最終話 結点
五十嵐から逃げて僕はまたあの場所に戻ろうとしていた。
だけど、あの場所がどこなのか全く分からない。五十嵐に引っ張られていたときにちゃんと道を確認しておくべきだった。
「どこにいるんだよ! 会いたいだけなのに」
気が付くと無意識の内に廊下の壁を殴っていた。普段そんなことしないのに、段々おかしくなっている自分がいる。これが恋なのかと自分に言い聞かせる。
すると、僕が殴ったところの壁に穴が空いた。僕は力の強くないのに、それだけで穴が空いた。ここだけ壁が薄いようだ。
そのとき、五十嵐の言葉を思い出した。
『五〇年前の視聴覚室は封鎖されていたんだよ! 視聴覚室のある廊下ごとな!』
この言葉が本当なら、この壁の向こうにその廊下があるかもしれない。
僕の学校には封鎖されたところなんてないから、おかしいと思った。なるほどこういうことか。『封鎖』の事実さえも隠したんだ。
僕は壁をビリビリ剥いでいった。少しずつその先が見えてくる。
全て剥ぎ終えると、目の前は僕の知っている校舎ではなかった。
壁を境に向こう側は木造だった。今まで月明かりが無いと思っていたら、ここに窓なんて無かった。
そして前方には『視聴覚室』と書かれた室名札と女の子が立っていた。
「ふふ、また来たのね」
その笑顔にまた僕の心臓は高鳴った。
「一つ聞きたいことがあるんだ」
高鳴る鼓動を抑えて、静かに聞いた。
そんな僕を見てか、彼女も真面目に聞いてくれた。
「君はどうしてこんな場所にいるの?」
僕の問いに彼女は笑みを浮かべた。
「本当は分かっているくせに。私がこの世の人間じゃないってこと。なのにそんなこと聞くのね」
その表情には怒りが見えた。
「復讐するためよ! 私を虐めた奴らにこれ以上ないぐらいの恐怖を与えるの!」
一瞬にして彼女を中心に周りが寒くなった。
しかし、すぐに雰囲気が変わった。
「酷い子」
悲しそうに笑っている。
「最初はそんなことを思っていたけど、そんなこと今はどうでもいいの」
その目には涙が浮かんでいた。
僕は胸が苦しくなった。
「待っているのよ。私には親友がいたの。その子が私のところに来るのをずっと待っているの。あのとき助けてくれなかったこと、謝ってくれなくてもいいからただ会いに来てほしかった」
その姿は一輪の花のようだった。哀しげに咲く、独りぼっちの美しい花。
そんな姿を見ていると、僕は思ってしまったんだ。
「僕ならずっと傍にいるよ」
そして思いが言葉として出てしまった。
この言葉に彼女は驚いたようだった。
「君が親友の代わりになろうっての?」
少し皮肉っぽい笑みだった。
しかし僕はめげなかった。そんな僕を見て彼女の表情は変わった。
少し嬉しそうだった。
「君も寂しい人なんだね」
そう言って彼女は話しだした。
「私の名前は葵って言うの。寂しがり屋だけど嫌いにならないでね?」
「勿論だよ。僕は颯太郎。みんなからプー太郎って呼ばれてる」
そして二人とも笑った。
「じゃあ行きましょうか」
僕たちは手を繋いだ。ひんやりとした彼女の手を僕はずっと離さないと思った。
そして僕たちは闇の中へと消えて行った。
どうも、井上です。
『あの世からこんばんは。』に目を通していただいてとても感謝しております。
ジャンルは『ホラー』に設定しましたが、いざ書き終えると全然怖くないなと思ってしまいました。
怖くはないけど、少し違ったホラーが楽しみたい方にはオススメかもしれません。
当初、本当はもっと内容の濃いものを書こうとしていたのですが、『夏のホラー』に応募しようとすると締切が間に合いそうになかったのでこうなりました。
第二話を読んでいただくと分かるのですが、五十嵐の取り巻きの説明を無駄に書いてまして、本来は彼らにももう少し出番を作るつもりだったのが叶わず……。
後日談ですが、この後どうなったかは読んでいただいた方の解釈にお任せします。そういう意味で七話で終わらせました。
恐らく多くの方は同じ解釈をされるかと思いますが、「自分はこう解釈をしました!」というのがあれば個人メールでも構いませんのでお教えいただけれ幸いです。今後の執筆活動の勉強・参考にさせていただきたいと存じます。
また、『あの世からこんばんは。』全体に関する感想等もどしどし募集しております。指摘や否定的な意見も大歓迎です。
それでは、読んでいただき本当に有難うございました。
機会があれば、またどこかで。




