16話 格の違い
幾度となく杖を振るい、エッケザックス軍を吹き飛ばす作業に段々飽きてきた。
仕方ないだろう。いつも相手をしているのは手練れのヒーロー達だったのだ。このような攻撃なぞ軽々避けられるし、防がれることも数知れず。
デモンロイドなぞ……うん、アイツの事は考える事は止めよう。戦闘中に成長する悪魔『アスモデウス』の力を得ているあの男は我でも手間だ。
「これ以上やらせるかぁあああ!」
「勇気は認めよう。だが、それだけだ」
「ぐあぁああああああっ!?」
中には、勇敢と無謀にも我に挑みかかる兵士もいたが、文字通り鎧袖一触。剣ごと鎖帷子を砕かれ、吹き飛んだ。
身体能力任せに杖を振るっているだけではない。杖には重力場を纏わせ、威力を遥かに増している。重力場に触れればありとあらゆるものが圧縮崩壊し、如何に頑丈であろうと何の対策もしていない防具では防ぐ手立てはない。
ヒーロー達でさえも対策で来たのは自己進化のデモンロイド、驚異の科学技術により様々な武具を作る博士をバックに持つクルセイジャー、星の女王の恩恵を持つプリズマ・プラネット達だけだ。
飽きるほど振る杖を振るっている我だが、重力操作で纏めてなぎ払わないのには理由がある。
今の戦場では至る所にエッケザックス軍とクサナギ軍が交戦しており、迂闊に『ノワールスマッシャー』や他の技で薙ぎ払えばクサナギ軍にも被害が出る。もしまとめてなぎ払ってしまえば遺恨は残り後々面倒な事になる。
なので、仕方なく小隊ごとなぎ払ってるという訳だ。
幸いにも、小鴉丸が良い動きをしてくれるので戦況はクサナギ軍に急激に傾いている。
「何としてでもあの者を止めろ!! 魔法部隊打てぇええええええ!!」
やや離れた位置から魔法杖を持った部隊が我に杖を向け、魔法の一斉射撃を放つが、身体に張っている重力フィールドで魔法は全て弾かれ逸れていく。
あれならばクサナギ軍を巻き込む心配はないだろう。
「押し潰れろ。グラビトン」
地面に押さえつけるように重力を叩きこむ。
「!? 身体がっ押さえっ!? ぐあああっ!!!」
「重っ……! 潰れぎゃあああああ!!」
通常の五倍の重力を真上から受けた部隊は地面にめり込むほどに抑え込まれ、悲鳴を上げる間もなく圧死していく。
エッケザックス軍の悲鳴が聞こえるが無視。クサナギ国に攻めてきたのはお前らだ。助ける理由なぞ無い。
潰れるさまを見せつけられたエッケザックス軍の一部が恐慌状態となり、絶叫に近い命乞いをし始める。
「た、たすけてくれぇええっ!!」
「あんなの相手してられるか! 投降する! 杖も捨てるから助けてくれ!!」
流石に、武器を捨てて投降した者の命まで奪う無作法をやるつもりはない。そういった奴らはクサナギ国の兵士達に任せている。
捕虜は貴重な労働資源だ。戦争で消耗した国内を復旧させるには捕虜の手はあるだけいい。
「こんな所にいられるかあああ! 俺は逃げるっ!」
「待てっ! 俺をおいていくなよおおお!!」
逃げだした兵士もいたが、正直追うのが面倒だ。向かってくる相手を倒すだけに集中だが既にエッケザックス軍は壊滅してると言ってもいい。
ここからひっくり返すのは何かしら切り札が無ければ無理だろう。
そんな事を思っていたのがフラグとなったのか、我の右斜めの方角に展開していたクサナギ軍から悲鳴と絶叫、そして憤怒に満ちた声が聞こえてきた。
「マガツだ! マガツが出たぞ!!」
「くそったれ! なんでこんな時に!!」
目の前の兵士に回し蹴りをし「有難うございます!!」と変な声を無視して、クサナギ軍の方を見やれば身の丈4~5mほどの全身甲冑のような機械が無骨な鉄塊如き大剣を振り回し、暴れていた。あれがマガツ、とやらか。または乗ってる奴の名かもしれん。
その体格に加え、俊敏さ、力など目を引くものがあるが、何より目を引くのはその胴体に鎖と甲冑に埋め込まれるように張り付けられた獣人の姿。
狐耳を生やし、艶やかであったであろう金髪は血に濡れ、四肢は無く尾も見えない。辛うじて鎖が女性としての尊厳を守る様に巻きつけられているが、そんなものは慰めにもならない程に非道の限りを尽くした後が見える。
それでもまだ生かされた女性の獣人。――あれに見覚えがある。正しくは面影にだが……。
「王妃様をかえせぇええええ!!」
そう。リンだ。王妃というのであれば――あれはリンの母親だ。
リンからここに向かう途中で聞いたのだが、リンの母親、クサナギ国の王妃はオウカ砦の決戦の際、王族自ら剣を持ち前線に出て味方を鼓舞し戦いに挑んだというがオウカ砦は堕ち、生存は絶望的とされていたがこのような事になっているか。
「がっはっはっは! いいのかぁ! このままだとお前らの大好きな王妃様にぶっすりとささっちまうぜぇ!?」
「ぐっ!! この卑怯者がぁああ!」
「褒め言葉だなぁ! とっととぶっつぶれろぉおおおお!!」
機械の巨人越しでも判る下種で下品な声が戦場に響く。王妃を生きた盾にされ、クサナギ軍の兵士達は迂闊に攻撃する事も出来ず、躊躇している間に剛剣が振るわれクサナギ軍の兵士が圧死する。
剛剣により無慈悲に失われる命。ついには対峙していた部隊も撤退した。その時の部隊を率いていた指揮官の血涙を我は見逃さなかった。
そこに、一体のワイバーンに乗った男が機械の巨人の傍に降り立ち、我の方を指差す。
どうやら、空から暴れていたのが我だと判り、真っ先に排除すべく助言をしたようだ。
粉塵を撒き散らしながら轟音を鳴らして我に向けて一直線に掛けてくる機械の巨人。クサナギ軍は必死に退避したが、この手ならあちらの世界で幾らでも相手にしたので驚く事なぞない。
「てめええが戦いに茶々いれやがった女か! 良い女だなぁおい! 気に入った! てめぇも四肢を千切って、玩具にしてやるよおおお!!」
猛然の勢いで我に掴みかかるマガツ。
兵士達の動きに比べれば圧倒的な早さだろうが――まだ遅すぎる。
軽く跳躍し、ひらりと避けてその腕の上に乗る。
遅すぎて欠伸が出る程だ。ふぁああ……。
「てめぇえっ! 欠伸なんぞしやがって!」
我を振り下ろす様にマガツは拳を振るい、剛剣を振り下ろすがそんな雑すぎる攻撃が当たる訳がない。
衝撃波も計算に入れ、軽快なステップで避け続ける。
避ける度に地形が変わるほどに地面が抉れ、岩が砕けるが破片も泥も我にかかることはない。
「避けるだけじゃ、一生かかっても俺様には勝てねぇぜ!! おらおらおらあああああ!!」
「ああ!? 逃げろ、逃げてくれ!!」
「頼む! 逃げてくれえええ!!」
周囲では悲鳴の声が聞こえ、マガツからは愉悦に満ちた高笑いが聞こえる。
その中で、ぼそりと、我にだけ聞こえる声量で女の声が聞こえた。
「そこな、令嬢よ。頼む……妾を……妾を殺し、てくれ。もう、生き恥も、足かせにもなりたく……」
「断る」
「なっ」
誰がそんな頼みなぞ聞くものか。我は我の思う通りにしかせぬ。
これまでも、これからもずっとだ。だから――。
「黙って目を閉じていろ。目を覚ました時、貴様を縛り付けたアレは壊れている」
「……」
「我は破壊する。常識も倫理も、下らぬと断じた物全てを」
「しねえええぇぇえええええ!」
「喧しいわ阿呆が」
振り下ろされた剛剣を片手で受け止める。
「んなっ!?」
「もう機構は読み取った。避ける必要すらない」
今までただ避けていた訳ではない。動き、可動域、何処まで彼女の身体が入り込んでいるかずっと観察していた。
「ぐぎぎぎっ! 剣が、動かねぇえええっ!!」
「その剣は無粋だな。潰れろ」
剣目掛けて、超重力を直接叩きこみ、大剣を握りつぶす。一瞬のうちに剣を失ったマガツとやらはたたらを踏み、後ろに倒れそうになるが――早々倒れられては困るのだよ。
「う、わっなななぁああっ!? 浮いた、浮いてる!?」
「浮く如きで喚くな阿呆が」
そのデカい図体を覆う様に重力場を形成。四肢を伸ばす様に重力を操り、大の字に固定する。
アレをバラすには杖では難しい。ならば――。
「『ルシファー』シュヴェルト・フォーム」
音声認識で、長杖『ルシファー』の機能を使う。
長杖『ルシファー』は我の声に反応し、先端のデモンズカードが紫色に輝くと杖の形状が変形し、刀状へと変化する。
長杖『ルシファー』は手に持った瞬間にどのような機構が加えられているかどうかが自然と頭の中に入ってくる。その使い方も全て。
その謎技術は全てはレイの手によるものだ。全く……頼りになる奴だ。本当に。
「糞オオ!! 放せ、はなしやがれええええ!!」
「五月蠅い雑魚めが」
「雑魚、だと!? この俺が、このマガツが雑魚だとでもいうのか!」
「雑魚だろう。たかが少し大きい程度の玩具を手に入れたチンピラ風情が。――格の違いを教えてやる」
世界に『悪』と認識されたその力、その身に受けろ。只の悪党が。
「至極・天」
足先から指先の全てを駆動させ、幾度となく使い慣れた技。超重力の刃は狙った物だけを切り取る。狙いは――その無粋な拘束だ。
黒い剣閃が走れば、一瞬の間に王妃を捕えていた鎖と甲冑の表面だけを切り裂き、王妃が我に向かって緩やかに落ちていく。
我はそれを左腕で受け止めながら、右腕を付きだし杖に内蔵する『ルシファー』の力を引き出す。
背からは二枚の漆黒の翼が現れ、右の掌に超重力の渦が集まる。
「これが悪と呼ばれた力だ。『デットエンド・ブラスト』」
掌から大気、そして光すらも飲み込む1m程の太さのレーザーを放つ。
デットエンド・ブラストは超重力を圧縮崩壊の域まで引き上げ、放つ正に必殺技だ。最終決戦でも使用するほどのな。
そして多くのヒーロー、そして魔法少女プリズム・プラネットの宿敵、世界を滅ぼさんとした星の魔神を葬り去った一撃だ。
重力場により動きを封じられたマガツは耐えきれる訳もなく、4mを超える巨体は圧縮崩壊の渦に飲まれる。
残骸も、悲鳴すらも残さずにその巨体を消し去り、デットエンド・ブラストは漆黒の線を描いて雲すらも貫いた。
デットエンド・ブラストの余韻が周囲に静寂を作り上げた。当然だろうな。
だが、まだ力が不足してる所為か、思ったよりも出力が出なかった。
羽根も二枚だったしな。本当ならば六枚羽根だが、出力が3割しか出なかったので二枚だ。それでも十分だったから今は良しとしよう。
静寂が戦場を包み込み、しばらくたつとようやく状況を飲み込んだのか、クサナギ軍から歓声が巻き起こった。
どうやら戦いの行く末を見ていたようで、あれを倒したことにより勝敗が決したようだ。
残った王妃は優しく上着を掛けて両手で抱える。
手足、尻尾を失った王妃は見るも痛々しげな姿だが、息はある。このままこの身体を晒すのは宜しくないな。我の為にもな。ここはコートで身体を隠しておこう。大人の時の我の体格に合わせたものだから隠すにはもってこいだ。
さてと、クサナギ国へと凱旋と行こうか。彼女の治療を含め、これからの事を交渉しにな。
歩き出した我の傍に小鴉丸が羽音を鳴らしながら降りてくる。
「総帥。逃げ出した副官の男ですが、追いますか?」
マガツに付き添っていた副官の男は気づけばいなくなっていたが、左程問題はない。どうせ小物だ。
「放っておけ。どうせ国に我の事を伝えに行ったのだろう。手間が省けるというものだ」
「承知」
恐ろしさを伝えて折れたらそれはそれでよし。また戦力をつぎ込んでせめて来れば――今度は殲滅だ。向かう手間が省ける。




