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事務長の業務日誌  作者: 川口大介
第四章 事務長、決戦!
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「何いいいいぃぃっ?!」

 レーゼは慌てて操縦装置に齧りつき、姿勢制御に取りかかる。ただでさえ、力を込めた大きな振り下ろしの直後、しかも空振りで、左足に体重をかけていたところ、いきなりその左足を砕かれてしまったのだ。このままでは立っていられない。

 だが、残った片足でも立てないことはない。右側に重心を移せば、と思ったらレーゼのすぐ目の前、透明な板の向こうで、剣を構えた絶世の美女が上昇した。リネットだ。

「ここぉっ!」

 リネットは逆手に持った剣を、岩石巨人の眉間に突き刺した。全体重と全筋力を込めた一撃だったが、先端がほんの少し、人差し指程度の長さ、刺さっただけ。

 だがとりあえばそれで充分だった。リネットは剣から手を離すと、柄尻に向かって両足を揃え、踏み込み蹴りを叩き込む!

 それは、微力ではあったが、バランスを崩して転倒間近だった岩石巨人にとっては、最後の一押しとなった。レーゼの姿勢制御は間に合わず、全身の傾斜を修正することができず、岩石巨人はこれまででダントツ最大の地響きを立てて、仰向けに転倒する。

 ちょっとした山ほどある巨人の転倒である。辺りに莫大な砂煙が舞った。 

 岩石巨人が仰向けに倒れたので、その頭部にある操縦席も後方に九十度倒れている。今まで正面に向いていた窓は、真上を向いている。その外に見えるのは、もうもうとした砂煙。

「くそっ! 早く立ち上がらねば……んっ?」

 何か、大きなモノが跳ねた音がした、と思ったら。砂煙を切り開いて、三つの人影が降ってきた。

 少年を背負い、槍を下に向けて構えた巨漢が、口に咥えていた少女を離して、三人一緒に落下してくる。

「事務長おおおおぉぉぉぉ! もう一丁おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「はいっっっっ!」

 標的は、今レーゼがいる、この操縦席!

「あ、あいつらっ!」

 立ち上がる暇はない。レーゼは岩石巨人の両手を操作して、操縦席前に配置した。同時に、ミレイアがクラウディオと一緒に槍を握る。輝きを纏った槍が、三つ数える間だけ強化された。

 ひとつ、クラウディオたちを掴み取ろうとした岩石巨人の右手の平が砕かれる。

 ふたつ、操縦席を覆う形でガードしていた岩石巨人の左手の甲が割られる。

 みっつ、操縦席の窓が破壊されて槍が、クラウディオたちが突入!

「ひいいいいぃぃっ!」

 槍は、落ちてきた勢いそのままで操縦装置を突き刺し抉り壊し、盛大に火花を飛ばした。その火花が別の装置に飛んで新たな火花を呼び、操縦席は連続爆発音と白煙に包まれる。

 その煙にまぎれ、割れた窓からレーゼは這い出し、逃げようとしたが、

「逃げられると思った? アタシらがアンタを逃がすワケないでしょ!」

 人差し指の爪だけを長く伸ばしたリネットが走り込んで来て、

「ガッ……!」

 レーゼの眉間に、爪の根元まで深々と突き刺した。


 一瞬遅れて、レーゼの首はスッパリと切断、体から切り離された。そのすぐ後ろでクラウディオが、刀を振って血を飛ばし、鞘に納める。

「って、アンタねえ」

 リネットは、爪を突き刺したレーゼの生首を、ぽーんと後方遠くに抜き投げる。

 首を失ったレーゼの胴体が、噴水のように血を吹き出しながら倒れた。倒れた岩石巨人の上に、倒れたレーゼの体から、流れ出す血がみるみる広がっていく。

「お嬢ちゃんと坊やが、すぐそこで見てるのよ? だからアタシはわざわざ気を遣って、できるだけグロくしないようにと」

「またあの薬を使われて、強化されて、逃げられたら大変だからな。念には念だ」

「それは、確かにそうだけど」

「実は俺も、事務長にそういうのを見せないようにと気を遣ったことはある。だが、もう大丈夫だろう。事務長もニコロも、この短時間で結構な修羅場を経験した。二人とも、もう立派に戦士としての根性が……」

 言いながらクラウディオが振り向くと、操縦席から這い出したミレイアとニコロが、二人仲良く気絶していた。

「で、根性が何よ」

「いや、まあ、二人とも無理したからな。疲れ果ててたんだろう。あと、決着がついたことで緊張が一気に解けた、気が抜けたというのもあるな。うん」

「はいはい。それも確かに、そうかもしれないわね……こんな風に……」

 言いながら、リネットが倒れかけたので、クラウディオが慌てて駆け寄って支えた。

「お、おい」

「ごめんね。今、アンタが言った通りよ。アタシも結構、気ぃ張ってたから。今、もう、終わったんだって、思ったら。ちょっと、力が、抜け、ちゃって」

「よく見りゃ、お前も随分と傷だらけだな。俺が動けなかった間、事務長やニコロを庇ってくれてたんだよな……面倒かけたな、感謝してるぜ」

「ふふっ」

 クラウディオに抱き支えられたリネットが、小さな声で笑った。

「どうした?」

「アタシはね。アンタや坊ややお嬢ちゃんを見物できればそれで満足、他には何もいらない、って思ってた。ううん、今もそう思ってる。ほんとよ。けど、こうして……アタシ自身が、アンタの腕に抱かれてるのも……意外と悪くないなって……」

「お、おい?」

 リネットの目が閉じられた。すやすやと寝息を立てている。

「ったく。しょうがないな」

 クラヴティオは、まずリネットを、続けてミレイアとニコロも、抱き上げて運び、地面に横たえた。

 岩石巨人の操縦席からはもうもうと煙が立ち上り続けており、更にそこから、ひび割れが広がりつつある。クラウディオが一息ついて腰を下ろした頃には、岩石巨人の全身が細かくひび割れ、振動を始めていた。

「おお、派手にぶっ壊れそうだな。少し離れた方がいいか?」

 と、クラウディオが思ったその時。遠くで、地面から天空まで貫く光の柱が立った。続けてあちこちに、二本、三本と増えていく。

 柱といっても綺麗な円柱ではなく、どれもこれも少し歪んでいる。また、岩石巨人同様に、細かいひび割れができているのも見える。

「なんだ?」

 柱の増加は、十本ほどで止まった。その中で一番ここから近いのは、

「確かあそこは……そうだ。俺と事務長が通った、向こうの山との出入り口だな」


☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆   

「ああ、私が逮捕されればそうなるか。麻薬の精製をする機材も、このフィールドへの出入りを管理する設備も、その他の資料も道具も、全てあそこにあるぞ。私を逮捕できたなら、好きにするがいい」

 レーゼは顎をしゃくって、背後にある岩山の洞窟を指した。

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆   


 今いるここは、理屈はよくわからないがエルフ星人の拠点がある異世界で。

 あの岩山が、丸ごと岩石巨人になって。

 それは今、煙を吐いてぶっ壊れそうで。 


☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆  

出入りを管理する設備も、全てあそこにあるぞ。

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆  

 

「じょっ、冗談じゃねええええぇぇぇぇ!」

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