相談して京極・星守共に納得でき尚且つ真夜達に責任が向かないようにした。
洞窟の崩落はあくまで事故による物。保全は続けていたが、今までほとんど使われていなかった所に、立て続けに挑戦者が出たことで、老朽化や陣の劣化により取り込まれた霊力が周囲へと影響を与え、洞窟の崩落が起こったとしたとすることになった。実際、その推測は的外れでもないだろう。
管理・保全の担当の者には責任は無しとした。
この発表には京極家から反発が出る可能性もあったが、清彦は右京と共に今の星守と事を構えるつもりかと説得するつもりであったし、もし反対意見を出そうとすれば強制的にそれらを黙らせる腹づもりだった。
まあ真夜は清彦からは何も言われなかったが、案の定明乃からはお小言を頂いた。
『本当にお前はトラブル体質だな。まあ覇級数体と交戦することになった等の事態に身構えていたから、この程度なら許容範囲か』
と、言われて真夜は何とも言えない表情を浮かべた。覇級ではないが超級三体と交戦した事に関しては、明乃も朝陽もすでに感覚が麻痺していたのか、特に気にしていなかった。一昔前なら、それだけで大騒ぎする話なのだが。
「こっちにも色々と言い分はあるんだけどもな。まあ思うところはあるが、親父と婆さんに後処理は全部丸投げだ。金に困ってるわけでもねえし、今回の右京さんからもらった報酬は全部親父達に渡すしな」
大金があっても使いどころがないので、真夜は右京からの報酬はすべて今回の後始末をしてくれる朝陽や明乃にすべて渡すと約束した。朝陽達もこれには苦笑いしていたが、まだこちらの世界では成人もしていない真夜が大金を持っていたとしても碌な事にならないだろうと、その案を受け入れた。
真夜のトラブル体質で金の面でも面倒ごとを引き寄せては不味いと判断したようだ。
今回に関しても事故として処理することが可能なレベルだったのが幸いした。真夜も京極家にこれでもかと言うほどの恩を売っているし、清貴や清治、清羅も渚の婚約者の真夜に思うところはあるようだが、自分達を治療してくれた事には内心では感謝しており、恩も感じているとのことなので、そこまで拗れることはないだろうと言うのが清彦や右京の見立ててである。
雫に関しても弱体化しているとはいえ、清貴達も自分達では手に負えない特級三体を手懐けていることで、一応は認めているようである。
雫達も京極家全体のお披露目はこれから先だが、京極の中枢に入り込むようにしていくようだ。
潤の方もあの後、無事に戻れて雫と交代して表に出てきて、感謝と謝罪を真夜達に伝えていた。
「まっ、このくらいのトラブルで済んで良かったと思うべきかもね。あたし達としてはもう一度挑戦できなくなったのが残念だったけどね」
貴重な術式と洞窟の崩壊も問題だが、最悪のトラブルではなかっただけマシだと朱音は考えていた。ただ当人も言うように、自分自身ともう一度戦えなかったのが悔やまれた。
「そうですね。劇的な成長は出来ずとも、今の自分を超えたという実感を得る機会が失われた事は残念でした。また別の修行法を考えなくてはいけませんね」
「渚の言う通りね。雫や潤にも負けないように、もっと強くならないと」
「色々な意味で負けてられませんからね」
「特級の式神三体は手強いわよね。しかも本来は超級でしょ? あれだと真昼や雷坂でもキツいでしょうしね」
幸いな事に潤の正体は朱音や渚に知られてはいない。思うところはあるだろうが、二人も追及するつもりはないようだ。興味があるのは雫と潤の実力だ。
超級三体を従えるとなると真昼よりも上となる。真昼や彰が負けるとは思えないが、簡単に勝てない相手なのは間違いないだろう。
「それにしてもせっかく修行だったのに、悪かったな二人とも」
「真夜君のせいではありません。それに私としては真夜君のおかげで、お父様の負担が減ったことが嬉しいです。本当に真夜君には助けてもらってばかりで、感謝してもしたりません」
「そうそう。別に強くなる方法がこれだけってわけでもないし。一回だけの戦いだったけど収穫はあったし、多少なりとも霊力は上がった気がするしね」
渚も不仲とは言え腹違いの兄姉達が救われたり、父とのわだかまりが解けたと聞いて素直に嬉しかった。
朱音も気持ちの問題かもしれないが、自分はまだ上に受けると自信が持てたと言う。
「新しい目標も負けたくない相手も出来たし、次は夏休みにでもまた違う場所で追い込むわ」
「私達もまだまだ強くなりますから、真夜君も楽しみにしていてください」
朱音も渚も腐ってる時間はない。雫や潤に思う所は多々あるが、不平不満を言うのも昨日限りと決めた。だから前を向いて強くなる努力をする。真夜の隣に立つのは自分達だと証明するために。
そんな二人に真夜は嬉しさと愛おしさで思わず顔が緩んでしまう。
「楽しみにしてるし、二人が隣にいてくれるなら、俺ももっと強くなれるな」
「真夜は少しゆっくりしててもいいんだけどね」
「差が広がっていくのは歯がゆいですからね」
「それと前にも言ったけど、あたし達も守られてるだけの女のままで終わるつもりはないからね!」
「追いつくとは言えませんが、真夜君に心配されないくらいには強くなりますから」
二人の決意を前に、真夜は二人ならば必ず強くなれると確信する。自らの弱さを知り、前を向き努力を続ければ強くなれる。二人にはそれだけの力や才能があるのだから。
「ああ。きっと近いうちにそうなるさ」
真夜は二人が強くなるのを楽しみにしつつ、そんな二人を真夜はただ守るのでは無く見守り続けようと改めて決意するのだった。
◆◆◆
「今回は大分大変な事になったね。でも潤が無事で良かったよ」
『ふうっ、今回は迷惑をかけたな。真夜にもいらぬ手間をかけさせたのじゃ』
比叡山の京極家所有の家屋の一室で、無事に雫の中に戻れた潤は今は表に出ずに休んでいる雫と話し合いをしていた。
術式に取り込まれ、意識が完全に前世のそれになっていた潤は、未熟というか不甲斐ないと自身に憤る。真夜達には謝罪したが、今度改めてもう一度謝罪とお礼をするべきだなと潤も雫も思っている。
二人にしても今回の事件の顛末は、よろしくない結果となったがまだ挽回できる状態だと前向きに考えていた。
『それにしても真夜の奴は本当に傑物じゃ。まだまだ全力でもないであろうに、全盛期には及ばぬとは言え、我らを完封する強さとは……』
「うん、凄かったね」
潤の言葉に雫も同意する。
あの時のルフや真夜との戦いの記憶を潤は鮮明に覚えていた。あの時の戦いを思い返すだけで、潤は精神が昂揚した。あのような男は初めてだった。あの力に、強さに惚れるのは、退魔師ならば当然であろう。
「でも潤。もう真夜にモーションをかけるのはやめた方が良いよ。私も残念だとは思うけど」
雫も潤ほどではないが、頼れる同年代の真夜に惹かれていたのは間違いなかった。ただ雫は朱音や渚という恋人がいる真夜にモーションをかけるほど、倫理観的に無理だった。
『いいや、我は改めて真夜に惚れたのじゃ。いや、惚れ直した!』
だが潤から返ってきた返答は雫の予想の斜め上を行くものだった。
「なっ、何言ってるんだよ、潤! これ以上すると、本当に不味いことになるじゃないか!」
『まあまあ慌てるでない。我とて何も無策で挑むつもりはないからのう。ただこのままでは我の気が収まらぬというだけじゃ』
前世の記憶の影響でより真夜への想いが強くなった。あの強い男と番いになりたいと。初めての感情。どうしようも無くくすぶる情念。諦めるには真夜の
ただ真夜から脈無しと思われている状況で、このままぶつかっても無駄なのはわかりきっている。しかし何もしないという選択肢は潤にはなかった。
「真夜はもう一人増やす気は無いって言ってたじゃないか。私達じゃ無理だよ」
『くくく、我を誰だと思っておる? 初代京極家当主じゃぞ? 無理無謀を払いのけて来た女じゃ。困難であればあるほど、燃えるであろう? 雫と我が京極家当主に就任し、力と権力を手に入れてからが勝負なのじゃ』
潤の人格が現れてからそれなりの付き合いだが、雫は潤はここまで積極的になっているのを感じた事は無かった。それこそ、京極家当主になる事よりも本気で真夜を狙う事に重きをおいたようだ。雫はその事に、これまで以上に不安になってきた。
「もう。京極家当主になっても下手なことはさせないから」
京極家当主になる事は雫も望むところであり、潤がこれまで以上にやる気になったのは良いことかも知れない。しかしあくまで表に立つのは雫である。
『まあ今はそれで構わぬのじゃ。それよりもこれから忙しくなる。雫、これからも頼むのじゃ』
「うん。私の方こそよろしく潤」
この一件がきっかけとなり京極家の次期当主選定のおり、雫と潤は強さとカリスマ性、そして政治力を示し周囲に認めさせることになる。
またこの世代の退魔六家は、かつてないほどの繁栄と強大な力を持つ当主や次期当主が立つ黄金時代と目される事になる。
京極一族・京極雫(潤)。
雷坂一族・雷坂彰。
星守一族・星守真昼。
火野一族・火野赤司。
水波一族・水波流樹。
風間一族・風間嵐。
氷室一族・氷室志乃。
そしてその誰もが認める事になる最強の退魔師・星守真夜。
他にも当主、次期当主だけで無く、先代や多くのベテラン、若手達が名を馳せる時代。
だがそれは強大な妖魔の出現の前触れであったと気づく者は、残念ながら一人もいなかったのだった……。
遅くなってすみません。
何とか書き上げることが出来ました。
これにて十三章は終わりです。いかがだったでしょうか。
少々盛り上がりには書けたと思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
そしてこれでようやく構想していた各六家の主要キャラは出し切れました。
まあ異世界編は別として、これだけ主要キャラが多くなると、色々と書きたいことは出ててきます。
異世界編は別として、彰や火織、赤司を絡めた北海道編とか、流樹や海、氷室などを絡めた水波編とか。
またかなり長くなってきたので、そろそろ本編の完結に向けても構想を練ろうと思います。
ここまで続けられたのは、ひとえに感想や評価などを頂ける皆様がいてこそです。
本当にありがとうございます。感想や評価は大変モチベーションアップにつながるので、どうか今後ともいただければ幸いです。
次の章はどの話になるかはわかりませんが、出来る限り早く書くように頑張りますので、これからもよろしくお願いします。




