第40話
目が覚めた。
ああ、そうかゲオルグ王子と会見中に私はぶっ倒れたんだっけ……酷く体が重くて、怠い。
(毒の回りが酷かったのかな。生きてるってことは、まあ、なんとかなったんだろうけど……アニータ様が治療をかけてくださったから)
もしかしたら命の危機に瀕していたのかもしれないけど、毒のせいで感覚が鈍っていた可能性もあったんだなあと思うとゾッとするより笑えてくる。
いや、笑うのさえ億劫なんだけど。
必死の思いで、全くいうことを聞いてくれない体に指示を出し右手を僅かながらに上げて視線を向ける。
酷い火傷を負ったような皮膚の引き攣れが見えた気もするけど、思っていたよりは綺麗に治っているではないか。
(さすがアニータ様、次の聖女長にって推薦がある実力は本当だったんだなあ)
そりゃ彼女の婚約者であるゲオルグ王子が私の実力を『最弱』って言うのも理解できるよね。
まああの王子の場合、素直じゃないから私を貶すことで周囲からも注目されないように気を遣ってくれてたんだろうけど。
その気の使い方、間違ってるけどな!!
「あ、あー……」
よし、声は……なんか掠れてるけど出る!
体力は……なんか衰えてるっぽいけど、生きてる。大丈夫。
(私があんなタイミングで気を失ったせいでアドルフさんには心配かけちゃっただろうなあ……)
とりあえず、此処はどこだろうか。
なんとか動かせる範囲で周囲を見渡したところ、王城内の神殿にある一室のような気もする。
人を呼ぼうにも大声はまだ出せそうにないし、体もまだ起こせないときたもんだ。
一体どのくらい寝こけていたのやら……。
(たしか、会見の時は夕方くらいで……今、窓からの光が明るいことを考えると翌日ってところかな……?)
大方、気を失った私を治癒するために聖女長様にかけあって神殿の一室を借りてアニータ様が治療を施しそのまま休ませたとかそんな感じだろう。
だとすれば、もうしばらくすれば人が来るに違いない。
(後でゲオルグ王子からも嫌味をチクチク言われそうで憂鬱だなあ)
自分に動かせる駒が少ないからってこっちに八つ当たりしないでほしい。
自分にできる範囲で頑張ってんだからさあ、能力以上のことを求めすぎなんだよねあのオウジサマ。
(まあ、それもこれも国をよくするために……戦争を終わらせるためにって努力した結果なんだろうから仕方ないのかな)
それにしても目が覚めたら覚めたで喉渇いたんだよなあ。
誰か早く様子見に来てくれないかなあ。
そんなことを考えていると、ドアが開く。
必死になんとか顔をそちらに向けると、桶を持ったアドルフさんがいて――パチリと、目が合った。
「あ……」
アドルフさん。
そう呼ぼうと思ったけど声が掠れる。
だけど私のその言葉にならなかった声を拾ってくれたらしいアドルフさんは、目を丸くしていたかと思うと大股で近づいて桶をテーブルに置いて、私のことを優しく起こしてくれた。
「イリステラ。……起きたんだな、良かった……!」
あれ、推しにすっごい熱い抱擁されたんだけどこれまだ私ったら夢でも見てるのかな?
やばいいいニオイする。ここは天国か。
妄想もここまで来るとやばいぞ私!!
状況が飲み込めない自分が必死にそう訴えるけど、バクバクと早鐘を打つ心臓がこれは現実だと訴える。
「え、あ……あう?」
現実だと理解すると今度はパニックになってしまってまともに言葉が出てこない。
心配かけてごめんなさいとか、あれからどうなったのかとか。
そういうことをいわなくちゃいけないはずなのに。
徐々に顔が赤くなるのを感じるし、これ以上抱きしめられていたら死んでしまうのではないだろうか!?
「あ、どる、ふさん」
なんとか必死に名前を呼ぶ。
それが功を奏したのか、彼は少し距離を……少し距離を置いたら今度はそのご尊顔が近いんだよなあア!!
(ひぃっ、推しの顔面がこんな至近距離にィイ!)
なにこれご褒美地獄か何かなの……?
のぼせてまた気を失ってしまいそうだ。
クラクラし始めた私を見つめながら、アドルフさんは口を開いた。
「目が覚めて良かった。お前はずっと、眠っていたんだぞ」
「……へあ?」
ずっと?
ずっとって何だろう。
毒と魔力の枯渇のせいだってことは理解できるので、あれだろうか。
丸一日寝てたとか?
でもそのくらいでアドルフさんがこんな、抱擁するとか紳士らしからぬ行動をとるだろうか?
「聖女長様がお前の体を一時的に仮死状態にし、回復したところで目覚めるという高等魔術を使ったんだそうだ。わかるか?」
「……その術は、知って、ます」
それってかなりの高等技術で、魔力がある聖女でも滅多なことじゃ使ってはいけない術の一つだ。
ちなみに私の魔力量では使えない。クッ。
(そんな魔術を使うほどやばかったのか……だとすると三日くらいか?)
そういう術があるってことは知っているけど、実際に使われたのはもう何十年も前とかそんな話だもの。
使える聖女があまりにもいなくて、使えたとしても人生で一回とか二回、その程度って話だ。
魔力の枯渇で死んでしまう可能性も考えると、使い勝手の悪い術として封じられている代物だったと思う。
それを行使できるとは、さすが聖女長様だぜ……!!
思わず感動する私の肩を掴んだまま、アドルフさんは大きくため息を吐き出した。
それは呆れているとかそういうのじゃなくて、安心、した、みたいな。
違う。
私が目覚めて安心したんだ。
(……心配かけちゃったんだなあ)
その様子を見てものすごく、ものすごーく申し訳なくなった。
これは謝罪だ。
ジャパニーズドゲザを披露したいところだがさすがに肉体がついていけないしそれは余計にアドルフさんの心の負担になりそうだからしないけど、誠心誠意の謝罪をしなければならない。
速やかかつ火急に!!
「あ、の」
「お前は」
アドルフさんが私を真っ向から見る。
その眉間には皺がよっていて、少し怒っているような……?
思わずそれに口を閉ざしてしまった私を気にするでもなく、アドルフさんは言葉を続けた。
「三ヶ月も眠っていたんだぞ」
「は……」
なん、だって?
三ヶ月? 今、アドルフさん三ヶ月って言った!?
「はあああああああああああ!?」
推しとの結婚生活、残す猶予は――(リハビリも含めて)多分残すところ三ヶ月未満である。
次は幕間°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°




