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巨大循環ポンプ『ウンディーネ』の腹の底を揺らすような重低音に混じり、排気ファンのベアリングが微かに甲高い悲鳴を上げている。通常の人間なら気にも留めないであろうそのノイズのピッチのズレに、カイは無意識のうちに右手の指先で正しいリズムを刻んでいた。
焦げた脂と、揮発しきれないアンモニアの臭いが粘り気を持って鼻腔を撫でていく。
アステリア号の最下層、第4隔壁のエアロックは、常に不快な熱の淀みの中に沈んでいた。推進系からの熱漏洩がこの区画の気温を常に三十八度に保ち、湿度は八十パーセントを下回ることがない。薄暗い空間を、点滅する琥珀色の非常灯が頼りなく照らしている。足元のグレーチングには、指定潤滑油の代わりに使われている工業用タンパク質脂質がヘドロのように黒くこびりついていた。
カイは黙々と、使い古されたEVAスーツ『リッパー』の関節部シーリングをチェックしていた。無駄のない引き締まった体躯は、すでに汗とオイルで黒く汚れきっている。
「またシールの継ぎ接ぎか、坊主」
背後から、しゃがれた太い声が響いた。
振り返らなくても、その声の主が誰かはわかっている。カイの育ての親であり、この区画の老スクラッパーであるガルドだ。
「……右腕の駆動系が、少し軋む。圧が足りない」
カイは短く返し、手元のスパナの柄――ローレット加工されたギザギザの部分――を、無意識に親指の腹で撫でた。硬く、規則的な金属の感触だけが、不確かなこの船の中で唯一信用できる物理の法則だった。
「まったく、ガス代の無駄だぜ。そんなガラクタで外に出りゃ、ただの宇宙のチリになりに行くようなもんだ」
ガルドはゴホゴホと湿った咳を吐き出しながら、過去のデブリ衝突事故で痛めた左肩を庇うようにゆっくりと回した。放射線と宇宙線で浅黒くシワだらけになった皮膚、そして失われた右目を隠す眼帯が、この船の下層で生き延びることの過酷さを物語っている。ガルドの寿命はこの下層の平均をとうに超えていたが、その肉体は船の軋みと同じように限界を迎えつつあった。
「配給が要る」
カイの言葉は常に事実だけを切り取る。ウンディーネが吐き出す不味い合成食料でも、食わなければ死ぬ。それが下層の摂理だ。
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