空と棟梁
外に出た瞬間――
風が変わった。
じっとりとまとわりつく湿気。
重く、鈍い空気。
タツゾウ
「……チッ」
空を睨む。
雲は低く、流れは乱れている。
タツゾウ
「雑にも程があんだろうが……」
ユズハラ
「荒れとるなぁ〜」
のんきな声。
だが、その目はしっかり空を見ていた。
ユズハラ
「これ、わざとやで?」
タツゾウ
「は?」
ユズハラ
「調整、投げとる」
あっさりと言う。
タツゾウの眉間のシワが、さらに深くなる。
タツゾウ
「……ふざけやがって」
そのまま、地面を蹴るように歩き出す。
ディジル
「おい、どこ行く気だ!」
タツゾウ
「決まってんだろ!」
振り返りもせず怒鳴る。
タツゾウ
「本人んとこだ、ちきしょーめ!」
風が強くなる。
ゴウ、と唸る音。
次の瞬間――
空が、割れた。
雲の裂け目から、影が降りてくる。
軽やかに。
だが、圧は重い。
アマリュウ
「うるさいのが来たのぅ」
気だるげな声。
風をまとい、ふわりと降り立つ。
アマリュウ
「タツゾウ、お前またか」
タツゾウ
「“またか”じゃねぇ!!」
一歩、踏み込む。
タツゾウ
「てめぇ、空の扱いナメてんのか!」
アマリュウ
「はぁ?」
面倒くさそうに眉をひそめる。
アマリュウ
「ちゃんと降らしておる。雨も風も」
タツゾウ
「“ちゃんと”じゃねぇんだよ!!」
地面を踏み鳴らす。
タツゾウ
「強ぇ、弱ぇ、乾く、湿る――」
タツゾウ
「全部“加減”があんだろうが!」
一瞬、空気が張り詰める。
タツゾウ
「木はなぁ!」
拳を握る。
タツゾウ
「生きてんだよ!!」
風が止まる。
誰も口を挟まない。
タツゾウ
「湿気ひとつで歪む。乾きすぎりゃ割れる」
タツゾウ
「てめぇの気まぐれで、全部狂うんだよ」
低い声。
怒鳴っているのに、どこか静かだった。
タツゾウ
「毎日見てんだ、こっちは」
タツゾウ
「一本一本な」
アマリュウの表情が、わずかに変わる。
アマリュウ
「……」
タツゾウ
「楽して流してんじゃねぇ」
にらみつける。
――風が、ゆっくりと戻る。
ユズハラ
「……ほらなぁ」
小さく笑う。
ユズハラ
「こういうの、ちゃんと効くやろ?」
ディジル
「いや、効いてるかこれ……?」
イネリア
「……ちょっと効いてるんじゃないだべ?」
モフリオン
「もふ……」
アマリュウが、大きく息を吐く。
アマリュウ
「……お前を試していたのだ」
タツゾウ
「てやんでぇ!」
アマリュウ
「しかし――」
空を見上げる。
アマリュウ
「……まぁ、確かに雑だったかもしれぬ」
ぽつり。
タツゾウの眉が、ぴくりと動く。
タツゾウ
「“かも”じゃねぇ」
アマリュウ
「では――どうすればいいか、言ってみるがいい。棟梁」
挑発気味に笑う。
タツゾウは鼻を鳴らす。
一歩、空を指差す。
タツゾウ
「今の湿気、三割落とせ」
タツゾウ
「風は通せ。ただし流しすぎんな」
タツゾウ
「“乾かす”んじゃねぇ、“整えろ”」
的確な指示。
迷いがない。
アマリュウ
「よかろう」
わずかに笑う。
タツゾウ
「ふん」
その瞬間――
風が変わる。
重かった空気が、すっと抜ける。
やわらかい風。
均一な湿り気。
みちる
「……あ」
イネリア
「変わったべ」
ディジル
「……ほんとだ」
タツゾウは黙って空を見る。
それから、ぽつりと。
タツゾウ
「……最初からやれってんだ」
ユズハラ
「ええ感じやん♪」
満足げにうなずく。
タツゾウ
「……チッ」
(アノヤロー、マシな風出すようになったじゃねーか……)
その表情は――
ほんの少しだけ、やわらいでいた。
――
???
「棟梁ー!!大変です!!!!」




