第76話
その後、私たちは話し合いの場とやらに連れ出され、じろじろと不躾な視線を前にもニコニコして友好的に振る舞って見せたわけよ!
いやアドルフさんはいつも通り無表情だったけども。
ああでも、若干不機嫌そうだったかな……ああやって人前で晒し者みたいにされるのは誰だっていやだもんね!
勿論、推しにそんな辛い思いをさせるわけには行かないので『私が! 聖女の! イリステラです!!』って元気よく挨拶しておいたとも。
おかげで注目浴びてアドルフさんへの視線は少しだけ和らいだんじゃないかなって思う。
ただまあ、聖女のお淑やかさや優美さっていう点で後ほど聖女長様からお説教とかにならないといいんだけどもっていう心配はある。
ヘルマンがそこを報告しないでくれたら……いや、やつのことだからするな。
釘を刺しておこうじゃないか!
(ただヘルマンと話をしようとするとアドルフさんが嫌がるんだよなあ、友だちを取られちゃう感じなのかな? 可愛い!)
なんでアドルフさんとヘルマンが仲が良いのかとかその辺を聞いてみたいところ。
基本的に第五部隊のメンツと一緒のアドルフさんが、THE貴族のヘルマンと名前を呼びあう仲なんだよ!?
それはゲームでは語られなかった交友歴じゃない!!
いちプレイヤーとしてはそこのところ気になる、気になるのよぉ……。
「……というわけでしてな、そこのところ聖女殿のお考えはいかに?」
「過去の聖女たちが不当な待遇を受けたという点に関しましては、同じ聖女としてとても悲しいことと思います。ですからそれに対して確かに彼女たちに対しての心の傷を考え、国家としても対応していただけたらと教会側も考えております」
「では……」
「とはいえ聖女、神官はいずれも教会に属しておりました事実は覆らぬ問題。彼女たちがどこの誰であるのか、名を騙る不届き者などいないとは思うが……そちらを確認させていただかねば話は進まない」
我が意を得たりとばかりに私に対して都合の良い言葉を引き出したいであろう見知らぬオッサン……いや、名前はさっき名乗ってもらった気がするんだけど、いっぺんに十人くらい名乗られても興味が持てない相手だったから思い出せないんだよなあ!
(誰だっけ……えーっと、確かナントカ男爵って言ってたような。子爵だっけ? それよりもあの中途半端な横のくせ毛が気になる……)」
ぴよって出てるんだもの。
なんだあのひょろ毛。
ヘルマンが話を引き継いでくれたのを良いことに、私はこの話題にさも『心を痛めています』って表情を浮かべて伏し目がちになってみせる。
なんかあのひょろ毛見てると笑っちゃいそうなもんで。
うん、これは母国で聖女になるべくして学んだスキルの一つなのさ!
聖女になるためには振る舞いも必要だよって散々言われてきたからね……!!
「そのように疑われるのは心外だ! 彼女たちの心の傷は深く、我らがどれほど……」
「無論人道的な活動を精力的にしておられることは我らも承知の上だ。だが残念ながら我が国では混乱に乗じ、拐かしに遭った人々も相当数いる。それらのことも考慮していただきたい」
聖女には癒しの力がある。神官たちにも。
それはもはや国家の機密でも何でもなく、あの戦争で知られてしまった話。
だから、その被害女性たちのことを神官に準ずる者だとして賠償金? 補償金? を跳ね上げたいのだとしたら彼女たちが本当にそうである証明をしてもらわなければできないとヘルマンは繰り返しそれを言うだけだ。
(とはいえ、やっぱりおかしいよねえ)
救いを求めて逃げてきた人々、それは確かに存在している。
その中に治癒系の能力を持つ人間、まあぶっちゃけ前線で苦労していた下級神官の一部が敵国に寝返っていても可笑しくはなかったと思うのだ。
あの戦場を思えばね!
それはそれで生き抜くためだったと思うし、受け入れてもらった先で幸せになるかどうかまではわからないけど……まあ、私としてはありっちゃありなんだと思う。
私だって推しである第五部隊とアドルフさんの存在がなかったら、逃げたいって何度思ったことか……!
まあそれはともかくとして、こんな話はするだけ無駄なんだってことは向こうもわかっているはずなのだ。
お互いにある程度の情報は共有しているが、あくまで私たちは敗戦国家。
彼らが望むのは〝獣化した人間〟をどう運用していくか、それを人道的に守るためとかなんちゃら詭弁を振りかざしたい人と、実際に亡命してきた人々やその家族を救いたい人、大きく分けてその二つ。
(当然だけど、後者と上手く関係性を築くにもそれを見抜くヘルマンがなにやら好戦的なのよねえ……)
これもゲオルグ陛下の指示なのだろうか?
わからないけど、私はただ周囲に視線を巡らせる。
聖女の能力は治癒の力、魂の修復。
当然ながらそれは獣化した相手に特化した能力として神鳥から与えられたものなので……つまり、その目を通して視ればこの場の誰が獣化している人間なのかってことがわかるという意味でもあって。
私はこの状況でただ視線だけを巡らせる。
相手国家の王を、居並ぶ面々を、そしてスリコフ将軍を。
そこには確かに、獣化の兆候が見えるのだった。




