表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『コミック最新巻、7月8日発売!』落ちこぼれ退魔師は異世界帰りで最強となる  作者: 秀是
第十三章 京極一族編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

253/259

第十二話 初代京極家当主

 

 出現した三体の式神を真夜は警戒しながら観察する。三体が三体とも純白の身体が、その瞳は皆が真紅に染まっている。妖気に関してもおどろおどろしい気配はないが、放たれる威圧は鞍馬天狗や分体のルフに大きく劣る物では無い。


(まるで桃太郎の三匹のお供だな)


 イメージするのは有名な昔話の桃太郎だろう。絵本のような雰囲気では無く、この三体は巨体で恐ろしい姿をしているが。


 三体が三体とも体長三メートルに近い。怪鳥は翼を広げているので、それ以上に大きく見える。


「京極家の初代は桃太郎だったのか」

「いいや、違うさ。初代当主は桃太郎じゃない。そもそも京極家の初代は女性だったんだ」


 真夜が思わず漏らした言葉に雫が答えた。京極家の初代が女だったとは初耳である。まだ男尊女卑が激しい時代に、退魔師一族を立ち上げたのは相当な女傑だったのだろうと真夜は感心した。


「まあまったく関係なかった、、と言うわけではなかったみたいだけどね」

「へぇ。時間がある時にでも聞きたいな。けど今はそんな悠長に話してる時間はないだろうが」

「そうだね。またゆっくりと教えるさ。でもまずは目の前の事に集中しよう。じゃあ君はそこで見ていてくれ」


 雫は軽口を叩くのを終えると、そのまま三体の方へと歩いて行く。三体はそれぞれ雫を囲むように距離を置くと、遠巻きに彼女を観察している。ただどこか困惑しているようにも見えた。


(なんだ? 久しぶりに来た人間だからって様子じゃないな? 以前に使役されていた京極家の血を引いているからの反応か? いや、それも少し違うのか?)


 あるいは初代の血を引く女の退魔師が来たことも、三体が困惑している理由なのかも知れない。もしくは雫にかつての主の姿を見たのか。


(しかし達成者が出ないのも当然だな。超級をそれも三体を相手に戦いで認めさせろとか、並大抵どころか他の六家の当主でも無理だろ)


 超級上位クラスの式神三体を屈服させる。


 真夜はこの試練の困難さを理解した。今の真夜からすれば達成可能な試練ではあるが、他の者達では達成困難な試練であろう。


 現代どころかここ数十年、あるいはもっと昔に遡っても、覇級を単独で討伐した人物やその記録はほぼ存在していなかった。


 記録に残っていないだけで、存在した可能性はあるし皆無というわけでは無かったようだし、朝陽のように鞍馬天狗と共にならば覇級を相手取れる術者も存在するが、それはごく限られて人間のみであり京極家においては、その長い歴史でも存在しなかった。


 京極家も初代の遺言を広めようとはしなかった。当たり前だ。仮にどこの馬の骨ともわからない術者が達成した場合、その人間が京極家の当主となる。他の六家の人間だった場合、京極家が傘下にされる危険性もあった。だから京極家はこの試練を秘匿した。内容を知らされるのは京極家でもごく一部の者のみにして。


 ただ仮にこの試練は相手を屈服させて終わりでもない。三体の超級クラスを維持するにもかなりの霊力を要する。自身の強さと式神を使役することを両立させるのは、かなり困難を極める。


 星守を除き、歴代や現役の六家の当主に強力な式神を使役する者がほとんどいないのは、その維持の難しさもあるからだ。


 強力な式神を従えつつ、退魔師個人の強さも高水準で維持する。それは一種の才能であり、多くの者が持ち得ない才覚でもあった。


 そして星守は別として彰や元々の雷鳥の使役者を輩出した雷坂も式神を扱う能力はそれなりにあるだろうが、六家の中で最もその能力が高いのは京極一族だ。


 すべての術を扱うことが出来る京極家だからこそ、式神を使役する能力も高い。六家で一番優れていると言うのは、あながち間違いでは無い。器用貧乏になりかねないが、万能の存在になり得る可能性が一番高いのが京極家なのだ。


 雫はそんな京極家の血を引いている。だからこそこの試練を達成できる可能はある。彼女に朝陽や真昼、彰に近い、あるいは上回る実力があれば。


(………さて、お手並み拝見といこうか)


 真夜は距離を取りつつも、万が一を考えて雫が死なないようにいつでも助けられるように臨戦態勢を取る。


 雫はそんな真夜を尻目に、霊力を解放する。昨日も感じていたが、解放された霊力はやはり凄まじい。霊力により彼女を中心に衝撃波が四方に放たれる。それは真昼や彰には劣るが、それに近い霊力である。


 これには思わず真夜も感嘆する。まさか同年代にあの二人に追随する人間が、まだ存在するなど予想もしていなかった。


 さらに彼女の両腕に霊力が収束していく。


 彼女の両腕に武器が出現する。それは霊器であり、トンファーと呼ばれる武器だ。ただ普通のトンファーに比べれば棒状の部分が円柱ではなく、刃はないが少しブレードに近い形状をしている。


(霊器も顕現できて、兄貴や雷坂に近い霊力。京極当主を狙うってのも、あながち自惚れじゃねえか)


 真夜は雫の自信が、虚栄心から来る物では無いと思うと共に、彼女がどれだけあの三体相手に戦えるのか、またどんな戦いをするのか俄然興味が沸いてきた。


 トントントンと彼女は軽く飛び跳ねると、トンファーを構える。


「さあ! 勝負しようじゃないか!」


 雫は楽しそうな笑みを浮かべると、そのまま三体との戦闘を開始するのだった。


 ◆◆◆


「はぁっ。ほんと最後は失敗したわ」

「それは残念でしたね」


 朱音と渚は修行に失敗したこともあり、浮かない顔であった。死ねば無傷の状態になるのだが、失った霊力までは回復しない。敗北という精神的な疲れもあるため、一日に何度も挑戦することはできないのだ。


 そのため、二人は宿に戻り身体を休め、霊力を回復させ明日また挑戦し直すことに決めたのだ。


「それにしても朱音さんの戦法は確かに理にかなってはいますね。それも一つの正解だと思います」

「そうかもしれないけど、あたしとしては納得しきれないのよね。まあ自爆されて負けたのは癪に障るけど」


 帰る道すがら、二人は今日の事を振り返る。


 朱音の戦いを見ることが出来なかった渚は本人から詳細を聞くと、そんな方法もあったかと、目から鱗が落ちる思いだった。当人は納得していないが、ある意味ではそれも攻略法の一つだろう。


「けどこの方法を認識してしまうと、次に戦う時は写し身も警戒するためおそらく通用しないでしょうね」

「その時の自分のコピーだもんね。そりゃ厄介になるわね。戦いの中での閃きも必要になるって、修行には打って付けだけど、攻略するのは簡単じゃないわね」


 まあその方が燃えるけどと付け加える朱音に渚は苦笑するが、確かにその通りだと渚も同意する。


 強くなるためにも、真夜に少しでも近づくためにも、これくらいの試練を乗り越えられなければ話にならないだろう。


「とにかく宿に戻って、もう一度今日のおさらいとイメージトレーニングね。正直、前もって作戦を考えてもそれに対応されるからキツいんだけど」

「戦いの中で成長しないと勝てない相手に近いですからね。事前に攻略方法を考えていても、その思考が写し身に反映されるので、こちらの意図を読まれる。本当に難関ですね」

「ほんと。真夜でもこの修行は辛いと思うわ。むしろ真夜の方があたし達よりもやりにくいまであるわね」


 初代の試練ほどでは無いが、この試練は霊器が主体の術者であればあるほど、難易度が跳ね上がる。


 仮に真夜がこの試練に挑む場合は、当人にすれば初代の試練よりも突破が難しいことになる。


 真夜の戦闘スタイルの多くは霊器を起点とする。無論、霊器が無くとも大抵の相手は問題ないが、相手が十二星霊符すべてを相手が操るのならば正直に言えば勝ち目がほとんどない。


 真夜はほとんどの戦法が使えない上に、相手は十全に自分の戦法をすべて使ってくる。どう考えても無理ゲーであろう。


「まっ、出来ることからしましょうか。今日はしっかり休みましょう」

「はい。明日こそ達成できるように頑張りましょう」

「それにしても真夜は大丈夫かしら? 右京さんの娘さんの試練の手伝いとかするって言ってたけど。まあ心配しといてなんだけど、真夜なら大丈夫だろうけど」

「初代の試練は私も詳細を知りませんが、かなりの難易度だという話です。でも今の真夜君なら大丈夫だと思います。私としては真夜君がトラブルに巻き込まれないかが心配ですね」


 真夜の心配をしつつも、真夜なら大丈夫だろうと言う信頼が朱音にはあった。力が戻りルフもいる現状ならば、足手まといさえいなければ、大抵の事は真夜一人でどうとでも出来るだろう。


 ただ渚は真夜の心配というよりも、トラブルに巻き込まれないかの方が心配だった。


「あー、それはあるかも。真夜の場合、ヤバい事件に巻き込まれるってあるしね」

「あとは雫さんと言う方の方でしょうか。真夜君がその方に目移りするとは思いませんが、いらぬライバルが増えないかは心配ですね」

「それはそうね。真夜ならそこはきちんと拒否してくれるだろうけど……、他の女に手を出すなら……ねぇ」

「真夜君に限りってそんなことはありえませんが、万が一そんなことになれば……ええっ」


 真夜を信頼しているし信用しているのだが、どうにも真夜の隣に別の女が立っているのを想像すると、朱音も渚も心がざわついてしまう。


 雫という女がどんな容姿で性格なのかわからないため、どうしても色々と想像してしまうし、敗北した直後なので、心が不安定になるのは仕方がないかもしれない。


 ふふふふと二人して笑い光景を真夜が目にすれば、確実に冷や汗をかいていただろう。


「まっ、帰ってきたら話を聞きましょうか」

「そうですね」


 真夜と雫の事を色々な意味で心配しながら、二人は宿へ向かっていくのだった。


 ◆◆◆


「はぁぁぁっっ!!」


 雫は三体の式神と激しい戦いを繰り返していた。超級三体を相手に雫は果敢に攻めている。最初こそ困惑していた三体だが、戦いが始まると苛烈に雫へと襲いかかった。


 もっとも三体は本気だが全力ではないように真夜は感じていた。


 超級クラスの本気の全力はかなりのものだ。霊器使いでさえ下手をすれば片手間で殺されてしまうほどの強さ。それが三体だと、朝陽や真昼、彰でも難しいだろう。


 全力では無いにしてもそんな相手に、雫もここまで戦えている時点で若手どころか、退魔師全体で見ても上位の実力者なのは間違いない。しかし彼女の身体には徐々に生傷が増え、消耗も激しくなっていた。


 雫はトンファーを上手く使い戦っている。打撃だけでは無く霊力を収束させ、様々な属性をトンファーに付与している。左右で違う属性を使ったり、時折形状を変化させブレードトンファーのような使い方もしている。


 さらにはトンファーを回転させることで、防御にも使っており、トンファーの扱い方はかなり上手い。相手が一体だけならば、今以上に善戦しただろう。


(雫も動きは悪くないし、霊器も上手く扱えているし体術や霊術もかなりのもんだが、見たところ実戦経験が足りない感じだな)


 真夜は雫や式神達の戦いを観察しながら、雫の事を評する。霊力は破格、扱う霊術も体術も中々の物だがいかんせん練度や経験が足りないように見受けられる。戦い方が素直とも言える。


 真昼や彰のような素質は感じるが、今のところあの二人には遠く及ばない。


 今も猿人を相手に善戦しているが、攻め切れていない。他にも二体に意識を割かないと駄目なため、どうしても後手に回る。超級三体相手にここまで持ち堪えられるのならば、若手ならば真昼や彰に次ぐ強さなのは間違いない。


 だが超級三体を相手にするには実力が足りていない。いや、真昼や彰でもこの試練は厳しいだろう。


(ここまで雫はよくやったと思うし、当主になるだけの実力はあるのは間違いないが、現状この試練を突破するのは無理だな)


 時間にして僅か五分程度の戦いだが、超級三体相手ならば長すぎる時間だ。ただ相手が全力で無いのが気になるところだった。


(相手の様子もおかしい。まるで雫を試しているみたな感じだな)


 式神として自らの主に相応しい相手かどうか見定めているにしても、三体の行動は真夜からすれば違和感を拭えない。


(まだ何かを隠してるな。それがあいつの秘密か?)


 雫の事にして右京の隠し子で京極一族の血を引くということ以外、真夜はほとんど何もしらない。彼女にどんな背景があるのか、どんな秘密を抱えているのかもわからない。


 どうでもいいと切り捨てるのも出来るが、何か引っかかる。


 と、戦いが佳境に入ってきたようで三体の式神達がギアを上げてきた。見定めが終わったのか、雫を全力で倒しに掛かってきた。


「くっ、っぅぅぅぅ!」


 必死に抵抗するが、雫はどんどん不利になっていく。逆転の目が見えない。大技を持っているのかも知れないが、それを使う隙を相手が与えてくれない。三体の連携は見事なもので、真夜をして厄介だと言わざるを得ない。


(そろそろ助けに入るか。このまま死ぬまで戦われても困るからな)


 今回の事を敗北として受け入れ、次回に改めてリベンジすれば良い。敗北から学ぶことは多く、生きて五体満足でさえいれば、やり直しなどいくらでも出来るのだ。雫には悪いが潮時だ。


「……やれやれ。やはり雫にはまだ早かったようじゃ」


 と、急に雫の口調が変わり、纏う雰囲気も変化した。同時に霊器のトンファーも消失した。


 雫は地面を蹴ると、空高く跳躍する。


「初めてにしてはよくやったのじゃ。じゃがここからは」


 雫の両手に霊器が収束する。それは霊器の波動。だが顕現したのはトンファーでは無い。


 それはダブルセイバーと呼ばれる、両端に薄く長い刃が付いた長柄の双剣。だがそれはダブルセイバーと呼ぶにはあまりにも長く薄い槍の穂先のような光り輝く刃が両端に付いている。


 その光景を見ていた真夜は驚愕していた。


(一人の人間が全く別の霊器を顕現するなんて! いや、兄貴の例があるから前例はあるが、まさか雫は!?)


 そんな真夜を尻目に、雫は霊器に力を収束していく。


「久しぶりの大技じゃ! とくと思い出すがいい!」


 雫は自分の身長以上のダブルセイバーを頭上で回転させると、そのまま霊力を放出し、空中から地上へと三体の方へと向かっていく。三体の式神はなぜか雫の新たな霊器を目の当たりにし、その動きを止めていた。


 ―――霊刃双乱舞―――


 雫が地面に降りる前から無数の霊力の刃が周囲にまき散らされる。その刃は風、炎、水、氷、雷などの無数の属性が入り乱れていた。収束された無数の刃は式神達へと切り裂いていく。


 特級ならば細切れにされるだろう攻撃を受けた三体だが、流石は超級。傷ついてはいるものの、致命傷には至らないようだ。


 このまま戦いが継続するかと思われたが、三体の式神達は思わぬ行動に出た。三体は皆、一様に雫の前に頭を垂れたのだ。まるで雫が主だと言わんばかりに。


「………誰だ、お前」


 真夜は警戒度を跳ね上げながら、背を向けている雫に声をかける。


 雫の霊質は変わっていない。だが雰囲気が違う。纏う気配が雫のそれとは異なり、歴戦の強者を彷彿とさせた。振り返った雫は笑っていた。


「初めましてじゃな。我はお主の事は雫を通して知っておるがな。我はうるみ。京極潤。かつて初代京極家当主を務めていた者じゃ」


 雫改め潤は、真夜にそう宣言したのだった。


少し長くなりましたが、何とか書けました。

初代京極当主登場。

雫との関係に関しては、次回以降に明かしていきますが、まあ色々とありますので。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そんな雰囲気はあったけどやっぱり初代が憑いてた。 まあほとんど没落寸前の京極家立て直すならこのくらいの器の持ち主は必要になるか。 初代が絡んでると知れれば雫の当主立候補に反対する奴も出ないだろうし。
えええ…なんですって…降霊?転生?それとも今の六道幻那みたいな状態なんだろうか まさかの展開すぎてびっくり 名前が潤(うるみ)なのめちゃくちゃいいな
そりゃあお供も困惑しますわ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ