揺れる声
リベルティーナ
「それでは、通して歌うざます!!」
みちる
「……うん」
ディジル
「いくぞ」
アマリュウ
「遅れるなよ」
イネリア
「大丈夫だべ!」
フワン
「落ち着いていきましょう」
モフリオン
「もふ♪」
リベルティーナ
「さん、はい!」
―――
歌が始まる。
ディジルのまっすぐな高音。
アマリュウの支えるような低音。
イネリアとフワンの安定した響き。
その中で――
みちる
「ラ……ラララ〜♪」
―――
(あれ……?)
一瞬、音が揺れた。
―――
みちる
「……っ」
次の音が、わからない。
頭が真っ白になる。
―――
みちる
「……ラ……」
音が外れた。
―――
ディジル
「……!」
イネリア
「……あっ」
フワン
「……」
―――
みちる
「ご、ごめん……!」
声が小さくなる。
歌が止まりかける。
―――
リベルティーナ
「止まらない!!続けなさい!!」
強い声が飛ぶ。
―――
みちる
「……!」
必死に、声を出す。
みちる
「ラ……ララ……」
けれど、さっきまでの軽やかさはない。
不安で揺れた音が続く。
―――
やがて、曲が終わった。
―――
沈黙。
―――
みちる
「……ごめん、なさい」
俯いたまま、ぽつりとこぼれる。
みちる
「全然……歌えなかった……」
―――
イネリア
「そんなこと――」
みちる
「あるよ……!」
思わず声が強くなる。
みちる
「みんなちゃんと歌えてたのに……
私だけ……」
言葉が、続かない。
―――
ディジル
「……一回ミスったくらいで」
みちる
「違うよ……!」
ディジルの言葉を遮る。
みちる
「怖くなっちゃったの……」
静かに、でもはっきりと。
みちる
「また間違えたらどうしようって思ったら……
何もわからなくなって……」
―――
フワン
「……それは、誰でもありますよ」
やさしい声が入る。
フワン
「私も最初は、何度も音を見失いました」
イネリア
「わちもだべ!今でもたまにズレるしな!」
モフリオン
「もふ……もふ!」
―――
みちる
「……でも」
顔を上げられない。
―――
そのとき。
―――
アマリュウ
「くだらぬ」
場の空気が、一瞬で張り詰める。
―――
みちる
「……え」
アマリュウ
「一度のミスで崩れるとは、その程度ということだ」
ディジル
「おい――!」
―――
アマリュウ
「だが」
一拍、置く。
アマリュウ
「歌い続けた点は評価に値する」
―――
みちる
「……」
少しだけ、顔を上げる。
―――
アマリュウ
「止まらなかったのだろう」
みちる
「……うん」
アマリュウ
「ならば問題ない」
それだけ言って、視線を外す。
―――
ディジル
「……なんだそれ」
呆れたように笑う。
ディジル
「でもまあ、そういうことだな」
みちるの方を見る。
ディジル
「止まらなかったの、すげぇじゃん」
―――
みちる
「……」
少しだけ、息を吸う。
―――
リベルティーナ
「その通りざます」
前に出る。
リベルティーナ
「ミスは誰でもする。問題はその後よ」
みちるをまっすぐ見る。
リベルティーナ
「あなたは“戻ろう”としたざます」
―――
みちる
「……戻ろうと」
リベルティーナ
「ええ。それができるなら、大丈夫ざます」
―――
みちるの胸の奥に、少しだけ光が灯る。
―――
みちる
「……もう一回、歌いたい」
小さく、でも確かな声。
―――
ディジル
「そうこないとな!」
イネリア
「もう一回だべ!」
フワン
「ぜひ、もう一度」
モフリオン
「もふ♪」
アマリュウ
「……付き合ってやる」
―――
リベルティーナ
「決まりざますね」
扇子を構える。
リベルティーナ
「さん、はい!」
―――
さっきよりも、少しだけ強い声で。
みちるの音が、もう一度重なり始めた。
―――
揺れた音は、消えない。
けれど――
それでも、前に進むことはできるのだ。




