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事務長の業務日誌  作者: 川口大介
第三章 事務長、事件と歴史の真相を知る
23/39

 どういった条件づけになっているのか、とにかくリネットとニコロは入れた。どこに? 並行世界の、もう一つの山だ。

 二本の大木の間から入って、振り向いてみるとその二本の大木がある。はっきりと覚えているわけではないが、草木の配置も全く同じと思える。地形も、土の色も、青い空と白い雲も、眩しい太陽も、全て同じだ。

 リネットとニコロの感覚的には、ミレイアとクラウディオの二人だけが突然消え失せたようなものである。そのこと以外、何も変わっていないのだから。

 だがもちろん、実際にはそうではない。

「ここが、あの巨大動物たちの巣なわけね」

 リネットは辺りの気配を探ってみた。今のところ、こちらに向かってくる敵意はないようだ。

 とはいえ、油断は禁物。巨大動物の他にも、何がいるかわからないのだから。 

 ニコロは既に何度も、動物たちの巨大化凶暴化の原因を突き止めようと、こちらの山を探索したという。だが今のところ成果はない。動物たちは何かの悪事に巻き込まれているのかもしれないと思い、その動物たち自身に襲われながらも神通力を使って頑張っていたところで、ミレイアとぶつかったのだ。 

 この山。もし、ミレイアの仮説が全て正しいとしたら、ここには麻薬製造密売組織のボスがいて、その精製工場? もあるはずだ。まずはそれを探したい。が、手掛かりは何もない。

 どうしようか、とリネットが考えていると。

「あの、リネットさん」

 ニコロが提案してきた。

「実は一か所だけ、怪しいと思ってるところはあるんです。でも、僕一人では不安だったので、まだ調査してなくて。来て頂けますか?」

「あ、そうなの。それは助かるわ。行きましょ」

「ありがとうございます。こっちです」

 ニコロが先に立って歩き出した。昨夜の自己紹介で、リネットにはクラウディオと激しく打ち合えるほどの格闘能力があると聞いたので、ニコロはリネットの強さに信頼を置いている。

 リネットとクラウディオとの仲について一時は危機感を抱いたが、むしろ自分とクラウディオの仲を応援してくれているようなので、その面でも安心していたりする。無論、リネットは尋常ならざる美女なので、いつかクラウディオが魅かれてしまうのでは、という不安はあるが。

 だが今は、ここの調査だ。

「僕はまだ、この山で巨大動物以外の魔物とかは見ていません。でも、これから行く場所には、何かいるかもしれません」

「どんなところなの?」

「山の中腹、というよりは麓寄りのところに、岩山があるんですよ。そこにある洞窟です」

 リネットにはピンときた。エルージアの研究所跡だ。なるほど、地形などが全て同じであれば、あの洞窟もあるだろう。しかし、こちらにもエルージアがいるとは限らない。

 だからただの、何もない洞窟かもしれない。だが何らかの施設を構えるには、野ざらしというワケにはいくまい。となると、件の麻薬組織も、あの洞窟を利用している可能性はある。

『どうせ、他に手がかりもないしね』

 巨大動物たちと出くわすこともなく、やがて二人は目的地に到着した。だが、何があるかわからないので、いきなりずかずかと入っていくことはせず、まずは距離を置いて様子を窺う。

 奇しくも、あちらの山でミレイアとクラウディオがヨルゴスの取引を見ていたのと同じ茂みに、今はリネットとニコロが隠れている。

 岩山があり、その麓に洞窟があり、その前には岩場、ちょっとした広場がある。人間は一人もいない。静かなものである。聞こえるのは獣や鳥の鳴き声が少々、という程度。

 だが、リネットは感じ取っていた。今、ここから目に見えはしないが、この周囲にいる獣たちの様子は、少しおかしい。動きも、声も、自然なものではない。

『テリトリーを定められて巡回している番犬、って感じね。巨大動物を何匹か飼い慣らして、ここの警備に使っているのかな。とすると、』

 ほぼ、間違いなさそうだ。あの洞窟がアジトで、あそこにボスがいる。今、たまたま外出でもしているなら、その隙に忍び込んで調査できてラッキー。いるなら、様子を見て判断しよう。やれそうならさっさと捕まえて連行する。

 だが、ここは敵の縄張りだ。既に、リネットとニコロがこちらの山に侵入してきたこと、そしてここにいることまで、あちらにバレている可能性もある。

「ま、仕方ないわね。どうせ、こんな広場がある以上、身を隠しながら洞窟に入ることはできないんだし。堂々と行きましょ、坊や」

 リネットは茂みから出て、洞窟に向かって広場を歩き出した。ニコロが慌てて後に続く。

「あの、リネットさん。気づいてます?」

「動物たちの様子が不自然だってこと? アンタもわかるの?」

「はい。動物たちの、体と心の神様の声が聞こえますので。ただ、あの大きな動物たちのそれは、普通の動物たちよりもだいぶ弱いんですけど」

「お嬢ちゃんの推測によると麻薬のせいらしいから、心が不健全で体が不健康、なのかもね。で、その声が今どんな感じなの?」

 ニコロはリネットの後ろについて歩きながら、恐々と辺りを見回す。

「多分、僕たちをじっと見てます。数はせいぜい、三匹ぐらいだと思うんですけど……」

「うん。そんな感じね」

 リネットもそれは気づいていた。番犬たち(とはいえ犬とは限らない)が、こちらを捕捉したのだろう。すぐに襲ってこないのは、そのように命令されているからか、ボスから今、何らかの指示が出ているのか。

 ニコロも一応は戦力になるらしいが、そうでなくても昨日の犬程度の相手なら、数匹で一斉に襲われてもどうにかできる自信はある。多少の苦戦はしても、負ける気はしない。もちろん、昨日の犬程度の相手かどうかは不明だが。

 油断なく気を張りながら、洞窟へ向かっていくリネット。後に続くニコロ。

 だが二人は、洞窟まで十歩ほどのところで足を止めた。

 洞窟から、一人の若い男が出てきたのだ。腰に剣を差してはいるが軽装で、いわゆる剣士や傭兵といった連中と比べると細身の、華奢といってもいい体格の男。

「ようこそ、我が同朋……と呼ぶのはまだ早いか」

 ニコロと同じような美しい金色の髪と、金色の首飾りを下げたその男は、ニコロと同じように整った顔立ちをしている。年頃はもっと上で、背も高いが、どこかニコロと似た面影がある。

 何より、ニコロと共通の特徴として、耳が尖っている。但しニコロと違い、耳そのものが人間より明らかに長く、まるで大きなナイフの刃が生えているようだ。

 リネットはさりげなくニコロを背後に庇いつつ、男に問いかけた。

「先に名乗るわね。アタシはリネット、この子はニコロ。巨大動物事件の調査に来たのよ」

「ほう。事件の調査、か。ということは、そうは見えないが騎士団の関係者なのか?」

「まだ正式に認められてはいないけど、関係者と言えば関係者よ。そしてアンタは気付いてるみたいだけど、このニコロは多分、アンタの関係者。ってことで、アンタも名乗って身分を明らかにしなさい」

「これは失礼」

 慇懃に礼をして、男は答えた。

「私の名は、レーゼ。故郷に伝わっていた古文書と鍵の謎を解き、この場所を探し当て、ここへの扉を開いた。ここに居ついて、もう五、六年ほどになるか」

「あ、あの、」

 ニコロが、髪を掻きあげて耳をよく見せながらレーゼに話しかけた。

「あなたのその耳は、僕とよく似ています。あなたは僕と一緒で、人間ではなくエルフという種族、なんですか?」

「……耳については、おそらくお前が混血だからと思われる。私と同じ、純粋な血筋であれば、そのような中途半端な耳にはならないからな」

 心なしか、レーゼの顔と口調が冷たくなった。

「それから、覚えておけ。【人間ではなくエルフ】というのは正しくない。お前も私も立派な人間だぞ。ただ、ここの原住民どもとは違うがな」

 原住民。レーゼが何を言っているのか解らず、リネットとニコロは顔を見合わせた。

 それからリネットが、

「あの。この際バラしちゃうけど、アタシのこの体は、魔術で造られたモノなの。だから、アタシは正真正銘、人間ではない者よ」

「魔術で造られた? つまり人造人間ということか。なるほど、それで入れたのだな。原住民は弾くが、原住民でなければ入れてしまうわけか。やはりまだ、調整が完全ではないようだ」

「だからその、原住民って何のことなの? アンタは人間で、原住民じゃない、って?」

「原住民は原住民だ。我々の祖先は、最初からここに住んでいたわけではない。遠い昔、移り住んで来たのだ。我々エルフ星人が、星の海を越えて、このチキュウ星に」


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