第39話
その後――まあ、駐在部隊長とその他第二王子派を捕らえた私たちは駐在地に隊長不在となってしまったこの事態を憂慮する、ということで第五部隊を残して交代部隊を呼ぶことになった。
アドルフさんと私はゲオルグ王子に報告する責任があるので確定、その他に二人護衛として選ばれた人がつく形で馬を走らせた。
馬車でも良かったんだけど、スピードを考えたら馬の方がってことになったんだよね。
何故かアドルフさんと相乗りになってなにこれご褒美すごすぎない? ってパニックになったりもしましたが、私は生きてます。
やだ……すごい密着しちゃった……。
鼻血出さなかった私、偉い……。
まあそんな悶える私のことを周囲はさっきの戦闘で治癒の魔法使いすぎたせいで疲れ切っているんだなと思っているらしく、すごく心配してくれた。
ものすごい罪悪感はあったけど鉱石の件もあって実際疲れてはいたので、その心配はありがたく受け取っておいた。
だってもうそんなことがあったせいでテントの中に隠しておいた痛み止めの特殊薬、結局飲めなかったんだもの……!!
その後無事に王城に着いた私たちは、すぐにゲオルグ王子のところに通された。
「遅かったな、成果はどうだ」
「駐在部隊長による攻撃に遭いました」
「……ほう。それでお前たちだけ先に戻ったか。では第三部隊を交代に送る。駐在部隊は一時的に第三部隊の指揮下に置くものとする。すぐに手配せよ」
「はっ」
ゲオルグ王子は皆まで言わなくてもある程度はわかっていたのか、それとも想定の中の一つだったのか。
いずれにせよさっと指示を出すところは本当に手慣れている。
王子がこれまで私に語った愚痴の内容を考えると、今の国王陛下は割となんというか昼行灯っていうか人畜無害っていうか、とりあえず現状幸せだから変化を求めていない・変化を嫌うというところがあるらしい。
戦争も部下たちが上手いことやってくれたらいいし、神鳥様から無茶ぶりがきたなら神官たちがなんとかしてくれたらいいし、とりあえず王として贅を尽くすまではいかなくても穏やかに守られて暮らしたい……みたいな。
まあ、要約するとそういうところが嫌いってことらしい。
だから今回もあれやこれやと行動を起こすゲオルグ王子が全部『厄介ごとを片付けてくれる頼りになる長男』って感じで動いたら全権を任せてもらえるようになったっていう話なんだけどさ……どんだけ働きたくないんだ、王様。
「それでは殿下。こちらが鉱石になります」
「……これか。思ったよりも、小さい」
うるせえよ、これが私の精一杯なんだよ!!
女性の片手の、その手の平にあっさり乗ってしまう程度の石が命運を分けるなんて思えないのはわかるけど、それでもこっちゃ命がけで採ってきたんだぞ!
差し出した私の手から、ゲオルグ王子が石を受け取る。
目の前の王子が、私のその手を見てハッとした。
(そうだよ)
王家の人間以外がやったら、こんな風に皮膚がボロボロの、毒が回るんだ。
それを目に焼き付けてほしい。
こんなことを、もう誰にもさせないでいい世界を作ってほしい。
そうするって約束を、交わしたでしょう?
「アニータ!」
「……ゲオルグ様?」
慌てたような声を上げたゲオルグ王子に、後ろに控えていたアニータ様が慌てて歩み寄りその理由を察したのだろう。
私を見て、正確には私の手を見て傍らに跪き慌てて治癒を施してくれた。
「いけませんアニータ様、聖女同士で治癒は……」
「そんなことを言っている場合ではありません! どうして……」
言いかけて、アニータ様はハッとした表情でアドルフさんを見た。
つられて私も思わずアドルフさんを見ると、彼は強張った顔で凝視していた。
私の、手を。
「イリステラ」
名前を呼ばれた。
声は聞こえなかった。
痛みはずっと響いている中で、私はアドルフさんを安心させたくて微笑む。
上手く微笑むことができたかは、わからないけど。
「アニータ、治癒をかけ続けろ。アドルフ・ミュラーこちらへ来い、聞きたいことがある」
ゲオルグ王子のその声に、私は思わず王子のマントを引っつかんでいた。
そして見上げる。
「彼に責はございません。全ては、私が……」
私が、アドルフさんに言わなかったの。
責任を感じてほしくなくて。
ただ傍にいられたら、私はそれで良かったから。
だから。
「だから、アドルフさんを責めないで」
ズキンズキンと手から始まっていたはずの痛みが、全身を襲う。
王城に着いた頃から感じていたけど、もう耐えられなかった。
もう恥も外聞も無く、言葉遣いとか礼儀作法とか、そんなものはどうでも良かったから。
私はただ、それだけを必死に願って意識を手放したのだった。




