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少し、存在意義について語りたいと思う。  作者: ふきの とうや
第一章 shepherd's purse 後編
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プサン 3

 私の声で目の前にいる死神に気づいた彼が咄嗟に横に避けようとしましたが、間に合いません。車輪は死神の肩を轢き、車体が宙に浮きあがります。


「掴まって!!!」


 彼の必死な声が聞こえました。その声に負けないくらい必死に彼にしがみつきます。

 おかげで、バイクから振り落とされずにすみました。バイクが着地し、衝撃が伝わります。


 しかしよかったのはそこまででした。バイクが揺れたことでリュックが地面へと落ちてしまったのです。コートによってリュックと結ばれた私の体も地面に引っ張られ、彼を抱きしめていた腕が解けてしまいます。私は道路に落ちました。彼の背中が見えます。


「コノハっ!!!」


 彼はすぐにバイクを止め、私を見ました。頷く間も惜しんで、私はリュックを背負いバイクへと走ります。

 そこで、一体の死神が私の頭目がけて跳んできました。しゃがんでやり過ごす私。ところが。


 偶然、死神の冷たい手が私のヘルメットにかかりました。死神がその勢いのまま跳んでいきます。その結果、ヘルメットを強引に取り払われました。私の茶色の毛が流れ、顔が露わになります。


「マズい·····」


 地面に転がったヘルメットを取ろうと手を伸ばします。その時、私の方に向かってくる数体の死神の顔が見えました。その目は先ほどまでよりさらに輝きをまし、憎々しげに歪められていました。


 私はヘルメットを諦め、能力を全開にしてバイクへ向かいました。バイクが、ゆっくりと進み始めます。彼の後ろに向かって跳躍し、バイクに飛び乗りました。たちまちバイクが全速力で進み始めます。私を追ってきた死神たちの手が宙を掴みました。

 私は彼の胴に腕を回し、声を洩らしました。


「顔を見られた·····」


 すると彼は彼自身のヘルメットを取って地面へ投げ捨てました。


「仕方ないよ。ここからはもう運だ」


 家々の間に立つ研究員。その一人と目が合ったような気がしました。私はさっと目をそらします。

 後ろを見れば、死神たちの群れが私たちに追いつこうと駆けていました。簡素な家の壁を破壊し、道路を削り、お互いを押しのけ合いながら、白い波となって向かってきます。しかしその姿も徐々に小さくなります。


 そうして後ろに気を取られていると、左側から来た死神に髪を掴まれました。引きちぎられる前に死神の腕を掴み返し、手首を斬ります。本体から離れてもなお私の髪を握り続けるその手を引きはがし、右側から噛みつこうと跳んできた別の死神の口に突っ込みました。バイクは走り続けます。


 突然、私たちの前から現れる死神たちはいなくなりました。突然のことでした。それが一層不気味に思えます。


 小さな声で彼に尋ねると、


「多分、出尽くしたんだ。あるいは、門の周りに残りを配置しているか」


という答えが返ってきました。


 そこからは、不穏なほど何事もなく進みました。いえ、もちろん後ろで私たちを追ってくる死神たちの音は聞こえてくるのですが、バイクと人では速度の差があまりに大きすぎます。私たちは、残りの道を一気に走り抜けようとしました。


 港に着いた時には霞んで見えたプサンの壁も、今でははっきりと見えます。真っ白な壁には、継ぎ目がありません。トーキョーの壁よりは少し低いように思いましたが、妙に威圧感があります。


 うまくいきすぎている、という不安を感じつつ、私たちは壁まであと少しのところまで来ていました。当然のことながら、門は固く閉じられています。


 その時、私の視界の隅で何かが動いたような気がして、私はバッ、と振り返りました。そして、研究者たちが列をなして門へ走っているのを、家と家の隙間から確認しました。


「研究員たちがたくさん門に向かってるよ。どうする?」


 彼に報告し、そう訊きました。


「走り抜けるしかない」


 彼の答えに頷きつつ、周りを注意深く見ます。それしか、私にはできませんでした。


 そして、いよいよ壁まで五十メートルくらいの距離まで迫った時。彼の目を通して、前方の様子が見えました。


「デト君!!!」

「くそっ!!!」


 突如研究者たちが走ってきて、壁の前にずらりと並びました。その手には、銃が。やむを得ず、彼がブレーキをかけ、バイクが止まります。


 すると、家々の間からも研究者たちが現れ、そこでようやく私たちが囲まれていることに気が付きました。恐らく、研究者たちは私たちに気づいた時点で壁の近くへ先回りしていたのでしょう。


 彼に促されるまま、私はバイクを降りました。


「バイクとリュックの間に隠れるんだ。俺は撃たれたって能力で回復できる。それに、あいつらはまずバイクをどこで手に入れたか聞き出そうとするはずだ」


 そう言って、彼はバイクの前に立ち、研究者たちと相対しました。


 研究者の一人が私たちの方へ歩み出て、その口を開きました。

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