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第70章:杖の呪い

凄まじい魔法の衝突の後、砂煙が周囲を覆った。

柱は倒れ、地面には大きなクレーターができていた。


「…はぁ…はぁ…」

とはいえ、トルティヤも相応に魔力を消費したらしく、肩で息をするほど呼吸が乱れていた。


そして、ゆっくりと砂煙が晴れていく。

そこには魔導師が大の字で仰向けに倒れていた。

彼のローブは焼け焦げてボロボロになり、体中も魔法の影響か、赤黒く焼けていた。


「…さすが、我がライバル」

魔導師はそう呟くと天井を見つめる。

すると、トルティヤが彼の傍にやってくる。


「ようやく認めたか…いつからお主はそんな石頭になったのじゃ」

すると、トルティヤは魔導師の前でかがみ、魔法を唱える。


「無限魔法-聖なる羽衣-」

トルティヤが魔法を唱えると、魔導師を水色のベールが包む。

それは淡く発光し、魔導師の傷を徐々に治していく。


「…すまないな」

トルティヤの言葉に魔導師は一言謝る。


「ふん…」

それに対してトルティヤは顔をそらし、素っ気ない態度を見せる。


そして、しばらく沈黙が続く。

祭壇には彼らの呼吸音だけが響いている。

重いようで、どこか安堵したような空気だ。

そして、魔導師の傷は完全に回復し包み込んでいたベールが消えた。


「小生は少し頑固になっていたらしいな」

魔導師は立ち上がりながらトルティヤに呟く。


「御託はいいから、早くそこで寝ておる小僧と小娘をなんとかせんか」

トルティヤが祭壇の隅で倒れているリュウとアリアの方を指さす。


「分かってる…」

そう呟くと魔導師は二人に視線を向け魔力を送り込む。


「…わっ!!」

魔力を受けたリュウが目を丸くし、自身の声に驚いている。

魔法を受けていた最中、声が出せなかったためだろう。


「ふにゃ…僕は一体…」

アリアは目をこすりゆっくりと起き上がる。

あくびをしており、まだ少し眠そうだった。


その時、祭壇の階段からシャロンが片足を引きずりながら登ってくるのが見えた。


「いたた…あのおじいちゃん、凶暴すぎよ…」

シャロンはところどころ傷だらけのようだったが無事だった。


「皆、無事のようじゃな…」

その様子を見てトルティヤは内心、ホッとしていた。


「あれ?トルティヤ…だよね?」

無事を確認したアリアがトルティヤの姿に首をかしげる。


「どうやら、また姿を変えたらしい」

状況を見ていたリュウがアリアに説明する。

二人はトルティヤの変身を一度目にしているのだ。


「え?どういうことかしら?あの坊や、変身魔法も使えるの?」

シャロンがトルティヤの様子を見て怪訝な顔をする。


「まぁ、彼?は、色々とあって…」

リュウは困った表情をする。

説明するのに適切な言葉が見つからない。


すると、リュウが魔導師の方へ視線を向ける。


「よくも!」

リュウは魔導師に敵意を向け刀を向ける。

しかし、トルティヤがそれを制止する。


「待つのじゃ小僧。こやつに、もう敵意はない」


「降参だ。この通り」

魔導師は穏やかな表情を見せ、両手を小さく挙げ降参の意を示す。


「…」

リュウはトルティヤの言葉と魔導師の態度を見て静かに頷く。

そして刀を背中の鞘にしまった。


「さて、この胡散臭い魔導師が何者かを教えよう」

トルティヤが隣に立つ魔導師についてリュウたちに話そうとする。

その表情はニヤリと笑っている。


「胡散臭いは余計だ…」

クロウリーはトルティヤの言葉にすかさずツッコミを入れた。


「こやつはクロウリーという。ワシの次くらいに強い魔導師じゃ…終わり」

トルティヤは魔導師の紹介を進めたと思ったら、あっさりと紹介を終えた。


「いや、互角だろう…ってか自己紹介が雑すぎだ」

クロウリーと呼ばれた魔導師はトルティヤの紹介にツッコミを入れる。

すると、彼は咳払いをし一歩前に踏み出す。


「小生はクロウリー・シェルクロム。かつて『天才』と呼ばれた魔導師だ。この、まな板魔導師とは幾度も戦い、そして時に共に戦った戦友でもある」

クロウリーが自身の自己紹介を行った。


「…!!だだだだ…誰がまな板じゃ!!!!!!」

トルティヤが顔を真っ赤にして叫ぶ。

プルプルと怒りで体が震えている。


「事実を言ったまでだろう」

クロウリーがトルティヤの胸に視線を向け、からかうような口調で言った。


「お主…今度こそ死にたいようじゃのぉ」

トルティヤの魔力が一気に高まる。

堕天使族特有の黒いオーラが立ち昇る。


「ほう。小生はまだ戦ってもよいのだぞ?」

魔導師が挑発に乗るように、ニヤリと笑うと魔力が更に高まる。


「わわわわわ!喧嘩はもうやめようよぉ!」

アリアが慌てて二人の間に割って入ろうとする。


「…そうだ。大の大人がみっともない」

リュウがため息交じりに呟く。

その様子を見て呆れている。


「そうよ。スマートじゃないわねぇ」

シャロンがアリアより先に二人の間に割って入る。

すると、胸元がプルンと揺れる。


「(くぅ…この破廉恥女め…)」

トルティヤがシャロンの胸を見て悔しそうな顔をした。


「(おぉ…デカイ!!!)ま、まぁ、お嬢さんに免じて、勘弁してやろうではないか」

クロウリーはシャロンの胸に視線を向ける。


こうして、シャロンの仲裁でクロウリーとトルティヤの喧嘩が終わった。

二人から、あふれ出ていた魔力が消える。


「まぁ…とにかくじゃ…」

トルティヤは話題を変えるように話を切り出す。


「聞きたいことがいくつかあるのじゃ。まず、お主、なぜ生きておる?人間の寿命はおおよそ80年。100年も生きれば大往生じゃろう。お主と別れたのが約125年前。となると、お主の今の年齢は大体150歳になるのぉ」

トルティヤがクロウリーの尋常ではない年齢に疑問を抱き問い詰める。


「なに…これの呪いのせいだ」

すると、クロウリーは手に持った武骨な杖を掲げる。

それは古代文字が刻まれた杖で、そこから得体の知れない魔力が溢れていた。

それは、見る者を惹きつける禍々しさがある。


「むぅ…これは魔具…か?」

トルティヤがクロウリーに尋ねる。

杖から放たれる異様な魔力に気づいたようだ。


「いかにも…これは千年百夜の杖という魔具だ」

クロウリーが持っている杖について話す。


「千年百夜の杖…まさか、持つ者に不老の力を与えるという…!」

トルティヤはその名前に聞き覚えがあった。


千年百夜の杖。

持つ者に不老の力を与えるという魔具の一つ。

かつて、世界各地の王や権力者がこぞって探し、この魔具のためだけに何万人もの捜索隊が結成されたほどである。

文献や各国の歴史書にも名を残すほどの魔具であった。


「…不老。そんなものがこの世にあるとは」

リュウは驚きの表情を隠せずにいた。


「あら。それなら私、欲しいわね。永遠の美が保たれるなら不老というのも悪くないわね」

シャロンが冗談交じりで呟く。


「お嬢さん。不老は罰だ…小生自身がこうして生きているのも自身に課した罰じゃ」

クロウリーはそう呟くと在りし日ことを話しだす。

その表情に影が差しているようにも見えた。


-120年前 テオ連邦 ゴゴンガ高原 -

「お前がレイブンだな」

若き日のクロウリーが一人の男と対峙していた。

緑豊かな草原に緊張が走る。


「いかにも。私がレイブンでございます…」

レイブンと呼ばれた男は黒いローブを身に着け髑髏の杖を握り、ニヤリと笑った。

その肌は不気味なほどに白く、顔面の半分には不気味な文字のタトゥーが刻まれていた。

それは見る者に嫌悪感を抱かせる外見だった。


「この俺に挑戦状を送り付けるとは…いい度胸をしている」

クロウリーは青い宝玉がついた杖を構える。


「ええ。私はあなたに勝てます。最強の魔導師の座を譲ってもらいましょう」

レイブンは髑髏の杖を構えた。

その言葉には、確固たる自信が滲んでいた。


一瞬の静寂が草原に訪れる。

そこには風の音だけが響いた。

次の刹那、遠方で激しい落雷の音が轟く。


「一瞬で終わらせてやる!混沌魔法-無垢なる渦動(イノセントスパイラル)-!」

クロウリーの杖の先から魔力が凝縮され、白と黒が混ざり合った螺旋状の光線が凄まじい轟音と共に放たれる。

それは、全てを飲み込まんとする勢いで真っすぐににレイブンに向けて放たれた。


「ほう。さすがは天才魔導師。いきなり合体魔法ですか…」

レイブンは冷静にクロウリーの魔法を見据え、魔法を唱える。


「ですが、迎撃はできますね。毒魔法-血濡れの飛竜(ブラディドラゴ)-」

レイブンの杖から魔法陣が描かれ、中から毒々しいオーラを放つ、赤紫色の巨大なドラゴンが現れる。

そしてドラゴンは口から赤紫色の毒液を吐き出す。


「ドーン!!」

クロウリーの光線とレイブンの毒液がぶつかり、凄まじい音と共に爆発する。

あたりに赤紫色の毒煙がたちのぼり、爆心地周辺の草木が一気に枯れる。


「(毒魔法か。もらったら厄介だな…少し慎重に行くか)」

クロウリーはレイブンの毒魔法を警戒し、気を引き締める。


「さぁ、ここからですよ…存分に死合いましょう」

レイブンは薄ら笑いを浮かべ、戦いを再開する。

こうして二人の戦いは激化していった。


数時間後。

周囲の草木は枯れ果て、緑色だった草原は茶色に染まっていた。

それは、まるで大地自体が腐食しているかのようだった。

そんな中、クロウリーとレイブンは肩で息をしていた。


「はぁ…はぁ…やるじゃねぇか」

クロウリーの体は一部、毒魔法の影響か紫色の斑点ができていた。

体中に痺れと痛みが走る。


「あなたこそ。さすが天才魔導師…」

一方でレイブンはクロウリーから受けた魔法攻撃で左腕が吹き飛んでいた。

その断面からはどす黒い血が流れていた。


「だが、お前は左腕をなくしている。俺の勝ちでいいだろう?」

クロウリーはレイブンの傷を見てニヤリと笑い勝利を確信する。


「いいえ。まだ終わってませんよ」

するとレイブンは何かの合図をするように口笛を不気味に吹く。


「なんだ?」

クロウリーが怪訝な表情を見せる。

すると、空間に歪みが走り、黒い裂け目のような穴が開き四人の人物がそこから現れる。


「あなた!!」

そのうちの一人、水色のドレスを着た女性がクロウリーに向かって叫ぶ。

その体は闇魔法らしき黒いオーラで拘束されていた。


「パパ!怖いよー!!」

もう一人、ピンクのワンピースを着た女の子は泣いている。

同じく、その体は闇魔法らしき魔法で強く拘束されていた。


「マリア…リリアンヌ…!!」

クロウリーはその様子に思わず目を見開く。

そこにいたのは自身の妻と娘だったからだ。


「レイブン…どういうつもりだ!!」

次の瞬間、怒りに満ちたクロウリーがレイブンに尋ねる。


「どういうつもりもなにも、あなたに勝つために妻子を人質にしたまでです」

レイブンはあっけらかんと、何でもないことのように答える。

その目は冷酷さを宿していた。


「二人は関係ないだろう!!今すぐ解放しろ。そうすれば生きて返してやってもいい」

クロウリーは怒りを魔力に変え、杖の先に強大な魔力を集約させる。


「おやおや。こんな状況でよくそんなことが言えますね」

レイブンが部下らしき魔導師二人に合図を送る。


「ひっ…」

マリアは恐怖に引きつった顔をする。

部下の一人がマリアの白い首筋にナイフを当てる。


「えぇーん!!」

リリアンヌは顔中涙と鼻水で、必死に父親を呼んでいる。

もう一人の部下がリリアンヌの細い首筋にナイフを当てる。


「汚いぞ!レイブン!」

クロウリーは怒りのあまり叫んだ。


「汚い?戦いに汚いも綺麗もありませんよ。あなたが降参して、最強の魔導師の座を私に明け渡してくれれば二人は解放してさしあげましょう」

レイブンがニヤリと薄ら笑いを浮かべる。


「くっ…なんて卑劣な…」

クロウリーは苦渋の決断を迫られる。

だが、杖を捨てて迷うことなく両手を挙げた。


「ほら。降参だ。これでいいのだろう?」

そして、クロウリーはレイブンに降参の意を示した。


「ほほほ…それでいいのです。やりなさい」

レイブンは満足そうに笑い、部下の男たちに合図を送る。


「ザシュ…!」

部下が持ったナイフが、躊躇なくマリアとリリアンヌの白い首筋に深く走らせる。

赤い血しぶきが辺りに舞い散る。


「え?」

突然の出来事にクロウリーは茫然としていた。

何が起きたのか理解できず、目の前が真っ暗になった。


「あ…なた…」

マリアは力なく、夫の名前を呼ぶ。


「パパ…痛いよぉ…」

リリアンヌは掠れた声で父親を呼び、苦痛に顔をゆがめる。

クロウリーの妻と娘はそのまま地面に倒れ伏した。


「…レイブン、なぜ」

あまりの出来事にクロウリーは体を激しく震わせる。

怒り、悲しみ、絶望、そして約束を反故にされた衝撃だ。


「勝利とは相手の全てを奪い去って初めて成立するもの…あなたの大切な家族…そして…希望すらね」

レイブンは冷酷な声でそう告げ、魔法を唱える。


「毒魔法-腐紫の刺矢(バイオレットボルト)-」

次の刹那、レイブンの杖先から二本の鋭い毒針が放たれる。

それはあまりに早く目で追うことは不可能なほどだった。


「ザシュ!!」

二本の毒針は、悲しみと絶望に囚われ硬直したクロウリーの両目に、正確に突き刺さる。


「うわぁぁぁ!目が焼ける…くそっ…」

クロウリーは痛さに顔をゆがめ、両手で目を覆う。

視界が一気に真っ黒になった。

肉体的な痛みと、それ以上の絶望が彼を襲う。


「ほほほ…この毒は即効性です。家族を…光を奪われて絶望の中、じわりじわりと死ぬといいです」

そう呟くとレイブンは部下に合図を出す。

そして、部下が開けた空間の裂け目を通ってどこかへ去っていた。


「…くっ。まだ死ぬわけには…」

クロウリーは視界が真っ黒な中、自身の魔力を循環させ体内から放出させることに試みる。

すると、紫色の毒素らしきものが、彼の体中から魔力と共に汗のように吹き出ていく。


「はぁ…はぁ…くそったれ…が」

そして、毒素を出し切ったあと、クロウリーは復讐を誓いながら地面に倒れた。

肉体も精神も既に限界だった。


それから1年後。

クロウリーの姿は黎英のとある山奥にあった。

そこは人里離れた険しい山々だった。


そこには、何かしらの建物があったと思われたが、全てが凄まじい力で吹き飛び、ただの瓦礫となっていた。

そして、瓦礫に横たわったり下敷きになっているように、何人かの魔導師が絶命していた。

そんな中、クロウリーは視力を失いながらも、とある男を追い詰めていた。


「…待ってください。交渉しましょう。私の力であなたの視力を元に戻してさしあげましょう。悪くない話でしょう?」

追い詰められたレイブンが尻餅をつき、必死に後ずさりする。


「いらねょ。それに一度嘘をついた奴は何度でも嘘をつく。今度は俺がお前の全てを奪う番だ」

クロウリーは杖を構えてレイブンを追い詰める。

その瞳は見えないはずなのに、レイブンを正確に捉えている。


「嫌だ!私はまだ死にたくない!毒魔法-腐紫刺矢(バイオレットボルト)-」

次の瞬間、レイブンは恐怖に駆られ、最後の足掻きとして紫色の毒針を再び飛ばす。


「二番煎じが俺に通じると思うか?」

しかし、クロウリーはそれが完全に見えているかのように、首を横にそらし、容易く回避する。


「ば、馬鹿な…視力は奪ったはずなのに」

レイブンの顔が一気に青ざめる。


「殺気、魔力の気配…俺には全てがわかる」

そう呟くとクロウリーは杖の先に強大な魔力を集約させる。

杖が禍々しい光を放つ。


「終わりだ。外道が。塵沌魔法-無へ還す者の一撃リベレートクリティカル-!!」

次の瞬間、空気を震わせるような轟音と共に、ありったけの魔力を込めた一撃が放たれる。

それは、灰のように薄暗く、しかしながら無数の光の粒が集まったような、キラキラと輝く光線だ。

それは周囲の瓦礫を飲み込み、レイブンに向けて放たれた。


「う…うわぁぁあああ!」

レイブンに魔法が直撃する。


「ドドドドドドド!!!」

魔法はレイブンを巻き込み、さらにその奥にある山へ薙ぎ払うかのように直撃する。

周囲には轟音と衝撃が響き渡る。

光線が当たった箇所は、まるで巨大な力で削り取られたかのようになり、山に一文字の模様を描いた。


「…マリア、リリアンヌ…終わったよ」

そう呟くと、クロウリーは全ての力を出し尽くし、力なく地面に座り込む。

その顔には、復讐を果たした安堵と、失ったものへの深い悲しみが混ざり合っていた。

レイブンは文字通り跡形もなく消えていた。


こうしてクロウリーは自らの手で復讐を果たした。

しかし、彼の心は癒えることはなかった。


更に、10年後。

クロウリーは愛しい妻と娘に会うために、死に場所を探していた。


「洞窟か…孤独に死ぬ男には良い場所だ」

そんな中、マクレン諸島の洞窟へと足を踏み入れていた。

まるで何かに導かれるように、クロウリーは洞窟の奥へと足を進める。


「…なんだ?」

すると、クロウリーは洞窟の奥にある祭壇に、二つの魔具を見つけた。

一つは、神聖な輝きを放つ美しい腕輪でもう一つは、得体の知れない魔力を宿した武骨な杖だった。


「…」

次の瞬間、クロウリーの脳裏に、暗く、心の奥底まで直接届くような声が響く。


「貴様は家族を見殺しにした…罪を償う時がきた」

声が、クロウリーの過去の過ちを突きつける。


「罪を償う?」

クロウリーは声の言葉に返す。


「貴様は熾天使の腕輪(セフィラムバングル)の守護者となり、罰として永劫の時を生きよ。そして、その隣にある、千年百夜の杖…その力を与えよう」

声は一方的に告げ、クロウリーに新たな運命を課す。


「待て!それでは俺はマリアとリリアンヌに…」

クロウリーはそれを拒否しようとした。

しかし、彼の体は意志とは裏腹に、目の前の千年百夜の杖に引き寄せられるように触れていた。


「これが…貴様への罰だ」

次の瞬間、けたたましい赤い光がクロウリーを包んだ。

体内に異様な力が流れ込む。


「…!!(なんだ、この感じは)」

そして、しばらくすると赤い光は収まった。

体中に馴染まない力が残ると同時に脳裏に響く声も消えていた。


「…罰か。確かに、家族を守れなかった俺には、そこへ行く資格などないのかもしれんな…」

クロウリーは全身の力が抜けるのを感じながらため息をつくと、千年百夜の杖を強く握りしめた。


それから、幾年月が過ぎる。洞窟の外の世界は変わり続ける。

噂を聞きつけた海賊や冒険者達が魔具を求めて島を次々と訪れていた。

クロウリーの孤独な生活は、時折訪れる侵入者によって破られる。


「うわぁぁぁぁ!!」


「このジジイ…化け物すぎる…」


「た、助けて…死ぬ…」


「巨大な魔法が…うわぁああああ!」

ある者は果敢に戦い、ある者は恐怖に怯え逃げ去って行く。

時には、彼の放つ魔法が巨大な海賊の船団すら海の藻屑へと変えていった。


彼は容赦がなかった。

まるで、杖に取りつかれたかのように侵入者を始末していった。


「…魔具の呪いを受けるのは小生だけで十分。この力は人間には過ぎたるものだ」

こうして、クロウリーはマクレン諸島の洞窟に一人、孤独にひっそりと、永劫の時を生きていた。

彼の時間はあの日から止まっていたのだった。


そして、時は過ぎて現代。

祭壇の上で、クロウリーはトルティヤたちに過去を語り終えた。


「そうか…マリア。それに、お主の子まで死んでしまったか」

クロウリーの話を聞いたトルティヤは、二人の死を知り、どこか寂しそうな表情を見せた。


「あぁ…全ては小生のせいだ。小生に死ぬ資格などない」

クロウリーは過去の後悔を口にし、全てを諦めたかのような表情をし呟いた。


「おじいちゃん…そんな過去が…」

クロウリーの話を聞き終えたアリアは、彼の悲しみに共感し、目に涙を溜めていた。


「悲しい過去ね…」

シャロンもクロウリーの話に深く共感している様子だった。

その表情に、同情の色が浮かぶ。


「…お主は確か魔具を集めていたんだったよな?ならば、熾天使の腕輪(セフィラムバングル)。持っていくがよい…」

すると、クロウリーの口から意外な言葉が出たのだ。


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