10人目 討伐。
…逃げられたか…。
あいつ……こそこそ逃げ回って…。
…ん?え、何だ?…これを言えと?…まあ、それが私に課せられた役目なら…。
えー…「絶体絶命の危機的状況に陥ったギボウシは、願いを唱える。そのとたん、卵から光があふ」え、長い?…そのまま読んだだけなんだが…。
…箇条書きみたいな感じでいいか?…私、要約するの苦手なんだ…
「・絶体絶命・危機的状況・ガラスの竜・思い出せない記憶・誰かわからない懐かしい顔・小さくなった竜」
…こんな感じだろうか?…やはり、要約とか苦手だ……。
あっ、あいつを探しに来たんだった。いかないと。
…必ず、お前の敵をとってやる…。お前の苦しみを…お前を殺したあいつに味あわせてやる……
………
俺は…いや、俺たちは、絶体絶命に近い危機的状況に陥っていた。
何度も迫ってくる巨大な口。
その巨大な口を、なんとか剣で逸らす。
くっ……。こいつは、確か竜のマルイータ種…だよな?
なんでこんなに凶暴なんだ…!魔力暴走って可能性もあるけど…この種は、確か結構魔力が低めの竜だった気がするんだが…。それに、とてもおとなしかった。
精神暴走だとしても、ここまで凶暴になるのはおかしい…。普通、精神暴走は暴走する前の意識にある程度引っ張られる。おとなしい竜なんだから、ここまで凶暴なのは明らかにおかしい。
考え事をしていたためか、俺は目の前に迫る牙に気がつかなかった。
気がついたときには、あの巨大な口が目の前まで迫っていた。
マズイ…!
そう思ったとき、マルイータが俺からみて左側へ、真っ直ぐブッ飛ぶ。
急なことに目を見開き、思わず横を見る。
そこには、剣を支えに、俺たちよりも倍以上に消耗しているであろう隊長の姿があった。
肩で息をしながら、俺をキッと睨みつける隊長。その瞳は、「お前何余所見してんだ」と語っている。
戦闘中に考え事をして死にかけるなんて…これで本当に死んだら、お笑いものだな。
そう思いながら乱れていた呼吸をある程度整え、マルイータを睨みつける。
マルイータは、かなりの速度で木をバキバキと倒し、結構な距離を飛んでいったというのに、もう起き上がってこちらに向かっている。
……俺の体力も、そろそろ限界だ。たぶん、隊長はもちろんのこと、俊敏性特化である草原種の小人族も、元々持久力がないから限界だろう。
次で………決めるっ!
隊長に目配せをし、遠くにいるマルイータに突撃するように剣を構え、腰を落とす。
小人族がマルイータを足止めしているのが見える。正確には、姿は見えないがマルイータが立ち止まり、嫌そうに首や胴体を左右に振るので、たぶんそうだろうと思う。
その様子を真正面に見据え…大きく息を吸い込み、呼吸を止めた。
それと同時に、髪や騎士団全員に支給されているマントがぶわりと舞い上がるのを感じた。
マルイータは、未だに首や胴体を左右に振り、その小さな存在を振り払おうとしている。
まだだ…。もうすこし…もう少しだけ………。
目をゆっくりと閉じ……目を見開く。
そこには、こちらに一直線に向かってくる巨大な敵の姿。
今だっ…!!
心で感じるままに、俺は前のめりのまま地面を滑空するようにマルイータへと一直線へ跳ぶ。
何回も感じたこの感覚。でも、未だに慣れないこの感覚は、妖精のアシストあってのものだ。
隊長が自分の魔力を分け与える代わりに、雷の妖精と風の妖精に協力してくれるように頼む。
そうすることで、雷の妖精の力で身体能力が上がり、風の妖精で背中を後押ししてもらう。
急ブレーキなんかも、風の妖精になるべく衝撃を和らげてもらうため、最低限の負担だけで済む。
まあ、これをやったあとは必ず全身筋肉痛で動けないんだけど。
遠くにいた敵が、一気に目の前まで迫る。
その巨体の所まで迫ったとき、俺は、飛び上がれば目の前に敵の顔が間近で見れるだろう位置で急ブレーキをかけた。
筋肉が急に進路を変えたため、悲鳴をあげる。
一拍遅れて、ふわりとした風が両足にまとわりついた。
苦痛に顔を歪めながら、いつも手助けしてくれているという風の妖精に「ありがとう」と呟き、足に神経を集中させる。
嫌だと、辛いと叫ぶ筋肉の悲鳴を無理やり押さえ込み、膝を曲げる。
もうちょっと…もうちょっとと自分に声援を送りながら、妖精の補助をかりて、空高く舞い上がる。
瞬間、すべてを忘れた。
絵の具をぶちまけたような、それでいて優しい色合いの空。
鋭く射抜くような、だが何かほっとする太陽。
すべてを繋ぐような雲。
ぼうっとそれに惚けていると、何か、ガラスのようなものがキラリと光った。
それのおかげで目が覚め、下にいるマルイータに目を向ける。
ちょうどいい位置だった。
レイピアのように細い俺の愛用の剣を掲げ、ある一点を突き刺すように真下に向ける。
もうすぐ突き刺さる。その時、キラリと剣が光り……不思議な感覚に包まれた。
それはほんの一瞬の出来事で、俺は少しの違和感を感じたが、それを振り払い、突き刺すために剣に全体重をかけた。
どんどん下降して行き………ぐしゃりと音がした。
突き刺したところから血がだくだくと溢れてくる。俺が突き刺したところは、マルイータの目だった。
何が起きたのかわからなかったマルイータが、ようやく状況を理解したのか、痛みに悲鳴の咆哮を上げた。
耳を劈くほどの咆哮。特に、声の発生源の上にいる俺は、とてつもない被害を浴びていた。風の妖精が幾分か和らげてくれてるみたいだけど、それでも十分痛い。
呻き声を上げながら暴れ狂うマルイータ。暴れ狂う頭の上から落ちないように、剣をギュッと握る。
たびたび振り落とされそうになるが、なんとか耐える。
その時、足に、手に、全身に力が入らなくなった。
隊長の魔力がなくなった。そう認識した時には、俺は空中に放り出されていた。
雷の妖精の力で、今まで無理やり動かしていたのに、それが急になくなり、さらにはその反動で動かなくなった体で空中へ放り出された。いわゆるそれは、相手にとって絶好のチャンスってことだ。
マルイータは残った血走った右目で俺をギロリと見下ろし……巨大な口を開けた。
その大口が、スローモーションのように迫ってくる。
…もう、死ぬのかな…。
そんな呑気なことを、この危機的状況で思う。
この口に飲み込まれたら、俺はおしまいだろう。現実は、本みたいに都合よくはいかないんだ。
……きっと、俺が本の主人公だったら、妹は助かっただろうし、あの小人族に会うこともなかったと思う。
けど――――――
けど、ここが、夢じゃなくてよかった。
マルイータの瞳に写った俺が、皮肉げに、そして、とても嬉しそうに笑った。
***
聴いた事がない、とても綺麗な音色が、耳に流れ込んできた。
その途端、今までスローモーションだったのがいきなり戻ったかのように、俺は勢いよく地面に叩きつけられた。
叩きつけられた影響で肺が圧迫されて、空気が俺の肺から勢いよく吐き出される。
そこで、俺は違和感を感じて、呼吸を止めた。
…………生きてる……?
思わず胸の上に手のひらを置く。心臓がドクンドクンと動く音がして……。
その事に安堵したのか、今まで強ばっていた体が、急に緩む感覚がした。
緊張していた四肢がダラリと地面に落ちる。もう立つことも、動くことすらままならない。
ふと、マルイータはどうなったのだろう。そう思い目を向ける。
するとそこには…口を開けたまま固まったマルイータの姿。そして、その体に走る無数のヒビ。
驚きに目を丸くする。その間にもそのヒビはピシリピシリとどんどんマルイータの体全体まで走り……尻尾の部分まで到達すると、ガラスのようにパリンと割れた。
割れたガラスの破片はパラパラと地面に落ちることなく、そのまま空に溶け込んでいった。
突然の事になにがなんだかわからず、しかし、そこから目が離せないでいた。
だが、それも巨大な影が俺の頭上に覆いかぶさり、とてつもない突風とともにあの羽音を聴くまで。
とても綺麗な音色に耳を傾け、上を見上げると、そこには見たこともない竜が。
その姿はガラスのようで、きっと、置物のようにじっとしていれば、誰もがガラス細工と間違うくらいに繊細そうで…だが、それでも間違いようがないくらい生命の力強さがあった。
竜はそのまま俺の頭上を飛びすぎ、小人族の村のある方に向かっていった。
その姿がこの巨大な森の木の影で見えなくなるくらいまで見つめ…、気がつくと、横に二足の靴が見えた。
隊長だろうな…と思いつつ上を見上げると、そこにはやはり隊長の姿が。
一ついつもと違う姿を上げるならば、頭と両肩に小人族が乗っていることだろうか。
隊長はこちらをじっと見つめ、自分の後ろの方を見る。
何かと思い痛む体をほんの少しずつ動かして見ると、そこには縛られている犯人の二人。
確か、邪魔だから隊長が手刀で気絶させて、気に寄りかからせてたはずだけど……二人を連れてきたってことは、帰るぞ的な意味合いだろうか。
…全くわかんねぇ…。聞くのが一番早いな。幸い、顔は痛みに襲われることはない。全く使ってないからな。
「…帰るんすか?」
俺がそう聞くと、隊長はいつもの無表情フェイスのまま、コクリと頷いた。
どうやら魔力を使いすぎたらしく、体力の消耗のせいでとても眠いみたいだ。今も、コクリと頷いたのと同時に目蓋も閉じかけていた。
隊長だってこんなに疲れているのに、自分だけこんなところに寝転んでいるなんて…なんか、申し訳なかった。
「隊長……すいません…。疲れてるのに…」
「……いい…。それより……早く…帰ろう…」
「……そうですね…」
「眠たいから早く帰りたい」という本音を交えた言葉に苦笑を返し、自分の愛剣を手探りで探す。
柄をつかみ、剣を地面にさし、なんとか立とうとする…が、やはり筋肉に負担を掛け過ぎたのか、立てそうな気配すらない。隊長はたぶん、眠気で俺にかまっている暇なんてないだろうし、そもそもこれ以上は迷惑はかけられない…。でも、一人じゃ立ち上がれないし……。
……あ、これならいいかもしれない。
「隊長。風の妖精って…呼べます?」
「…呼べるが……何を…?」
「ちょっと、反動で立てなくって…。魔力は自分で分け与えるんで、呼んでくれたらそれでいいです」
俺のその言葉に納得したのか、コクリと頷いて何か、よくわからに言葉を呟いた。
ほんの数秒。そのあと、風がわずかに巻き起こった。
右手を、なんとか前に出す。
そこから、何かが自分の中から溢れてくるのがわかった。それが、どんどん減っていくのも。
「魔力をあげるから、代わりに運んで」
そういうと、返事の代わりに心地よい風が首筋をなでた。
それと同時に、俺の体がフワリと浮かび上がる。さっきまでまったく動かなかったのに。妖精の力って、やっぱすごいな…。
魔力を後ろに流すと、そっちに妖精の力が移動するのがわかる。
だいたいこんな感じか…。
慣れてきたころ、隊長を呼ぶために隊長の方へ向いた。
「たいちょ………」
犬のバディ種とラディ種。いわゆる、三つ首と二つ首の犬。その犬の上に横たわる隊長。
……え!?なんでこうなった!!?俺が目を離している隙になにが起こった!?俺が目を離していたのって2,3分程度だったと思うんだけど!?
バディとラディの上をピョンピョン跳ね回る小人族。その姿は、警戒心なんて微塵もない。
隊長なんか、「ふわふわ……もふもふー…」と寝言を言っている。ってか、寝てんのかよ!!
…まあ、敵じゃないみたいだし、なんか頻りに犯人の顔を舐めてるから、たぶん犯人の飼い犬的な存在だろう。
そう思い、手招きする。
すると、バディとラディが隊長を落っことさないようにうまくバランスを取りながら犯人二人を引きずってくるのが見える。……本当にこいつらの主人なのか…?とりあえず、要件を伝えよう。
「運ぶのを手伝ってくれるなら、僕の後についてきて。あと、この二人は僕が運ぶから…ああ、大丈夫大丈夫。手荒な真似はしないから、安心して。それより、引きずる方が痛いでしょ」
途中唸られたので、諌めておく。すると、「「ウォン」」と二匹揃えて鳴いた。その時に犯人の頭が地面に落ちた。……本当に主人なのだろうか…。
ってか、よく起きないな…。もしかして、隊長が眠りの魔法でもかけたのだろうか…。
まあ、いいや。そう思い、心を切り替え、村へと向かうことにした。
…あれ?俺たちがここへ来た目的って…交渉しに来たんじゃないっけ?
作業BGMを変えたら、なぜか筆が進む進む!きっと、自分と相性がいいんだろう。
あと、ソードアートオンラインで戦闘描写を学んだからかな。たぶん。
もしかしたら、雷の妖精がなんで身体能力強化?という方がいるかもしれないのでいいますが、人間とは脳からの電気信号で動いているので、雷の妖精はその電気を操って反応速度を早くしたり、命令を付け加えたりして筋肉を動かし、瞬発力やらなんやらが強化するようにする…といった感じです。ちなみに、この世界の人にとってはそういう知識は滅びた古の文化の中に入るので、「雷はなんか知らないけど身体的に強くなる」ぐらいの認識しかありません。
次回は、この続きを…と思ったのですが、面倒になったのでボウシちゃん視点で起きたあとの事を。…だって、カイヤ視点もめーさん視点も、たぶんほとんど進展ないと思うし、ボウシちゃん視点で説明できそうな気がするから…いいよね!なくても!
それでわ。




