第22話
私の容姿は実に平凡だ。
とりたてて美人でもなければブサイクでもない。
言われたように少しばかり痩せっぽちな、小柄って訳でもないけど……アドルフさんからしたら、小さいかなあと思う。
色みも聖女の服があるからいい感じに見えるだけで、実に地味な感じに黒っぽい焦げ茶色の髪に、よく見ないと黒にしか見えない焦げ茶色の目。
肌は色白だけど……まあ、戦場に昔からいるせいか、アドルフさんほどじゃないにしろあっちこっち傷跡が残っている。
(改めて見ると、ひどいもんだなあ)
今日は遅くなるから、先に帰って食事を済ませておけと言われてしまった。
そう言われて私はカレンとフランツさんに送ってもらって自宅でのんびり一人で過ごしていたわけだけど……なんとなく一人で食べるご飯はちょっとめんどくさくて、ついつい適当に済ませてしまった。
まあたまにはこんな日もある。
アドルフさんが帰って食事をするかはわからなかったので、一応こちらは栄養を考えて作っておいた。
それで少しボーッとしてからお風呂に入って、キャミソールみたいな下着姿でお風呂場に置いてある鏡見て冒頭に至る。
地味な上に傷だらけ。
ついでにスレンダー体型。
うん、そそるかどうかと問われたら、難しいところだ。
そこばかりは人の好みってものがあるからね、アドルフさんの好みはちょっとわかんないけど……私が男性だとしたら、カレンさんみたいなナイスバディやマヌエラさんみたいな美女を見慣れていたら難しいと思うのだよ……。
くっ、切ない現実!!
二の腕とかは最近の食生活が潤っているおかげかこうしてつまめるのにな……それが余計に悲しくなるんだけどつままずにはいられない。
そんなことをしていたらガチャリと浴室のドアが開いて、当たり前だけどこの家に入ってくるのは私かアドルフさんなわけで、つまりそこには疲れた顔のアドルフさん。
「……ええと、お、おかえりなさい……?」
「……あ? あ、ああ……ええと、ただいま? いや違うな。あの、すまない……?」
思わずおかえりなさいって言っちゃったけど違うだろう私!
私がいると思っていなかったのだろうアドルフさんは珍しく呆けて私をてっぺんからつま先まで視線だけ動かして、私の言葉にハッとしたように返事を返したかと思うと一気に眉間の皺を寄せてバァンと派手な音を立ててドアを閉じた。
「すまない!!!!!」
わあ、そんな大声のアドルフさん初めて……って思わずときめいてしまったが、ときめいている場合じゃなかった。
見られた。
見られてしまった。
いや下着を着ていたからね!?
裸を見られたわけじゃないけど!!
(貧相な体を見られてしまった……!)
しかも傷だらけ。
あああああ、好いてもらおうってようやく決心したってのにマイナスに戻っていった感が拭えない!
やはり私がアドルフさんに好かれようと思うのがいけなかったのか。
天は我を見放したのか……!!
だけどいつまでも浴室を占領して膝をついている場合でもない。
アドルフさんがここの鏡を使ったり顔を洗いたかったのだということはわかっている。
でも今更ながら恥ずかしくもなった。
一応私も年頃の乙女なのだ。
好きな人に下着姿を見られてしまったのだから、恥じらいくらいある。
ショックの方がでかいけども。
「ア、アドルフさん……?」
そうっと浴室から出ると、リビングにアドルフさんは座っていた。
テーブルに肘をついて、組んだ手に額を押し当てるようにしてどうやらものすごく落ち込んで……いやあれは反省? しているようだ。
「あの、アドルフさん……」
「すまなかった。いくら疲れているとはいえ俺の確認ミスだ。本当に悪い……」
「あ、いえ、あの私も不注意だったっていうか、お目汚しで申し訳ないっていうか」
あああああ余計なこと言ってんじゃないぞお前ええええ!
思わず自分に心の中で突っ込んだ。
自虐ギャグはこの雰囲気の中では最も悪手!
生真面目で気配り上手なアドルフさんが案の定眉間にしわ寄せちゃったじゃねえか!!
謝れ、謝るんだイリステラ!
全人類に謝罪するつもりでフォローしろ!!
心の中の自分が鬱陶しいくらいに吠えるし自分でもそう思うんだけど、こういう時に人間って上手いこと口が回らないんですよ。
「ああああああの、ご飯作ってありますので! アドルフさんもお風呂とか入って」
「肩の傷」
「え」
「足にも、傷があった。あれは……戦場で、負ったのか」
ひたりと見据えられた緑の目は、私に誤魔化すことを許さない強さがあった。
私はそこから目を逸らすこともできず、思わず頷いていた。
「……下級神官、でしたから」
「そうだったな」
「戦場は、回復魔法をそれなりに使えるようになったらすぐでした。傷を負うことは、下級神官たちにとっては毎度のことでしたので」
「……そうか」
「だから、気にしないでください」
自分たちに回復魔法を使うことができたら、残っていなかったかもしれない。
私の他にも傷だらけの神官たちは、大勢いた。
神官なんて呼ばれるには、あまりにも血まみれな自分たちがおかしかったくらいだ。
中には、傷だらけの自分を悲観して心を病んでしまう子もいた。
私たちが怪我をしないように、軍では気をつけてくれていたけど……それだって、戦争だもの。万全なんてことはない。
「食事、温めてきますね」
「……ああ」
だから、アドルフさんがそんなに傷ついた顔なんてしてほしくなかった。
彼のせいではないのだから。




