第9話
触れた肩はがっしりしてた。
うはぁ、細身に見えてやっぱり鍛えてらっしゃる……やだ素敵……。
「……おい、どうかしたのか」
「はっ、いえ! それでは始めますね」
いけないいけない、思わず堪能しそうになった。
結婚したとはいえ、仮初めの関係。
愛することはないって宣言されているから、当面別の部屋。
同じ屋根の下に暮らす、同居人くらいの感じに思われているんだろう。
だからこうした触れ合いは、彼にとって義務みたいなもののはずだ。今のところ。
(でもこうやって治療していけば……)
聖女の魂の治癒というのは不思議なもので、聖女の気持ちに左右されるらしい。
聖女になるくらいの人たちだ、先輩方も献身の心を持っている人が殆どなんだけど……それでもやっぱり人間だもの、好き嫌いはどうしたって発生する。
想いの強さが強ければ強いほどその〝祈り〟は対象である治癒される側の人間に留まり、周囲のことも癒すとかなんとか。
それでもそれはよっぽど相手に対して気持ちがないと……って話だけど、ゲームシステム的に言うと、女主人公たる聖女を使用した際に部隊内の人間と絆値ってのを上げておくと回復効率があがったんだよね。
多分ソレダ。
だからそれを聞いた時、私は心の中で叫んだよね。
アドルフさんに対する私の気持ち舐めんなコラァ!! とね……ふふふ。
まあそれはともかく、そういう理由で私の想いの強さとやらはおそらく天下一品なので、アドルフさんを治癒すると必然的にアドルフさんを中心にしている第五部隊への回復効率も高まるのだ。
でもこれ治癒される側からの気持ちも伴わなかったら詰んでるけど。
いやそこは愛の力でカバーできてほしいものである。
できてなくても、治癒は続けるけどな!
推しが元気になれるんなら私は喜んで尽くします!!
「……どうでしょう?」
「驚いたな」
治癒をかける側と受ける側では感覚が違うって話だ。
昔下級神官だった頃に聞いた話だと、じんわり患部が暖まっていく感じで気持ちよかったらしいけど……カイロか何かかな?
ちなみに、私たち神官という回復役は自分たちが怪我を負っても治癒の力を使うことは禁じられている。
神官同士はよく自分たちの怪我に対して包帯を巻いて痛み止めを飲んだものさ……。
私たちの治癒は、すべて兵士のためのもの。
だから兵士は神官を守らなければならないとされている。
まあそんな特殊能力を宿した人材がたくさんいるからこそ、他国はこの国に対して人的資源を求めて戦争をふっかけてきているんだからとんでもない話だぜ……。
(しっかしアドルフさんの治療はごっそりもってかれた……その割にあんまり回復してない、いや酷すぎたんだな……よく暴走しないもんだよ)
暴走するまでのリミットは、人によって異なるという。
そこんとこはゲームでも語られていなかったのでよくわからない。
アドルフさんは相当我慢強いのか、あるいは精神力の問題なのか……。
私はアドルフさんを見る。
少なくとも、疲弊していた色は和らいでいるようだ。
「ご気分は」
「……とてもいい。ありがとう」
「良かった」
薄くでもいい。笑ってくれた。
それが心底嬉しくて、私も笑ったのだった。




