表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪を許されし者  作者: 仕方舞う
PR
10/12

絶対なる断罪者

 魔界に逃れたレティスは、煌太の仲間達を探し彷徨っていた。荒廃した大地、朽ち果てた森林、枯れた湖、何処を探してもそれらしい影を見つからず、遠くに見える王国に向かっていた。その姿は、奥底から染み出す怨念で悍ましく見える。

「憎い…神に仇名す…大罪人…」

 レティスは、強引にバアルとの契約をきった為、体はボロボロ。契約の破棄には、双方の合意、もしくは契約内容の違反が条件。それ以外での破棄は、ペナルティーとして肉体にダメージを負う。バアルに破棄の意思があった為、合意以前でも死に至る事は無かった。

「何処にいる…大罪人の仲間は…」

 彷徨うレティスは、悪魔にとってはおもちゃ同様。

 離れた場所で様子を見ていた低級の悪魔が、ニヤニヤしながらレティスに近づく。

「おい、お前は人間か?」

 現れた悪魔は、全部で5体。

 四体が低級で、奥に控える一体がクラス(アーク)の上級。

「悪魔か…お前達に用は無い。さっさと去れ…」

 悪魔を無視して王国に向かうレティス。

「そう言うなよ」

 悪魔は、レティスを取り囲み、魔力で押さえつける。

「離せ! 私には成すべき事がある。お前達にかまっている暇はない!」

「久し振りに人間を弄べるんだ。簡単には逃がさねぇよ」

 悪魔達は、レティスをボールのように蹴り飛ばす。

 レティスは、激痛に耐え逃げるように王国に向かって走るが、ボロボロの体では然程速度は出ず、直ぐに悪魔に追いつかれる。

「良い逃げっぷりだな。狩る方としては楽しみ倍増だ」

「…楽しい? 悪魔風情が…許せない…」

「お前の許しはいらないぜ」

 魔力で再びレティスを押さえつける。

「…許せない…神を謀る全てを…」

「何を言っているんだ? 魔界で神を語るとは馬鹿にも程がある。魔界に居るのは神の敵ばかりだからな!」

 悪魔が口走った言葉は、レティスの心の引き金を外す。

「…神の敵。そうか…そうだな」

 レティスの腹から、赤い宝石が光と共に飛び出してくる。

「何だ?」

 低級の悪魔達は、出てきた宝石に興味を持ち、次々触れていく。

 上級の悪魔は、宝石を見て徐々に表情が恐怖に歪む。

「お前達! 早くその宝石から離れろ!」

「旦那、どういう事ですか?」

 上級の悪魔の忠告が届いた時には、既に手遅れだった。

 赤い宝石から漆黒の泥が溢れてくる。

 泥は、悪魔を飲み込み、潰し、その命を糧にして巨大化していく。

「人間! 何故、貴様がタルタロスの封印石を持っている! あれは、魔界の奥底に封印されている筈だ!」

「…神が統べる世界に、醜いものはいらない!」

 レティスの意識は、既にタルタロスの影響でボロボロに破壊されている。残っているのは、深層に残されていた怨念のみ。

 レティスも、拡大する泥にのみ込まれる。

「くそっ! 早急に報告に戻らねば!」

 上級の悪魔は、王国に向けて飛んでいく。



 漆黒の泥は勢いを増し、蔓延る悪魔を飲み込んでいく。

 次第に二足歩行で動く獣のような姿になり、大口を開け雄叫びを轟かせる。その轟音は、王国の主にも届く。



「ベリアル様、直ちに非難を」

 髭を生やした老悪魔が、玉座に鎮座する魔王ベリアルを説得していた。

 赤褐色の重鎧、深紅のマント、炎のように揺蕩う髪。炎を体現した姿からは威厳を感じ、老悪魔の背後に控える悪魔達の顔が強さと気難しさを物語っていた。

「嫌だ…」

「そう仰らずに…」

「クドイ!」

 ベリアルは、幾ら説得されても玉座から動こうとはしない。

「ベリアル様、この城に向かっているのはタルタロスです。我々どころか、神々ですら逃げだす存在。プライドに拘っている場合ではないでしょう!」

「タルタロスだろうと関係ない! 迫りくる敵に背後を見せるなど、死んでも嫌だ! 魔王としてのプライドは命よりも重い!」

「何を訳の分からない事を! タルタロスの齎すのは永劫の闇。一度囚われれば二度と逃げ出す事は叶わない。それどころか、存在を書き換えられ魔獣に…」

「下らない御託はいい! 俺に倒せぬ相手はいない。それを今証明してやる!」

 ベリアルは、炎を右手に集中し一振りの大剣を生み出す。

「俺の覇道を阻む者は無し!」

 マントを翼に変え、壁を破壊し外へ飛び出す。



 眼下に広がるのは、天にも届きそうな巨体に至ったタルタロスの姿。

 城下町では、逃げ惑う悪魔達が巨大化し続けるタルタロスに取り込まれていく。ベリアルの耳に届くのは、取り込まれていく悪魔達の断末魔の叫び。

「…これがタルタロス…」

 ベリアルの手は小刻みに震え、握る剣がカタカタ音を立てる。

「恐怖などしない。俺は如何なる敵にも勝利する…」

 剣に炎を奔らせ、町を飲み込む炎でタルタロスを攻撃。

 タルタロスは、炎に怯む事無くベリアルに向かって方向転換。

「死ね!」

 ベリアルは、何度も剣を振るい、タルタロスを炎で焼き続ける。

 だが、炎の影響はタルタロスに全く現れない。炎によって被害を受けるのは、逃げ惑う悪魔達。タルタロスに取り込まれる前に業火に包まれ死んでいく。

「お止め下さい!」

 老悪魔が後を追い飛んでくる。

「何をしに来た! お前は国民達の避難を急げ!」

「その国民を焼き払っているのはどなたですか!」

「仕方あるまい。どの道、タルタロスからは逃げられない…」

「それはベリアル様も同様です! タルタロスには如何なる攻撃も効きません! 封印しようにも、神の恩恵を受けられる者は魔界には居ない…。我々に出来るのは、タルタロスの嗅覚が届かぬ場所に逃げる事だけです!」

「…グゥウウ」

 どんなに力を振り絞っても倒す事が出来ないのは、ベリアルも知っていた。知っているが、プライドを捨てる事は出来ない。魔王となって背負ったものが邪魔をしていた。


「…その忠臣の言う通りだ」


 何処からともなく声が聞こえる。

「誰だ!」

 目の前の空間を引き裂き、Tシャツ短パン姿の悪魔が現れる。

 老悪魔は、その姿を見ても特に何の感情も抱かない。

 だが、ベリアルは違っていた。

「…そ、その顔…まさか、アルスゼア…?」

「しっかり覚えていたか。俺はてっきり忘れていると思ったぞ」

 威厳に満ちた姿しか知らない老悪魔は、アルスゼアのラフな格好に驚愕。そして、アルスゼアと知ると恐怖が押し寄せてくる。

「あ、あの…アルスゼア…?」

 老悪魔は、器用に空中で土下座を披露する。

「お許しください! 我が国は見ての通り最悪の状態。貴方様の戦いを受ける余裕はございません!」

「何を勘違いしているんだ。俺はただ御遣いに来ただけだ」

 ベリアルは、恐る恐るアルスゼアに質問。

「御遣い? 誰に、何を? ふざけた冗談のつもりか?」

「信じてもらう必要はない。それよりさっさと逃げろ。タルタロスを相手出来るのは、俺の国の国王ぐらいだからな」

「…今、国王って言ったのか?」

 ベリアルと老悪魔は、顔を見合わせる。

「お前…まさか、国王から退いたのか? って事は、負けた…のか?」

 アルスゼアの答えに注目するベリアルと老悪魔。

「ああ、ものの見事に大完敗! あまりに圧倒的な敗北に、清々しく嬉しい気持ちだった」

「う…嘘だろ…」

 ベリアルは、タルタロスどころではなくなる。

「お前は絶望的に強かった! この俺が「逃げられて良かった~」って、胸を撫で下ろした程だぞ! それが誰に負けたんだ? ルシファーか? ベルゼブブか?」

「視野が狭いな。魔界の住民とは限らないだろ」

「じゃあ、神か? 絶対権限を行使したのなら、可能性はあるか…」

「それも違う」

「だったら誰だよ!」

「…何を言っても無駄だな。はぁ…もう直ぐ来るから、その目で確かめろ」

 溜息を漏らすアルスゼアの背後には、タルタロスの巨大な手が迫る。

 言葉なく驚愕するベリアルだが、その顔が指しているのはタルタロスではなかった。


「…お前だけは絶対に!」


 タルタロスとアルスゼアの間に、魔法陣が生成され、悪魔化した煌太が現れる。

 バアルと戦っていた時の冷静さは失せ、レティスに対する激しい怒りが全身から漂う。ベリアルは、その凄まじい殺気に気圧され恐怖する。

「な、何だ…この殺気。魔王の俺が…こんな感情を…」

 煌太は、アルスゼアの背中を軽く叩く。

「そこに居る悪魔を避難させてくれ。加減できる状況じゃない」

「任せろ」

 アルスゼアは、ベリアルと老悪魔を軽く抱え退避。

 煌太は、迫りくるタルタロスに向けて右手を伸ばす。

「もう、我慢はしない…」

 タルタロスの腕を躱し、額に触れる。

「これからは…」

 全ての魔力を解放し、血が滲む程左手を強く握り締める。

「全力で終わらせる!」

 右手を額から離すと同時に、左拳を力の限り叩きつける。

 轟音を響かせ、タルタロスの体は宙を舞う。

「グオオオオオオオオオオッ!」

 煌太の一撃は、タルタロスの全身に衝撃を与え闇の結合を破壊する。獣の形態は崩れ、全身の輪郭がグラグラと揺らぐ。

 次いで、タルタロスの落下地点に回り込み、突き上げるように拳を叩きつける。

「グギャアアア!」

 上空に打ち上げられながら、完全に獣の形を失い、闇が収束した雲のような形に。宙を漂いながら、獣の形態に戻ろうとするが、打撃の影響で中々元に戻れない。



 退避した城で、ベリアルと老悪魔は身を乗り出して煌太の様子を見ている。

「な、なんと! 悪魔の力では、タルタロスにダメージを与える事は出来ない…筈です」

 ベリアルは、大口を開けたまま煌太の姿から目を離せない。

「現に成し遂げている…。お前の知識に誤りがあったのだろう…」

「アルスゼア様! 説明してください!」

 老悪魔の質問に、アルスゼアは笑いながら答える。

「原初の神は、自身が創った(うつしみ)の生命を蔑む態度に不安を感じていた。そこで、神を罰する事が出来る存在(だんざいしゃ)を生み出す事にした。必要以上に生命に介入しないよう釘を刺す為に。だが、原初の神がこの地より離れた隙に、神々(うつしみたち)は断罪者を殺した。それを知った原初の神は怒りに震え、神々に混沌(カオス)を差し向けた。混沌の力は絶大だった。地上はありとあらゆる天変地異に見舞われ、神々は多くの死者を生みながら天界へと逃れた。神が居なくなった世界に、原初の神は断罪者の亡骸を種にして撒いた。種は時間を掛けてゆっくり芽吹き、人として姿を成して行った。全ての生命の上に立ち、全ての生命を慈しむ存在へと至る為に。だが神はそれを許さなかった。争いの誘惑で人の心を穢し、自ら滅びるように仕組んだ。しかし、神は知らなかった。原初の神がそこまで見越していた事を…」

 老悪魔は、アルスゼアの話に眉を顰める。

「そんな話を聞いた事は…」

「知る筈はない。原初の神は、世界を生み出したら別の世界を生み出す為に旅立つ。となると、話しを広める事が出来るのは残った者だけ。つまり、現在伝わってる神話や伝承は、神の思惑によって生み出されたものだ」

 ベリアルは、冷や汗を垂らしながら振り向く。

「おい…。じゃあ、あの戦っているのが…」

「その通り。煌太こそが、原初の神が創った()()()()()()()だ。神が犯した罪の証であり、神が負うべき最後の罰」



 煌太の右手に白い剣、左手に黒い剣が現れる。

「これでお前は消える」

 二本の剣を重ね合わせると、巨大な刃の鎌に変化。禍々しい虚無の光を纏い、存在しているだけで空間が砕け、魔界が亜空間に変わっていく。

「存在両断!」

 大鎌でタルタロスを薙ぎ払うと、体と同時に空間も両断する。

「グググググ…グア…ユル…サ…ナイ…」

 獣のような唸り声の合間に、レティスの声が混じる。その声には深い憎悪が込められ、両断された断面から声が聞こえている。

 煌太は、レティスの存在に止めを刺すべく、十字になるようにもう一度タルタロスを両断。亜空間は両断された状態に耐え切れず、ブラックホールのように大きく砕け、タルタロスを吸い込んでいく。

「必ズ…オ前ノ…命…ヲ…」

 タルタロスは、レティスの執念ごと破損した空間に飲み込まれ消える。

 破損した空間は、レティスを飲み込むと何事も無かったかのように元に戻り、亜空間状態も解消される。



「やったぞ! 本当にやりやがった!」

 ベリアルと老悪魔は、肩を組み歓喜に浸る。

 だが、アルスゼアだけは暗い表情に変わる。

「どうしたんだ? お前の王様が勝ったんだ、もっと喜んだらどうだ?」

「…タルタロスが狭間に消える寸前、確かな意識を感じた…」

「それの何が問題だ?」

「完全に近い状態で召喚されたタルタロスは、素体となった者の精神を最初に滅ぼす。幾ら弱っていたからと言って、あの段階で意識が残る筈は無い…」

「完全じゃなかったとか?」

「悪魔を贄にした時点でそれは無い」

「…じゃあ、もし意識が残っていたらどうなるんだ?」

「…タルタロスが支配される」

 アルスゼアは、慌てて空間を裂く。

「ベリアル、早くここから逃げろ! 俺は忘れ物を取ってくる」

「おい! ちょっと待て!」

 制止に耳を傾けず、アルスゼアは空間の亀裂の中に消えていく。



 煌太は、大鎌を白と黒の剣に戻す。

「…殺されていく人の気持ちが分かったか…」

 怒りを感じながらも、神以外に信じるものの無かったレティスを許そうとしていた。なにより、そうしないと自分自身が悪であると錯覚してしまう。立場が変われば、正義の定義が変わる。理解し許す事が出来なければ、自分の正義を貫く事が出来ないと思っていた。

「帰ろう…。皆待っている」

 膨大な疲労に押しつぶされそうになりながら、フラフラと仲間達が待つ王国に歩を向ける。


「…何処ニ…行ク…」


 何処からともなく声が聞こえる。

 空が響き、大地を揺らし、心を震わせる。


「…神ニ背ク…大罪…者…。オ前ニ…行クベキ…場所ハ…ナイ」


 再び魔界は亜空間に変わる。

 そして、破損した空間が現れる。


「粛清ノ時ハ来タ…。私が…醜き者達を…」


 破損した空間から真っ黒い腕が伸び、空を掴みながら何かが這い出てくる。

 それは、泥の塊のような黒い人。

「まさか…!」

 空間を抉じ開け、黒い人が飛び出してくる。

 泥の塊が黒いドレスを纏ったレティスに変化。

「天埼煌太。お前に私を倒す事は出来ない。永劫の闇を我が物とした私は、不滅」

 レティスが指を鳴らすと、亜空間は消滅。

 一歩前に進む毎に、踏みしめた大地が闇に侵される。

「俺は負けない! どんな力を身に着けたとしても、絶対!」

 煌太は、手にした大鎌でレティスを薙ぎ払う。

 体は両断され真っ二つ。

「フフフ、闇を滅ぼす事は出来ない」

 両断された体は、瞬く間に接合。

 煌太は、諦めずに再度大鎌を振るう。

 だが、今度は触れただけで大鎌が粉々に砕ける。

「くっ!」

「言っただろ? 闇を滅ぼす事は出来ない。神の存在が輝かしいほど闇は深くなる。今の私は、神の存在が如何に崇高か物語っている。この私が、神の偉大さを体現している!」

「禍々しい闇が慕う神…それは邪神か?」

「不敬!」

 レティスの指先から闇の弾丸が放たれ、煌太の胸を貫く。

 煌太は、立っている事が出来ず、その場に倒れ込む。口からは大量の出血。

「神に対する不敬は私が許さない。口を慎め」

「い、嫌だ…。悪を許す奴に…敬意など…払えるかっ!」

 気力を振り絞り立ち上がるが、煌太の体力を既に枯渇状態。大鎌が壊れた原因も煌太の疲労のせい。

「ならば死ね。神を蔑ろにする者に、この世界で生きる資格は無い」

 レティスが両手を翳すと、全ての指から無数の闇の弾丸が放出される。そのどれもが煌太を狙い、そのどれもが光よりも早い。

「生きる資格は、誰かに貰うものじゃない!」

 煌太は、瞬間移動を繰り返し回避。

 だが、闇の弾丸は煌太の存在を感知し、何処に移動しようとも瞬時に捕捉。

「…逃げられないのか…」

 闇の弾丸の全てが煌太に命中。

 全身から大量出血。

「永劫の闇は、人間の心にも根を張っている。何処に逃げても無駄だ」

 煌太は、光を右手に収束。

「だったら、撃つ前に倒す!」

 瞬間移動の後、レティスの顔面に右拳を叩きつける。

 レティスの顔は大きく歪み、口からは黒い血が流れる。

「…永劫の闇の前では、光とて無力」

 歪んだ顔は二つに分かれ、竜の頭に変化。

 大口を開けて、灼熱の炎を煌太に浴びせる。

「何をしても闇に溶け込むだけだ。諦めたらどうだ?」

「…諦めるものか。俺は、皆の祈りを背負っている!」

 全身を氷結させ、炎の威力を軽減しながらレティスを何度も殴打。

 しかし、竜の頭は微動だにしない。

「だから人間は醜いのだ。与えられた運命を呪い、与えられた救済を拒み、挙句の果てには抗おうとする」

「お前の方が醜い! 運命を決めるのは自分自身だ!」

 煌太は、竜の口に腕を突っ込み、内部に冷気を放つ。

 冷気は炎を凍らせ、竜の頭は内部から凍結。

「運命は、人の手には無い」

 凍結した竜の顔が砕けて落ち、代わりにライオンのような頭に現われる。

 レティスの声でライオンの頭は笑う。

「理を生み出した神の手に中にある。神に不都合なら、神の手で人の運命を変える」

「…やはり、神を倒さないといけないな」

 煌太の言葉に、レティスは激怒。

「出来はしない!」

 レティスが咆哮。

 その影響で、煌太の体は麻痺する。

「この私が、お前に死の運命を与える」

 動けない煌太に、闇の弾丸を浴びせる。

 煌太は咄嗟に顔を守る。

 闇の弾丸が全身を貫き、激痛と倦怠感が全身を支配。だが、煌太は諦めていない。絶望的な攻撃に晒されていても、その決意が揺らぐ事は無い。

「運命は神の手に…。だったら、全部壊してやる! 神も! 運命も! 人が自分の足で歩く事を許さないなら、俺はその理も破壊する!」

 煌太は、一歩ずつレティスに近づく。

 勢いを増す闇の弾丸に怯まず、腕の隙間からレティスを睨む。

「俺は断罪する…。許されざる者全てを…」

 煌太の気迫は、レティスを圧倒。

 優位にある筈のレティスが、徐々に追い込まれていく。

「…な、何だ、この圧力…? 有り得ない。闇の女王になったというのに…この程度の人間に…」

 煌太が迫る度、レティスは後退り。

 何度精神を奮い立たせても、体が勝手に反応してしまう。

「まさか…私が劣るのか? いや、そんな筈は無い!」

 闇を周囲に広げ、その中から大量の魔獣が現れる。

 魔獣はレティスの意思に従い、一斉に煌太に襲い掛かる。

「殺せ!」

 爪が皮膚を裂き、牙が肉を引き千切る。

 血塗れになりながらも、煌太の歩みは止まらない。

「…無駄だ。どんな力でも、俺は止まらない…」

 従うのみの魔獣だったが、煌太の殺気に圧され勢いが鈍くなる。

 煌太は魔獣を押し退け前進。

「お前を倒すまで、絶対に!」

 レティスの恐怖が魔獣たちに伝染。

 魔獣は闇の中に消える。

「く…こうなったら、永劫の闇の中へ閉じ込める!」

 闇が煌太を飲み込む。

 必死にもがく煌太だが、もがけばもがく程、闇の奥へと落ちていく。

 レティスは、確信を得て笑う。

「もう二度と外には出れない。闇の中で感じろ。醜い人間達が死滅する様を」



「ど、どうしたら…」

 城では、ベリアルが落ち着かない様子で自問自答を繰り返す。

「助けに行くべきか、行かざるべきか…。助けに行ったとして、あの女には勝てない。とは言っても、助けに行かなければ、いずれこの世界は終わる…」

 思考は巡り、同じ事の繰り返し。

 老悪魔は、答えの一助を試みる。

「ベリアル様、私共には何も出来ません。早々に避難するのが得策かと…」

「何処に逃げるというんだ。あの様子では、悪魔を根絶やしにするのも時間の問題だ!」

「それは無いかと思われます。恐らく、あの女が目指しているのは神の世界の保護。邪魔になる人間を根絶やしにする事は有り得ますが、魔界から侵攻しない限り悪魔に害が及ぶとは思えません」

 ベリアルは、少し安堵する。

 だが、直ぐに自分の考えを断ずる。

「…プライドが許さん!」

 堂々巡りの考えを断ち切り、城から飛び出す。

「ベリアル様!」

「人間が居ない世界はつまらん! それに、人間を苦しめるのは俺達の特権だ!」

 宙を舞いながら、ベリアルはレティスに向かい炎を放つ。

 イメージとはかけ離れる素早く華麗な動きで、レティスを翻弄しながら、出来るだけ死角に回り込むように。だが、レティスの纏う闇に触れた瞬間、炎は闇に飲み込まれる。

「まだ邪魔者が居たか…」

 レティスの背中から、竜と人間が歪に融合した魔獣が現れる。

 頭は竜。体は右半身が人間、左半身が竜。左足は人間、右足は竜というより鱗を纏った蛇。翼が生えているのは左半身で、右半身の背中には竜の首が三つ。背中から生える竜の首は、それぞれが独自に動き、時として竜の首同士で睨み合う場面も。

 魔獣は、人の声と獣の声が混ざり合った不気味な声で囁く。

「母ヨ。我ハ何ヲ?」

「…そこに居る邪魔者を殺せ」

 魔獣はベリアルを数秒間眺め、薄ら笑いを浮かべる。

「母ヨ。我ガ必要ナ相手カ?」

「従わないというのか?」

「ソウデハナイ。タダ、久々ノ闘争ヲ楽シメソウモナイ…」

「仕方ない。お前の相手を担える者はそうそう居ない」

「…ソウダナ」

「それに、私には役目がある。神の世界に蔓延る人間を粛清しなければならない。邪魔者はお前に任せる」

 レティスは、魔獣にその場を任せ何処かに飛んでいく。

 魔獣は、ベリアルに向かい背中の竜の首を伸ばす。

 べリアスの顔の前で止まり、竜の声で一言。

「光栄ニ思エ。我ガ名ハ、テュポーン。恐怖ト破壊ノ魔獣」

 三つの竜の首は、一斉に炎を吐く。

 炎はベリアルを飲み込み、生き物のように締め上げていく。

「何だよ…これは?」

「神ヲ恐レサセタ、恐怖ノ炎。心ノ奥ニ潜ム、恐怖ヲ呼ビ覚マス」

 ベリアルの脳裏に、アルスゼアに負けた時の光景が浮かぶ。だが、直ぐに消え。代わりに全身に力が漲る。

「恐怖か…確かに一瞬見えたが、炎ってのがダメだったな」

 炎がベリアルの体に取り込まれていく。

「何ダ…」

「俺は炎を司る魔王! 恐怖の炎でも無意味なようだな!」

 恐怖の炎はベリアルを強化する。

 蠢く炎を獣の姿に変え、テュポーンを襲わせる。

「ヨモヤ、我ガ力ヲ…。仕方アルマイ。消エテモラウ…」

 三つの竜の首の一つが青色に変わり、口から冷気を放つ。

 冷気は炎を消し去り、ベリアルも氷漬けにする。

「な、に…」

「我ハ破壊ヲ司ル。炎ダケト思ッタカ?」

 残り二つの竜の首が黄色に変わり、口から雷を放つ。

 氷漬けになったベリアルを、氷を破壊せずに雷で攻撃。

「挑ム事スラ許サレヌ、貧弱ナ者ヨ。恐怖ト共ニ死ヲ受ケイレロ!」

 青い竜の頭が常に氷漬け状態を維持し、黄色い竜の頭が雷を放ち続ける。

 ベリアルは炎の力で氷を溶かそうとするが、魔力の桁が違うテュポーンの冷気に敵わず、雷撃のダメージを蓄積していく。


「ベリアル様!」


 テュポーンの背中に飛びつく老悪魔。

 竜の首を引っ張り、冷気の向きを変える。

「私が、お守り致します!」

 氷が解け、ベリアルが解放される。

「何をしている! 早く逃げろっ!」

「嫌です…。私は、ベリアル様の側近。主の窮地を救う為なら…」

 嫌悪感を滲ませるテュポーンが、左腕で老悪魔の腹を貫く。

 魔力を流し込み、下半身を吹き飛ばす。

「爺さんーーーー!」

 ベリアルが伸ばした右手の甲に、老悪魔は僅かな魔力で紋章を刻む。

「ベリアル様…あなたなら…使いこなせる筈…。私は、幸福でした…。最強の魔王に仕える事が出来て…」

 竜の首は炎を吐き、老悪魔を焼き払う。

 炎に包まれる老悪魔は、ベリアルに笑顔を見せ、灰となって消える。

「愚カナ。態々邪魔ヲシナケレバ、死ヌ事ハナタッカ」

「…ふざけるなよ…」

「何カ言ッタカ?」

「ふざけるな!」

 ベリアルは、怒りに任せて殴りかかる。

 だが、青い竜の首が放つ冷気で凍り付く。

「オ前ノ言葉ハ、意味ヲ成サナイ。フザケルナ? ドンナ意味ガアルノカ聞キタイモノダ」

 黄色い竜の首が雷を放つ。

「死ンデシマッテハ、聞ク事モ出来ナイカ」

 雷が氷漬けのベリアルを直撃。

 だが、氷の表面を流れ、ベリアルの体には雷撃が流れない。

「ふざけるなの意味…そんな事も知らんのか?」

 氷が急速に溶け、ベリアルが解放される。

 解放されたベリアルは、今までよりの更に激しい炎を纏っている。

「辞書で引いて自分で調べろ!」

 ベリアルの拳がテュポーンに直撃。

 炎に包まれながら吹き飛ばされていく。

「ナニッ! 何故、氷塊カラ逃レル事ガ…?」

 テュポーンは再び、青い竜の首で冷気攻撃。

 ベリアルが右手の甲を冷気に翳すと、冷気が炎に変換される。

「俺の側近は優秀だ。力は無くとも、お前より遥かに頭が良い。お陰で、お前を殴り飛ばせる!」

 変換した炎は、ベリアルを更に強化。

 瞬時にテュポーンの眼前に移動し、凝縮した炎を拳に乗せて放つ。

 テュポーンの体は業火で焦げていく。

「貧弱ナ悪魔風情ガ!」

 冷気で炎を払い、竜の首を全て黄色に変化させる。

「裁キノ雷デ死ヌガイイ!」

 三つの竜の首が天を仰ぐと、空が曇り、雨のように雷が降り注ぐ。しかも、その全てがベリアルを追尾。

「確かにお前は強い。だが、戦いの経験は浅いようだな」

 ベリアルは、テュポーンの背後に回る。

「何ノツモリダ?」

「追尾するなら、お前を盾にすればいい」

「愚カダナ。イクラ上手ク隠レテモ、我ノ雷ハ…」

 雷は器用に湾曲し、ベリアルに向かって行く。

 しかし、ベリアルが右手の甲をテュポーンに押し当てると、雷はベリアルからテュポーンに標的変更。反応する間もなく、全ての雷はテュポーンに命中。

「ガアアアアアアアアッ! 何故、我ニ…?」

「簡単な話だ。爺さんに貰ったのは性質変換の紋章。冷気を炎に変えたり、炎を冷気に変えたり。だが、性質変換は何も属性だけに限ってはいない。俺とお前、個々の認識を変換する事が出来れば、どうだ?」

「…我ガ、オ前ト認識サレタ…」

「そうだ! 目を介して認識する存在なら謀れないが、追尾する雷に分からない!」

 雷雲から齎される雷は、執拗にテュポーンを攻撃し続ける。勿論、テュポーンは雷を治めようとするが、ベリアルと認識している為、一切の指示を受け付けない。

「貧弱ナ者ニ、出シ抜カレルトハ…。ククク、ハハハ…。我ノ甘サガ招イタ失態ダナ…」

 竜の首が重なり合い、歪な翼に変化。

 降り注ぐ雷を吸収し始める。

「おいおい、冗談だろ…?」

「本来ノチカラヲ出シタ。貧弱ナオ前ニハ、勝目ハナイ」

 雷を受けながら、ベリアルの腹を殴る。

 たった一撃で骨が砕け、内臓が潰れる。

「ぐはっ…。あ、あの、な…反則…って言葉…知っているか?」

「戦イノ理ハ、勝者ガ決メル」

 テュポーンは、悶絶するベリアルを殴り続ける。逃げようとする挙動を封じるように、魔力で障壁を張り逃げ場を奪いながら。

「くそ…勝てると思ったらこれか」

 ベリアルは逃げるのを止め、敢えて殴られに向かう。

「勝てないなら、せめて…」

 そして、意味が無いと分かりつつテュポーンに体当たりをする。

 案の定、ぶつかってもテュポーンはビクともしない。

「何ノツモリダ? 思考出来ナクナッタカ?」

 体当たりをするベリアルを乱雑に払い投げ、魔力を凝縮した衝撃波で追い打ちをかける。

 ベリアルは、衝撃波に逆らい妙な方向に逃げる。

「お前を倒せなくとも…」

 逃げた方向には、レティスの姿。

「邪魔ぐらいは出来る!」

 レティスは人間界への魔法陣を作成中。タルタロスを取り込んだせいか、普段よりも魔法陣作成に戸惑っている。

「シマッタ! マタモ油断シタ!」

 テュポーンが後を追うが、時すでに遅し。ベリアルはレティスの魔法陣に落下。

「人間は…殺させないぞ!」

 炎の力で魔法陣を焼き消す。

 レティスは、ベリアルの腹に黒い槍を突き刺し、追ってくるテュポーンの方に投げる。

「よくも邪魔を…。テュポーン! この程度の相手に何をしている!」

「母ヨ、スマナイ。油断ハモウナイ」

 テュポーンは、ベリアルの頭を掴み地面に叩きつける。

 魔力が最大限に高まり、拳に収束。

「死ネ」

 ベリアルの顔面に向けて拳を放つ。

(くそ…ダメだったか。ガラでもない事、するんじゃなかった…)

 ベリアルは瞼を閉じて死を受け入れる。


「よくやった」


 ベリアルは、声に反応して瞼を開く。

 すると、テュポーンの拳が目の前で止まっている。拳の奥では、悔しさを滲ませるテュポーンの顔。

「何ガ…起キタ…」

 動きを止めたテュポーンの頭に、誰かの手が乗る。

「邪魔だ」

 投げ飛ばされるテュポーン。

 ベリアルの目に映ったのは、アルスゼア。右腕に畳まれた黒い布を抱えている。

「アルス…ゼア…」

「よく頑張った。見直したぞ」

「お前に、褒められるとは…反吐が出る…」

「減らず口とは、まだ余裕があるようだな」

 アルスゼアは、左手を翳す。

 ベリアルの傷が瞬時に再生。

「立てるか?」

「あ、ああ…」

 立ち上がったベリアルは、体の調子に驚く。傷の再生どころか、今まで感じた事のない強大な力が体中に満ちている。

「貧弱ナ者ノ分際デ、我ヲ…。許スモノカ!」

 テュポーンの動きは以前止まっているが、全ての魔力を雷に変え、アルスゼアに落とす。

 雷に気付いたベリアルに、アルスゼアはピースサイン。

「愚かだとは思わないか? 本当の弱者がどっちか分からないとは」

「えっ?」

 雷はアルスゼアの手前で止まり、光の礫になり消える。

「テュポーン。雷で俺を殺したいなら…」

 テュポーンの上空に光が集まる。

 アルスゼアが指を鳴らすと、光が極大の雷に変化し落下。

「これぐらいじゃないと」

 テュポーンの体は、光の雷の中で消滅していく。

「マサカ…神ノ雷…。グオオオオオオオオオォォォォォォォ!」

 完全に消滅したテュポーン。

 レティスは、状況を飲み込めず呆然。

「貴様…何者だ? 神雷を使える悪魔? 有り得ない…有り得る訳が…」

「俺の事はどうでもいいだろ?」

 アルスゼアは、抱えていた黒い布をレティスの足下に広がる闇に投げ入れる。

「お前が気にしなくてはならないのは、天埼煌太ただ一人」

 レティスは、煌太の名前を聞いて大声で笑う。

「あの男には何も出来ない! 闇に取り込まれ、力も、心も、既に無くなっている! 何をしても…うぅぅ…何だ、この感覚…」

 笑い声は消え、胸を押さえ苦しみだす。

「体の奥が…壊れていく…。闇の中に何を入れた!」

「最強の力。いや…最強の愛…かな?」

 闇の一部が光に変わっていく。

「愛だと? そんなもので何が出来る! 闇を破壊する力などない!」

「お前が無知なだけだ」

 光の下から、瞼を閉じた煌太が浮かび上がってくる。

 悪魔化は解除され、黒いコートを纏っている。

「闇の牢獄から…抜け出した…」

 煌太は、コート越しに胸を押える。

 ヒーローが着ていそうなカッコいいコート。市販品と勘違いしそうな見た目だが、煌太が押えた場所には市販品では有り得ないものがあった。

 手を退かすと、『大好きな煌太へ』と刺繍がされている。

「…ユキネ、ありがとう」

 煌太の右手に断罪の太刀が現れる。

 真っ黒な刀身には白い光跡が刻まれ、刀身全体から暖かい光が周囲に広がる。

 暖かい光は、蔓延る闇を取り除き、魔界を光満ちる世界に変える。

「天埼…煌太…。お前は何処まで邪魔をすれば気が済む」

「お前が神の世界を諦めるまでだ」

「あの世界は神のものだ。人間のものではない! 愚かにも過ちを繰り返した人間には、住まうべき世界は無い!」

「愚かなのは認める。だが、それは神もだ。だって、人間を生み出したのは神だろ? 人間が愚かだというなら、創造した神もだろ?」

「…」

「神も過ちを犯す。ならば、人間の過ちも理解するべきだ。奈落に堕とし、悪魔の餌食にする。そんな事絶対にしてはならなかった! 例え、お前が原因でも!」

 煌太は、断罪の太刀をレティスに向ける。

「…人間を断罪する資格が神にあるなら、神を断罪する資格は人間にある。お前を断罪した後、俺は神も断罪する」

 レティスは、無数の闇の弾丸を放つ。

 だが、煌太が断罪の太刀を振るうと、全てが消滅。

 煌太の声に、老人の声が重なる。

「原初より続く過ちを、絶対なる意思が裁く」

 煌太の背後に、髭を生やした白いローブの老人が浮かび上がる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ