【第12.5話】長男の画策
フェアヴァルタ家の屋敷。
真上に昇った日から降り注ぐ強い光が、積み上げられた書類を照らしていたころ。
家長である男の執務室が、突然バンッと開け放たれた。
「父上!!」
「デレック……ノックくらいしなさい」
長男であるデレックはズカズカと男の机の前まで進み出て、信じられないというような顔で訴える。
「どうしてケイの位が私より上なのですか!?」
「あの子には適性がある。それだけだ。クリスティーナ様の件も無事にやり遂げただろう」
「それなら私だって…!」
憤慨する長男を前に、落ち着いた表情で紅茶を一口すすった男は言う。
「ときにデレック。お前はこの家業以外に、何かやりたいことはないのか。……小人保護機関の仕事は闇が深い。素直な心を持つお前には、余計な責任を負わず幸せになってほしいんだ」
その発言に、デレックは目を見開く。
「父上…? 私は家業を継ぐために、これまで必死に努力を重ねてきたのですよ……?」
一気に父に見放されたような喪失感がデレックの心を占有するなか、男は諭すように告げた。
「どうか分かってくれ。私の大切な息子よ」
その慈しみの表情は、男が本物の愛情を向けた女性から生まれた、唯一無二の我が子にだけ向けられるものだった。
だがそれは、当の本人には、何の響きも与えることはなかった。
父の執務室を離れたデレックは、行き所のない思いをぶつけるように早足で廊下を進んでいた。
(あれもこれも、全てあの小人が悪い)
もともとは、トーマスを使って少し後遺症が残るくらいの毒を飲ませ、伯爵家の話を破談にする手筈だった。
その小人が生死の境をさまようほどになったと聞いたときは驚いたが、死ぬならそれもいいと思った。自分に傾倒するトーマスは口を割ることもないし、憎たらしい次男の成功を邪魔できるのだから。
だというのに、あの小人は後遺症ひとつなく生還し、ことは全て恙なく進行されてしまった。
しまいにはノアベアトまであの小人のもとへ行った。
狡猾な末の義弟も、あの小人の恩恵にあやかって自分の地位を高めようとしているに違いない。
デレックは忌々しい義弟たちの顔を思い浮かべて、拳を握りこんだ。
「…なら、とことん邪魔してやる」
すべては、自分が父に認められ、家長になるために。
ニヤリと笑ったデレックは、小人の保護を申請した貴族のリストに目を落とした。




