第3話 「祈りの届く山」
ハルは慌てることもなく、
淡々と禊ぎの準備に取りかかった。
禊ぎが始まると、山神さまは部屋から出てこられない。
そのあいだ、香が途絶えぬよう気を配るのも、ハルの役目だった。
静かな御堂に、細い煙がゆらゆらと立ちのぼる。
ふと、外で足音がした。
ハルが様子を見に出ると、
人里に住む源蔵じいさんさんが立っていた。
「やぁ、ハル。今日はこれを持って来た」
そう言って差し出した手には、新鮮な野菜が抱えられている。
「ありがとうございます」
ハルは丁寧に頭を下げた。
源蔵じいさんは腰をさすりながら笑う。
「最近は山歩きも辛くなってきてなぁ。歳はとりたくないもんだ……おや?今日は……?」
ふわりと漂う香の匂いに気づいたらしい。
ハルが「今日は――」と言いかけると、
源蔵じいさんは軽く手を振った。
「いや、言わんでいい」
そう言って、静かに御堂に手を合わせる。
「また来るからな」
それだけ残して、山を下りていった。
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禊ぎを終えた山神さまに、白湯を差し出す。
湯気がやわらかく揺れていた。
「……誰か来ていたな。声が聞こえていた」
「人里の源蔵じいさんです。
採れた野菜を持って来てくださいました」
山神さまは少し黙り、やがて不機嫌そうに言う。
「野菜なら、お前の畑がある。
次に来たら要らぬと言っておけ」
ハルは手を止め、山神さまの前に正座した。
「山神さま。
源蔵じいさんも歳です。
もう無理して登らなくてもよい、とおっしゃってみては?」
一瞬、沈黙が落ちる。
図星だったらしい。
山神さまは不機嫌そうに顔をしかめ、
白湯をぐいっと一気に飲み干した。
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その頃、
山道を下りながら
源蔵じいさんはふと、
まだ幼かったハルのことを思い出していた。
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次回は4月1日に、第4話「霧の中の赤子」を更新予定です。




