第7話:皆が心配してくれていた様です
しばらく進むと、貴族学院が見えてきた。なんだか緊張してきたわ、どんな顔してエヴァン様に会えば…て、別に向こうはきっと私を無視してくるだろうから、私も無視すればいいのよね…
そう、この1年間、ずっと無視され続けてきたのだ。特に今までと何ら変わる事はない。そう思えば、心も随分と軽くなる。
そして、ゆっくりと馬車が停まった。私たちが婚約破棄したことは、学院中に知れ渡っているだろう。きっと皆、好奇な目で見てくるわ。でも、大丈夫。私には、誰よりも心配してくれる家族がいるのですもの。そう思い、ゆっくり深呼吸をした。
そして、馬車から降りる。
すると!
「ルーナ、おはよう。よかった、やっと学院に来たのね」
ストロベリーブロンドの髪を腰まで伸ばし、水色の瞳をした女性が私に飛びついて来た。そう、親友で幼馴染のエマだ。
「エマ、おはよう、心配かけてごめんね。私、お義姉様と一緒に、ちょっと領地に行っていたのよ。ほらこれ、お土産よ」
「ええ、聞いたわ。それで、領地では少しはゆっくりできた?」
「ええ、とても楽しかったのよ。お義姉様がね、色々と連れてってくれて。本当に私、完全に吹っ切ったのだから」
「それは良かったわ。それにしてもあの男、ついに婚約破棄を言い渡したのね。でもよかったわ、あんな男と一緒にいても、ルーナは幸せに何てなれないもの。そうでしょう?ルーナ」
私の横で、エマが目を吊り上げて怒っている。
「私の為に怒ってくれてありがとう、エマ。でもきっと、私が何かしてしまったのよ。だから、エヴァン様をあまり悪く言わないでね」
「もう、あなたは。あの男が全面的に悪いに決まっているじゃない。さあ、早く教室に行きましょう。皆あなたを待っているわ。ただ…」
言葉を詰まらせるエマ。
「私は大丈夫よ。さあ、行きましょう」
エマと手を繋いで、教室に向かう。すると
「ルーナ嬢、よかった。今日は学校に来たんだね。君とエヴァンの婚約破棄が発表されてから、ずっと学院に来ていなかったから心配していたんだよ。可哀そうに、一方的に傷つけられて…」
私達の元にやって来たのは、この国の第二王子、アイザック殿下だ。殿下は私より、1学年下の2年生。
「アイザック殿下、私の心配をして下さり、ありがとうございます。実は1週間ほど領地で休息をとっておりまして。お陰ですっかり元気になりましたわ」
「侯爵に聞いたよ。そうそう、僕も君の婚約者候補に立候補したらね。貴族学院を卒業した後、僕は家臣に降り、公爵の爵位を賜る予定なんだ。だから僕と結婚すれば、君も公爵夫人だよ。ぜひ僕との結婚、検討しておいてね」
私に笑顔で伝えたアイザック殿下は、そのまま去って行った。まさかアイザック殿下からそんな事を言われるなんて…
「アイザック殿下もルーナに気があったのね。他にもたくさんの貴族が、あなたを狙っているわよ。でも、半年間は婚約を結べないのよね…あなた、ある意味この半年は大変かもしれないわ…」
なぜかエマが遠い目をしている。
「ちょっと、変な事を言わないでよ。きっとアイザック殿下は、婚約破棄された私を慰めるために言ってくださっただけよ。そうよ、そうに違いないわ…」
「そうかしら…まあいいわ。早く教室に行きましょう」
気を取り直して教室に入ると、沢山の令嬢や令息が私の元に飛んできてくれた。
「ルーナ、よかったわ。1週間も休むのだもの、心配したのよ」
「ルーナ嬢、元気そうでよかったよ。そうだ、今度一緒に、街に美味しいスイーツを食べに行こう。甘いものを食べると、元気が出ると言うだろう」
「おい、お前、抜けがけするな。ルーナ嬢、僕と行こうよ。そうだ、我が家に有名なパティシエを呼んで、スイーツパーティーなんてどうだい?きっと楽しいよ」
なぜか令息たちが競い合う様にして、色々と誘ってくれる。
「皆、私の為にどうもありがとう。でも私、意外と大丈夫なのよ。そうだわ、実は1週間ほど、領地に行っていたの。これ、みんなにお土産よ」
せっかくなので、皆にお土産を配る。その時だった。
「ルーナ様、あなたついにエヴァン様から婚約破棄をされたのですってね。あなた、ちょっと調子に乗っていたものね。いい気味だわ!」
私の元にやって来たのは、ヴィノーデル公爵家のご令嬢、ナタリー様だ。王太子殿下の婚約者なのだが、なぜか私の事を嫌っており、事あるごとにこうやって嫌味を言われるのだ。正直ナタリー様が苦手でたまらないので、愛想笑いをしてやり過ごしている。
周りの皆も、若干引いている。今回も、適当に愛想笑いをして過ごそうとしたのだが…
「ナタリー様、どうしてそんな酷い事をおっしゃるのですか?ルーナはとても傷ついているのですよ。それなのにいい気味だなんて、よくもそんな酷い事が言えますね。ルーナに謝ってください」
なんと、エマがナタリー様に文句を言ったのだ。
「エマ、私は大丈夫よ」
「何が大丈夫なの?こんな酷い事を言われて。少なくとも、私は大丈夫じゃないわ。親友に暴言を吐かれたのよ!」
目に涙をいっぱい溜め、必死に訴えるエマ。その優しさに、私まで目頭が熱くなった。
「ちょっと、あなた!侯爵令嬢の分際で、よくも私に文句を言ったわね!私は次期王妃になるのよ!」
顔を真っ赤にして怒るナタリー様。さらに怒りが抑えられないナタリー様は、エマを扇子で殴ろうとしたのだ。




