第18話
その後、訓練場に戻ると騒然としていた。
というのも、頭から血を流している第四部隊の人が複数人いて、第五部隊に食ってかかっているのだ。
食ってかかられているのは我らがアドルフさん……ではなく、アドルフさんが押さえ込んでいる部隊の特攻隊長的な人であるフランツさんだ。
なんだなんだと思っていたら、第五部隊のもう一人の切り込み隊長である女性、カレンさんがやってきて事情を説明してくれた。
第五部隊は平民上がりの実戦部隊、そのため貴族のようにお綺麗な訓練はしていないと豪語するフランツさんだけに訓練開始の合図と共に、速攻で攻め立てた。
まあ実践を前提に獣化しないだけで、ある程度は本気でやりあえっていうのが目的なんだからそこは否定できない話だ。
だが砂での目潰し、剣で一騎打ちを申し込んでおきながら蹴って頭突きしてとまあ本当になりふり構わずって感じの喧嘩殺法なもんだから、最終的に訓練ではなく団子になっての取っ組み合い。
ちなみにこれは毎回恒例のことらしく、隊長格は後ろに控えて傍観し、いいところで間に入って止めるのが常なんだそうだ……。
(なにしてんだか)
本当に不満を解消するためのガス抜きであって、実力を見せ合うとかそういう話じゃないんだってさ。
まあだからこそ第一から第三までは不参加なわけですね。
あちらはそれこそお貴族様が多いわけですから。
(みっともない姿を晒すわけにはいかないってワケね……)
ちらりと上を見る。
ゲオルグ王子が窓からこちらを見ていたけど、私が見ていることに気がついたのか引っ込んだ。
(ふうん、気にはなるんだ)
イマイチ、あの人よくわかんないんだよねえ。
どういう立ち回りをしているんだか。
それはともかくとして、とりあえずは今も聞くに堪えない罵声が飛び交ってお互いボッコボコの顔をした短気な連中が掴み合いを続けているというわけだ。
毎年のことなので生き延び続けている連中は早々に引く人もいれば、我先にと殴りに行く人もいるし、新人は巻き込まれてグロッキーってところかな?
かくいう私も初めて目にする光景なので苦笑しか出ないけどね!
城詰めの下級神官も、おそらくは戦地に飛ばされる前の研修でいるだけの……要するにひよっこなので青い顔をしてどうしたらいいのかわからないって感じだし。
「今回はやたらと元気でしてねえ」
「そうなんですか?」
「ウチに聖女が来たのが、アチラさんからすると納得できないみたいで。散々隊長のことバカにしたもんだからフランツがブチキレちゃって大変なんですよオ」
ケラケラと笑うカレンさんが第四部隊を見る目は厳しい。
彼女もまた、アドルフさんのことを尊敬しているんだろう。
背の高い彼女は私と並ぶと見上げてしまうくらいなんだけど、私の視線に気づいてにっこりと優しい笑みを浮かべて肩を組んできた。
「まあアチラさんが何を言おうが、聖女様はうちの隊長を選んだってのが事実ですからねえ!」
「その通りですよ」
「ふふ、うちの隊長を見初めるだなんてお目が高い!」
「そうでしょうそうでしょう」
軽い口調のカレンさんのノリに合わせて私も軽く笑ってみせる。
まあ、アドルフさんが最高にイイオトコなのは事実ですけどね!
だって! 私の推しだもん!!
私はカレンさんに何故か肩を抱かれたまま、その喧噪の中へと足を進める。
前線経験のある私からしてみれば、争いが殆ど終わった訓練場なんて花畑を歩くのとなんら変わり……あるけども。
呻くおっさんとかが転がっている状況はどう考えても綺麗な花とは比べられないわ。ごめん。
とにかく、そんな彼らの様子を歩きながらチェックしつつ私が問題の中心部へと足を運べばアドルフさんが私を睨むようにして見ていた。
でも!
私はわかっているのだ!!
アレはアドルフさんの『どうしてこんな場所まで来た、大人しく待っていればいいのに』って気持ちと『聖女としての役目を考えれば当然のことか』っていう大人の判断が今せめぎ合っている時の表情だよね!!
「お待たせいたしました。第五部隊所属聖女、イリステラお呼びと聞いて参上いたしました」
にっこりとあえて第五部隊所属であると強調しながらアドルフさんに歩み寄れば、それまでフランツさんを怒鳴りつけていた男性が第四部隊の隊長さんに押さえ込まれながらパッと首だけ向けるようにしてこちらを見た。
その動きがちょっと怖いわあ。
頭から血を流したり鼻血が出たりと中々派手な外傷のようだけど、とりあえず命に別状はなさそうだ。
対するフランツさんは……アドルフさんに押さえ込まれながら空いている手で中指立てたりとこら止めなさい。
どっちの隊長さんもげんなりしているように見えたのは私だけだろうか?
「さて、ここまでざっくりと拝見いたしましたが、聖女の治療が必要な方はいらっしゃいませんね。ただ骨を痛めた方もいるようですので、許可をいただけるのであれば私も第五部隊だけでなく第四部隊の方々の治療に下級神官たちと共に動きたく思いますが――」
「必要ない! こんな! 捨て駒共を選ぶような聖女なんて聖女として認められるもんか!!」
第四部隊のその男性が、大きく吠えた。
周囲がシィンとしたことがわかっている。
なぜだかそれが酷く滑稽で、私はそれを見下ろしながら――ただ、笑ってみせたのだった。




