第三次世界大戦
2023年7月の初め頃、某国は激しい攻防戦の末に隣国の首都を陥落させたとの報道が世界を駆け巡った。
この時でさえ私たちはまだ事の重大さを十分に理解していなかったのだと思う。スマホのページの上部に踊っているタイトルに釣られてサッとネット記事を流し読みした程度で、その後に何事もなければすぐに頭の中から追い出されていた記憶だろう。
事態が大きく動いたのはそのわずか三日後のことだった。某国が隣国に無条件降伏を突きつけた。しかし隣国と友好的な関係を築いていた国が多く加入していた世界で最も強大な軍事同盟がそれに反発し、某国に対して最後通牒を送った。もちろん某国がその軍事同盟の要求を呑むはずがなく両者の間で全面的に戦闘が始まったらしい。
いわゆる第三次世界大戦が幕を開けた瞬間だった。
この日は決定的だったのだと思う。それでも長い間平穏な日常は続いた。通学路の太った野良猫は少し痩せ、学校でも自習が増えて退屈な教師の授業を聞くことは少なくなったが、変わらない日常だった。私の世界はいつも通りの日常を刻んでいたのである。
それでも戦争に関する報道が止むことはなく、どんどんと新しい情報が入ってきた。今まさに起こっていることなのだという感覚はあった。少し浮かされていたのかもしれない。普段冗談など言わない私も
「世界、終わっちゃいそうだな」
と一人しかいない友人に向かって軽口を叩いていた。
次の日も変わらない日常のはずだった。
「道路、封鎖されたんだってな」
「……何言ってんだ?」
真面目な友人が真面目な顔でふざけたことを言い出した。私には意味が分からなかった。いや分かりたくなかったのかもしれない。