第60話
「お待ちしておりました、オーベルージュの客人たちよ。リンドーンを代表して、第一王子ヴァレンティンと黒竜騎士団団長、スリコフが皆様方を歓迎いたします」
朗々とした口調でにこやかに私たちを見る男性は、相手国――リンドーン王国の第一王子だった。
さすがに友好的な相手を前に全員馬からは下りてるよ! 失礼になっちゃうからね!!
(確かリンドーンは生まれた順序じゃなくて、母方の血統で王位継承権が決まるんだっけ……)
うちの国は生まれた順序が関係しているけど、隣の国になるとまた違うっていうのは正直ややこしくてかなわないなと思う。
平和になった後には学生たちが歴史とか社会の勉強をするにあたってきっと『めんどうくさい!』と嘆くことだろう。
まあそれはともかくとして、私の記憶が確かならリンドーン王国では王位継承権第一位は第三王子、現王妃の息子だ。
同腹の第二王子はすでに亡くなっている。戦争関係なく、割と幼いうちの病死という話。
目の前の第一王子は、リンドーン国王が王太子時代から寵愛していた愛人との間に生まれた愛息子だけど、その寵姫は身分が低いために王子として敬意は払われるけれど王位継承権は得られないとかそんなだったと思った。
ただ、ゲオルグ陛下が〝気をつけるべき相手リスト〟のトップに持ってきてたことは覚えているよ!
(……まあ私みたいな立場では挨拶程度だろうし、とりたてて警戒する必要はないかな)
でも気をつけておくべきではあるだろうと思う。
交渉事やそのほか雑事に関しては第一獣神部隊の連中が担当してくれるって言ってはいるけど、あちらの国からしたら怨嗟も、畏怖という意味でも、視線が向くのは第五部隊……いや、アドルフさんだ。
私にとって守るべき相手、大切な推し。
その強さもかっこよさも比べられるものじゃないから、みんなが注目しちゃうのは仕方ないけどね!!
ファンだっていう人が増える分には私も鼻高々だからいいっちゃいいけど、そうじゃない人たちの方が今の段階では多いことくらい予想できているから警戒はしておくべきだ。
聖女としての能力を展開させるのに、私の体調を考えると自分ともう一人がいいところ。
でもヒルデもいてくれるし、万が一の展開方法は伝授済みだから備えは十分なはず。
ヴァレンティン王子はこっちに視線をちらりとも向けていないから、警戒しすぎかなとは思うけど……いやいや、そんなこたぁないな。
(見た目からは危険そうな感じはしないんだけどなあ。どっちかっていうと隣で私たちのことを今にも斬りかかってきそうな目つきで見ているスリコフ将軍の方が怖くてたまんないんですけど。なんで凝視してんのよ、こっち見んな)
そうなのよ、あの将軍なんでか知らないけどこっちずっと見てるんだよね。
なんていうか観察っていうには鋭すぎるあの眼光!
今にも喧嘩ふっかけられそうなんですけど!?
そう思いながら戦々恐々としている私をよそに、スリコフ将軍がこちらに歩み寄ってくるではないか!
「……戦争の英雄、アドルフ・ミュラー殿。こうして貴殿と平穏な世で挨拶を交わせること、本当に喜ばしいと思う」
「そう言ってもらえると助かる」
声低っく。
重低音ってこういうのを言うんだな!?
これが怒号とかになったら獣の咆哮もかくやってなるんじゃないのかっていう渋い声がごっつい男から出てくるのってあれ、結構いいな?
いやいや、アドルフさんが至高なんで別に私はドキドキとかはしないけど、これは人気出るわ、わかるわー!
一人納得していると、今度は私の方に視線が向いた。
そして私の前に歩み寄ると、ごくごく自然な動作で私の手を取り、口づけを落とす。
「……!?」
「麗しき聖女にも、ご挨拶を」
「は、はあ……」
「同行の間に是非親しくなれたらと願うばかりです。ああ、王都に着いた暁には、是非ゆっくりとお話をしたいものですね。よろしくお願いいたします」
えっ、なにそれどういうこと?
監禁して聖女としての能力についてあれこれ吐いてもらうぞっていう脅しかな!?
普通なら甘い囁きに聞こえてくるであろうそのシチュエーションも、めっちゃゴツい鎧と剣、その上鋭すぎる眼光のおかげで脅されてるようにしか見えないんですけど!!
(どうやっても歓迎されているとは見えないんだよなあ……)
とりあえず愛想笑いは浮かべておいたけどさ。
よろしくない、よろしくないですぞ!!




