第59話
「わぁぉ」
思わず、声が漏れた。
森を抜けたところは、かつて前線で壁が敷かれていたところだ。
今は撤去されているので、ところどころその残骸とか痕跡が残っているんだけど……同様にあちらもそんな感じだ。
ここはちょうど国境となる渓谷があって、石造りのしっかりとした橋が架かっている場所でもある。
どちらにとってもその橋は欠かせない場所で、所有権がどちらにあるのかでも争ったことが何度もあり、現在は相手方にあるので橋を渡ってきたところで彼らは待機していた。
「すごいわね」
カレンも緊張した面持ちで、小さくつぶやく。
マヌエラは何も言わなかったけど、厳しい表情だ。
それもそのはず。
相手方は私たちを迎えると言いつつも、倍以上の兵士をもってお出迎えなのだから。
橋の手前側……つまり私たち側に黒衣の一団。
中央に一段と位の高そうな文官服を着た青年と、そしてその傍らにはゴツい剣を鞘ごと杖のように大地に突き立てた黒衣の騎士が威圧感たっぷりにこちらを見ている。
(あれが例のアンドレイ・スリコフかあ。うん、なんか面構えが主人公っぽーい!!)
しかし見た感じは二十代半ばか前半か。
ゴツくてゴテゴテした装飾のつけられた鎧を着ているせいで、ちょっと顔だけでは判断しづらい雰囲気を醸している。
ではあの文官は、将軍と共にこちらの一行を出迎えるくらいだしさぞかし高位の人なんだろうと私はなんとはなしにそちらを見ていた。
(……あれ)
今、なんか。
目が、あった気がする。
アンドレイ・スリコフと。
(なんで?)
そう思ったけど、あちらからしても元気な聖女が珍しいのかもしれない。
何せあちらの国に渡った聖女はこちらでの扱いに耐えかねて逃げ出した亡命者か、あるいは無理矢理連れて行かれた誘拐の被害者なので元気に第五部隊と仲良しな私って存在はあちらさんからすると奇異な感じなのかも……。
ちゃんとお互いを大事にできれば聖女と獣化した人って相性いいんだぞう。
そう、アドルフさんと私みたいにな!!
(……いやでも見過ぎじゃない?)
気のせいだろうか。
ずっと、それこそじーっと、他の人たちなんぞ目もくれない勢いでこっちを見ている気がする。
見られていると思うとこちらも思わず見てしまうもので、いやちょっとは視線を外したりね? 偶然かもって思うし。
自意識過剰だったらいやじゃない?
でもさあ、何度そっちに視線を向けてもこっち見てんのよ。
「……なんだかあちらの方、ずっとイリステラを見てますよね」
「やっぱマヌエラもそう思う?」
「惚れられたかア?」
「さすがにそれはないでしょ……」
カレンが能天気にそんなことを言って笑わせようとしてくれるけど、私の隣からは極寒の空気が流れてくるんでやめてもらっていいかな!?




