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52話 戦闘員:チャールズvs『瞬雷』

「敵襲! 敵襲ぅ!!」

「くそったれ! 何処だ!!」

「ぐああああっ!!」

「副隊長がやられた!! 引けっ」

「ダメだっ。後ろが詰まってやがる!!」


 トライデント連合王国が展開する騎獣軍団は阿鼻叫喚の地獄絵図を醸し出していた。

 見えざる相手に強靭なはずの騎獣は刻まれ、鋼鉄の鎧ごと両断される事態が多発。だが、相手の姿は見えず、唯一見えるのは稲妻如き光と


「遅い遅い遅い遅い遅い遅いィイイイイイイイイイイイ!!!」


 狂ったように甲高く叫ぶ男の声と、ガギュンっと強引に鉄を刻むような金属音だった。

 その正体をトライデント連合王国の精鋭である兵士達は知っていた。


「くそっ……! これが『瞬雷』か!!」


『瞬雷』。それは見えた時には既に凶刃が身を刻んでいる事から名づけられた『祝福(ギフト)』であり、狂人の名だ。

 文字通り眼にもとまらぬ高速軌道による一撃は肉と鎧を削り切り、まともに受ければ内臓を吹き飛ばす。『剛力』とは違った非常に強力な『祝福』持ちだ。

 敵兵を笑いながら倒す『剛力』と似た様に思える男だが、性質はこの男の方がより残虐極まりない。


「がはっ……!」

「やられたっ! 助けてくれ!」

「死ぬ……死んでしまう……寒い……助け」

「足が、足がぁあっ!!」

「目がぁああっ!!」


『瞬雷』は命を刈り取らず、致命傷を与えながらも生き地獄を味あわせ、助けに来た兵を刻み更なる被害を意図的に拡げていた。


「いいねぇいいねいいんえぇぇえええ! もっと聞かせろよ悲鳴を! 足掻け足掻け足掻け!! そして惨たらしく無意味に死ねよおおおおおぉぉぉ!! ぎゃははははははははっ!!! 臓物をぶちまけろおおおお!!」


 今もまた、トライデント連合王国の大隊長を務める男へ向けて、稲妻如き速さで凶刃を向けて駆けていく。

 それに気づく者はトライデント連合王国の兵の中にはおらず―――パンゲアの戦闘員だけが気づいていた。


「カバ―っ!!」


 ガギィンっ―――――――――!!


 甲高い金属音同士がぶつかり合う音が聞こえる。

 激しい音に気付き、大隊長が目にしたのは黒い軽鎧を纏ったパンゲアの戦闘員チャールズの姿と、稲光を放ちながら両腕を弾かれていた『瞬雷』の姿だった。

 この時、トライデント連合王国の兵士達は始めて『瞬雷』の姿を目にした。

『瞬雷』は重鎧を身に纏い、両腕に稲光を纏わせた爪を持った男だった。

 フルフェイスの兜のスキマから覗かせる瞳はギラついており、『剛力』が猛禽類ならば『瞬雷』は肉食獣そのもの。

 空を舞いながらギロリと動く瞳を見てしまったトライデント連合王国の兵士達は、思わず身を強張らせる。

 だが、『瞬雷』は兵士達に目をくれず、殺意を高めながら今先ほど自分の爪を弾いたチャールズへと怒りをぶちまける。


「止めやがったなぁてめええええぇぇぇぇええ! 俺を止める奴は許さねぇ許さねぇ許さねぇええええええええ!!」

「ヘイッカモンッ!! ユーたち、これは私が貰い受ける。オーケィ?」


 突如現れたチャールズの聞きなれぬ独特な口調にトライデント連合王国の兵士達は戸惑いながらも、千載一遇の好機を逃さなかった大隊長は大きくうなずく。


「すまぬ! ここは任せた! 全軍、迂回し進軍せよ! 負傷者は救護部隊が担ぎ即時後方の陣地へ下がれ」


 的確な指示にチャールズは思わずヒューと口笛を吹く。理に適した迅速な指示はチャールズから見ても見事だったのだ。

 ここで引いては折角押し上げた前線を引いてしまう事になり、戦闘継続による更なる消耗を重ねてしまう。

 機動力重視である騎獣部隊にとってはそれは大きな負担。ならば、ここは少なくない負担を強いてでも攻め込み、前線を押し上げた方が吉と判断した。チャールズが隊長であっても同じ判断を下しただろう。


「させるかぁあああっ!! 殺す殺す殺す殺すうぅううううううううう!! 頭をぶちまけてやんよおおおおおおおおぉぉ!」

「ヘイッ! 私を、スルーはさせないヨ!」


『瞬雷』は兵士達に強襲を掛けんと、稲光を放ちながら軍勢に迫るべく足を踏み出すが、それよりも早くチャールズが回り込み行く手を塞ぐ。


「ちっ!! だったらぁぁあっ!! てめぇからぶち殺してやるっっっ!!!」


『瞬雷』は稲光を全身に纏い、ビシャンッと雷が落ちるような音と共に眼前にいるチャールズへと爪を振るう。

 その速度は弾丸を超え、音速の域を超えた超音速。

 周囲にソニックブームを巻き起こし、『瞬雷』が纏った重鎧自体が巨大な砲弾となる一撃は――チャールズの両腕により捕えられていた。


「んなっ!?」

「この程度かい? ボーイ。この程度で、この程度で命を弄ぶナ!!」


 チャールズはがっちりとした組み突きから、両腕を万力如き力で掴みながら『瞬雷』の身体を大きく持ち上げ、地面へと叩きつける。


「ぐげぇえっ!」

「まだまだぁ!」


 チャールズは腕を放さず、そのまま腕の関節を極めつつ、肩へ担ぎ大きく跳躍して片と背中、足を壊していく。

 見るものが見れば、それはアルゼンチンバックブリーカーだと判るだろうが、それを知る者はこの世界には数少ない。

 戦闘員、チャールズは軍人上がりの戦闘員であり、関節技、投げ技のエキスパート。その技の種類はプロレスからスモウ、サンボコマンドと多岐にわたり、特にスモウの組みつきは横綱でさえも振りほどくことは出来ない。

 この世界では戦いとなると、組みついて戦う経験は皆無。チャールズのような戦い方をすること自体が異常なのだ。

 無論、組みつくとなると大けがは免れず、現にチャールズは戦闘員スーツ越しに肉体に少なくない傷を負っている。

 だが、この程度の痛みは傷などチャールズにとっては慣れたもの。

 今は一刻も早く、この外道を沈黙させるべく最善の動きで『瞬雷』を破壊していく。


「パワァァボッッ」

「ぐげああああ!!」


 両足を抱えられたまま、頭から地面に叩きつけられ、重鎧越しに強烈な衝撃が骨だけでなく内臓にも受けフルフェイスの内部に大きく血を吐く。

 ベキっっゴキッゴキゴキゴキリっと生々しい骨が壊れていく音を間近で聞く者がいたら思わず耳をふさぎたくなるだろう。

 ――『瞬雷』はその音を体の内側から聞いており、既に初めにあった勢いは完全になりを潜め、今や怯え竦み、泣きじゃくりながら逃げようと必死に足掻いていた。


「ひぃっ、死にたくない。助け、助けて。俺は、俺は死にたく」

「ノン、お前はここで死ぬ。ドクターも、お前は処分して良いとのオーダーだ」

「ひいいっ!!」


 チャールズは普段の明るさから想像もつかない程に黒く冷たい声色で告げ、『瞬雷』を大きく空へと放り投げ自らも足に力を込めて天高く放り投げられた『瞬雷』目掛けて飛ぶ。


「あああああぁぁぁぁ!!??!?」

「パアァァアアイルっ!!」


 そのまま上空で『瞬雷』の足を両腕で掴み、腰へ足を絡ませて自重を含ませて落下し――


「ドライバァアアア!!」


『瞬雷』を地面に叩きつけ、身体の半分以上を地面に埋めていった。

 豪快な投げ技をまともに受けた『瞬雷』はびくりとも動かず、チャールズはゆっくりと立ち上がる。


「UIAAAAAAAAAA!!」

「オオオオオオオオオオオオォォォォォ!!」


 拳を突き上げ、勝利宣言の雄たけびに周囲の兵士達が歓声を上げ、同じように拳を突き上げる。

 歓声の波状は瞬く間に広まり、ティルファング兵には恐怖を、パンゲア、連合国側には敬意と畏怖を与えていく。

 その様子を上空から見ていたシルバーイーグルに搭乗しているレイは満足そうに頷く。


「流石はイヴだねぇ。『瞬雷』相手にチャールズをぶつけるなんてボクには考え付かないよ」

『目標『瞬雷』死亡、『剛力』無力化、ここまでは作戦通りです。Drレイ、全軍の進軍を提案します』


 シルバーイーグルの提案にレイはしばしの思案の後、このまま推し進めても問題ないかと思い進軍の命を出そうと思ったその時、天性の直感というべき嫌な予感が走る。

 この予感がした時、殆どの場合現在の状況を覆す何かが起きていた。

 ヒーロー達の襲撃、怪人達の死亡、アンノウンの強襲など様々な時にこの予感を感じた。


(まさか、この状況で何か来るというのかい!?)


 その予感は正しかった。思考の海に沈むレイにシルバーイーグルの人工知能が疑問を感じていたその時、サポートに回っていた同じ人工知能の『ナナ』の切羽詰まった声が船内に響く。


『レ、レイ博士! シルバーイーグルさん! 第三城壁に巨大なエネルギー反応を感知!! こ、このデータはっ!!』

「ナナ、落ち着きたまえ。シルバーイーグル、第三城壁を拡大してくれ」

『了解。っ……これはっ』


 第三城壁の様子を拡大したレイ達が目の当たりにしたのは、全身から煙を上げて黒焦げなった『天壁』の男の姿、もはや後も残さずに影のみが残るティルファング兵士だったモノ、そして全身から『瞬雷』とは比べ物にならない程に膨大過ぎる電流を放つ騎士の姿だった。

 騎士は『天壁』の残骸に向けて、直径1メートル物の雷の柱を打ち込み跡形もなく消し飛ばしていく。

『天壁』は雷の柱に飲み込まれ、『祝福』のお蔭か数秒は耐えるものの四肢の端から崩れ落ち細胞ひとつ残らず消えていく。

 その姿を見たレイは言葉を無くした。

 あまりの強さではない、あの鎧に見覚えがあった。


「あいつは――!」


 第三城壁を砂上の壁を崩すかのように粉々に粉砕しながら、周囲に落雷を落とし続ける騎士。

 シルバーイーグルはレイ以上にショックを受けていた。


『まさか、まさか、あの方が、あの人がそんな訳』


 人工知能にエラーが起きる。信じたくない、信じられない。

 その姿に、力に覚えるのある、あり過ぎるのだ。

 そのあまりの動揺っぷりにレイがいち早く正気に戻り、イヴへと通信を繋げる。


『イヴ、聞こえるかい? 緊急事態が起きた。――聖騎士戦隊クルセイジャーの一人、クルセイジャーイエローを発見。現在、敵側で殺しつくしている――』


 レイは冷静に心を落ち着け、召喚により姿を消した聖騎士戦隊の一人が暴威を振るいながら姿を露わにしたことを伝えるのだった。

異世界に滅多にいない投げキャラ


今日はここまでです。

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それでは、また次の日曜にお会いしましょう!

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