青いバラに選ばれた日
初投稿です。
花をテーマにした転生ものの作品です。
よろしくお願いします。
あの青いバラを買った日のことを、私は一生忘れない。
青いバラの花言葉は「不可能を可能にする」
花屋で見つけたその花によって、私の人生はおおきく変わった……。
*
花屋でのバイトが終わり、私はコンビニで買った塩むすびを片手に帰路についていた。
疲れた身体に塩気がちょうどよい。
やっぱり、塩むすびは裏切らない。
シンプルだからこそ、お肉やお魚と一緒に食べたくなる。だけど、今月は金欠だ。
やっぱり桜の名所をいっぱい観光するのは、バイト民の給料では無理があったか……。
一人の観光なら、こんなふうにご飯も塩むすびのみ、もしくは食べないなんてこともできるけど、大体が友人とだった。
「お花オタクの茜だから、穴場いっぱい知ってるねぇ」
何度も友人に言われたが、自分ではお花オタクと思わない。確かに花は好きだが、この世界にはもっとすごいお花オタクがいるからこそ、私のようなチンケな存在はそれを語るのすらおこがましい。
塩むすびを食べ終わると、ピロン、とラインが鳴る。
私はスマホを開けると、ホーム画面にその友人から
「また話聞いて!」と連絡が見えた。
私は正直、ため息をついてしまった。
友人は福祉の世界で働いている。
地域福祉の中心といわれる社会福祉協議会という場所で、働いているらしいが、どうも彼女は繊細すぎるゆえに福祉にのめり込んでしまうみたいだ。
やめればいいのに。
私は冷めた心でそう思う。
友人とは福祉学部の頃からの付き合いだ。
彼女はレールに敷かれたように福祉の道に行った。
私は、その道から自分で降りたのだ。
知りすぎた。福祉の世界を。
そして限界を。
自分の理想が叶わないことを。
その現実に日々直面しながら、根気よく人と関わっていける自信がどんどん単位を取るごとになくなっていったのだ。
私は再びため息をついた。
息が風に乗って友人の元へたどり着かないだろうかと考えながら、メッセージを打ち込んだ。
「いいよ」
断れない、というより一線引けないのだ。
言うべきことは言って、言わぬべきことは言わない。
そのバランスがうまく取れないのも、自信をなくすには十分な理由だった。
私は、ふと、コンクリートに咲くたんぽぽが目に入る。すごいな、といつも思うのだ。
咲くべきところでなくてもこうやって、花を咲かせている。それに勇気をもらえる。
私も、頑張ろうと思えるのだ。
でもそんな思いも、明日になれば萎れているかもしれない。まあ、今は前向きにとらえよう。
私は強引に切り替えることにした。
意気揚々と歩き出すと、左のほうにぼう……と灯りがともった。
私は吸い込まれるようにその灯りの方へ向かった。
「えっ? ここって……お花屋さん?」
店の前に着くと、なんとも綺麗なお花が出迎えてくれる。色とりどりの花は、夕暮れ時の少し暗い時間に、オレンジ色の温かみのある光に当てられて神秘的に見えた。
おかしいな、いつもここは私の帰り道だ。
いつも通っていて、まあまあの花オタクの私が気づかないなんて……とショックを受けた。
オープン、と英語で書かれている扉をドキドキしながら開ける。重たい扉の向こうには、さらに部屋の四方八方に花が並んでいた。
「わあ……!」
思わず声が漏れる。
非日常的な花屋だ。私が働いている花屋さんもそうだが、花に囲まれていると日常から離れたような気分になる。
私は誰もいない店内をゆっくりと歩いた。
店員さんもいなくて、心配になったが、オープンと書かれた看板を信じることにした。
百合の花やスズランの花、菊の花などが置かれている。そのなかで私が特に目を引いたのは、青いバラだった。
初めて見た。
青いバラは確か、自然界には存在しないはず。
「いらっしゃい」
「うわっ!」
奥の方から聞こえてきた老婆の声に驚く。
老婆は瞳が見えないほど、瞼が垂れ下がり、杖をつきながら一歩ずつゆっくりと歩いてきた。
私が思わず包まれた青いバラを手に取っていることに気づいた老婆は、微笑んだ。
「そのバラ、お好みですか?」
「え、あ、そうですね……青いバラは初めて見たので」
「そうですか、では、それはあなた様のものです」
「えっ?」
老婆の意味深な発言に私は思わず、戸惑う。
「花は持ち主を選びます、購入なさいますか?」
「えっと……、そうなのかな? この花に、選ばれた?」
こんなきれいな神秘的な花に選ばれたのなら、飛び上がるほどうれしく思う。
花籠には青いバラはもう売っておらず、ここを逃したら手にはいらないかもしれないと思った。
「じゃあ、買います!」
「どうも、千円です」
老婆に私は財布から取り出した千円札を渡して、レシートをもらった。青いバラをさらに丁寧に包んでもらい、ウキウキで帰ることにした。
この前、良い花瓶を買ったからあそこに入るかもしれない。どこに置こう? なんて、私はのんきに考えていた。
ふと、花屋を振り返ると、灯りが消えていた。
不自然に思わなかった。
おそらく閉店間近だったのだろう。
私は青いバラを持ちながら、舞いたい気分になりつつ、家に帰った。
*
花屋の明かりを消した老婆、エリーはつぶやいた。
「青き華に選ばれた野島茜……、やっと、見つかりましたね」
しわの多く入った両手を祈るように合わせて、エリーは目を瞑った……。
*
「ふんふーん」
茜は上機嫌に鼻歌を歌いながら、アパートの玄関を登った。いつものように鍵を空けて、扉を開ける。
いつも軽いその扉が、あの花屋の扉のように重く感じたのは気のせいだろう。
しかし、それは気の所為ではなかった。
茜を、待っていたのは見たこともない人々だったのだ。
ボロボロの洋服を着た彼ら彼女らは期待を込めて瞳で茜に言った。
「ユラン様! 花を咲かせてください!」
いつも過ごしていた落ち着く散らかった部屋はどこにもなく、ただ、見たこともない街が広がっていたのだった。
「……は?」
なんだここは。
この人たちは誰?
そう茜は思った時に、腹をきつく締められる感覚が襲ってきた。自分の腹を見下ろすと、ドレスのサッシュベルトがきつく締められていた。
その手に、もう青いバラはなかったのだった……。
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