51話 戦闘員:栄一vs『剛力』
「いけっ!! GOGOGOGOO!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
戦場の最中、猛然の如く進むのはパンゲア軍が率いる戦闘員部隊。
常人の兵士よりも数倍の戦闘能力を持つ、まさに戦闘の為に作り出された者達。戦闘員、および戦闘鬼達はティルファング兵達を文字通り蹴散らしていた。
激しい訓練の賜物か、強化された肉体に振り回される事なく戦いを有利に進めていく。
そのような中、突如部隊の一角が吹き飛んだ。誰もがティルファング兵達が飛んだのだと思ったが、戦闘員達が目の当たりにしたのは戦闘員、戦闘鬼が無残にも木の葉のように吹き飛ぶ姿だった。
「きゃははははは!!! 潰れろ潰れろおぉおおおおおぉ!! 『剛力』全開でいっくよー!!」
暴風の中心にいたのは見た目ボロキレを纏った10歳程度の小柄な少女だった。だが、両手には大の大人、それも戦闘鬼ですら持つことが困難な超巨大な鎖付鉄球を易々と振り回していく。
中には鉄球が軽いと思い、真正面から受け止めた者達もいたが数人がかりでも鉄球を受け止める事は出来ずに吹き飛ばされていく。
「ぐあああっ!!」
「なんて、力だっ!!」
「オーガの俺が押し負けるっ……だとっ! これがっ! 神の『祝福』
五人がかりで鉄球を受け止めた事に『剛力』の少女は楽しそうに笑っていた。
「きゃははあっ!! おにーさんたち凄い凄いねぇ!! わたしの攻撃受け止めたの『祝福』持ち以外で久々だよ!! でも―――尾上がお留守だぞ♪」
少女が操る巨大鉄球は二つ。
その片方を受け止めた戦闘員達を叩き潰すべく、頭上から勢いが付いた鉄球が振り下ろされる。
「貴女は足元がお留守ですよ」
当るかと思った瞬間、少女の足元から声が聞こえた。
「えっ? きゃっ!?」
黒い鎧を纏った戦闘員――栄一が少女の足を払い勢いよく転んだ。栄一はその隙に鎖を大きく引き寸での所で鉄球の進路を逸らす。
ズウウウゥゥンッと大きな地響きとともに、鉄球が落ちた先では巨大なクレーターが出来ていた。
それを見た戦闘員達はぞっと背筋を青くした。
これをまともに受けていたら確実に死んでいた。改造手術を受けた身でもこの一撃は耐えれないと判ってしまった。
「もー!! 邪魔しないで!!」
『剛力』の少女は両手を地面に付き、軽快に飛びあがる。地面は両手の形に抉れており、その祝福通りの力を無邪気に残酷に振るう。
栄一は少女を真っ向から受け止めると、栄一の後ろの地面が吹き飛び隆起する。
「おーー!! 凄いねおにーさん! 私の力受け止めるなんて! 祝福持ちでも一人で受け止めた人なんていないよ!!」
「それは光栄ですね。皆さん、この子は私が相手します。負傷者を担ぎ撤退を」
「しかしっ!」
「総帥は貴方がたの損失を望みません。それに、この子の相手は私ぐらいで無ければ務まらないでしょう。それが判らない貴方達でもない筈」
「くっ……」
栄一の言に戦闘員達は反論できず唸るしかできない。
彼らは盗賊上がりの戦闘員だ。やっと、人に頼られる様な仕事が出来た。人を守れるだけの力を得た。
だが、目の前にいる相手は正真正銘の化け物。神の祝福を得た人外。
「あははははあっ!!! そうだよ!! 弱いおにーさんたちは引っ込んでおいて!!」
喋りながらも、風を唸らせながら拳のラッシュを繰り出す『剛力』だが、それを栄一は巧みな手さばきで受け流し逆に隙を作り抜き手でカウンターを決める。
栄一もまた、彼らから見れば化け物であり人外だ。オーガが生易しく思える程に。
ここにいても自分たちは足手まといにしかならない。そう思い、仲間に肩を貸しながら起き上がると、少女に吹き飛ばされた栄一が彼らの傍まで後ずさる。
「貴方がたの活躍はこの後にある。頼みましたよ」
「っ……!!」
明らかな足手まといだった自分達を、まだ頼ってくれている栄一に盗賊上がりの戦闘員、粗暴だったオーガの戦闘鬼達は目を大きく広げその言葉を心に沁み込ませると大きく頷く。
「判りました。ご武運を」
「そちらもっ」
飛び跳ねるように戦闘員達は動く。片や仲間を抱えて今後の為に一時撤退を。
片や、総帥の命を執行すべく神の先兵へと飛びかかるゲセルシャフトの先兵。
「ゲセルシャフト戦闘員、悪童・栄一。参ります!!」
「あははは!! 私は『剛力』。名前なんてない! ただの『剛力』。ぶっつぶれちゃえ!!」
誇りある名を告げる戦闘員、そして名無き『剛力』。
力と力がぶつかり合い、拳同士が打ち合うたびに大気が震え地が抉れる。
力は『剛力』が上回るが、技量は栄一が上だ。
『剛力』が使っていた巨大鉄球は既に鎖が千切れ飛び、使い物にならなくなり今は拳同士を打ち合う。
互いに当たれば大けが免れず、既に栄一の右腕が指の形に抉れていた。
『剛力』の少女もまた、内臓を痛めたのか口から血を流しつつも、歓喜に震えながら笑顔で拳、足を繰り出す。
『剛力』の少女の戦い方はお世辞にもスマートと言い難く野生児そのものだ。
それはそうだろう。彼女は奴隷上がりの『祝福』持ちだ。
強ければ生き、弱ければ死ぬ。弱肉強食の環境で生き延びた彼女は野生児じみた動きで相手を翻弄し、隙を作り出して命を喰らって生きつづけた。そうしなければ死ぬのだから。
王国の『祝福』に選ばれても、彼女は変わらなかった。
敵は叩き潰す。弱い者は嫌い。まさに野生そのものを体現した少女。それが『剛力』。
指の力はワイバーンの爪よりも鋭く肉を抉り、拳の力は破城鎚そのもの。凡そ人が耐えれる物ではない。
だが、目の前の戦闘員の栄一は耐えるどころから隙を見出して反撃までしてくる始末。
『剛力』に匹敵するヒーローと幾度となく激戦を繰り広げた歴戦の戦闘員は真っ向から迎え撃っている。
「きゃははははは!! 楽しいよ!! おにーさん!! もっとやろう!! もっともっと私に付き合って!!」
初めて歓喜に震えた。対等に戦える存在に『剛力』はあらん限りの『祝福』の力を引きだし叩き潰さんと猛攻を繰り出す。
対する栄一は、常に冷静に攻撃を見極め受け流し、時には拳を滑らせて貫手で肩を穿つ。直撃を受けた『剛力』の少女は血しぶきが上がるも、痛みなど感じないかのように暴れまわり栄一は中々決定打が打てずにいた。
(強さで言えば怪人の方々に匹敵しますね。これが『祝福』ですか。このままでは分が悪い――賭けに出ましょう)
栄一の優れている点は戦いながらも冷静に自分と敵との実力差を把握できる点だ。
栄一は銀二のように機械操作に飛びぬけてすぐれたり、チャールズのように軍隊上がりの体力化け物でもない。
ただただ平均的で――器用貧乏を極めた万能型だ。
それ故にあらゆる状況に応じた動きが出来、多くのヒーローとの戦いが栄一を育てた。
圧倒的過ぎる力には、生半可な奇策では直ぐに打ち破られ、長期戦はあの暴れっぷりから見ると不利極まりない。
そこで栄一は切り札を切る。
多くのヒーロー達との戦いで積み重ねた、栄一のみが得た力を。
「――ブースト!!」
意識を集中し、栄一の特製戦闘員スーツに組み込まれた超加速装置を起動させ、倍以上の速さで『剛力』の少女の後ろに回り、回し蹴りを叩きこむ。
瞬間的な超加速に『剛力』の少女は対処できず、マトモに背中から吹き飛ばされる。
「がぁっ!? う、後ろ!? いつのまっ」
「まだまだですよ」
「ひぎっ!!」
地面に付く前に栄一は超加速状態で走りながら、実弾による精密射撃で背中を追撃していく。
鋼鉄の弾丸は『剛力』の少女の肉体に食い込むも、強靭な肉体を貫くことが出来ずに皮膚の表面で食い留まるが、衝撃は内へと通っていく。
「こ、んのおおおっ!!」
「当たりませんよ。そこです!」
手刀による抜刀。超加速と身を持って受けて覚えた抜刀術を回り込みながら打ち付ける。その回数は十。
手、足、腕、脚、胴、右肩、左肩、腰、背中、胴と十か所に手刀を刻んでいく。
もはやマトモに反撃どころか防御も間に合わず、『剛力』の少女はゴムまりのように吹き飛ばされながら地面に叩きつけられる。
それでも『剛力』の少女を倒すに至らず、血反吐を吐きながらクレーターから起き上がろうとするが――。
「がっあっ! あはっあはははっ! 耐えた、耐えたぞ。次は――」
「終わりです」
「え……」
一瞬の間、ようやく反撃に移れるかと『剛力』の少女は怒りと喜びを露わにしたのもつかの間、栄一は既に彼女を仕留めるべく空へ飛んでいた。
上空で体勢を整え、足先を『剛力』の少女へ向ける。
それは多くのヒーローが憧れ、必殺の一撃としていた蹴撃であり、彼が心酔する総帥の必殺の一撃。
「――《オーバーブースト》、クリムゾンシュート!!」
大気熱が栄一を紅く赤熱化させ、超高速で迫る一撃を見て『剛力』の少女は――笑っていた。
「あハハハハはッ!! 負けないっ私は負けないっ!! つぶれちゃえええええぇぇぇぇええええええ」
避ける事もせず、恐怖を――まるで持ちえないかのように『剛力』の少女は『祝福』の力を最大限まで引きだし、身体の至る所から血を流しながらも拳を栄一へと叩きこむ。
力と力がぶつかり合い、周囲に強大な衝撃波が巻き起こり戦いを見守っていた周囲の戦闘員や兵士達が瓦礫と共に吹き飛ぶ。
一瞬の拮抗ののち、
「あ、あっ、ああああああああああっ!!」
栄一のクリムゾンシュートは『剛力』の少女の拳を弾き飛ばし、その胴を穿ち大爆発を巻き起こす。
爆発の後には、白目をむき完全に意識を失った『剛力』の少女が横たわっていた。
その少女の姿を見た栄一はホッと安堵し、《ブースト》のスイッチを切る。
「残り4秒。ギリギリでしたね」
栄一の切り札のブーストは速度に限り身体能力を限りなく引き上げる。その代償は全身疲労にとどまらず、限界を超えれば命すら危うい諸刃の武器。
それでもこの切り札を切ったのは、かつてのヒーロー達のように護りたいものがあるからだ。ならば、戦闘員でありながらもヒーローの動きを模倣するのが一番。
そう、先ほどまでの栄一の動きは全ては、彼がヒーローを直接見て覚えた動きだ。
自らの能力を遥かに超えるヒーロー達を倒す為にレイに頼み込み、取り付けて貰った特殊機能により、十全にその力を発揮することが出来た。
「レイ博士。戦闘終了、対象『剛力』の制圧に成功しました」
『了解。直ぐにそっちに人を回すよ』
栄一は通信を飛ばすとすぐさまに他の戦闘員達が栄一の元へ駆け寄ってくる。
「この子の捕縛と保護を。『祝福』の解明は最優先事項です。くれぐれも殺させぬように」
「了解しました」
これほどまでの力を与える『祝福』。組織としてはこの力を放っておくわけにはいかないとレイの判断だ。
「まだ私達は負けるわけにはいかないのですよ。こんな、人を使い潰すような三流国家には」
戦闘員を倒しえるはヒーローである。決して、ヒーロー以外には負けないと心に決めた栄一という戦闘員は再び動き出したティルファング兵へと拳を向け、疲労困憊を見せずに戦いへと身を乗り出していった。
今日はここまでです。
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それでは、また次の日曜にお会いしましょう!




