第17話: 希少素材の街と、高位貴族の願い
はじめましての方も、お馴染みの方も、お越しいただきありがとうございます!作者のティラピア池です。今日も皆様に楽しんでいただけるよう、気合を入れてお届けします!
戦闘が終わってからしばらくして、僕たちが助けた若い貴族の女性が、ようやく立ち上がった。
彼女は、見るからに上質な貴族服を身にまとった若い女性だった。
「初めまして。私の名前はエレナ・ヴァルテリス。高位貴族の娘です」
僕は少し驚いた。
まさか、たった今助けた相手が、普通の貴族ではなかったとは。
エレナはそのまま、今回の事件について説明を始めた。
どうやら、貴族の子供たちが誘拐される事件は、今回が初めてではないらしい。
何度も繰り返し発生しているという。
その犯人たちは、犯罪者の巣窟として知られる、とある都市から来ていると考えられているそうだ。
「はぁっ!?」
僕は思わず声を上げた。
「危なかった……。あの街を通らなくて本当によかった」
隣にいたアヤが、何とも言えない表情で僕を見る。
その視線を感じながら、僕は一つの疑問を口にした。
「それなら、どうして貴族や王国は、その街を攻撃しないんだ?」
エレナは静かに首を横に振った。
「不可能です」
「不可能?」
「ええ。あの街は、数百万もの幻影魔法と、数千もの防御魔法によって守られています。それらは一分ごとに更新され続けているのです」
「……」
僕は言葉を失った。
数百万の幻影。
数千もの防御魔法。
しかも、それが毎分更新される?
*……どんな街なんだよ、そこ……?*
そんな場所を正面から攻めようとすれば、戦う前からこちらの戦力が消耗してしまうだろう。
いや……そもそも、敵の本体がどこにいるのかすら分からない可能性がある。
僕がそんなことを考えていると、エレナが少しだけ表情を曇らせた。
「……ただ、一つだけ奇妙な話があります」
「奇妙な話?」
僕はエレナを見る。
エレナは少し間を置いてから、静かに口を開いた。
「かつて……あの街を、たった一人で壊滅させた人物がいるのです」
「…………は?」
僕は思わず固まった。
「数百万もの幻影魔法も、数千もの防御魔法も……その人物の前では、まるで意味を成さなかったと言われています」
「そんなこと……できるのか?」
エレナは首を横に振った。
「分かりません。なぜなら、その人物が何者なのか……誰も知らないからです」
「……誰も?」
「はい。名前も、顔も、目的も……何一つ分かっていません」
僕は黙り込んだ。
*正体不明の人物が、一人であの街を……?*
さっきまで聞いていた話と、あまりにも釣り合わない。
数百万の幻影。
数千もの防御魔法。
それを、たった一人で突破した。
「……化け物じゃないか」
思わず、そんな言葉が口から漏れた。
エレナは何も答えなかった。
ただ、その人物について思い出すだけでも恐ろしいと言うように、静かに視線を落としていた。
やがて、エレナは再び微笑んだ。
「それはともかく、助けていただいて本当にありがとうございました」
そして彼女は、僕たちに向かって丁寧に頭を下げた。
「もし皆さんがよろしければ、私の住んでいる街まで案内させてください」
僕は周囲を見回した。
「でも……君の住んでいる街がどこなのか、僕には分からないぞ」
エレナは小さく微笑んだ。
「希少素材の街として知られている場所です」
その瞬間――
僕の目が輝いた。
「……希少素材?」
僕の頭の中で、様々な可能性が一気に浮かび上がる。
未知の鉱石。
未知の植物。
未知の生物素材。
そして、それらを使った実験。
「行こう!」
即答だった。
「希少素材の街へ!」
アヤがすぐに僕を見る。
どうやら、僕が何を考えているのか察したらしい。
「……また実験するつもりでしょ?」
「もちろん」
「やっぱり……」
アヤは小さくため息をついた。
その後、負傷していた兵士たちも治療を受け、無事に動ける状態まで回復した。
僕たちはエレナの一行の後ろについて、目的の街へ向かうことになった。
しばらくして――
僕たちは、ついにその街へ到着した。
「……すごい」
僕は思わず足を止めた。
街の至るところが、色鮮やかな景色で彩られている。
建物には独特なデザインが施され、通りには様々な装飾が並び、ほとんどの場所に僕が今まで見たこともない素材で作られた物が置かれていた。
*Wow……*
*クロシマとは、まるで別世界じゃないか……*
僕は思わず口にしてしまった。
「すげぇ……日本の街とは全然違うな」
アヤがすぐに振り向いた。
「日本の街?」
「……あ」
しまった。
僕は慌てて視線を逸らす。
「いや、気にしなくていい。独り言だから」
アヤは目を細めた。
「……変なの」
その一方で、カイルは市場に並んでいる様々な商品に興味津々だった。
「うわ……これ何だ?」
結局、カイルはネリア、ミラ、リリアと一緒に市場を見て回り、いくつかの商品を買うことになった。
僕とアヤは、そのままエレナに案内されて彼女の屋敷へ向かった。
そして――
屋敷の中へ足を踏み入れた瞬間、僕は再び驚かされた。
「……デカい」
想像していたよりも、はるかに広い。
廊下だけでも、クロシマの宿屋が何軒も入りそうなほどだ。
そして、その奥には一人の男性が立っていた。
見るだけで分かる。
この人物が、この屋敷の主だ。
僕は反射的に頭を下げた。
すると、男性は穏やかな声で言った。
「顔を上げなさい、少年」
僕はゆっくりと顔を上げる。
男性は僕とアヤを交互に見た。
「君たちの名前を聞かせてもらえるか?」
僕はできるだけ丁寧に答えた。
「僕はアラリックです。そして、こちらはアヤです」
男性は静かに頷いた。
「そうか。私の娘を救ってくれたこと、心から感謝する」
僕は首を横に振った。
「僕に感謝する必要はありません。感謝するなら、僕の仲間たちにお願いします」
そう言って、僕は屋敷の入り口へ視線を向けた。
「……まあ、今は市場に行っていますけど」
その言葉を聞いた男性は、小さく笑った。
「ははは……なるほど。実に面白い少年だ」
その後、僕たちはしばらく会話を続けた。
やがて、その男性は僕に飲み物を勧めてきた。
そして会話の途中、彼はふと口を開いた。
「実は、私の末の子が海の魚をとても気に入っていてね」
僕は興味を持って話を聞く。
「だが、海はここから遠い。海の魚をこの街まで運ぶのは簡単ではない」
彼は少し寂しそうに息を吐いた。
「もし誰かが、海の魚を海から離れた場所でも生かし、さらに繁殖させることができたなら……」
その言葉を聞いた瞬間――
僕は黙り込んだ。
海の魚。
長距離輸送。
水の確保。
生存環境。
そして――
「……なるほど」
僕の頭の中で、何かが繋がった。
これはただ魚を運ぶだけの問題じゃない。
環境そのものを再現すればいい。
僕はゆっくりと立ち上がった。
「僕を、そこへ連れて行ってください」
アヤが驚いたように振り向く。
「えっ!?」
アルブレヒトも目を丸くした。
「本当にいいのか?」
僕は自信を持って頷いた。
「はい」
すると、アヤが不安そうに首を振る。
「アル……あまり自信満々にならないほうがいいよ」
「大丈夫だって」
僕は笑った。
「僕には金がたくさんある」
アヤは無表情で僕を見る。
「……お金があるからって、全部うまくいくわけじゃないでしょ」
「…………」
確かに。
僕は少しだけ考えた。
「……まあ、まずは試してみよう」
こうして――
僕たちの海への旅が始まることになった。
――――――
そして僕は、まだ知らなかった。
この旅が、この街の誰も想像していなかったものを発見することになるなんて。
それは、一見するとただの石のようにも見えた。
あるいは、葉のようにも見える奇妙な物体。
しかし――
それは石でもなければ、葉でもなかった。
海の魚の命に関わる、ある重要なものだった。
そして今回――
僕は、ただ力に頼るつもりはない。
科学。
物理学。
そして、論理。
僕が地球で培ってきた知識を、この異世界で試してみる。
海への旅が――
今、始まる。
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