第2話:家族の優しさが身に染みます
お父様と一緒に、馬車に乗り込む。一度感情が溢れてしまった今、中々止める事が出来ず、お父様の前で泣き続けた。
「ルーナ、可哀そうに…公爵も何を考えているのだ!息子の言いなりになるなんて。大丈夫だよ、ルーナはとても美しくて優しい子だ。きっとすぐに婚約の申し込みが山の様に来るよ。ただ、この国は一度婚約を破棄すると、半年は婚約を結び直せないが。なぁに、半年の間でゆっくりと吟味すればいい」
私の肩を叩き、慰めてくれるお父様。
「ありがとうございます。でも…私はしばらくは1人がいいですわ…心が落ち着くまで。お父様にも迷惑を掛けてごめんなさい」
「どうしてルーナが謝るんだ!向こうが120パーセント悪いんだ!慰謝料を2倍にすると言っていたが、そんなものでルーナの受けた心の傷がいえると思うなよ!あの男!」
お父様が怒っている。きっとお母様やお兄様、お義姉様も悲しむわよね…私ったら何をしているのかしら?
「とにかく、ルーナは何も心配する必要は無いからね」
そう言ってほほ笑んでくれている。そうしているうちに、我が家に着いた。そのままお父様と一緒に馬車を降り、屋敷に入る。
「あなた、ルーナ、おかえりなさい。まあ、ルーナ、目が真っ赤よ。泣いて帰って来たのね。それであなた、やっぱり…」
お母様が私を抱きしめながら、お父様に確認をしている。
「ああ…クリスティロソン公爵家から、正式に婚約破棄の申し込みがあったよ。それで…さっき2人の婚約が正式に破棄された」
「そんな…」
お母様がその場に座り込んでしまった。
「父上、一体どういう事ですか?家には全くの落ち度がないはずです。それなのに、どうして婚約破棄なんて話になったのですか?もちろん、エヴァン殿に追求したのでしょうね!」
お兄様が珍しく声を荒げ、お父様に詰め寄っていた。
「なんて事なの…ルーナちゃん、大丈夫よ。あなたは何も悪くないわ…さあ、こっちで休憩しましょう」
家族の顔を見たら一気に涙がこみ上げ泣きじゃくる私を支え、お兄様のお嫁さん、お義姉様が私を支えながら、居間へと連れてきてくれた。玄関ではお兄様とお父様の声も聞こえる。
「大丈夫よ、ルーナちゃん。それにしても、エヴァン様は何を考えているのかしら?急に婚約破棄だなんて!」
「…お義姉様、急にではないと思いますわ…私、1年前からずっとエヴァン様に嫌われていたから…だから、きっとずっと前から考えていたのだと思います…」
「夜会のときにも、ルーナちゃんを放置していたものね。あの男!よく考えたら、あんな男に可愛いルーナちゃんをあげられないわ!ルーナちゃん、今は辛いかもしれないけれど、きっとあんな男と結婚しなくてよかったのよ。あなたは聡明で美しいし、何より人望も厚い。きっとすぐに素敵な殿方が現れるわよ」
お義姉様が慰めてくれる。そんなお義姉様の優しさが嬉しいような、やっぱり申し訳ないような気がして、お義姉様の前で声をあげて泣いた。私の背中を、ゆっくり撫でてくれるお義姉様の手が温かい。しばらく声をあげて泣いたら、気持ちが落ち着いた。
私が少し落ち着いたタイミングで、お父様とお母様、お兄様もやって来た。
「ルーナ、話は聞いたよ。君に全くの落ち度はない。だから…その…どうか気を確かに持ってほしい」
「そうよ、あなたは美しくて聡明で、誰よりも魅力的な女性なのですもの。きっとすぐに素敵な殿方が現れるわよ」
「そうだぞ。気にする事はない。そうだ、気持ちが落ち着くまで、貴族学院は休んだらいい。学院には、あの男も通っているからな!」
「ありがとうございます。そうですね…少し心を休めたいので、貴族学院はお休みしますわ…ただ…どうかエヴァン様を責めないであげて下さい。きっと悩んで悩んで悩み抜いて出した結論だと思いますので…それに私、きっとこのままエヴァン様と結婚しても、うまく行かなかったと思いますし」
どんなに好きでも、私を嫌い、無視するような人と一緒にいたら、きっと私の心はもっと粉々に砕け散っていただろう…だから、これでよかったのだ。これ以上心が壊れないうちに、エヴァン様と離れられたのだから。
「ルーナは本当に心優しい女性だね。こんなにも素敵なルーナをあの男は!確かにあんな男と結婚させなくて本当によかった」
「そうだな、ルーナにはもっといい殿方がいるはずだ。父上、クリスティロソン公爵家から多額の慰謝料を頂くのでしょう?そのお金は、ルーナが好きな事に使える様にしましょう。街に出て美味しいスイーツを食べるもよし、ドレスを爆買いするもよし、とにかく、ルーナが傷ついた代償として支払われたお金だからね」
お兄様がそんな提案をしてくれた。
「ありがとうございます、お兄様。でも…私はそのお金は、お返ししようと思っておりますわ。きっと私にも、至らない点があったと思いますし…それに、お金で解決というのも、なんだか嫌なのです」
「ルーナちゃん、もらえるものは、貰った方がいいわよ。と言いたいけれど、ルーナちゃんらしいわね」
お義姉様がそう言って笑った。
「そうだな、ルーナの言う通り、明日にでも公爵に慰謝料はいらないと伝えるよ。ルーナ、君は何も心配することはないからね」
「そうよ、私たちがいるのだから」
優しい眼差しで、皆が私の方を見つめている。
「ありがとうございます…」
それが嬉しくて、なんだか心の中が温かい物で包まれた。婚約者には捨てられたけれど、私には大切な家族がいる。そう思うだけで、心が少し軽くなったのだった。




