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Dark plant  作者: 神崎ミア
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エピローグ

とうとう完結致しました。こんなに長い作品をずっと応援してくださった方々に感謝をして、ひとまずロイルの冒険は終わりです。またどこかでロイルと出会えたらいいですね!それでは、ありがとうございました!…の前にエピローグをどうぞ


  ―数年後―

 風が吹いていた。レニはすっかりと晴れ渡った大海原を見渡して大きく息を吸い込んだ。

アクアドームはあれから、人形の混乱がなくなり、その姿を海軍の特殊部隊に変えて、相変わらずアイリーンの指揮下の元運営している。少佐補となったレニは、久々の休日を外で過ごし、帰る前に色々なことがあった海を眺めた。


「感慨も一入かね、オズボーン」

「いやね、昔のことを思い出しちゃって」

「そうか。色々あったからな」


大佐という地位に上り詰めたルイスは、外での任務をやめて、アクアドームの運営の貢献をしていた。パートナーの少女はすっかり大人となって軍を辞め、今は一人の子をもつ母になったのだという。

レニは変わらず派手な彼の軍服を見つめて、微笑んだ。


「その派手さ、アイリーン様に引けを取りませんね」

「どういう意味だオズボーン…」

「はは、そのままです」


ルイスは悪態をつき、レニを見上げた。


「君は少し変わったな」

「そうですか?」

「ああ、潔くなったな。昔は表裏あってとっつきにくい感じだった」

「そう、ですね。もう隠すことも、失くすものも、ありませんしね」


ルイスは空を自由に飛びまわるかもめの群れを見上げて、そういえばと思い出したように話題を変えた。


「あの男が君に会いたがっていたぞ」

「また、ですか。そんなに人肌恋しいのですかね、独房とういうのは」

「会ってやれ、うるさくて敵わなわん」

「はいはい」




 湿っぽい地下の独房は、一人の囚人の明るさによって妙な空間となっていた。その男はお構い無しに隣の囚人に他愛も無い話をしては看守に窘められていたが、全く懲りていなかった。

独房を訪れていた女性、トレストゥーヴェは呆れたように彼を見つめていた。


「マーリス様、少しは落ち着いて下さい」

「いやあ、これがね、暇な独房やとインスピレーションが湧くやろ?でも人形を作ったらあかん言われてるさかい、ギャグに磨きがかかってな、あは、あはあはは!」

「全く面白くありませんから。はいこれ差し入れ。また看守さんに渡しておきますから一気に食べないで下さいね」

「おおっ!チーズ!いや、おおきに、トッティ」


真っ白な歯を出して爽やかに微笑んだマーリスは、へらへらと頭を下げてポケットからメモ帳を取り出した。


「チーズをネタに新しいジョーク思いついた、なあ聞いて聞いて!」

「嫌よ!もう、姉さんったら自分で差し入れに来ればいいのに仕事が忙しいからって…」

「何だか賑やか、ですね」


レニは騒がしいマーリスの独房を前に苦笑する。トレストゥーヴェはレニの姿に安心して足早に彼の脇を過ぎ去った。


「あ、じゃあ私はこれで!ごきげんよう、レニ」

「あ、待って!チーズのネタを…!」

「マーリス、今度は何のネタですか」


マーリスはレニの姿に目を丸めたが、すぐに目元を緩ませて新作のジョークを聞かせようとメモ帳をめくり始めた。


「待って、兄さんに聞かせたい渾身のジョークは…」

「…それはいいです。それで、私に会いたかったんじゃないですか?」


マーリスは薄く笑んでメモ帳をしまった。そして俯いたまま告げた。


「あれから、メルディスが死んで調度五年ほど経つかな…セイランのコアしか持ってへんトッティはすっかりお姉さんなってしもたし、まあ、僕もちょっと老いたかな」

「寒いギャグを言う辺りもですね」

「寒ないわ!…でも、僕はあの日、生まれ変われた気がした…」

「マーリス…」

「メルディスが体を張って教えてくれた、人間には永遠ちゅうものはあらへんて」


レニは二三度頷いて俯いたままのマーリスを見つめた。


「僕は兄さんと違っていつしか老いて死ぬ。でも今はそれが幸せなんや。独房出たらやりたいことだらけや」

「それは…よかったですね」

「あ、そうや!なんやったら兄さん、僕と相方なる?売れると思わん?」

「思いません」


あっさりと断られたマーリスは不機嫌そうに唇を突き出して抗議したが、やがて笑顔になってそっと潜めた声でレニへと告げる。


「なあ知っとる?トレストゥーヴェ、彼氏ができたんやで」

「それは、知りませんでした…一体誰が?」

「ほら、あのそばかすの彼、最近昇格して伍長なったて。昇格に浮かれて告白しよったって」

「えっ、リックさんが?」


驚くレニに大げさなほどマーリスは笑った。


「僕てっきり、まだメルディスが好きやと思うてたんに、女の子は強いね!」

「本当ですね」


ふと階段の上から、不機嫌そうな声が聞こえて、レニは立ち上がった。


「お、お迎えか」

「はい、では私はこれで」

「またええネタ浮かんだら呼ぶわ、ほなまた」


レニは呆れたように笑んで、独房を後にした。そして、自分を呼んでいた不機嫌そうな少年を見つめて、謝罪を述べた。


「すみません、つい長話しちゃって」

「遅い!アイツの最近話すことなんか九割は下らん、次から無視しろ、いいな!」


レニは思わず我慢していた笑みを堪えきれず笑い出した。車椅子に座っていた少年はムッとしてレニを睨んだ。


「何だ?」

「い、いや、すみません、やっぱり兄弟だなぁって」

「フン、じゃあお前もそっくりだ、残念だったな、レニ」


レニは笑うのをやめ、車椅子を持った。不機嫌そうな態度を崩さない少年に、レニは一本の飴を差し出した。


「はい、どうぞ」

「…何だこれは、僕は人形だから食べられないぞ」

「いいんですよ、飴は簡単に腐らないんですから。飾っておいて下さい、ロイルさん」


少年、ロイルはレニを見上げて、鼻を鳴らした。


「あーあ、ヴァレスが余計なことするから死にぞこなった。最後格好つけた僕はどうしてくれる」

「中々様になってましたよ」

「しかもこの体、やたらとレインが介入してきて不便だ、もっとスラッとした青年の体をあの馬鹿な兄貴に作らせろ」

「残念、ロイルさん、彼人形作り禁止されているんですって」



レニは彼をアクアドームの中央に連れて行った。トレストゥーヴェはそんな二人を見つけて、手招きした。


「何してんのよー!ロイル、レニ!写真早く撮るわよー!」


レニとロイルは顔を見合わせ、レニは車椅子から手を離すと走りだした。


「ロイルさん、競争です!」

「何だと!?卑怯な真似をするな、レニ!」

「早く早く!」


カシャ、と軽快な音と共に、シャッターが切られた。

兵士が集合した写真に一際目立つ車椅子から転げ落ちたロイルの写真が刻まれた。


その中心にははやし立てる軍服を着たヴァレスの姿があり、その胸元にはピンク色のリボンがロザリオと共に輝いているのだった。


ダークプラント、それは人の心に根ついた負の感情。誰もが持っているものであり、憎悪を育てるか幸せな道へと進めるのかは、あなたの選択しだいかもしれない…。






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