第5幕'反撃'
季節は冬に入り、私立入試が近くなった十二月の半ばごろ。僕の心は揺れていた。
そりゃあ当然拓也に関してはもう縁を切った。これからも、卒業するまでサンドバックになってもらうつもりだ。でも、三日前。本棚の整理をしていたときに見つけた写真。
僕と拓也のものだった。五歳くらいか。一緒に遊園地に行った。あの頃はまだ父さんも生きていて、幸せだったんだ。ストレスなんて、感じる暇もなかっただろう。
……本当にこのままでいいのだろうか。母さんや、クソみたいな医療センターの時とは違う。
今回のことは、僕が起こしたこと。僕が望んだ、決別。ちらりとベットで爆睡しているホープを見た。こいつを信じて間違いはない。でも、今回ばかりは違う。大丈夫だ。あいつは優しい。
「なぁ、ホープ。少しの間、離れてくれないか?」
驚いた様子でこちらを見つめるホープ。誤解を招かれないように、あわてて弁解した。
「ただ本当に拓也とこのままでいいのか不安になったんだ。お前の悪口ってわけじゃないけど、
お前が近くにいると、自分の意見を素直に言えないんだ。だから、見守っていてほしい。
これから僕が、どんな道を歩むのかを。」
「……うん。分かったよ。確かに君を見守るのが僕の仕事だ。君とは距離を置こう。でも、もし本当につらくなった時は、学校の裏に来いよ。そこで待ってる。」
ガラッという音と共に、部屋から人の気配が、音が消えた。僕は再び、参考書に向かい手を動かし始めた。
……
翌日、学校に着いた後まず向かったのは、加藤兄弟の元だった。拓也にしっかりと謝る決意を話しておこうと思った。
二人を屋上に呼び出して、話をした。しかし、
「あぁ、もう許してくれるってさ。」
富彦が放った言葉に、僕は唖然とした。だってまだ、今日はあいつの顔すら見ていない。
「といっても、お前は許さねぇとさ。必ず復讐するって言ってたぞ。」
「お、噂をすれば。」
和彦が指をさした先には、金属バットのようなものを引きずりながら、ボロボロの――俺が与えた傷だらけの――拓也が歩いてきた。何かぼそぼそと言っていたが、声が小さく聞き取れなかった。しかし、拓也が近付くにつれてにつれて、その恐ろしい中身を知ることとなった。
「君が悪いんだ…僕は君を元気づけようとしただけなのに…君があらぬ勘違いをしたんだ。
許したかったけど、出来なかった。だからパパの力を借りた。金か頭脳があれば、この学校では何をしてもいいんだ…だったら僕は、金の力を使うよ…」
いつもの拓也と全く違う形相に怯えて、逃げ出そうとした。でも、双子はそれを許さなかった。
僕をしっかりと羽交い締めにして、動きを封じた。
「今まで散々やってきたんだから、文句はねぇよなぁ!?」
色んなところを殴られた。腹、顔、足、手。巧妙にも服や髪の毛で隠れるところだけを狙ってきた。でも、なによりショックだったのは、校内の掲示板に貼られた紙に書いてある内容だった。
『戸島 賢人
彼は、この学校で過ごすことにおいて、ふさわしくない行為をしたため、退学処分とする。』