第131話
アドルフさんの身体能力をもってすれば、襲いかかってくる一般人を気絶させるなんてごくごく簡単にできる。
だけど相手が操られている場合は?
もしかしたら痛覚関係なく動くゾンビみたいだったら……という面倒くさいパターンも想定して、なるべく見つからないようにしようって決めていた。
ちなみに私は戦闘とか、そういうことは一切できない。
なんだったら受け身をとるだけでも精一杯! ハハッ!
まあまあ、情けないなんて言うなよ。
残念ながらゲームでもそうだったんだけど、支援職系は本当にパラメーターが偏っていてだね……この現実でもそこは変わらなかったってわけ!
だからまあ身を守るための障壁の魔法とかそういうのが発達したんだけどね。
けど弱いと言うなかれ!
一般人よりは体力あると思うよ! これでも鍛錬してたし!
下級神官時代は戦場を駆け巡っていたわけだしね!!
(でもよく考えたら私寝たきり生活のあとは殆どアドルフさんに甘やかされたリハビリ生活だったから、今の体力って一般人並みかそれ以下なんだよなあ……)
あれっ、今更ながらにやばくない?
これで軍属とか笑えるーとか煽られたりしない? 大丈夫?
誰にとは言わない。
なんだったらアドルフさんは私のことを歩かせない勢いで甘やかしたいんだろうなってことには気づいている。
さすがにそれは知らんふりしてるけど。
推しには甘やかされたいですけど私は推しを甘やかしたいんですぅ!
ん? でも推しが望むことをするのが甘やかすってことならそれはそれで正しいのか……?
わかんなくなってきたな!
なんでこんなアホなことを考えているのかっていうと、アドルフさんが私を抱えて移動した方が早いって言い出したからなんだよなあ。
いざとなったら支援に回れって、横抱きにされている状態でアドルフさんの周りに自分ごと障壁を張るとか、身体強化とか、回復をしろってことだったらしい……。
「この雨脚だ、俺の外套の中にいれば多少は凌げるだろう」
「でもそれだとアドルフさんが濡れちゃうじゃないですか……」
「元々濡れることは想定内だ。お前が雨に濡れて体調を崩す方が困る」
「……うぅ」
確かにその通りと言えばその通りである。
アドルフさんと暮らしてわかったんだけど、獣化経験のある人ってやたらと健康なんだよね。
暴走の危険性以外、なんていうか肉体的には本当に強化されているって感じ。
つまり、風邪すら引かない。超健康体。
対して神官たちはどうかっていうと、非常に脆弱である。
鍛えても鍛えてもあまりつかない筋肉。
病気も怪我もめっちゃするし、でも自分には治癒魔法を使ってはならないというこの厳しさ!
ちなみに男性神官は違う。
彼らは治癒魔法が使えないので、普通に獣化する。
ただ戦闘能力に乏しかったり信仰心に厚い人が選ぶ職って感じだね……。
くっ、世の中世知辛いなあ!
決して推しが病で苦しむ姿を見たいわけじゃないけど、私だって看病イベント的なものをやってみたかった……!!
「イリステラ、しっかり掴まっていろ」
「は、はい!」
それまで私を横抱きにしたまま慎重に歩を進めていたアドルフさんの声に、私もハッとする。
私がしがみついたのを確認して、アドルフさんは軽々と跳躍して民家の屋根に移動した。
「……見ろ、町の人間が武器を持って出てきている」
ウロウロと何かを探すように彷徨うその姿は、どう見たってまともには見えない。
中には家族か恋人か、あるいは友人か……わからないけど諫められているような姿も見える。
それでも彼らは手に何かしらの武器を持ち、ゆらゆらと、それこそゾンビのように歩き回っていた。
「彼らの意思は、そこにあるんでしょうか」
「どうだろうな。捕まえてわざわざ実験をするほどの余裕はない」
「それは」
「だが思考能力が残っているなら、横を見るばかりではなく諫める人間を説得しようとしたりもするはずだ。俺たちが上にいることに気づかず、ただ彷徨うところを見ると俺たちを見つけ次第攻撃する程度の、単純な指令にしか従えないのかもしれない」
「なるほど……!」
推しが! 冷静でかっこいい!!
見下ろした先で、雨に濡れることも厭わずウロウロする町の人に私はなんとも言えない気持ちを抱いた。
(……とりあえず無差別に攻撃をしていないだけでも、良かったと思うべき、かな……)
全てが終わった後に、彼らが酷い後悔に苛まれることがないように。
なんとなく、私はそれを祈らずにいられなかった。




