第28話
晩ご飯を食べ終えて、みんなと離れてアドルフさんの部屋へ。
ふおお、推しの私室……。
私と結婚するまではずっと宿舎のこの部屋でアドルフさんが寝泊まりしてた部屋だと思うと興奮して寝られない。
はー、推し、尊い。
(っと……いけないいけない。堪能している場合じゃなかった)
まあ後ほど堪能いたしますが。
そこは恋する乙女でもあるので!
私はちょっと行儀が悪いとわかりつつもベッドに寝転んで、先ほど届いた教会からの手紙を開く。
そこには時候の挨拶から始まって、次の祭事についての相談事があるから王城に来るようにというような内容と、他愛ない話がいくつか。
でもそれらには魔法と暗号とが複合化されている特殊な手紙で、差出人は第一王子のゲオルグなのだ。
それによると、神鳥が求める鉱山付近への進行の許可をとることができたらしいこと。
儀式を行うにあたって準備があるからそれについて話し合うということだった。
聖女長様とアニータ様もきっと同席することだろうが、実際に儀式を執り行うのは私だ。
(余計なお世話だってのよ)
最後の一文に目をやって、ため息を一つ。
あとでこの手紙は暖炉にでもくべてしまおう。
『儀式のためにもアドルフ・ミュラーとしっかりコミュニケーションをとっておけ』
書かれていたのはその一文だ。
この一文の意味はただ仲良くしろって意味ではない。
実は、聖女と獣化した騎士の結婚には深い意味がある。
私がアドルフさんに語ったように、聖女は獣化したことによって傷ついてしまった魂を癒し、その力を常に発揮できるように保つことができる。
そんな聖女のことを守るために夫婦という形で守るのが騎士の役目だ、と。
実を言うとそれは建前なのだ。
国からして見れば結婚させることで守っているように見せつつ足枷をつけているのでどうでもいいのだろうが、本当は違うのだ。
(……心と体を通わせれば、聖女は力を失わない、かあ……)
そう、聖女は魂を癒すのだ。
自分の命を代償に。
だからこそ、回復能力を持つ子供たちがいてもその全員が聖女になるわけではないのだ。
勿論、聖女という存在が秘密の多いものだから……とか、能力が足りない者を聖女として大切にするのは……とか、それなら能力の弱いのはそれこそ使い捨ての回復剤みたいに、前線に出せばいいじゃないかとか。
とにかくまあ、いろんな人の思惑があってのことではあるんだけど。
命がけで癒すんだ、なんて言われて誰がやれるだろうか?
それこそ、下級神官は戦場さえ切り抜ければ生きていける。
でも聖女は魂を癒し続けるのだ。
部隊全体を癒すのだと思えば、その恐ろしさはよくわかる。
実際、私も……正直、結構キているしね。
そこで、だ。
特定の相手……つまり癒したことによって生命力の満ちた相手と体を重ねることで相手から生命力を分け与えてもらえるという方法があるのだ。
それは神鳥によれば、生き物としての自然の摂理らしいのだけれど……まあそれはともかくとして。
つまり、聖女は誰かと体を重ねることで相手を癒し、そして癒されるってわけ。
でも一夫一婦制の常識あるこの地域で、誰とでも体を重ねるなんて不道徳なことを聖女にさせるわけにもいかないし、聖女たちの人権も守りたい……という教会の意思を汲んで国側は優秀な騎士、つまり獣神部隊から夫を選ぶこと……としたのだ。
良い迷惑である。
で、話は戻るが第五部隊はこれまで獣化して戦うことが最も多い部隊だった。
だからこそ、本物の聖女たちは彼らを救うなんて自殺行為であるという恐れから選ばない。
偽物の聖女たちも、そもそも婚約者と共にいるためだけに演じているので選ばない。
総じて第五部隊は死者も多く、死神部隊なんて不名誉なあだ名をつけられたというわけだ。
「……アドルフさん」
ベッドからは、アドルフさんの匂いがするような気がした。
私だって恋する乙女だ。
あわよくば……なんて最近夢見ちゃったこともある。
愛し愛される関係になったら、一番なのになって。
事情を話したら、アドルフさんのことだから『夫婦だから』とか言って受け入れてくれるんじゃないかなって。
でも『愛せない』って宣言されているのにそんなことをしたら責任感強いアドルフさんは、決して離婚しようとはしないだろう。
それは、私が望むアドルフさんの幸せなんかじゃない。
(理想は……戦争を止めて、アドルフさんたちが自由になって……円満に離婚して、どこかひっそりと……生きられたら)
段々とまぶたが重くなってくる。
日中に張り切って宿舎内を掃除してまわったせいだろうか?
手紙は誰が読んでも大丈夫だろうけど、早く燃やさなくちゃいけないのになと思いながら、眠気には抗えない。
(あとで……いっか)
アドルフさんのベッドで眠れるだなんて、幸せだなあ。
そんなことを最後に、私の意識は途切れたのだった。




