表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
清純派魔導書と行く異世界旅行(改訂前版)  作者: 三澤いづみ
第四章 「逢うべき糸を、仕合わせに」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/78

第三十七話 『初級レベリング』

 

 さあ――レベリングの時間だ。


「ご主人様-。……ご主人様の言う平穏って何だったんでしょーか」

「平和を求めるならば、まず戦争に備えよって言うだろ」

「……それはそうですが」

「不満か?」

「いえ全然!」


 片手で抱え持ったスピカが満面の笑みを浮かべている、そんな気がした。

 というか声が明るい。

 スピカ的には俺が強くなるのは願ったり叶ったりだろう。

 俺としても、とりあえずの足がかりが出来た以上、足場を固めるのが先決だ。


「《氷狂矢フリーズ・アロー》。しっかし、リアルにレベル上げって口にするのは……なんというか、妙に恥ずかしいな」


 あまり意識してはいなかったが、ゴブリンカイザーとその一党を殲滅した際にも経験値的な何かが得られたはずだ。

 実感するほどではないが、多少は強くなったような気がする。

 以前、大量のグランプルを《不諦炎フレア・ストーカー》で駆逐した時点で相当な量のレベルアップを果たしていたが、まだまだ成長の余地はあるのだろう。


 モンスターを倒したときに得られる経験値的な何か。

 その経験値が肉体に蓄積して能力が成長するレベルアップ的な何か。

 ゲーム的な経験値やレベルアップとは異なるかもしれないが、起きている現象はそっくりそのまま同じである以上、「的な何か」と表現する必要は無いかもしれない。


「え、普通の方々も経験値とかレベルアップと口にしてますが」

「翻訳魔法が働いて、俺の意識上でそう意訳してるわけじゃないのか?」

「直接じゃないですが、そういうニュアンスの言葉と概念はこの世界にもちゃんとありますから」

「具体的な数値は分かるのか」

「んー。難しいですね。出すだけなら不可能ではありませんが」


 スピカの言い回しに首を傾げる。

 少なくとも、そこまで便利なものではないようだ。一応先を促す。


「というと……おっと、《氷狂矢フリーズ・アロー》」

「魔導士なら、《記述式(コード)》次第で作れます。相手の身体に溜まった経験値の濃度を数値化すれば済みますから。ただ……二十レベルの達人と三十レベルの素人、どっちが強いかとなると」

「前者だろうなあ」

「ですです。ステータス表記という手もありますが、面倒なばかりで益がないかと」

「なんとなく意味は分かるが、ん、《氷狂矢フリーズ・アロー》……一応説明を頼む」


 スピカはしばらく表現に困っていたが、訥々と語った。


「成人男性の平均的筋力が10だとして、目の前の敵の筋力が20だということが分かっても、だから何なのかという問題が」

「……殴られたらより痛い、くらいか」

「はい。よく切れる剣を持っていれば筋力が10でも5でも関係無いですし、素早さが30とか分かっても、足が速いのか、みのこなしが効率的なのかも瞬時に判断できません。その上、分析力を強化してこの手の情報を細分化も出来ますが、すればするほど判断の煩雑さは増していきます」

「《氷狂矢フリーズ・アロー》……ふう。総合的にこのくらい厄介だ、ってのが分かればいいんじゃないか?」

「でしたら、やっぱりレベル表記くらいが現実的ですね!」


 スピカはそう断言した。


「経験値濃度から判断されるレベルの高さは、先ほどの話の通り、強さとイコールではありません。しかし、どれだけ強化されているかの目安には出来ます。すなわちレベルアップとは経験値分、能力が加算的に強化されていくとお考えください。力は強くなりますし、体力、器用さ、反射神経、そういった部分に特に向上が見られます」

「……ああ、そういうことか。さっきの例だと、達人に二十レベル分、素人に三十レベル分の強化がされているって考えるわけだな」

「まあ、パワーレベリングで無理矢理レベルアップしていない限りド素人が達人よりレベルが高くなる状態なんて、まずありませんが。それでも素人同士であれば、単純にレベルが高い方が有利になります。体格が大きい方が喧嘩には有利、というのとさして変わらない理屈ですが」

「そうか。《氷狂矢フリーズ・アロー》」


 納得である。

 俺は会話を続けた。


「武器や防具が使いこなせないと無駄になるのと同じで、どれだけ強化されていても基本が出来てなかったり、元の土台が悪いと……いや待て。十レベルの達人と、九十レベルの素人ならどうなんだ?」

「レベルの数値化は、あくまで能力の強化の度合いですからね。数字で表せない強さ、上手さ、意志、その他諸々の方が大きいと思いますよ?」

「交渉能力や技術の練達、コミュ能力の巧拙を見られたりは」

「しません!」


 さりげなく聞いたが、スピカからはきっぱり言われてしまった。

 ダメか。そりゃそうだよな。そんな曖昧なもの、どうやって数値化するんだか。


 ちなみに会話をしている最中、一定間隔で林の奥から妙に強そうなオークが出現する。

 数匹まとめて出てきて、突進の体勢になったところに《氷狂矢フリーズ・アロー》が降り注ぐ。

 推定エリートオークの全身が氷の矢でハリネズミ状態に。

 以下繰り返し。


「完っ全に作業ですね!」

「まあな」



 敵はほぼ銀貨級ばかりだ。たまに銅貨級もいるが、比率としては少ない。

 なにしろ切羽詰まっているわけではないのだから、危険な目に遭う必要を感じない。

 金銭的にも困窮しているわけではなし。

 生活費として確保すべき額面は銀貨級を適当に倒せばお釣りが来るくらいだ。


「《氷狂矢フリーズ・アロー》」


 これが剣士や射手であれば、装備品の消耗その他で経費がかかるとか、色々とかかる費用が膨らんでくるだろう。

 しかし俺はスピカを手に戦う魔導士である。

 攻撃魔法の一番良いところは、経費がほぼかからない点だ。素晴らしい。


「あのご主人様、普通の魔法使いだとこんな風に連発できませんからね!? この威力を出そうとしたら魔力整えて詠唱して呪文唱えて撃つのに結構大変ですし、一発放ったらかなり消耗します。こんな連戦とか出来ません! 五回くらい戦ったら、魔力使い果たす前にと帰還の算段を立ててるところですから!」

「ティナは?」

「自称一流は伊達じゃないですね。……思いっきり例外です」


 対ゴブリン軍団であれだけ大量に攻撃魔法を使用していたのは、さすがAランクということになるのだろう。

 まあ、実際、普通の魔法使いがこんな戦い方出来るならAランクだらけになる。

 スピカの言は正しいのだろう。


「……結構倒したと思うんだが、レベルアップしないな」

「あの、ご主人様。普通はそんな簡単にするものじゃありませんから」

「そうなのか?」

「ご主人様の考えるレベルアップの概念とほぼ同じですから。最初のうちは弱い相手でもガンガンレベルアップしますが、レベルが高くなるにつれて強敵相手にしないと効率が悪くなるんです」

「……銀貨級じゃ頭打ちってことか」

「数が数ですから、多少は意味があると思いますが……雑魚相手ですと、よっぽど大量に倒さなければ劇的なレベルアップは望めないかと」


 今回の目的はレベリングだ。

 なので敵として御しやすく、あまり特別な能力を持っていない相手を主体としている。

 具体的にはオーク系だ。

 あるいはオーガやトロル方面、さらにはゾンビやスケルトンといったアンデッドでも問題無い。ここは金貨級はほとんどいない場所らしいが。

 つまり、物理攻撃がメインで、且つ素早くない敵を狙ったのである。


 普通のBランクが嫌がるやたら頑丈な敵であっても、俺とスピカは気にしない。

 大事なのはイレギュラーな事態が起きる余地がない点だ。

 他の魔法を増やすために《記述式(コード)》も必要だが、まずは今ある魔法の有効活用。


 《不諦炎フレア・ストーカー》は極端だが、誤魔化しようにと作った《氷狂矢フリーズ・アロー》がそもそも過剰火力だった。

 氷の矢なのに火力とはこれいかに。


 先日のメタルロックのような魔法攻撃に強いとされるモンスターは別にして、普通のモンスター相手なら適度に距離を取って《氷狂矢フリーズ・アロー》を連発するだけで蹂躙劇となる。


 たとえば洞窟だったり、平原だったり、林の奥の方にあるモンスターが沸いている場所。

 そこに突っ込んでいってまず視界を確保して、不意打ちされない状況を作ってから、《氷狂矢フリーズ・アロー》連打。

 馬鹿の一つ覚えみたいに、モンスターめがけてぶっ放し続ける。

 いわゆるひとつの見敵必殺。

 ほら、簡単でしょ?


 しかも、《不諦炎フレア・ストーカー》と違い、こっちなら消費魔力量は雀の涙だ。

 どれだけ適当に連射しても、どれだけ大量に使っても、まだまだ魔力が尽きる感じはない。

 詠唱いらず。速度は呪文を口にするだけだから攻撃に隙間もない。威力も十分。

 もうこれだけでいいんじゃないかな?

 そう思うほどに安直だ。


「うーん」

「どうした」

「レベル上げと金策にはなりますが、これでは戦闘経験にはなりませんね」

「と言ってもなあ。《氷狂矢フリーズ・アロー》。安全確保は最優先だ。《記述式(コード)》が手に入るような敵は金貨級より強いか厄介だって言ったのはスピカだろ。そのためにまずレベリング、適度に資金を集めて装備品の更新。流れとしては正しいはずだ」

「それはそうなんですが……」


 会話の途中に《氷狂矢フリーズ・アロー》を挟むだけのお仕事です。

 しかし、これ以上なく手っ取り早い上に強い。

 朝から夕方まで戦い続けても、驚くことに魔力が完全に尽きることはなかった。

 おそらくは自然回復量でまかなえたのだろう。


 そして、そろそろ切り上げるかと思った瞬間、レベルアップした。

 体中に蓄積された経験値が燃え上がったような感じだ。

 肉体の充溢。

 こう、長い時間を掛けて鍛えられるべき部分が、自然と引き締まった間隔だった。


 難しい口調だったスピカは、この結果を確認した途端、主張をがらりと変えた。


「ご主人様。スピカは理解しました。いえ、確信しました。……レベリングは正義ですっ!」

「どうしたいきなり」

「薄々そうではないかと思っていましたが、今はっきりと確認が取れました。ご主人様の魔力量とその質が――僅かですが――上がってます」


 喜色満面の声であった。

 こみ上げてくる笑いを抑えきれない、身体があったら踊り出しそうな響きだ。


「普通の冒険者がレベルアップして強さが一歩進むとしたら、ご主人様のレベルアップは五歩ぐらい進んで行く感じです! ふ、ふふふ、うふふふふふ、そうと分かれば――」

「スピカ。おーい。スピカさんや。聞こえてるか……?」

「狩りましょう! 狩って狩って刈り尽くしましょう! ありとあらゆるモンスターを駆逐し、撃破し、殺戮し、殲滅し、ご主人様の糧とするのです! そして全てを食らいつくしたご主人様は魔導士を超越したパーフェクトでエクセレントでエレガントな大魔導士――いえ、超魔導士としてこの世界に君臨するのです! その傍らにはご主人様の愛のしもべことこのスピカ。ああ、なんということでしょう。まさに劇的ビフォーアフター!」

「落ち着け。あ、まだ来るのか。《氷狂矢フリーズ・アロー》」



 大量に散らばっている銀貨を手早く袋に詰め込み、道を引き返しながら話を聞いた。

 スピカ曰く、レベルアップによる強化は加算方式ではなく乗算なのではないかとのことだ。

 つまり、素の能力が10だったとして、そこに1とか2とかがプラスされていくのが加算。

 実際には素の能力が10であっても、レベルアップごとに1.1倍とか1.2倍とか、どんどん倍率が上がっていくのが乗算方式。


 元の能力、たとえば筋力であるとか反射神経を鍛えるのに、本来レベルアップなど必要ない。

 腕立て伏せをすれば腕の力は当然のように上がるだろう。

 加算であれば、元の筋力が10で、レベル分による強化が2。合わせて12。

 一方、乗算であれば元を鍛えれば鍛えるほど強化の伸びは良くなっていく。


 レベルを上げて倍率2倍とすれば、元の筋力が1上がるごとに、強化分は比例して2上がる。

 つまり低レベル、あるいは元の能力が低い場合、伸び代は少ない。

 弱ければ弱いほどレベルの恩恵は少なく感じるはずだ。

 逆に、元から強い場合、これほど上手い話はない。


 落ち着いたスピカは自慢げに説明してくれた。


「最大魔力量は筋力のようには鍛えられません。増やすのが非常に難しいのです。だからこそ魔法使いは才能の職業となります」

「それは分かるが、そこまで喜ぶようなことか?」

「そうですね……語弊を恐れず説明するならば、銀行の金利のようなものです。一万預けて利息分が百では無いも同じですが、一億預けて利息が百万なら使い道は出来ます」

「……その利息が倍になったとして、前者ではほぼ無意味でも、後者であれば出来ることの幅はかなり広がる、か」

「レベルを上げていけば、やがて利息として五千万が毎回入ってくるようになる……そう考えると、こんなに夢のある話はそうはありません! さすがご主人様!」


 ひとしきりスピカが興奮した理由に納得した俺は、嘆息した。


「……あれ? ご主人様、あまり乗り気ではないような」

「いや、レベリングは必須だし、レベルを上げて悪いことはないからなるべくするつもりだが……今のところ過剰火力だし、魔力不足にもなってないし、他を置いて優先するだけの意味はあるのか?」

「あ」

「さっきの例によるなら、お金はあっても使い道がない状態になるだけじゃないか?」

「で、ですが」

「別に嫌なわけじゃないんだ。分かってる。……贅沢な悩みだな」


 話していて、やはり《記述式(コード)》を集める必要を強く感じた。

 スピカの手持ちの種類からすると仕方なかった面もあるが、攻撃に偏りすぎている。

 現在俺の使える戦法は、視界に入った相手を防御を許さない超火力で殲滅する。

 それだけだ。

 厄介な敵が増えると明言されている金貨級以上を相手にするにはいささか不安が残る。


 弱点は分かりきっている。

 一言で言ってしまえば、俺は不意打ちに弱いのだ。

 死角や視界の外から一方的に狙われたら、対処する術を持っていない。

 

 わずかに残っている《記述式(コード)》を惜しみなく使えば、防御系の魔法は作れる。

 土などを操り、頑丈な盾を作るとか、薄い膜の障壁を作るとかだ。

 が、これだとあんまり意味はない。

 防御魔法を使う暇があれば、《氷狂矢フリーズ・アロー》で即座に倒した方が早いし安全だ。

 雑魚相手に使うには消費極小で威力も高い《氷狂矢フリーズ・アロー》が優秀すぎるとも言う。


 常時発動であるとか、結界のようになるとか、俺が求めているのはそんな防壁だ。

 しかし、それを作りには《記述式(コード)》が足りない。

 振出しに戻るのであった。


「《記述式(コード)》、そこら辺で売買とかされてないのか?」

「どうでしょう。モンスターから得る場合は道具級が落とすものですから……」

「どんなに安くても金貨での取引か」


 弱さと倒したときに得られるものの価値から、銅貨級、銀貨級、金貨級、道具級、武具級、といった区分けがされている。

 つまり道具級は金貨級より強いし、価値があるものを落とすモンスターのはずだ。

 自分には使い道が分からなくても、こんなに強い敵が落としたのだから何か凄い価値があるのだろう、と考えるのが人の常である。


「出回る数も少ないでしょうし、期待しない方が良いかと」

「……まあ、どっかで聞いてみるか。ガラクタ扱いで投げ売りされてたら嬉しいんだが」

「ご主人様、いくらなんでもそれは無いと思います! なんといっても魔導士の力の源です! それがまさか一束いくらのゴミ扱いされているなんて!」


 スピカの力説に、俺は肩をすくめた。

 ぷんすか怒っているのは分かるが、あんまり口にするのは良くない。

 全力でフラグを立てに行っているのかと疑うほど、帰り道、スピカは熱く語るのだった。

 次話は 7/7 18:00 更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ