第六話 事実
「痛たっ! 離せよ!」
五十嵐に引っ張られて僕は校舎のどこかへ連れて行かれた。
「お前の後を追って正解だったよ。おい、何で来たんだ! 俺は『行くな』と言っただろ?」
激しく胸倉を掴まれた。
五十嵐は怒っていた。なぜそんなに怒っているのか僕には分からない。
僕も怒っている。
「うるさい! そんなの僕の勝手だろ? 何でお前に指図されなきゃいけないんだ! 折角あの子に会えたのに」
「だからお前はバカなんだよ! あんなところが普通だと思うか? 木造だぞ! そんなところにいる奴が怪談に関係ないとどうして言える!」
「お前に関係ないだろ! 僕がどうしようとお前なんかに関係ない!」
「関係ある! 俺がお前を誘ったんだよ! 誘った者としての責任があるんだよ!」
こんな口論をしてしまった。
しかし、お互い平行線だった。
「思い出せよ! 怪談話と今のこの状況を比較してみろ!」
そう言われ、僕は怪談話を思い出した。
今から五〇年以上も前、女子生徒が視聴覚室で自殺した。原因は同じクラスの生徒から虐められていたせいだとされている。勿論、当時の教師や親にも相談したらしいが、相手にされなかったらしい。精神的に病んだ女子生徒は、いつも虐められていた視聴覚室で自殺してしまった。
それから警備員が自ら辞職することが増えた。当時の教師が辞める理由を尋ねても、決して教えてはくれなかったそうだ。不思議に思った教師が夜中に見回りをしたところ、視聴覚室前で自殺したはずの女子生徒を見てしまった。そのときの彼女の表情は憤怒していたそうだ。
それが基で噂が学校内で蔓延った。「自殺した女子生徒が虐めた生徒に夜な夜な復讐する機会を待っている」と。
しかし、彼女は憤怒してはいなかった。とても可愛らしく笑っていた。怪談とは関係ないはずだ。
「関係ない! 関係ない! 関係ない! 関係ない!」
僕はずっとそう叫んだ。まるで自分に言い聞かせるように。
「バカ野郎! 現実を見ろよ。あの女がいた場所はどこだった? 『視聴覚室』の前だろ!」
「それなら確認した! 視聴覚室の前には誰もいなかった。彼女のいた場所は何かの間違いなんだ!」
そう言うと目の前が揺れた。
いや、違う。五十嵐に殴られたんだ。
「いいか、よく聞け。俺は図書館で五〇年前の学校の見取り図を調べたんだ。『学校の歴史』って本に書いてあった、今の学校の見取り図も五〇年前の学校の見取り図も。どうだったと思う? 五〇年前の視聴覚室は封鎖されていたんだよ! 視聴覚室のある廊下ごとな!」
その言葉に驚いた。
「な、何だよ、それ……」
そんなこと言われると、それを信じてしまうじゃないか……。
僕はどうしたらいいのか分からなくなってしまった。
項垂れた俺を見て五十嵐の掴む力が弱まった。
その隙に僕は五十嵐を振りほどいて走ったんだ。彼女にもう一度会って、確かめたくて。
「おい、待てよ! プー太郎!!」
五十嵐は急なことで対応できなかったようだ。
後ろから聞こえる声が段々聞こえなくなった。




