第142話
まあアドルフさんが満足するまで匂いつけをしてもらった方がいいということは私も経験上理解しているので、お部屋の住人となるのは別に構わない。
なんたって! 新婚旅行って免罪符がありますし!?
彼と私では体力の差もあるからね……体のあちこちがギシギシしている中では果物狩りなんてとてもとても……。
もうちょっと町の人たちも被害状況を確認してからの方が果物狩り初心者の私たちへの対応もしやすいだろうし……。
もう女将さんたちが用意してくれる果物とお食事を堪能する旅でもいいんじゃないかなって思い始めている今日この頃である。
「イリステラ、大丈夫か?」
「大丈夫です~……」
推しにお世話をされるのはちょっとお世話したい派の私にとって難しいところではあるけど、幸せそうに私のことを甲斐甲斐しくお世話してくれるアドルフさんが可愛いから全て許せる。うむ。
普段だったら落ち着いているアドルフさんも、自分を操ってまで唯一の相手と定めた……これは彼の獣性が強く出ているせいらしいんだけど、とにかくアエスさんのあの魅了は魂レベルの屈辱だったんだろうね。
「そういえば休んでいる間に思い出したんですけど」
「なんだ?」
「報告書にも書きましたけど、アエスさん……彼女の言動についてです」
「ああ、あれか……」
もはやアレ扱い。
彼女は彼女なりにアドルフさんを推していたことを私は理解している。
不憫系キャラが大好きというより、不憫なアドルフさんに崇高な何かを感じていたッぽい彼女とは最後まで相容れなかったけど、まあそんなこともある。
推し活は、万人に受け入れてもらえるものじゃないって私知ってる。
(ただそれとはまた別に、現実の推しがそれを受け入れてくれるかどうかは別問題って話でね……!)
アエスさんは完璧にアドルフさんから敵対視されちゃったけど、それはそれで推しからある意味で認知されているというご褒美に……なるか? なるだろうか?
まあ彼女は彼女で『不憫であまりにも哀れな死を迎えるアドルフ』というキャラが推しなので、この場合はどっちもどっち……か……。
「彼女をウーノの使節団のところに戻すと危ないって判断して、一旦この部屋に閉じ込めた時があったじゃないですか」
「ああ、あったな。なんだかよくわからないが、一時放置していたら憔悴していた時のことだろう?」
「そうそう」
まあその憔悴っていうのも別に我々が水や食料を与えないとか尊厳を傷つけたとか、拷問を行ったってわけじゃないよ!?
単に私たちがあの騒ぎの後、アエスさんを縛り上げて簀巻きにしてからウーヌの使節団のところに行く際は連れて行かない方がいいんじゃないかって判断をしたけど、閉じ込める先がないよねって話だったんだよ。
それで女将さんに軽く事情を話し、民衆にアエスさんが見つかって槍玉に挙げられると後で国に引き渡すのが面倒なことになるのでって説明して私たちの部屋に一旦閉じ込めたってわけ。
もし彼女を探す人が来ても女将さんたちは知らぬ存ぜぬを突き通してくれとお願いして、了承してもらったから安心して様子を見に行ったんだけど……。
(ヴァセーヌさんは相変わらず昏睡状態だったし、プセーマさんは……読めない人だったから、やっぱり連れて行かなかったのは正しかったと思う)
で、同時にジャンさんが来てくれるよう軍の合図は出しておいたって寸法だけど、戻ってきたらアエスさんがグスグス泣いちゃってたんだよ。
それもこれも私がこの旅行に持ってきていたぬいを見てだったんだけど!
憔悴の原因がそれってさすがにアドルフさんはわかんなかっただろうなあ! わかんなくていいんだけども!!
寄り添うように置かれたアドルフさんのぬいと私のぬい。
ぬいでも仲良し~! なんてしちゃっていた乙女の私が彼女にバレたア!! って当時の私の心はかなり荒れたんだけど、なんでか彼女の心が折れちゃったんだよね……。
本当になんでだって感じ。
(……でもまあ、その後の発言から推し活が成功した私と、これが現実だっていうことを理解しての絶望って感じだったんだよな……)
私はわかっちゃったけど、説明はできないから大人しく聞いてあげただけです。はい。
そういうわけで引き渡しの際は危険人物扱いというのとはまた別に、アエスさんは個別でオーベルージュの神官戦士がケアの意味も含めてついたんだよね……。
(推しが本当にいて、誰かが死ぬなんて知らなかった……か)
なんで知らなかったなんて言ったのか、私にはそっちの方が理解できないけど!




