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事務長の業務日誌  作者: 川口大介
第四章 事務長、決戦!
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 クラウディオは絶叫したが、他三人はぐっすり眠っている。

 もはや一刻の猶予もない。クラウディオは右脇にリネットを、左脇にニコロを抱え、槍も左手に持って、ミレイアはさっきと同じように後ろ襟近くを噛んで持ち上げて、

「ふんぬううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!」 

 走った。広場を抜け、山に入り、斜面を駆け上がる。

 やがて目の前に、光の柱が見えてきた。間違いない、ミレイアと一緒に毛皮を被って抜けてきた、あの場所だ。あそこを潜れば帰れる。だがそこが今、もう、一面にヒビが入って歪んでいて、今にも崩壊してしまいそう。

「……ぅ……え? あ!」

 リネットが目を覚ました。辺りを見て、事態を察したらしい。

「クラちゃん、大丈夫! アタシはいいから、放して!」

 それを聞いて、クラウディオはリネットを放した。着地したリネットは流石のスピードで一気に駆け、光の柱に飛び込む。すると全身が消えた。向こうの山に戻れたのだろう。

 と思ったら、リネットは上半身だけをこちらに突き出してきた。

「投げて!」

 クラウディオは返事もするのももどかしく、左脇に挟み込んでいたニコロを右手で掴み、居合いの動作でブン投げた。

 飛んできたニコロを受けたリネットが、光の中へと引っ込む。光の柱の崩落が始まり、破片が舞い散り始める!

「んがああああああああぁぁぁぁっっ!」

 咥えていたミレイアを槍ごと抱きしめ、クラウディオは最後のジャンプ! 光の柱へ頭から突っ込んだ。

 潜り抜けた先で、ミレイアを庇って背中を下にし、クラウディオは仰向けの体勢で地面に落下する。

「っ……! い、いけた、か?」

 ニコロの治癒のおかげで、痛みはもう殆どない。寝転んだまま首を巡らせると、まだ気絶中のニコロを抱いて座っているリネットがいる。

 直後、一瞬だけ、大きな地震が起こった。

 その後は、何もない。ここは静かな、山の中だ。

「……」

 リネットはニコロを地面に横たわらせた。そして立ち上がると、今出てきた虚空の門、大木と大木の間に行ってみる。

 手を差し入れる。足を出す。体を前後させる。

 何も起こらない。

「閉じた、ってことかしら」

「のようだな。危なかったぜ……」

 本当に危機一髪だった。岩石巨人を倒した後、やれやれと呑気に休んでいたら、向こうの山に閉じ込められるところだったのだ。

 流石のクラウディオも今度は力が抜けて、ぐったりと横たわったまま。ミレイアを胸に乗っけたまま、動けない。

 そのミレイアが、

「ん……うっ……ぁ……えっ?」

 目を覚ました。

「っっ! ク、クラウディオっ? え、何、どういうこと、わたし?」

 あたふたと真っ赤になりながら、クラウディオの体から転げ降りた。

 混乱しているミレイアに、リネットとクラウディオが経緯を説明する。

「……と、いうワケよ。めでたしめでたし、アタシたちの大勝利」

「事務長の夢だった、エルフとの貿易だのなんだのはできなかったが、こうして生きて帰って来れたんだ。事件も解決できたし、充分だろ?」

 二人の話を聞いて、落ち着いてきた頭でミレイアは考えた。

 確かにクラウディオの言う通り。ニコロ以外の唯一のエルフであったレーゼは完全に犯罪者であり、こちらを殺そうとしてきた。貿易どころの話ではない。

 レーゼの話からすると、他にもエルフは多数存在して、それらはレーゼのような悪意敵意を抱いてはいなさそうだ。だがその居場所は全くわからず、今となっては手がかりも何もない。

 とはいえ、とにかく命は助かったのだ。それで良しとしよう。

 それに、エルフとの国交や貿易は、ミレイアの生涯をかけた一大プロジェクトなのだから。そう急ぐことはない。今は目の前の一人、レーゼという麻薬犯罪者を……

「ああああああああぁぁぁぁっ!」

 ミレイアの叫び声で、ニコロが目を覚ました。

「……あっ、事務長さん。それにクラウ兄、リネットさんも……良かった、みんな無事で」

「ニコロっ! ちょっと来て!」

 まだ寝ぼけ眼のニコロを、ミレイアは引きずるようにして連れて行った。

 大木と大木の間、虚空の門、あちらの山への入口。そこへ、ニコロを突っ込む。

 だが何も起こらない。

「アタシが試したって言ったでしょ? もうあっちの山へは行けないのよ」

 と、いうことは。

 レーゼの持っていた武器兵器、研究資料、麻薬の精製設備、麻薬の原料となるエルフ星の草、などなどが全て、もう入手できないということだ。

「ね、ねえ。わたしたちの、この山での苦労……どうなるの?」

 ミレイアの、泣きそうな顔を向けられたクラウディオは首を傾げる。

「どうなる、って?」

 ああ、とリネットが手を打った。

「そっかそっか。クラちゃん、こういうことよ。アタシが最後に持ってた剣とか、レーゼやヨルゴスの死体とか、ぜ~んぶ、あっちに置きっぱなしでしょ」

「そうだが」

「つまり、アタシたちがあっちの山でやったことは、今となってはアタシたち四人しか知らない、誰にも証明できないってことよ。レーゼが麻薬を作って売ってたことも、その販売網も、それが巨大動物事件の原因だってことも、何もかも」

 巨大動物の噂の調査のはずが、麻薬密売組織壊滅という大手柄になる! と喜んでいたら。

 いつの間にかどんどん話が膨らんで、異星から来た侵略者との戦いになって。

 大げさではなく世界の命運を懸け、死力を尽くして戦って。

 見事に勝利して、命からがら帰ってみれば。

「……手柄が……跡形なく……パァ……」

「あ、事務長っ?」

 ぱたん、とミレイアは、また気絶した。

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