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レベル-99の大佐が異世界転生したら、身体の耐久度が水に濡れたティッシュ並みだった件〜天才的な脳だけで生き残る〜  作者: ティラピア池
第1章 新たな人生と、新たな旅

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001話:ステータス『-99』の衝撃

はじめましての方も、お馴染みの方も、お越しいただきありがとうございます!作者のティラピア池です。今日も皆様に楽しんでいただけるよう、気合を入れてお届けします!

研究基地の冷たいコンクリート廊下に、俺の軍靴(ぐんか)の足音が響く。


大佐にして軍事応用物理学の教授――そんな肩書には、もう慣れきっていた。


この無機質で、息が詰まるほど機密に満ちた空気にも。


背後では、五年間生死を共にしてきた二人の部下が、いつも通りの頼もしい足取りで俺の背中を守っている。


すれ違う研究員や技術兵が立ち止まり、きっちりとした敬礼を寄越す。


俺は軽く顎を引いただけで足を止めない。


目指すは廊下の突き当たり、重厚な鋼鉄製の個人研究室だ。


今日という日は特別だった。


国が誇る新型エネルギー兵器の設計図、それがようやく完成する記念日――のはずだった。


プシュー、カチャ。


網膜(もうまく)スキャンを経て、鋼鉄の扉が滑らかに開く。


消毒液の匂いが漂う静寂の中へ、一歩踏み込む。


だが扉が自動で閉まり、重いロック音が響いた瞬間――室内の空気が凍った。


チャキッ。


数百の戦場を生き延びた軍人の勘が、脳内で警報を鳴らす。


引き金を引く金属音。


すぐ右耳の後ろで。


体が固まる。


ゆっくり振り返ると――最も信頼していたはずの二人の部下が、消音器付きの九ミリを俺に向けていた。


その目に敬意の色はない。


あるのは、冷たく狡猾な勝利の笑みだけだ。


「……何の真似だ。銃を下ろせ。命令だぞ」


動揺を押し殺して言う。


心臓は戦太鼓のように鳴っていたが、声だけは低く、冷静を装った。


侵入者の一人が不敵に笑い、左手で自分の顔からラテックス製の変装マスクを引き剥がす。


現れたのは、見覚えのない男の顔だった。


「悪いな、アラリック・シロガネ大佐。いや――シロガネ教授、と呼んだ方が正しいか?」


スパイは残酷に嘲笑った。


「お前の本物の部下二人は、三日前から基地の外にいる。俺たちはこの難攻不落の要塞に潜り込むために、完璧に化けた国際スパイだ」


「狙いはただ一つ――お前の量子物理学の研究成果と、国家最高機密アーカイブのアクセスコードだ」


くそ、とポケットの中で拳を握る。


国に天才と持て囃された頭脳が、こんな古典的な潜入戦術に出し抜かれるとはな。


「この基地から生きて出られるとは思うな。全域が厳戒態勢だ」


「脱出には少し手こずるかもな。だが、お前が先にあの世行きなのは確定事項だ」


スパイは躊躇なく言い放った。


――ボスッ!!!


消音された銃声が室内に響く。


強い衝撃を受け、俺はその場に崩れ落ちた。


意識が薄れていく中、研究室のガラス窓の向こうへ視線を向ける。


――ウーーー! ウーーー!


銃声を感知した緊急アラームが、赤い光を放ちながら鳴り響く。


ガラスの向こうでは、戦闘訓練など受けたこともない研究員や医療スタッフが完全にパニックに陥っていた。


叫びながら、四方八方へ逃げ惑っている。


――ダダダダッ! ドゴォン!


裏口から侵入した敵の突撃部隊が、すでに防衛線を突破したらしい。


遠くから激しい銃撃戦の音、アサルトライフルの連射音、そして基地を揺るがす爆発音が届く。


数十億の価値がある俺の研究成果が、一瞬で失われていく。


意識が急速に薄れ、絶対的な暗闇に吸い込まれていく。


……まさか、俺の人生の結末が、こんな惨めな裏切りと夢の崩壊で終わるとはな。


◇◇◇


「げほっ、ごほっ……くそ……」


激しく咳き込む。


肺が焼けるように痛い。


だが、何かがおかしい。


最後の記憶にあった火薬の焦げ臭さも、濃い煙も、鉄が焼ける臭いも、綺麗さっぱり消え去っていた。


代わりに、湿った土の香りと青草の匂いを運ぶ、穏やかな風が頬を撫でている。


「頭が……戦車に踏まれたみたいだ……」


額を押さえながら呟く。


ゆっくりと目を開けると、強い光が網膜を刺した。


何度か瞬きをして、ようやく視界が晴れる――その瞬間、言葉を失った。


空は汚れひとつない澄んだ青色。


だが、天文学的な異常事態が起きていた。


同じ大きさの太陽が、二つ並んで天頂に輝いているのだ。


――まずい。


軍人の勘が、ここが未知の領域だと告げる。


すぐさま立ち上がり、戦闘態勢を取ろうと右手を地面についた――その瞬間。


バキッ、ボキッ。


「ぐああああッ!? クソったれがぁぁ! 痛ぇぇぇ!」


悲鳴を上げ、立ち上がるどころか草の上を転げ回る羽目になった。


信じられない。


ただ自分の体重を支えようとしただけで、右手首を痛めてしまったのだ。


どういう物理法則だ、これは。


歯を食いしばりながら、自分の手をまじまじと見る。


心臓が跳ねた。


銃を握り、ナイフの傷跡が刻まれ、中年の硬さを帯びていたはずのこの手が――完全に別物になっている。


白く、滑らかで、栄養失調の少年のように細く脆い腕に。


地球で着ていた白い軍用実験着はまだ体にあったが、サイズまで魔法のように縮んでいた。


今のこの小さく、短く、恐ろしく脆い体に、不格好にフィットしている。


――ピコーン。


突然、電子的なシステム音が頭の中で鳴る。


混乱に応えるかのように、目の前に半透明の青いホログラムウィンドウが浮かび上がった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【通知】転生者の魂の同期が完了しました。エルドハローへようこそ!


【ステータスウィンドウ】


称号:『歩くバグ』『最弱の大佐』


名前:アラリック・シロガネ


種族:人間(バグ進化)


職業:なし


≪取得条件未達成――というより、システム自体が算出を放棄した模様≫


レベル:-99


(EXP:0 / -10,000)


[■□□□□□□□□□]


――経験値バー。


レベル-98に到達するだけでも、+10,000のEXPが必要らしい。


不可能というわけではない――ただ、これほど深い負の数から這い上がるには、途方もない時間がかかるだけだ。


【基本能力値】


HP:-500 / -500


[××××××××××]


≪常時、命の灯が消えかけている。存在そのものがバグ≫


MP:-1,000 / -1,000


[××××××××××]


≪魔力破産状態。魔法を感知しただけで脳が爆発する≫


STR:-300


≪最大可搬重量3kg。超過時、全身に深刻な負荷がかかる≫


DEF:-400


≪水に浸したティッシュ並みの耐久度≫


AGI:10 / 10


INT:70


≪一般人よりやや高め――と、システムは表示している≫


【属性】


無し


≪魔法適性ゼロ。属性という概念自体が意味を成さない≫


【固有スキル】


・『冷酷な尋問(インテロゲーション)』


・『不条理の科学脳(ミリタリー・ロジック)』


・『超高速再生(エンドレス・パイン)』


≪効果:全身の負傷が瞬時に完治する。ただし痛覚は100%残留≫


・『不変の生存権(タイムレス・ライフ)』


≪効果:寿命の概念が消失。不老、かつ病気無効の完全不滅≫


・『絶対二重装甲(ダブル・レイヤー)』


≪効果:接触した対象の耐久度を2倍にする。魔法攻撃への耐性を付与≫


【スキルツリー(未解放)】


・『???』―― 条件未達成


・『???』―― 条件未達成


・『???』―― この項目はシステムの読み込みエラーにより表示できません


【装備】


頭:なし


胴:ボロボロの白衣


(本来の耐久度:低。着用者本人より頑丈)


足:なし


武器:なし


【常時発動型デバフ(呪い)】


・『虚弱の極み』:くしゃみで肋骨破裂。


・『老体以上の腰』:お辞儀でギックリ腰が自動発動。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


……は?


呆然とホログラムを見つめる。


あまりにも不条理な数字の羅列に、目玉がこぼれ落ちそうだった。


科学者としての脳が、反射的にこのデータを数理的に処理しようとする。


だが導き出された結論は――完全な論理崩壊。


要するに、ショートだ。


この論理の中で、一番引っかかったのはHPでもDEFでもない。


INTの欄だ。


七十。


この数字には、どこか納得がいかなかった。


今すぐ証明できる材料はないが――俺は自分の脳の性能を、誰よりも知っている。


長年の軍事研究で鍛え上げ、軍の心理士に何度も測定されたIQは、「一般人よりやや高め」などという生易しい数字じゃなかったはずだ。


この体を、水に浸したティッシュ並みの耐久度にまで弱体化させるようなシステムが、知力の数値だけは正確に読み取っているなんて、どうして信じられる?


「人間(バグ進化)」――このステータス自体がそう名乗っているんだ。


肉体のパラメータを盛大に読み違えているのと同じように、精神のパラメータだって、同じくらい盛大に読み違えている可能性は十分にある。


……とはいえ、仮説は仮説だ。


比較対象となるデータがない以上、今はまだ証明のしようがない。


「ふざけるなよ……これはステータスじゃない、呪いだろうが。もう少し手加減しろ」


思春期特有の甲高い声で怒鳴る。


だが、感情に任せて叫んだだけで肺の酸素が枯渇し、心臓が激しく波打ち始めた。


レベルがマイナス99?


HPがマイナス500?


皮膚の強度は濡れティッシュ以下?


――どこの神様、あるいはどこのシステムエンジニアが、こんな狂った計算式を組んだんだ。


これでは、最先端の軍事用スーパーコンピュータのAIプログラムを、今にも壊れそうな安物プラスチックの筐体に無理やり詰め込んだようなものじゃないか。


もしこの世界に野生のウサギがいて、俺の目の前でくしゃみでもしようものなら、その衝撃波だけで俺はショック死して墓場行きだろう。


人類史上、最も報われず、最もゴミのような転生シナリオだ。


頭を抱えるしかなかった。


◇◇◇


――ガタゴト、ガタゴト……。


あまりの絶望的なステータスに頭を抱えていたその時、鋭い聴覚が遠方からの微かな振動を捉えた。


重い木製の車輪が乾いた土を削る摩擦音。


そして、四足歩行の生き物が刻む規則正しい足音。


DEFがマイナス400のせいで、急に振り向けば首の骨が折れかねない。


だから、極めてゆっくりと頭を動かす。


緑豊かな草原の端に、やや開けた未舗装の街道が通っていた。


そこを装飾の凝った一台の牛車が、一定の速度でこちらへ向かってきていた。


引いているのは毛並みの良い巨大な牛。


牛自体は普通に見えるが、御者(ぎょしゃ)台に座る男は麻の粗末な着物を着ていた。


地球の歴史書で見た「東洋風の中世平民」そのままの格好だ。


――現地の文明、か。


脳が瞬時に状況を分析する。


元戦略司令官として、迅速かつ的確な判断を下さねばならない。


地理情報も政治的背景もゼロ。


おまけに、夜風に当たっただけで死にかねないこのポンコツな体で大自然に取り残されるのは、確定的な死を意味する。


あの牛車こそが唯一の生存変数だ。


何としても呼び止めなければならない。


唯一まともな数値――「移動速度(AGI:10)」を頼りに、細く頼りない足を動かす。


早足から、徐々に街道の端へと駆け寄る。


だが、たった十メートル走っただけで胸が焼けるように苦しくなった。


背嚢(はいのう)に鉄塊を詰めてフルマラソンを走り切った直後のように、心臓が激しく鳴っている。


「おい! 待ってくれ! 止まってくれ!!」


折れていない左手を必死に振りながら叫ぶ。


声はかすれ、酸素不足で情けない悲鳴のようになっていた。


――モォォォン! キィィッ!


御者(ぎょしゃ)が気づき、手綱を強く引く。


巨牛が短く鳴き、俺のわずか三メートル手前で牛車を完全に停止させた。


土埃が舞い上がり、慌てて鼻を押さえる。


くしゃみを一回するだけで肋骨が折れかねないのだ。


御者(ぎょしゃ)は深く眉をひそめ、白い実験着とボロボロの服を、強い警戒と疑いの目で見つめた。


腰の鞭に手をかけている。


山賊の囮じゃないかと疑っているのだろう。


「どうした、坊主。そんなボロボロの姿で道の真ん中に立って。何があった?」


牛車の中から、低く威厳がありながら、どこか温かみのある男の声が響いた。


美しい細工の御簾(みす)が上がり、整えられた薄い髭を持つ上品な中年男が顔を覗かせる。


襟元と袖口に本物の金糸で刺繍を施した、上質な紺色の直衣(のうし)を纏っていた。


――その眼差し。


深い慈愛と冷静さを湛え、弱者を決して見下さない目。


この男は教育水準が高く、慈善精神に富む本物の貴族だ。


心理分析の直感がそう告げる。


「突然のお邪魔をしてしまい、深くお詫び申し上げます、高貴なる御方」


地球の最高位の外交儀礼プロトコルを起動する。


警戒を解くための、極めて洗練された口調で続けた。


「私は……不慮の災難に見舞われ、この地に迷い込みました。現在地も分からず、ご覧の通り、体は物理的な限界を迎えております」


貴族の男は俺の姿を上から下まで観察した。


見慣れない白い服、黒いスラックス。


何より、HPマイナス500の影響で幽霊のように青白い顔と、力なく垂れ下がった右腕。


死人のような有様なのに、言葉遣いは宮廷の廷臣(ていしん)のように気品があり理知的だ――そのギャップに、貴族の男は表情を曇らせた。


深い同情を隠そうともしない。


遠方の学者の血を引く名家の子息が、凄惨な襲撃から命からがら逃げ延びたのだろう、と勝手に解釈したらしい。


「ああ、神々よ……何と痛ましい。顔色はまるで死人のようだ、坊主。服も実に見慣れぬものだな」


「凶悪な賊に襲われたか、それとも禁忌の術式の巻き添えにでもなったか?」


貴族の男は躊躇なく牛車の扉を自ら開き、小さな木製のステップを下ろす。


そして、俺に向けて優しく手を差し伸べた。


「まず中へ入りなさい。この辺りの風は、怪我を負った体には冷たすぎる」


「幸い、私はこれから近くの領都へ戻るところだ。乗りなさい」


――ピコーン。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【イベント通知】


バロン・ラインハルト・クロダからの乗車要請を承諾しました


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「貴殿の海より深い慈悲に、心より感謝いたします、閣下」


心の中で、大きく安堵の息を吐く。


哀れな被害者を装う戦術は完璧に決まった。


一歩踏み出し、右足を上げて乗り込もうとしたが、その動作は慎重を極めなければならなかった。


STRマイナス300のペナルティのせいで、自分の脚を持ち上げるだけで百キロの砂袋を持ち上げるような負荷がかかる。


左手で牛車の枠を必死に掴み、後ろに転ばないよう全神経を集中させた。


ふかふかの畳敷きの座席にようやく腰を落ち着ける。


すると、上質な香木の匂いとともに、新しい体のあらゆる関節から猛烈な疲労感が押し寄せてきた。


牛車は優れた衝撃吸収構造のおかげで、ほとんど揺れることなく再び走り出す。


――さて。


この豪華な牛車の中から、俺の科学と軍事戦略の戦いが始まる。


ステータスがシステムに底の底まで弱体化されていようが、奴らは最大の計算違いをしている。


「大佐としての戦術脳」と「教授としての科学知識」――これだけは100パーセント無傷で残されているんだ。


この異世界は、まだ俺の頭脳の恐ろしさを知らない。

少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、ページ下部の**【ブックマークに追加】や【評価(★★★★★)】**をいただけると嬉しいです!皆様の応援が執筆の大きな励みになります!もしかしたら「こういう設定の小説は途中でエタる(エピソードが途絶える)んじゃないか……」と思って、ブックマークをためらっている方もいるかもしれません。ですが、断言します。私はこの作品がライトノベル化、コミカライズ、そしてアニメ化するまで絶対にエタりません(更新を止めません)!ぜひ大佐の行く末を、一緒に最後まで見届けてください!

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