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小人族の仲介人な私。  作者: 榎本あきな
休憩所:王都
18/24

花言葉は「勝利」 その5

なんか、勢いだけで書いていたら、結構グロくなりました。血とかそういうのは苦手な方はお引き取り願います。

あと、勢いだけなので、いつの間にか5000字超えてました。そのせいで遅れました。すっごい詰めようとして遅れました。すいません。


それでわ↓

 後ろをシロが振り返り、そこにある大きな口の中に並んだ、鋭い牙を見つめ、すぐさま駆け出し、ギリギリの所でスライディングして避ける。


 俺は、それを見ていることしかできなかった。


 何故か足が、何かで縫いつけられたようにまったく動かない。動きたいのに…動けない。助けに行きたいのに……助けにいけない。ただ、黙ってみていることしかできない。

 それはきっと……、今、シロを食べようと迫っている奴が、俺の父親を殺した奴だから…。




 俺は、幼い頃に父親を亡くしている。モンスターのせいで。

 そのころの俺は、その頃のことを覚えていないと言われても納得できるほど幼かった。…けど、不思議と、そのことだけは、鮮明に覚えている。


 それは、雨の日だった。

 夜中に誰かが駆け込んできた。気になって、夜遅くで、もう寝なくちゃいけないのに、俺は父さんと誰かの会話を盗み聞きしていた。


 内容は、まったくと言っていいほど理解できなかった。けれど、その人が草原種ということと、父さんが、この雨の中出かけなくてはいけないというのだけは、何故か不思議と理解できた。

 雨の中、父さんが出かけようとするのを、俺は必死に止めた。俺の加護が、嫌な予感を感じ取ったからだ。


「ねぇ、父さん!いかないでよ!!別に、出かけなくたって、他の人達に任せればいいじゃないか!」

「お前……聞いていたのか」

「うん……。それは、ごめんなさい…。けど、この雨の中、父さんが行くことはないよ!万が一にも、父さんが死んじゃったら、母さん一人で…この村を……」


 そういう俺の目には、涙が溢れ、ポロポロと零れ落ちていた。なんでかは…たぶん、俺の勝利の加護が、父さんが負ける(しぬ)というのを感じ取り、俺がそれを、本能的に読み取ったんだと思う。

 滅多に泣かない俺の涙を、なんとも思わず、いつもとは全く違う、キリリとした目で、俺を見つめた。

 その時の瞳、言葉は、今でも俺の目蓋の裏に、焼きついている。



「お前は……間違っているっ!!」



 いつもの優しい、穏やかな父さんとは、似ても似つかないほどの怒声を、父さんは俺に浴びせた。おもわず、いつもの父さんじゃないと、反射的に思った。別人なわけでも、人格が変わったわけでもないのに。


 嵐のような雨の中、父さんは、使い物にならないような雨具を手に、ぬかるみの中を、走って行った。

 一方俺は、玄関に突っ立ったまま、父さんが走って行った方を、ただじっと見つめていた。あれは父さんじゃない。あれは父さんじゃない。だから…この頭の裏側に、こびりつくように感じる、嫌な予感も、きっと気のせい。きっと。絶対。


 そうやって暗示をかけつつも、不安で胸がいっぱいになって…呼吸をするのすら、苦しくなった。頭の中に、グルグルと「負ける」という単語が飛び交い……。いつしか俺は、父さんの後を追って、嵐のような雨の中、飛び出していた。



 ぬかるみを走る俺の動悸は、どんどんと激しくなっていく。それが、走っているせいなのか、不安のせいなのか、それはわからなかった。…が、とにかく急がないとという思いでいっぱいだった。


 額に張り付いた前髪を払うと、前の方に父さんが見えた。


「父さん!!」


 父さんは「負けて」いない。そのことに嬉しくて、父さんに駆け寄ろうとする。今なら、怒られてもいい。それほどまでに俺は、父さんが「負ける」ということが不安だった。


「来るなっ!!」


 だが、父さんの叫びによって、俺は止まらざるを得なかった。いや、たぶん、父さんが叫ばなくても止まっていたと思う。

 さっきの位置では見えないところに、巨大な……地面から突き出た、巨大な魚がいた。


 その魚は、体全体が凶器のように鋭そうで…雨に濡れて、さらにその体が、鋭さを増しているような気さえした。

 その姿に怯え…父さんが「負ける」ということが頭をよぎり…。俺は、動くことができなかった。いや、俺の心が強ければ、動くことはできたはずなんだ。動かなかった。ただ…それだけだ。

 たった、それだけの俺のわがままで……。俺は、気が付くことができなかった。


 背後に、もう一匹潜んでいることに。


 時間の感覚が、とてもゆっくりに思えた。前から、自分の槍を、自分が相手をしていた魚の頭から顎を貫かせ、慌てふためいて、本当に必死の表情で、ゆっくりと駆けてくる父さん。

 嫌な予感が、背筋を走った。

 ゆっくりと振り返る。そして、恐怖で目を見開いた。


 血と雨と涎でぬれた、鈍色に光る牙。ぎょろりと俺を見下ろす、真横についた瞳。…奈落の底のように真っ暗な、口。


 怖くて、怖くて、怖くて。どこからか、ガチガチという音がした。それが、自分の歯から発せられているのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。

 気を抜けばへたり込んでしまいそうなこの状況。けれど、俺は立っていた。そして…笑った。


 これは、俺の罰ゲームだ。嫌な予感はしていたんだ。勝利の女神様からの、忠告は、何度もあったんだ。それに背いて追いかけた…。だから、女神様からの罰ゲームだ。

 あまりに女神様の忠告を無視するから、俺は、女神様に愛想をつかされたんだ。けど…それで、父さんが「負けない」のならば、俺は甘んじて、「負け()」という罰ゲームを受けよう。


 そう思って笑った俺。俺の体に迫る牙。……駆け込んだ、俺の父さん。


 牙が俺に触れる、まさにその一瞬。俺の左になにかがぶつかった。

 何かに包みこまれる感覚と共に、地面を擦るように滑る。突然のことで頭が混乱して、視界がどうなっているのか、状況がどうなのか…まったくわからなかった。


 視界が安定した俺の視界に、一番最初に目に入ったのは、父さんの顔だった。

 いきなりの事で驚き、父さんが助けてくれたことに喜び…そのあとに視界に入ってきたものに…絶望した。


 「父さっ…!!」


 左足が、なかった。


 叫ぼうとしても、喉に何かがこびり付いて、声が出ない。喜びの言葉も、悲しみの言葉も、驚きの言葉も、すべて、巨大な魚の口の端についている、血が滴り落ちる左足に吸い込まれてしまったみたいに。


「どうして……来たんだ…!」


 苦しそうな顔で、喘ぎながら俺に問いかける父さん。

 その姿がとても痛々しく感じられて、いつもの父さんじゃないと感じて、涙が溢れてくる。


「だって……だって!…父さんが「負ける」って、女神様が、言うんだ…。子供として…父さんの、家族として!心配しない、はずがないじゃないか!」


 俺のその言葉に、父さんが顔を怒りに染める……ことはなく、とても穏やかで、優しい顔で、父さんは囁いた。


「ありがとう…。お前は、俺の自慢の息子だよ。さあ……帰ろう」


 「自慢の息子」そう言われたのが嬉しくて、「うん!」と答えようとした。この惨劇を忘れて。それが…未だに続いているという事も忘れて。

 突然、父さんが俺を突き飛ばした。

 そして、空から降ってきた巨大な物体。その物体に刺さっていた槍に、貫かれた。


 何が何だか、わからなかった。


 これは夢なのか。現実なのか。それとも……俺の、幻覚なのか。

 けど、さっきまで父さんが俺を包んでいた温もりが…背中に残っていた。いつもだったら、とても嬉しかった。だけど、今回だけは……それは、悲しい真実を伝えていた。


「父さ……んッ…?」


 ゆっくりと、父さんだったものに近づいていく。何かに引かれるように…目が離せないまま…近づいていく。

 父さんの胸を貫く、父さんの槍。槍の先端は、貫いた後に折れたらしく、近くに先端だけが転がっていた。


 それに手を伸ばし……握る。

 俺の手が、握った時に切れ、血が流れる。そして……父さんから未だにドクドクと流れ出る血と混ざりあう。

 その混ざった血は……「負けた()」の色をしていた。


「う…あぁ………。うわ、ああぁあぁぁぁああああ!!!」


 俺は、叫びながら、その場所から逃げた。

 父さんの死体を残して……。




 恐怖で、何も考えられない。シロが殺されそうになっているというのに、あの、生々しい記憶しか蘇えってこない。

 棒立ちになって、また、繰り返されようとする惨劇に目を閉じよう――とすると、手に、何かを握った感覚がした。


 父さんの持っていた槍の、矢じり。

 父さんを殺した、矢じり。


 今は、怪我をしないように布を巻いているが、これをとれば、武器としても…凶器としても使える。

 震える手で、矢じりをポケットから抜き…ぎゅっと握る。

 それだけで震えが収まり、暖かい気持ちが、心の奥から湧き出てくる。それと同時に、思う。


 俺は、逃げていただけなんだと。

 父さんが、俺を庇って……俺のせいで死んだということを認めたくなくて…逃げていたんだと。

 事実、俺は父さんにあの日、あったという事を村の皆に話さなかった。そして、その日から、俺は大嫌いだった勝負をするようになった。


 それは、あの日から何故か聞こえるようになった敗者の嫉妬や恨みといった、怨嗟。いわゆる、負の感情だけが聞こえるようになり、それの優越感に酔いしれていた…というのもあるだろう。

 だが、根本的には「強い俺は、守られなくても負けなかった。父さんが負けたのは自分の責任だ」という思いが…思い込みたい思いが、あったからだろう。


 その思いは………間違っている。


 俺は、責任から逃げちゃいけないんだ。「負け」という言葉で、「勝ち」という言葉で、「死」から逃げちゃいけないんだ。父さんの死から…逃げちゃいけないんだ。

 それに……今、目の前で起ころうとしている惨劇からも。


 右足を、いつも歩くような感じに、地面に置く直後、全体重をその右足に乗せ、力の限りまで、両足で地面を押し出す。

 押し出す力の阻害にならないように、体の力を極限まで抜き、風の抵抗がないように、できる限り体を捻る。


 唯一、俺が父さんから教えてもらった技だ。

 きっと、父さんもあの時、この技を使って俺の元まで駆けてきたんだろう。そうじゃなければ、あんなに早く来れるわけがない。

 父さんが使った。そう思うと、力が湧いてくるような気がした。


 地面を滑空するように跳び、両手を突出し、シロを押し出す。シロには悪いけど、突き出すしか方法がないんだ。何の説明もなしで、ごめん。

 心の中で謝り、魚とすれ違う時、矢じりを出し…その鱗の隙間に突き刺す。


 トップスピードで走っていたからか、そのせいでものすごい負荷がかかるけれど、無理やりにでもそれに抗い、目の淵を掴む。

 腕やら足やらが外れそうなほど痛いのを我慢して、手を動かし、その手に握った矢じりの布を口で噛み、矢じりから解く。


 布を解き、ぎゅっと握ると、俺の手が傷つき、血が流れてくる。

 それを、なんだか不思議な思いで眺めながら…空に向かって振り上げ、魚の目玉に向かって振り下ろした。


 まるで、卵の黄身に箸を突き刺したみたいだった。

 突き刺したところから、血がぷっくりと膨れ上がってきて…、直後、一気に血が噴出した。ダラダラと、ドバドバと、ダクダクと。


「――――ッ!!―――――――!!!」


 魚が、声にならない悲鳴を上げて、俺を振り落とそうとする。

 それに必死にしがみつき……目玉のもっと奥深く、脳みそに近い所をめがけて、腕を突っ込む。

 ぐじゅぐじゅという、嫌な音がするが、こいつを殺すためだ。そう思い、不快感を押し込み、無理やりにでも、かき回す。


「――――――ッ!!!――――――――!!!」


 悲鳴がさっきよりも大きくなった。

 その、嫌な声が大きくなったことに不快感を覚え、やっと父さんの敵が討てると嬉しさを覚え……あの時も、俺がこうしていれば、父さんは死なずにすんだのに…と、後悔を覚えた。


 その心の油断からだろうか。

 さっきよりも一際強い揺れが起き、俺の体は、いつの間にか空に放り出されていた。

 いつの間にか、魚からはだいぶ離されていて、マズイ…。あいつを殺し損ねたんじゃ…!?と思い、咄嗟に体をひねってみると、巨大な魚は、その体躯を震えさせながら、地面に倒れているのが見えた。


 よかった…。殺せたんだ…。という思いとともに、この高さとこの体力じゃあ、俺は死ぬな。そう思った。受け身をとる体力すら残っていない。そもそも、あそこまで負荷がかかったんだ。普通の小人族だったら死んでいる。俺が死んでいないのはたぶん、戦闘種の長だった父さんの息子だからだろう。


 …まあ、敵はとったから…いいや。そんな、諦めたような気分だった。

 その時、体に、昔に感じたような衝撃が走り、横に弾き飛ばされた。


 咄嗟にその方向を見ると…そこには、真っ黒で長い髪の少女…ギボウシがいた。


 ボーシは手を突き出した状態で、目を瞑っていた。その後、ゆっくりと目を開いた。その眼は…恐怖の色が浮かんでいた。

 その眼を俺に向け……そして、安堵の色を浮かべ、にっこりと笑い…真っ逆さまに落ちて行った。


 真っ暗な奈落の底のような穴の中へ。


 ……え?と思いながら、落ちていく俺。

 俺は……また、たすけられたのか?俺は、また、救われたのか?


 その疑問を抱きながら、地面に向かって落下し……何か、柔らかいものの上に落ちた。

 なんだろうと触ってみると、それはクッションのようだった。


「ゴーーーッル!!優勝は、エントリーナンバー14番、戦闘種のリンドウ君です!!」


 よくわからない宣言が、広がった。

さあ、次が最後だ!!

…その前に、ボウシちゃん視点を入れようか悩んでいる自分。

いや、まさか、自分もこんな展開になるとは予想していなかった。皆でハッピーエンドを迎えたらな~てきな、三人で一斉ゴールとか~とか、そんなのほほん展開だったのに……どうしてこうなった…。

…まあ、もしかしたら、ボウシちゃん視点いれるかもしれません。


それでわ。

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