第27話
「あんた聖女なんでしょ? 聖女なんて人が野菜を手に取ってニコニコしてるとかおかしいんじゃない? あれでしょ、アドルフを助けるために嘘ついたんでしょ? ねえ、そうでしょ!」
なんだかいっぺんにそう決めつけて大声をあげるエミリアさんに、私はただびっくりした。
嫌われてはいるだろう、とか。
アドルフさんを盗った、とか。
お前なんかよりも見た目に優れている自分の方が相応しい、とか。
まあ次に遭遇したらその辺のことを言われるかなって思ってたわけなんですよ。ええ。
「は、あはは、そうよね? アドルフが聖女と結婚なんてないわよね! ねえ、そうだって認めなさいよ!!」
「エ、エミリアなにしてんだお前!」
「そ、そうよ軍人さんの関係者に……それに聖女って、その人が本当に聖女なら侮辱罪で…ッ」
そうだ。
一般市民よりもこの国では軍人が重んじられる。戦時中だから。
だから何かあっても兵士の方が擁護されやすいし、神官はもっと数が少ないから大事にされる。
聖女なんて、その最たるものだと思う。
「……罰しませんから、どうぞご安心ください。エミリアさん、私は正しく聖女です。そしてアドルフ隊長に乞うて結婚していただきました。お疑いならば王城、もしくは最寄りの神殿にお問い合わせくださってもかまいません」
まあそんなことして彼女が妙なことを一つでも言ったら叱られちゃうとは思いますけどそこは知りません!
にこりと笑った私に、彼女はキッと睨み付けたけど……私は笑みを絶やさない。
周囲はハラハラしてるみたいだけど、どうせだったらとっ捕まえて連れて帰ってくれないかな!
だけど、少し話を聞いてみたい気もした。
この人が知っているアドルフさんを、知りたい。
何故彼を傷つけようとするのか。
聞いたからってどうにかできるわけじゃないけど。
「……アイツは、恐ろしい獣になるのよ」
「獣神部隊に所属する者は、いずれもそうです。その力で、皆を守ってくださいます」
「アイツが初めて暴走して獣化したのは、子供の頃よ。あたしに怪我を負わせたの」
「……まあ」
消えない傷だったのかと問えばそうではないという。
だが余程恐ろしかったのか、彼女の目は爛々と憎しみに輝いていた。
「あたしは、アドルフが幸せになるなんて許さないんだから!」
「……それは、どうしてですか?」
「あんたには関係ないわ。でもあいつは理由を知っている。だから幸せになんてならない。あいつはあたしや、他のみんなに詫びながら尽くさなきゃいけないのよ!」
好き勝手喚いたかと思うと、彼女はさっさと身を翻して去って行ってしまった。
残された野菜の業者の人には酷く謝られてしまったけど、私は気にしていない。
気になるとすれば、彼女が『アドルフも知っている』と言ったことだ。
頑なに幸せを手にしようとしないで危険に身を置く理由が、そこにあるのだろうか。
(だとしたら、私はそれをなんとかしなくっちゃいけないのでは?)
大局を見て戦争を終了させるための行動というのも大事だろうけど、それとこれはまた別問題だったりするのでは!?
いや、戦争を終了させるのってかなり大変なことなので昔から働きかけてきたことがもうすぐ実を結びそうなタイミングで爆弾きたな……。
「イリステラさん?」
「あ、マヌエラ」
「どうかなさいましたの? はい、お手紙が届いていますよ、教会から」
「ありがとう!」
「教会からお手紙だなんて珍しいですね」
ぼんやりと料理を終えて天井を見ていた私に、マヌエラが微笑む。うーん、美少女。
しかし彼女の目が教会からの手紙に注がれていることに私は気づいているぞ!
内容は暗号化されているし、彼女が見ても問題ないことにはなっているけど……教えるわけにはいかない。
万が一にでも、この作戦がどこからか漏れてしまうと厄介なのだ。ごめんね。
「ああ、多分祭事について聖女には参加義務があるからその件だよ。……それより、さっきエミリアさんが来てさ」
そして私は誤魔化すようにエミリアさんの話題を出す。
途端にマヌエラがいやそうな顔をしたから、思わず笑ってしまった。
(ごめんねマヌエラ)
私のことを信じて、案じてくれる良い友人だ。
そんな彼女に本当のことを言えないのは、とても心苦しい。
きっとマヌエラも、カレンも、この話を聞いたら怒るとわかっている。
でも、私たち聖女の悲願でもあり、そして本来王家が成すべきことを、秘密裏に成し遂げなければならないのだ。
そう、神鳥の願いを聞き入れて、この戦争を終わらせるために。




