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第五話 転点

 日が落ちた。辺りは真っ暗になった。

 僕は昨日と同じように〇時になってから学校内へと侵入することにした。

 昨日会った女の子。どこで会ったのか分からないからシラミ潰しに探すしかない。

 五十嵐には止められたけど、また忍び込んでしまった。彼女をもう一度見たいんだ。

 それに、昨日は暗かったせいで場所が分からなかったけど、場所を確認することができたら彼女が怪談と関係ないことが証明される。

 そのためにも僕は忍び込んだ。

 相変わらず夜の学校は変な雰囲気を醸し出している。これだけで一瞬、足が竦んでしまう。

 だけど僕は幽霊なんて信じない。オカルトなんて信じてないから。だから怖くもなんともない。

 ゆっくりと校舎の中へ入った。

 昨日と同じで、校舎の中は真っ暗だ。閑散とした音世界が僕の耳の奥で響いているような感覚になる。

 ゆっくりと懐中電灯を取り出し、スイッチを入れた。昨日とは違い、光は一つだけだから視界が狭い。

 そして昨日と同様の道に沿って階段を上っていった。

 怪談話に出てくる視聴覚室はこの階段の先にある。まずはそこを確認する。

 階段を上りきって、警備員がいないことを確認した。僕以外の足音も聞こえないし、人のいる気配もない。

 僕は視聴覚室を目指して歩いた。

 廊下を歩きながら周りを確認した。昨日彼女と出会ったあの場所と比較しているのだ。

 しかし、あの場所と違うように感じた。

 視聴覚室前に着いたが、誰もいなかった。


「はぁ……」


 僕は安心した。視聴覚室にいないということは彼女は怪談とは関係ないんだ。

 それが分かると上機嫌になって僕は彼女を探すことだけに集中した。そのせいか、やっぱりどこをどう通ったのか忘れてしまった。


「や、やらかした」


 自分の間抜けさに項垂れた。

 いや、室名札が読めれば学校内なんだから、また同じ場所に行くことはできる。

 それからまた歩き出したんだ。どれくらい歩いたのか分からない程だ。

 気付けば月明かりの入らないところにまで来ていた。


「ここ……どこだ」


 普段、教室からあまり出ないから学校内に詳しくないけど、見たことのないような場所にまで来てしまった。

 月明かりが入らないせいで廊下がより一層、闇に包まれている。頼りになるのはこの懐中電灯だけだ。

 なんて思っていると、誰かの足音が聞こえた。それを聞いただけで僕の心臓は高鳴りだした。聞き覚えのある音だからだ。


 ヒタッ ヒタッ ヒタッ


 裸足で廊下を歩く音。足の裏の皮膚が冷たい廊下に引っ付いて離れる音だ。


 ドックン


 僕は懐中電灯で前を照らすことを忘れていた。ただ、見えない闇の中に彼女の顔が現れるのを待っていた。

 今か今かと。


「あら、君は昨日の。夜の学校なんかで何しているのかしら。それとも私に何か用?」


 冷たい声。それでいて麗しさのある声。

 とても会いたかったんだ。この声を聴きたかった。僕の身体が震えたのが分かった。


「き、君に用があったんだ」


 声が震える。鼓動もおかしい。

 彼女の顔が見えるとそれはより一層おかしくなった。


「きき、き、君はこんなところで何をしていいるの? よよ夜の学校だと言うのに」


 僕の問いに彼女は笑っていた。その顔にまた心臓が嬉しそうに跳ねた。


「ふふ、おかしなことを聞くのね。それは君だって同じじゃないの。わざわざ夜に私に会いに来ようとするなんて」

「そ、それは……」


 反論しようとしたけど何も答えれなかった。

 そんな僕を見ておかしそうに彼女は笑う。


「可愛い子」


 いつの間にか周りが明るくなっているような気がした。

 いや、周りが明るくなったわけではない。僕が楽しくて、そう錯覚しているだけだ。

 ここでふと思い出した。ここがどこなのか確かめていなかった。

 スイッチの入っていた懐中電灯を近くにある室名札へと向けた。この場所がどこなのかを確かめて、彼女に会える保険が欲しくて。昨日もここにいたということはかなりの頻度でここにいるかもしれないから。

 しかし、僕は驚愕した。懐中電灯が室名札を照らしたとき、そこにあるはずのない文字が書かれていたから。


――『視聴覚室』――


 僕の知っている視聴覚室とは異なる視聴覚室。よく見ると、校舎の造りが違った。僕たちの校舎はコンクリートだ。

 なのにここは、木造だった。

 一瞬でさっきまでの明るさはなくなってしまった。この場が怖くなってしまったからだ。自分が今どこにいるのか分からなくなってしまった。

 すると後ろから引っ張られた。


「バカ野郎。何でまた忍び込んでんだよ」


 五十嵐が僕をその場から連れ出した。

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